ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla13,蟻駆除要請in職員室

 ハンター試験終了後、ライセンスの講習会にて怒ったゴンさんが鋲男の腕を折るほどの怒りを見せてキルアさんを連れ戻すと宣言した。どうやらこの後は暗殺一家の住むパドキア共和国、ククルーマウンテンに行くようだ。

 ゴンさんは気絶している間の試験の事を誰かから聞いてきたようで「キルアを止めてくれてありがとう」と私にお礼を言ってくれた。彼が出ていくことは止められずむしろこの場から追い出すようなことを言ったのは私なので、おそらくボドロを殺すのを止めた事に対しての言葉だろう。さっきボドロ本人にも礼を言われたが、今まで人にお礼を言われる場面なんて無かったから妙に気恥ずかしい。

 

 ゴンさんは一緒にキルアさんを迎えに行かないかと誘ってくれたけど、少し考えてから私はそれを辞退した。といってもククルーマウンテンに行かないわけでは無い。先にやることがあるので、それを終えたら合流するから先に行っていてくれと言ったのだ。

 たしかククルーマウンテンまで行ったところで、クソ重い扉を開けるために修行する期間があったよな? その間に用事を済ませて追えば問題無いだろう。

 

 ちなみにクラピカだが、私が合流することに関してあからさまに嫌そうな顔はしていなかったので内心物凄く安心した。まだ私に対してどう接するか迷ってるふしはあるけど、どうやら鋲男をぶっ飛ばしたことが思いがけずクラピカの好感度回復にもつながったようだ。なんだ鋲男、気持ち悪いけど役に立つじゃないか!

 よ、よし! これは用事をさっさと済ませて早めに合流すれば、修業期間中に好感度をプラスに持っていくのも夢じゃないかもしれない。レオリオはさっき一緒に鋲男に向かって吠えた事である種の連帯感を覚えてくれたようなので、彼についてもあと一押しだ。私の結婚式(予定)参列者は確実に増えている……!

 ふ、ふふふ……。しかも参列者のあては幸運なことに更に増えたのだ。きてる。これは私に波がきている!

 

 

 

 何故って、なんと私は他の合格者たちと連絡先を交換したのだ!!

 

 連絡先を、交換、したのだ!!!!

 

 

 

 いやまあ、講習会後のゴンさんをはじめとしたクラピカ、レオリオの主人公組にハンゾーとボドロがホームコードを渡している所をチラチラ見てたら私にもついでに教えてくれただけなんだけどさ。

 でも連絡先を交換したという事は赤の他人から知り合いに昇格したってことでいいんだよね? ついでとはいっても社交辞令って感じじゃなかったし! ハンゾーは「あんた強いし、ハンターとして仕事上頼ることがあるかもな。その時は連絡するから期待してるぜ!」と言って背中を叩いてくれたし、ボドロは「命を助けられた恩はいずれ返そう。困ったことがあれば連絡してくれ」という言葉と共に、よければ故郷に遊びに来るといいとお誘いもしてくれたしな!

 なんでも奥さんと私と同い年くらいの娘さんが故郷で待っているらしく、自慢の家族の手料理をお礼に振る舞ってくれるのだとか。

 行く、絶対行く。誰かの自宅に招待されるとか初めてでドキドキするけど、その時はちゃんと手土産をもって礼儀正しく訪問するぞ!

 ど、どんな手土産が喜ばれるかな? あんまり高すぎるものじゃ引かれるだろうし10万ジェニーくらいに抑えておくべきだろうか。いや、安すぎるか。………………悩むけど、なんだろう。こういった内容で悩むのはなんか楽しい。

 

 

 まあそんなわけで、私はこのハンター試験で確実に試験前より人間的にレベルアップすることが出来た。課題は多いけど、何しろ試験前は皆無だった友達と知人を得ることが出来たからな!

 ありがとうハンター試験。受けてよかったハンター試験。これで私はまた一歩、ゴレイヌさんの嫁という至高の頂きに近づくことが出来た!!

 

 

 

 

 

 そういえば会場を去る前に、ふと思い立ってダメもとでネテロ会長に面会を求めた。秘書の人が渋っていた所を見ると予定が詰まっていたのだろうけど「なに、ちょっとくらい構わんよ。何かね?」と、部屋からひょっこり顔を出した会長は気軽に私の要求を受け入れてくれた。丁度試験官達……第一試験のサトツ、第二試験のメンチ、ブハラと一緒に茶を飲みながら雑談している所だったらしく、部屋の中に招かれた私はメンチの隣に座るように促された。

 ……………………。

 要求を受け入れてもらった事は嬉しいが、その……何だ。今の私だけならこの気持ちを表す術は無いが、前世の記憶から引っ張り出すなら学校で職員会議中にうっかり生徒が紛れ込んじゃった……的な空気ともいうべき雰囲気が物凄く居心地悪い。

 いや、別に迷惑そうにされてるとかじゃないんだ。むしろ「あなたもおひとついかがです?」とか「こっちも食べなよ。美味いよ」とか言ってサトツとブハラは茶菓子を勧めてくれたし、メンチも「あんた会長に直接話聞いてもらおうなんて図々しいわねー。ま、いいわ。合格おめでとう。何か飲む?」と言ってポットからお茶を注いでくれた。ありがたいけど、何かそわそわして落ち着かない。尻がむずむずする。

 

「で、話とはなにかの? 見ての通り試験が終わってみな肩の荷が下りたところでな。ちと空気が緩いが、新米ハンターの質問くらい気軽に答えてやれる心の余裕はある。あまりかしこまらんで、かる~く話してみなさい」

 

 そうネテロ会長が言ってくれたので何とか気を取り直して喋ろうとしたけど、メンチに肘でつつかれて小声で「会長はああ言ってるけど、さっきみたいな言葉遣いは駄目だからね? あんた口悪すぎ。あれじゃ恋人に愛想つかされるわよ」と諫められた。ご、ゴレイヌさんとはまだ恋人じゃないけど……! いやしかし、そのアドバイスは受け入れよう。たしかに言葉遣いは大事だな。さっき鋲男に怒鳴る時キンタマとか口走ってた気がするし、気を付けよう。……いや本当にな! キンタマってなんだよ! ゴレイヌさんの前で万が一にでも口走って軽蔑した視線を向けられたら死ねる。マジ死ねる。

 

 と、それはともかくとして今は話だ。言葉遣いに関してはそのうち本気で考えよう。

 

 

 私は深呼吸をすると、「確証はないので話半分に聞いてほしい」と前置きしてから今後起こりうる一つの可能性の話をした。

 

 

 

 

 

 

 それすなわち、キメラアントの事である。

 

 

 

 

 

 これから約1年~2年以内にNGLに人間大のキメラアントの女王が現れ、人間を餌にし始める事。その結果念能力を使えるキメラアントが発生し、やがて最悪の力を持つ王が産まれる事。いずれ決着はつくが、その過程でネテロ会長を含めた多くの人間が死ぬこと。要点を限りなく削り、それだけを言い切った。

 それに対して試験官3人はそれぞれ違った反応を見せたが、ネテロ会長は長い白髭をしごきながら「根拠は?」と揺るがぬ瞳で問うてきた。その真っすぐな瞳に思わず言葉を詰まらせそうになるが、初めから自己満足と分かっていたことだろうと自身に言い聞かせてから「無い」と言い切った。

 

「無いってあんた、冗談にしても質が悪い事言っときながら何よそれ!」

 

 メンチが非難の声を上げるが、私はなんとか硬くなった声で言葉を続けた。会長が死ぬと言ったからかメンチから怒りのオーラが発せられているが、ここまで言ったのだから最後まで話そう。怯んでいる場合ではない。

 

「根拠なんて証明する物も無いのに示せるはずがない。……けど、あえて言うならこの内容はある念能力者が遺した言葉であるというのが、根拠といえばそうでしょうか」

「……続けなさい」

「ありがとうございます。……私は流星街の出身ですが、以前そこに予言のような力を持った少女がいました」

 

 私が流星街出身であると言ったところでサトツとブハラがわずかに目を見開いたが、そのまま黙って続きを促す会長に倣ってか口を開くことは無かった。

 

「かの、彼女は先天的な念能力者で、念を使っているという自覚は無かったようです。しかし雨がふるだとか、今度何が何処に捨てられるとか……少女のささやかな"予知"はよく当たりました。ですが無意識に使っていたがために、ある時大きすぎる予言を示してしまいその代償でその子は死にました」

 

 無心で、まるで絵本でも読むように淡々と話す。でなければとてもじゃないが話せそうにない。

 相手に信じてほしいなら目を見て話すべきだが、ネテロ会長の強い意志のこもった視線に耐えられず私はすでに自分の膝に視線を落としてしまっている。ならば言葉だけでも途切れさせてはならないと、つっかえそうになりながらも喉から声を絞り出した。

 

「彼女は流星街が好きでした。あんなとこ好きになれる要素なんて無いのに……その子は好きでした。だから「私の故郷に何か悪い事がおきるなら教えて」と自分の予知の力に願ったんです。本人としてはちょっとした問いかけのつもりだったんでしょうが、その結果キメラアントの脅威が流星街をも襲う事を予言して、その原因ともいうべきNGLの事を共に告げて息絶えました」

 

 …………とまあ、重い空気の中私は嘘八百を言い切ってやった。

 

 いや、キメラアントのことは嘘じゃないけど。でも根拠が私の前世の記憶なんてうさんくさいものである以上、信憑性なんて予言とどっこいどっこいだ。むしろ私自身がゴレイヌさんの事以外は半信半疑。今のところ試験内容など漫画の通りに進んでいるが、ここが自分の足で立つ現実である限りそんな曖昧な情報に振り回されるのは馬鹿らしい。漫画通りに進んでも「ラッキー」だとか「そういうもんか」程度に受け取るのが丁度いいくらいだろう。全面的に信頼するには足りないが、あれば便利程度の知識だからな。

 

 

 

 まあゴレイヌさんに関しては全面的に信じてるけど。

 

 

 

 もし漫画と違ってゴレイヌさんがこの世界に存在しないとか言われたら生きていける気がしない。矛盾してると罵られようがゴレイヌさんの事に関しては私は漫画の情報を全面的に信じる。これは譲れない。ああ、ゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさん…………! あなたはこの世界のどこかにいますよね!? 私はそう信じてますよ!!

 

 っと、意識がそれた。

 

 とにかく、私はわざわざ架空の予言少女まで作り出してキメラアントの事を会長に伝えたのはひとえに自己満足のためである。会長が信じようが信じまいが、私は「自らが得た脅威に対する知識を黙せず誰かと共有した」という事実が欲しかった。

 

 何故って、ゴンさんとキルアさんに対して情が湧いてしまったからだ。

 

 もし漫画通りに話が進んだ場合、ゴンさんとキルアさんは今後キメラアントという脅威に直面する。そこで彼らは心も体も大きく傷つくのだ。成長の糧になるにしても不必要なほどに大きく深く……爪痕が残る。

 私はゴレイヌさんさえ居ればいいと思っていた。ゴンさんやキルアさんと仲良くなろうとしたのも、ゴレイヌさんが彼らを気に入るからというのが理由だった。けど少なくとも今は2人にあんな傷つき方はしてほしくないと思う程度には情がある。ボッチ歴が長すぎたとはいえ我ながらチョロすぎるだろうと思うけど、この短い期間で芽生えた心に嘘はない。

 だから私は免罪符が欲しかったのだろう。情が移った少年二人が直面する脅威を黙ったままその通りに事が起きた場合……。一応自分は会長にその脅威を示唆していた、何もしなかったわけじゃ無いという、自己嫌悪から逃れるための免罪符が。

 ……改めて考えると最悪だな私。

 

 けど、私に出来る事はここまでだ。信じるかどうかは完全に運任せだが、私にネテロ会長にキメラアントの事を全面的に信じてもらって対策を講じてもらうほどの信頼はない。今からすぐにそれを用意するだけのコネも時間もないのだし、出来る事といったら知りうる情報をぶちまけてあとは運任せ人任せ。無責任だと言われようが、これ以上出来る事は無い。無いったらない。

 私の一番の目的はゴレイヌさんと幸せに暮らす事! それ以外に必要以上の意識を割く暇など無いんだ!!

 

 

 

 ………………まあ、自分が後悔するような時が来たらその時は自分で動いて気にくわないものは叩き潰せばいいだけだしな。今までだってそうしてきたんだ。今から起こってもいない事をごちゃごちゃ考えてもしょうがない。

 

 一応話すだけ話す。信じてもらえてキメラアントが早期駆除されたらラッキー! 信じてもらえないでゴンさん達が大変なことになったらその時助ける! それでいいだろ。小難しく考えるのは性に合わないんだ。私馬鹿だしな。

 

 

 

 

 

 

 いやー、でも言ったら言ったでスッキリしたな! 部屋から出る時の試験官3人からの視線に大分心を抉られたけど、私は言ったからな! この情報を生かすも殺すもあとは会長次第。いやぁ、責任を人に押し付けるって心が軽くなるな。もう難しい事は頭いい人に任せておこう。私はゴレイヌさんの嫁になるため忙しいんだ。蟻なんか知らん。いざとなったら極端な話ゴンさんとキルアさんをNGLに行かせなけりゃいいんだ。だからもう考えるのはやめよう。スッキリしたといったらスッキリしたんだ。あわよくばメンチに連絡先聞こうと思ってたのが無理になったからってなんだ。私は泣いてない。目と鼻から出ているのは仕事をやり切った事に対する労働の汗だ。心の汗だ。けして涙なんかじゃない!

 

 

 

 

 

 

 ……………疲れた。

 

 用事を済ませるために家に帰るのは明日にして、今日はホテルに泊まっていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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