ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla9,眼鏡死す!ピエロ殺すと叫んだ四次試験④

 ピエロ殺す。

 

 

 

 

 私はぼやける視界を抱え、ひたすらその念に駆られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事少し前。

 

 キルアに関しては多少好感度というか、関係の改善が成功したし無理に引き留めたら逆効果だと思って別れてから私はそのまま一晩森の中で夜を明かした。そして翌日から今度はクラピカとレオリオを探すことにしたのだが、ゼビル島は案外広くなかなか2人は見つからない。

 まだ日数はあるし焦っても仕方が無いと日中の探索を終えた私は、その日も森の中で夜を明かそうと寝床となりそうな樹木を見つけて上り人心地ついていた。

 

 

 そんな時だ。

 

 

 ざわりと体が震え、その原因である禍々しくあふれ出すオーラの出所を見つけた私は「あいつか」と呟いた。

 視線の先で殺気とオーラを惜しげもなくダダ漏れにして疾走するのは、いつぞやのピエロ。殺人衝動を抑えきれないといった様子で走る奴はおそらく誰かに会ったら問答無用でその相手を殺すだろう。そんな確信を抱かせるものが、今の奴にはあった。というかオーラ以上に今のアイツ顔ヤバい。なんかこう、言い方は変だけど何か画風が違う。キモい。

 

 ふと考える。もしピエロが最初に遭遇する相手がゴンさんやキルア、クラピカやレオリオだったら?

 確か奴は成長性のある者に対しては楽しみを後にとっておこうと見逃したりする人間だったはずだが、今のピエロからは自重などというものは感じられない。もし誰かに会えば確実に相手を殺す。その相手が見知らぬ相手なら私としては構わないが、もし知っている相手だったら困るのだ。

 

 そう思ってからの私の行動は早かった。樹上からためらいなく飛び降りると、絶を解いてオーラを練り上げ一気に外へ放出させる。

 

 

_______来いよ

 

 

 果たして、奴は私の誘いに乗って来た。

 丁度いい機会だ。面倒だとは思ってたけど出会ったものは仕方がないし、この場で叩き潰してやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし私は現在その選択を死ぬほど後悔している。

 何故なら私は奴との戦いで大事な大事な相棒を失ってしまったのだ。私をいつも助けてくれる、心から信頼するひと時も離れたくないゴレイヌさんの次に大事な大事な私の相棒……………。私のメガネを、あのピエロが奪いやがったのだ!!

 

「殺す殺す殺す!! ピエロォォォォォォ!! テメェ何処行きやがった出てこいやクソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 私は力の限り咆哮するが、ピエロが現れる気配はない。何だよお前バトルマニアじゃねぇのかよ!! こんだけ熱く誘ってやってんだから出て来いよ!! 朝から晩までテメェがミンチになるまで付きあってやるから出て来いよ!! っていうか眼鏡返せよ!!

 

 

 

 

 最初はよかったのだ。ピエロがいくら実力者だろうが奴の能力を知っている私としては、油断さえしなければ正面からのタイマンなら勝機はあると踏んでいた。

 奴は漫画で知る知識によればトリッキーな動きと詐欺師めいた言葉やパフォーマンスによる陽動で敵を惑わせる上に、単純に地の力も強い事は少しやりあっただけの一次試験前の攻防で感じていた。奴のトランプを受け止めるために補整下着の解除をした直後だったから全力では無かったとはいえ、強化系の私の攻撃を受け止めていたからな。あの時は様子見といった感じに留まったが、お互い相手に対する実力の測量はある程度出来たはず。

 

 しかし正面から捉えてしまえば、言動や行動に惑わされず常に凝を心がけて戦えばそう怖い相手でもない。

 

 奴は変化系であり、六性図で隣の隣に位置する放出系は不得意。自由自在に伸び縮みする厄介なガムだかゴムみたいな技は、ピエロの体から離れれば効力は弱まるはずだ。もしつかまればピエロから離れて引きちぎればいいし、引き寄せられるならそれもそれで望むところ。その勢いを利用して私の方が拳を叩き込んでやればいいのだ。

 たとえその過程で攻撃を受けようとも、防御力には自信があるし怪我を負っても自身に強化蘇生(パワーリザレクション)を施すことでその場での即座の回復もオーラが尽きない限りは可能。私の能力は植物を育てるだけが能ではない。自分を対象にした場合、回復の効果を高めるのだ。他者に施す場合は体外にオーラを出す放出と相手のオーラに合わせて変化させる調整が必要だし即時回復とはいかないが、自分の回復にあてる分には問題は少ない。

 純粋な強化系の全力の一撃とタフさを存分に味わうがいい!

 

 しかしそんな風に考えていた私だったが、結果的にピエロと私がまともに戦う事はなかった。

 

 何故って、私とピエロがぶつかる寸前に何処からか飛来した釣り針がピエロが隠しもせず堂々と胸につけていたプレートを奪っていったからだ。

 もうあれだよね、それでアイツ完全にそのプレートを奪った相手に意識持ってかれてたよね。超楽しそうで嬉しそうな顔してたよね。っていうか釣り竿持ってる受験生って今のところゴンさんしか知らないからやっぱあれゴンさんだよな。そういえばこんな風にプレートゲットしてたわ。流石私の友達のゴンさん!

 でもピエロがゴンさんに気持ち悪い笑顔を向けて喜々として追おうとしてるのを見て私が見逃すと思うか。もう速攻でかたをつけようと防御度外視で全力の"硬"の拳でピエロを襲ったわ。初動があからさますぎて避けられたけど。

 

 そしたらあの野郎!

 

「う~ん、君とも戦ってみたいけどちょっと好みじゃないかな? 今はあの子を褒めてあげたい気分なんだ♥」

 

 とか言って! 私のメガネにガムくっつけて引っ張って持って行きやがった!! いや、でも簡単に奪われたわけじゃないんだ。クソガキ共との戦いの教訓で眼鏡はそう簡単に割れない念がこもった特別製を見つけたし、簡単に外れないための細工も施してある。にも関わらず何で奪われたかって、奴との接近戦の途中でピエロのもう一つのシールみたいな念で眼鏡をふさがれて一瞬視界を奪われたんだ。即座に円をしたから攻撃自体は問題なく受けたしその後の攻撃にも転じられたけど(多分この時あいつのアバラは何本か折った)、いくら近眼でもまったく視界をふさがれた状態よりぼやけてても見えてた方が戦いやすい。……そう思って眼鏡をはずしたのが悪かった。「くくくっ、痛いなぁ♥ こんなに求められると悪い気はしないね♠ でも今は気分じゃないんだ♦ これはアバラの代わりに貰っていくから、僕と戦いたいならこれを取り戻しがてらまたおいで♧」とか言って、多分視界をふさいでる間にくっつけただろうガムで私のメガネを奪ったのだ。でもって颯爽と絶で気配を消して去っていった。おいコラ待てやクソ野郎。

 

 

 ふざっけんな!! ふざっけんな!!!! プレート隠してたからってなんで眼鏡もってくんだよ!!

 

 

 私は……私は本当に目が悪いんだ! 自業自得だけど! これもゲームもアニメ鑑賞も漫画読書も楽しいのが悪い!

 

 

 とにかく、私は本当に冗談抜きで目が悪い。何が問題って、ピエロが去った後完全に森の中で迷ったってことだよ。予備のメガネも持ってきてたんだけど、そっちは普通のメガネだったからさっきの攻防でピエロの攻撃を受けた時か分からないけど眼鏡ケースの中で無残に砕け散っていた。なんてこった眼鏡が死んだ……!

 円で周囲の様子を把握することは出来るけど、動物や植物が発するオーラの形だけを頼りに今まで歩いてきた場所の地形を把握して歩けるかっていったら……アカンアカンアカン。無理無理無理! 秘境に眼鏡割られて置き去りにされた時も抜け出せたのは完全に運だったもの! 魔獣の頂点に君臨して野生に返りかけてた私を保護してくれた恩人のおかげだもの!!

 どうしよう。これじゃクラピカとレオリオを見つけるどころか、試験最終日に元の場所まで戻れるかが分からない。あれ、私結構森の奥深くまで来てたよね……? やっべ。本気でやっべ。

 

 私はとにかくこの怒りの矛先をピエロに向けて喉が枯れるまで出てこい出てこいと叫んでは歩き回ったんだけど、あの野郎出てきやしねぇ。で、叫び疲れて心労で更にどっと疲れて怒りの勢いもなくなってきた私は心細くなって座り込んだ。もうこのダメージを回復するには妄想ゴレイヌさんとイチャイチャするしかない。

 

 

 

 

『エミリアは甘えたがりだな。俺が居なくてそんなに寂しかったか? ほら、こっちへ来い』

『は、はい』

『ふふっ、君は可愛いな。ほら空を見上げてごらん。星々も森の木々もゴリラたちも俺たちを見守ってくれている。全然寂しくなんかないだろう?』

『ええ。でも、私はゴレイヌさんさえいれば何処に居ても寂しくなんか……』

『エミリア……』 

『ゴレイヌさん……』

 

 

 

 

「へへっ、ふへへへへ……」

 

 へへっ、もう寂しくなんかないや。心細くなんかもないぞ。私の横には大きな体で私を優しく包み込んでくれるゴレイヌさんが……。

 

 

 

「……………………あんたなに一人で気持ち悪い笑い浮かべてるんだよ」

「! な、なんでお前がここに……!」

「あんな馬鹿みてぇに大きな声張り上げてるから嫌でも耳についたんだよ。何、ヒソカになんかされたわけ?」

 

 一人木の根元で体育座りをしていた私に声をかけてきたのは、なんとキルアだった。どうやら私は思った以上に大きな声を上げていたらしい。

 

 

 

 私はもうプライドだとかそんなもの全部投げ捨てて、即座にキルア、いやキルアさんに頭を下げて事情を話して「何でもするから一緒に付いて行かせてほしい」と頼み込んだ。だって試験に受からないとゴレイヌさんに会いに行けない……! もう私のクソみたいなプライドなんてドブに捨ててやるわ!!

 断られると思ったけど意外にもキルアさんは「アホくっさ! でもあんたがそんなしょうもない理由で落ちるのもつまんねーし。…………しょうがねぇなぁ」と私の同行を認めてくださった。なんだ、生意気だと思ってたけどいい奴じゃないか! やはりゴンさんと一緒にゴレイヌさんに気に入られるだけあるな! 代わりに残りの日数全部食料調達係やらされたけど安いもんよ!!

 

 

 

 

 結局のその後、試験終了までキルアさんのお世話になった私は四次試験中にクラピカ、レオリオと接触することは叶わなかった。キルアさんに頼んだら「まあ暇だし」と一緒に探してくれたけど、やはり広い島で二人の特定の人間を見つけるのは簡単では無かった。

 

 このことで人生ままならないものだと、私は深く痛感したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 キルアは思いがけず食料調達係を手に入れた事で試験の残りの日数を悠々と過ごしたのだが、その数日で改めて食料係……エミリアの強靭さを思い知った。獣を狩る動き一つにしても、その実力が垣間見える。

 

(やっぱ強いなコイツ)

 

 

 

 

 

 幼い頃放り込まれた天空闘技場で何かしらのハンデを背負いつつ自分を負かし、さらにキルアの事をバカにしたように「お子ちゃま」と呼び、情けのつもりか安い駄菓子を施しのように敗者であるキルアに与えたエミリアという女。そんな女がキルアは大嫌いだった。

 何回つっかかっても毎回彼女は無視を貫き通し、時々気まぐれのように駄菓子を与えてくる。一度「撒き餌」と呟いているところを耳にして頭にきたが、その頃には駄菓子の味を気に入ってしまっていたキルアは駄菓子を突っぱね返すことが出来なかった。

 

 天空闘技場で2年を過ごし200階に至ったキルアは実家に帰ったが、その後もあのムカツク女を時々思い出しては八つ当たりのように訓練に打ち込んだ。

 いつか天空闘技場に戻ってついぞ勝てなかったあの馬鹿を負かす。それが心のどこかでキルアの目標となっていたのだ。

 

 しかし時間が経てば記憶とは薄れるもので、家出をしてハンター試験を受けるころにはそんな思い出も目標も遠いものとなっていた。だから飛行船で手痛い一撃を叩き込まれるまで本当にムカツク女ことエミリアの事を忘れていたのだ。

 思い出したはいいがトリックタワーで一緒に進むことになったエミリアは、過去の傍若無人な態度は鳴りを潜めて妙にオドオドしているわはっきり話さないわでキルアをイラつかせた。こんな奴に自分は負けたのか、劣っているのかと、納得いかなかったのだ。

 苛立ちはそのまま刺々しい言葉になり、それに対してエミリアが余計におびえたような態度をとるものだから余計に憤懣が募る結果となった。

 

 が、その後ゼビル島で遭遇したエミリアはまた打って変わって違う印象をこちらに植え付けて来たものだから、キルアとしてはエミリアの扱いは「珍獣」とかでいいのではないかと思い始めていた。2回目に島内で会った時うっとりとした表情で変な笑みを浮かべていたのを見たら余計に。

 

 眼鏡をとられて迷ったから助けてくれと言われた時は何の冗談かと思ったが、どうやら本当に困っている様子。今後の試験でもしかすれば受験者同士の直接対決もあるかもしれないと考えたキルアは、こんな馬鹿らしい事で脱落されてもつまらないと同行を許可してやった。……もし直接戦えたらその時は、公式の場で強くなった自分の実力を示してやるつもりで。

 トリックタワーの壁を壊した馬鹿力を思えば直接攻撃を受けるのは得策ではないが、ならば他の技術で勝負すればいいだけのこと。

 

 

 

 キルアは「その時はみてろよゴリラ女」とニヤリと笑いつつ、数日間エミリアと四次試験の残り期間を過ごすのだった。

 

 

 

 




ちなみにヒソカの最初のターゲットは原作のポニテ団子鼻の人で、ゴンさんはヒソカがその人を狙ったところでプレートをゲットするつもりでした。
が、途中で主人公がオーラでヒソカを挑発して彼もターゲットを直前で変えたのでちょっと焦るゴンさん。でもヒソカと種類は違くとも力強いオーラを纏う主人公を持ち前の勘で感じ取ったゴンさんは「エミリアさんならきっと大丈夫だ!」と確信してプレートを奪う事を優先。そしてそんなゴンさんに熱い視線を向ける変態は主人公をいったんスルー。そして奪われる眼鏡と死ぬ眼鏡。

眼鏡は犠牲になったのだ……

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