膝の上にアキレスを乗せながら、俺はベッドに寝そべる。
今朝は何もする気が起きなかった。昨夜は眠れずに、ずっとこの状態で過ごしていた。
「俺は……何も出来ないんだな」
アキレスを見つめながらそう一人ごちた。山野バンの父がイノベーターに捕まる時だって何も出来ないまま、見送ってしまったし、昨日だってカズのウォーリアーが破壊されることを防ぐことができなかった。
ああ、なんて無様。原作を変えることがどれだけ愚かしい事なのかをまざまざと見せつけられた気分だ。
深く枕に沈み込み、手で目を覆う。こうでもしなければ自分の無力さに泣いてしまいそうだったからだ。
その時、扉がノックされた。山野バンの母親だろう。
「……起きてる。後で下に降りるから」
今はそっとしておいてくれと、扉の方を見ないままに意識を希薄にする。
だが、ガチャリという音とともに扉が開いたような気がした。意識を希薄にしていた俺はそれへの反応が遅れた。
そして、ズシリと俺の体の上に誰かが乗った。
手をどけて、その乗ってきたものを見やる。
「……ミカ?」
「ん、おはよう」
俺の上に馬乗りになったミカは、じっと俺を見つめてくる。
「……どうした?」
「それは、こっちのセリフ」
俺の頬にミカの柔らかい手が添えられる。
「酷い顔……寝てない?」
「……ああ」
「やっぱり、気にしてる?カズの事」
「……ああ」
「私の事、好き?」
「……ああ………………ん?」
あれ?なんかおかしいような?
「言質、とった」
「待て!色々と待て!」
慌てて起き上がろうとする俺をミカが上から押さえつける。体勢的な優劣からあっさり押さえつけられる。
と言うより、寝ていなかった弊害がここで出てきている。力が入りにくい。
その拍子に、俺とミカの顔の距離はとんでもなく縮まった。互いの吐息を感じられるほどに。
俺自身とは違う、異性の顔つきは中学生だとしてもとても艶やかだった。
「……どいてくれ」
「やだ」
なんとか残っている理性を動員して、ミカに退くようにお願いするが、にべもなく切り捨てられる。
「……」
「……」
その後は無言のままで、互いに見つめ合う。そして、少しずつ、彼女がその距離を詰めてきた。
後少しで口づけをしてしまうだろう。しかしそれを止めるだけの力は俺に残ってはいなかった。
そして、俺たちのの影は重なり……
「させるかぁぁっっ!!」
扉を蹴破ってきたお淑やかのかけらもないアミによって防がれた。
「アミ……?」
「なに?LBXストーカー女。今忙しい」
「その前に!バンから降りなさいよ!」
「と言うより、なぜふたりはここに?」
「あ、おばさんにお願いしたら普通に上げてもらえたわ」
「うん」
「母さん……」
なにをやっているんだ、あの母親。頭を痛めていると、ミカはもう一度、俺の頬にその手を添えた。
「バン、一つ言っておきたい。カズのウォーリアーは私を庇ったから、壊された。責任は私にある」
「……しかし」
「だから、一緒に謝ってほしい。あなたがいてくれれば、カズもきっと、それを受け入れてくれるから」
確かに、そうかもしれない。けれど俺が問題にしているのは世界に抗う気力が完全に失せてしまった事だ。……こう考えてみると俺は下衆だな。山野バンの友人が心配しているというのに、自分は別のことを心配しているなんて……
「あなたがどれだけの事を考え、そして挫折したのかはわからない。でも、それでも、一緒に来てほしい」
「そうよ、私たちにはバンの考えていることはわからないけど、一緒にいてほしいの」
「……!」
だというのに、彼女たちは俺に親愛を向けてきてくれた。それがとても嬉しい。
そうだ、彼女たちやカズ、そしてこれから会う仲間たちの為に、俺は戦わなくてはならない。
なんで忘れていたんだろう?俺はただ、一緒にいて欲しかっただけだというのに。
たとえそれが俺を見ていなかったとしても。
「……そうだな、カズに謝りに行こう。それでもう一度、みんなで遊ぼう」
「うん」
「ええ!」
そして、俺はもう一度立ち上がった。
次は進展させますので、何卒よろしくお願いします……
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