鋼鉄棍を振るい、最後のデクーを斃す。
見れば他のメンバーもそれぞれがデクーを斃してしまっていた。
というか俺が最後だったらしい。どうやら回避を重視して戦っていたものだから余計に時間がかかってしまったようだ。
「バン!大丈夫⁉︎」
「……ああ、俺はな。お前達は?」
アミに対して俺は山野バンとして振舞う。本当は無事だと理解した上で安否を気にしているように見せる。
なんと外道な事か。なんと俺は罪深い。最低だ。だが、それを清算するのは全てを終えてからだと、今にも叫び出したい気持ちを抑え込む。
「俺たちがあんなのに負けるかよ。な?ミカ」
「うん、一対一なら、負けない」
それぞれが無事である事をアピールし、笑いを浮かべている。
だが、これは偶然にすぎない。次同じ事があったとすれば、怪我人が出たとしても可笑しくは無い。
原作がどれだけ綱渡りだったのかがわかった。下手を打てば誰かが死ぬ。それは嫌だ。
浅ましいけど、目の前で誰かが死ぬのは許せない。俺には原作で死んでしまった人を助ける事ができる機会を与えられた様なものだ。ならば……
クソッタレめ、頭の中がグチャグチャになる。なにを考えたいのか全くわからない。
「……大丈夫なの?」
アミに覗き込まれて、ハッとする。どうも思いつめていた顔をしていたらしい。
「……ああ、問題無い……敢えて言うなら、この部屋の片付けだな」
「え?ってうわっ!」
「やべえってこれ!」
慌てて他の話題にそらす。
そしてどうやらそれに成功した様だ。
「……みんな、早く帰るんだ。俺はその間に片付ける」
「手伝うわ!」
「いや、その間に母さんが帰ってきてしまうと不味い」
だからこそ、先に帰ってもらうのだと告げる。それに渋々、みんな従うことにした様だ。
そして俺は必死に片付けを開始する。
しかし俺の奮闘虚しく、みんなが帰った後すぐに山野バンの母は帰ってきた。
山野バンの母はまず部屋の状況に絶句し、AX-00を見て俺を見据えた。
「バン、あなた……LBXを……」
「……はい。その通りです」
正座し、甘んじて説教を受けようとするが、山野バンの母はそんな事をせずに、俺に背を向ける。
「いいわ、部屋を片付けちゃいなさい」
「……わかった」
山野バンの母はそこまで言うと、隣の部屋に行ってしまった。
明日、許可が貰えるとはいえ、憂鬱である。
「はぁ……胃がいたい……人を騙すのがこんなに辛いとは……」
ふと、部屋の隅にクノイチがいることに気づいた。微動だにせず、ただ、鎮座していた。
「……アミが忘れたのか」
明日にでも渡そうと、手を伸ばすが、ちょうどその時に稼働を始めた。アミが忘れた事に気づいて動かし始めたのだろうか。
クノイチを先導し、窓まで誘導する。そして、窓を開けて、クノイチを外に出す。
「また明日な、アミ」
外にクノイチが出た事を確認して窓を閉める。
そして俺は部屋の片付けを思い出し、大きくため息を吐いた。
◆
次の日の朝、日課をこなして俺は食卓についていた。
「……」
緊張の瞬間だ。原作と違ったらどうしよう。
「?どうしたのバン?」
「……いや、なんでもない」
受け答えにも少しぎこちなさが残る。いや、ボロを出してどうする俺。何やってんの。
なんて考えていると、山野バンの母は優しく微笑みながら切り出してきた。
「やってもいいわよ。LBX」
「……え」
「ただし、やるからには……強くなりなさい」
その笑顔が穢れている俺にはあまりにも眩しくて、辛かった。
「わかった。やってみせる」
だけど、俺はその光に負けないように頷いた。
◆
「バン!」
「……アミ?どうし、うわっぷ」
家を出ると近くの公園で待機していたアミが駆け寄ってきて俺を抱きしめていた。
「大丈夫?お腹痛くない?おばさんから許可もらえた?」
「いっぺんに喋るな、落ち着け」
「あいて」
アミを押しのけ、頭を叩く。
思いのほか強かったのか、涙目でこちらを睨んでくる。
「問題ない。許可も貰えた」
「本当⁉︎よかったねバン!」
心の底から喜んでいる彼女に、俺は心が痛くなった。何せこれは予定調和というやつだからだ。
こんな辛い思いをこれからもしていかないといけないのかと思うと憂鬱になる。
でも今は学校に行こう。あそこは俺の日常が詰まっている。唯一の安らぎだから。
感想ください。それだけで描く気力になります。