「……君は海道ジンの知り合いかなにかか?」
内心ガクブルしつつも表には出さずに対応して見せるゲボ吐きそう。脚なんて生まれたての小鹿になりそうなのを手摺によりかかることで誤魔化すので精いっぱいだ。
「ああ、僕は海道ユウヤ。ジンは弟でね、弟の名前が聞こえたから気になって声をかけたんだ」
無理、ゲボ吐く。
「海道ジンと、ねえ……お前もこの大会に参加してるのか?」
「君は、確か仙道くんだったかな? そうだよ。僕もLBXやってるんだ」
「ほう、成程ね。トーナメントのブロックが違うのが悔やまれるな。対海道ジンへのいい予行演習になっただろうに」
「嘗めすぎだよ。毎日弟に扱かれてるからね、こう見えて結構強いと思うよ、僕」
あぁ、漸く波が落ち着いた。喉がイガイガする。というかいつの間にか仙道がユウヤとバチバチにガンくれあってる。ユウヤのほうは笑顔だけど。 いや違う、目は笑ってないぞ! やめてよぉ、元々エンジェルスターから帰った後は本調子じゃないのに、キラードロイドやら色々予想外の出来事の連続で胃袋死にそうなんだから!
まるで談笑する机の下で脛を蹴りあっているかのような光景にキャパオーバーしそうでござる。ござるじゃねえよ、LBX的に侍じゃなくて騎士だろ俺。……いや違うそんな事を考えたいんじゃない。
「とは言っても、この中じゃ、いの一番に当たるのはそこの山野君だね。その時はよろしくね」
うひぃ、こっち見んな。お前強さがよくわかんないから戦いたくねえでございますわよ。うぅ、まだ気持ち悪いのが喉奥に残ってるから今にも吐きそうだけど、答えないのも不審に思われる。ちくしょうめ……
「まぁ、(お互い)勝ち上がれたらな」
「言うね。(僕が)勝ち上がれたらか。その挑戦受けるとも」
なんかギラついておられる。何怖、これがキレる10代ですか……?
「オレは空気読めないって言われるけど、これはわかる。バンの奴、なんか絶対変なこと考えてるぜ」
「だな、付き合いの浅い俺でもわかる」
「……私は当然わかる」
「「いつの間に戻ってきてたんだ(よぉ)」」
「……私の特技はスニーキングキル」
「殺すな殺すな」
「誰キルすんだよぉ~、クラスメイトが怖いんだけど」
「というかデブ。次の試合だろうがさっさといけよ」
「わひゃぁ! マジじゃん! 行ってきまーす!」
「……てらー」
「期待はしないが、見るくらいはしておいてやるよ」
後ろうるさい、仲良すぎなんだよ。仙道もなじむの早いって。この前まで敵だったじゃん。一瞬で仲間になってるんだけど。……喉奥から酸っぱいの上がってきた。
「そろそろ僕も戻らないと、さっき降りてった太めの彼の試合が終われば二回戦だ。そして君と当たるのは四回戦だから続きはその時に。じゃあまたね」
「んー」
フラフラと手を振って送る。ぞんざいに見えるが、結構きついで仕方ないだろう。というわけで俺はトイレに直行するのであった。
「よっしゃ! 俺勝った! 見てたかよバン! 俺だってやれば出来るんだぜー! ってアレ、バンは?」
「トイレ向かった」
「なんだよもー!?」
生活感を感じさせない無機質な部屋。監視カメラが稼働し、四六時中監視されている彼こそはLBXの生みの親、山野淳一郎博士だ。
用意された数少ない家具であるベッドに座り、メガネ型のコンピュータによって、静かに、ばれぬように、仕込みを続ける。脱出のための準備、そして脱出した後のセーフティーゾーンの準備、そしてオーディーンの設計、そして更に次のLBXの設計。
愛する息子が戦う相手はあの力を持つものばかりであることは確定している。今でこそ到達していないが、脳をいじり、強制的に発現させる術を奴らは手に入れるだろう。
故に本来は無人LBXの試験用システムだったVモードをまったく別物レベルまで改造したのだ。
———Vモード第二段階、それは大きく分けて二つの機能を搭載している。
ひとつは学習式補助システム。表面上はLBXが自己で思考する。というシステムで、一見コレまでのVモードと変わらぬように見えるのだが。
真実はLBX側が使用者の動きを学習し、システムを自ら改造、使用者に最適化させる事で操作の補助を行う自己改造型の学習システム。
コレはAX-02と呼ばれるLBXに使用される予定だったシステムを山野博士が改造し、敵からではなく使用者から学習する様に仕上げたシステムだ。
本来ならば山野博士であろうともこの学ぶAIという技術は現状において実装不可能だったろう。だが、とあるAIの雛形と自立可動用のVモードと組み合わせた事でなんとか実用レベルまで漕ぎ着けることが出来た。
ふたつめにLBXとの使用者の直接接続システム。これはそのままだ。
漂流者と呼称される少女からLBXとの一体化のデータも得れたのが幸いし、使用者の思考を直接LBXと接続するシステム、イノベーターの研究者が言うにはサイコスキャニングと言われる技術を安全性を高め、かつ高性能に発展させた物だ。
しかしどれだけ安全性を高めようとも、元となる技術があまりにも危険すぎる為、接続システムの100%同調稼働は山野博士を持ってしても使用者への負担を消しきれなかった。
そこでひとつめの学習システムだ。コレが使用者の思考を補完する事で同調率50%であろうとも、学習システムなしの100%と同等の動きをする事が可能になったのだ。
敵が常識を超えた反応速度で来るならば、こちらはLBXをもう一人の自分へと改造する事で親和性を高め、対抗する。
それはそれとして、とりあえず彼、山野淳一郎はうっかり開発出来てしまった永久機関『エターナルサイクラー』を悪人共の手に渡さぬように。日夜奮闘しているのだった。
なので自分を捕らえている屋敷に爆弾を設置するのは仕方のないことなのだ。
「……」
……一応、良心から人的被害が少なくなるように調整はしておくのだった。
海道ジンによる無双、全てを吐き出してスッキリした事で精神コマンドひらめきと熱血状態の俺。相手の行動を学習しながら確実に勝利を重ねるユウヤ。ジンとの試合を控えるミカ。ジンとの戦いだけを見据え、淡々と勝つ仙道。そして雑にやられたリュウ。
多くの試合を経て、やって来たるは
その火蓋は既に切って落とされていた。
槍と盾が火花を散らす。
「く、速いね!」
「舐めるなよ。俺のアキレスは伊達じゃない」
八度目の交錯の際に盾の上から相手を蹴り飛ばす。
ジオラマである砂漠に脚で二つの線を描きつつ着地するユウヤのLBX。
叙事詩にて脚速きと謳われるアキレス、その名に引けを取らない運動性と機動力を『アキレス・リュカリオン』は相手のLBX『グラディエーター・
そこに加えて足癖の悪さ。これは俺のスタイルのせいだが、こういった荒々しい動きこそ狼らしいといえるのではないだろうか。……いや適当言ったな。
しかしその速度をもってしてもユウヤの反応速度を振り切れない。
オレが間髪入れずに放った槍を盾で弾き、更には反撃を加えてくる。身体を捩り、回避するも微かに切先が装甲に掠ったのか、CCM上に表示されるHPがほんの少し減少した。
「これも反応するか!」
「伊達にジンにヴォコヴォコにされてたわけじゃないさ!」
「ヴォコ? ああボコボコか」
変な言い方を勝手に納得する。なんかユウヤが少し赤くなっているが、恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。
バッテリーの余裕を確認し、アキレス・リュカリオンを疾走させる。
既に九つを超え、十の激突に入った俺達。趨勢は今のところこちらが有利だが、決するまでにはいかない。単純な出力差で押し切り、今一度距離ができる。
無意識のうちに強張っている息を吐く。
「結構強い、というのも卑下し過ぎじゃないか?」
「ふふ、天才が家族だとこうもなるとも!」
ランスを地面に突き立て、背負っていたメイスを両手に出す。今足りないのは盾ごと粉砕する火力だ。―――と判断したと思わせる。
本能で分かる。このままだといずれこちらの動きに慣れて対応される。漠然とした危機感がそう警告している。
「潰す」
「はは、凌ぎきってやる!」
メイスを振りかぶる。反射的に『グラディエーター・C』が防御態勢をとったのを視界の端に捉えながら振り下ろす。灰原ユウヤには悪いが狙うは地面だ。
全力の一撃は土煙を立てるのには十分な威力だった。それにまぎれ、『アキレス・リュカリオン』の姿を相手の視界から消失させた。
「なっ、そう来るの!?」
「卑怯とはいうまいな(葦名並感)」
リュウの家でやった(2050年代では)レトロゲームの言ってみたかった台詞第八位を言えて満足。
メイスを野球バットの様に持ち替えて―――
「
突き立てた槍へ振りぬいた。
「えぇ!?」
縦回転しながら襲い来る凶器に面食らう灰原ユウヤ。しかし伊達に先ほどまでの攻防を繰り広げてはいない、この程度は反応しきれると盾をパリィの要領で弾き、後方に受け流した。
「隙ありだ 灰原!」
間髪入れずにメイスを横抱きにした突進。全開の速度で、パリィで生じた盾の隙間を縫うようにグラディエーターに激突した。メイスと拉げる装甲を挟んでグラディエーターとアキレスがにらみ合う。
「このぉっ!」
「離すか!」
ユウヤは反撃に転じようとする。グリップを捻り、パイルバンカーを起動させる。肩の付け根部分を撃ち抜き、決定打とは成らずとも動きの阻害は果たせた。
それでもと抵抗を続けるグラディエーターをハカイオーの腕で地面にたたきつけた。
「こなくそぉっ!」
「なに!?」
その程度で終わるものかとグラディエーターがまだ動く部分を総動員してアキレスを巴投げのように投げ飛ばした。
「やるな!」
「負けてやるもんかっ!」
背中から倒れた状態からどうにか体勢を整えるもメイスが手を離れ、飛んで行ってしまった。相手が立て直すまでに何とか回収せねばと走るが、目標のメイスを突如として飛来した盾が更に遠くへ弾きとばす。
その光景に虚を突かれ、一瞬動きが鈍る。結果生まれた空白を埋めるかの如く、アキレスが衝撃を受け、よろけた。目を向ければアキレスの胴体に片手剣が生えていた。
「武器を投げるか!?」
「君が言うのかい!!?」
それについてはさもありなん。
唐突な衝撃と足場が砂によって、バランスを崩しかけるもなんとか持ち直す。
———せっかくだ。使わせてもらおう。
刺さった剣を抜き取り、構える。標準的な片手剣なので扱いやすいのが幸いした。
「———な」
ダメージによる動きの阻害がどの程度か確かめ、問題なしとこちらへ迫るグラディエーターに目を向け、驚愕した。
「隙ありぃ!」
灰原の裂帛の気合と共に振り下ろされるグラディエーターの
「腕引きちぎるとか08小隊か何かか!?」
「やられたらやり返す、倍返しだっ!」
「それは別のミームだろうが!」
倍返しはあってるが致命的に違う。とか考える暇もなく斬り返す。衝撃が抜け切らずもなんとか灰原からの暴を剣で受け流す。
「オオッ!」
「セイヤァッ!」
雄叫びと共に剣と片腕の激突を繰り返す。何度も、何度も行われる交錯に会場のボルテージが最高潮に達しようとした。
そうして、実に10のぶつかり合いの末、勝負を分けたのは。
「必殺ファンクション!」
『Attack Function/ソードサイクロン!』
得物による必殺技の有無であった。
「うわぁっ!?」
哀れグラディエーターは爆発四散……はしなかったものの、剣の嵐に上空へと跳ね飛ばされ、ズベシャと砂に力なく墜落した。
『グラディエーターっブレイクオーバー!! 勝者、山野バンッ!』
ぷぅ、と張り詰めた神経をほぐすように息を吐く。皇帝前にとんでもない激戦だった。
「はは……やっぱり届かなかったか」
「良いバトルだった。またやろう」
「……こちらこそ、弟の敵に対して言うのはなんだけど、ジンとのバトルも頑張って」
「は、まぁ、なんだ。こんな強敵を降したんだ。なら優勝する以外ないとも」
「ははは、言うね。まぁウチのジンの方が強いけどね!」
「ブラコンか」
「かもね? じゃあまた。機会があったら」
「ああ」
踵を返し、ステージから降りていくユウヤ。俺もそれに倣ってステージを降りた。その先で海堂ジンが待ち構えていた。
———海道ジンがいる! なんで!? いや敵情視察か。そりゃそうか。
彼の瞳は真っ直ぐにこちらを見据え、いや睨みつけている。
「先ず、決勝進出おめでとう。山野バン君」
「感謝する、海道ジン君。そう言えばカズから聞いたぞ。ジェット機で登校してきたんだって?」
「ああ、第一印象はインパクトは大事と聞いたからな」
「……いや、多分それは違うと思うのだが」
「………そう、なのか?」
「………恐らく、悪目立ちの方、ではなかろうか?」
「………そうか………………そう、か………」
んー、もしかして凹んでる? いや少し天然か? この人。物語の方では結構しっかりものだった気がするが。そこらへん家族が増えて変わってたりするのだろうか? それともコレ元々の素質?
「まぁ、それはそれとして。決勝で待っているさ。仙道か君か、どちらであろうともオレが勝つ」
「いや、お爺様の為にも僕が勝つとも。それに」
チラリと何処かに目をやる海堂ジン。それを追うとユウヤがトボトボと会場の外へと歩いていくのが見えた。
「家族の仇か。なるほどそれは強い理由だ」
「ああ、姉の仇打ち、させてもらおう」
それだけ言い残し、そのまますれ違う。ステージに上がった海堂ジンに会場が湧き上がる。さすがだなと、既に待機していた対戦相手の仙道に頑張れとエールを送り、そしてお返しとして「あ゛あ゛ん?」と言わんばかりに顔を顰められた。
さて、ミカとリュウの所に戻ろう……? あれ、なんか変じゃなかった?
「……ん? んんん??」
あれ、さっき海道ジン、ん? んんんんん????
……殺せ。いっそ一息に楽にしてくれ!
どんだけ時間かけてたんだとか言われそうですが、本当にすみません。
書き溜めが全て消失(PCと共に破損)し、この半年の間、執筆を辞めようと思ってました。ですが未練ったらしくまた書き始めました。
この蝙蝠男がと罵られそうですが、ごもっとも……!
まぁぼちぼちと記憶を掘り下げながら書いていきますのでよろしくお願いします。