うちの父はLBX開発者です   作:東雲兎

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襲撃……予想外

「……貴女は?」

 

駆け寄ってくる女性に一応問いかける。が、そんな事知るかと言わんばかりに、

 

「そんな事はどうでもいいわ……ちょっと来て」

 

そう言われて近くの橋の下に連れて行かれる。そこで女性は片手に持っていた箱を俺に向ける。

 

「時間がないの……今は黙ってこれを受け取ってほしいの」

「……これは?」

「これが世界を救う鍵になる」

「?」

 

山野バンを演じる。演じなければ、俺には価値がない。だから相手に悟られないように山野バンを必死に演じる。

 

「この中には人類の希望と絶望の両方が詰まっている。今は詳しい事を話せないけど……っ!」

『一体何処に行ったんだい⁉︎』

『腹減りません?』

『つ、疲れた……』

『貴様、本当にあの人の部下か?』

 

何やら土手の方から声が聞こえた。その声に弾かれるように身を隠す女性。そして俺もそれに習って隠れる。

 

「もう追っ手が……あれは私が引き付けるからその間にそれを持って逃げなさい」

 

そんな女性に、今一度山野バンとしてだけではなく、俺として問いかける。

 

「……これは相当に不味いものなんですね?」

「そうよ」

「……そうですか。わかりました」

「じゃあ、縁があったらまた会いましょう」

 

『あ、見つけたっす!』

『逃がすんじゃないよ!』

 

そう言うと女性は身を翻して土手の上に駆け上がる。そして、それを追うように足音が聞こえ、それが遠ざかったところで俺は家に向かって駆け出す。

 

もうすぐ日が暮れる。この夕闇がこの身を隠してくれるだろうと信じて走る。

 

ただの楽観にすぎないが……

 

見つかりませんようにと、祈りながら走り続ける。

 

 

 

 

 

 

家にはなんとか日が暮れる前に辿り着いた。

 

だが、そこで問題が発生したのだ。

 

「……アミ、カズにミカも……」

「お、バン!」

「良かった元気そう……」

「?その箱、何?」

 

そう、原作には無かったはずの彼らがいたのだ。何故という疑問が尽きないが、今、家に入れるわけにはいかない。

この後に襲撃がある可能性があるのだ。

危険な事に進んで巻き込むわけにはいかない。

 

「心配したのよ?いきなりお店を飛び出したりするから……」

 

どうやらこの展開は身から出た錆のようだ。失敗したと内心頭を抱えながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。

 

「……すまない、心配かけた。だが、俺は大丈夫だ。けど時間は大丈夫なのか?もう日が暮れる。早く帰った方が……」

「あーそうだな……でもその前に悪いけど水飲ましてくれねぇか?お前を探し回って疲れちまった」

「……む」

 

それでも追い返すべきという思いと迷惑をかけてしまったからその程度はすべきという思いが鬩ぎ合う。

刹那のせめぎ合いの後、水程度なら問題ないかと、鍵を取り出す。

 

「……入ってくれ。大したもてなしはできないが」

「おう」

「ありがと」

「お邪魔します」

 

俺が先導し、中に入る。どうやら朝の宣告通り山野バンの母親はいないようだ。

電気をつけながらテーブルの上に箱を置いて、皆んなをソファーに座らせながら冷蔵庫から飲み物を取り出す。

 

適当に取り出したコップに飲み物を注いでいると、リビングの方からカズの声が聞こえてきた。

 

「バン、こいつはなんだ?」

「……さてな、渡されただけだから知らん」

「はぁ?」

 

嘘だ。その中身を俺はよく知っている。最低の野郎だなと自分を責めながらお盆に飲み物の入ったコップを乗せてリビングに向かう。

 

「開けていいか?」

「……俺が開ける」

 

どうせ開けないと気になって帰らないだろうと判断した。幸い……デスロックだったかは俺が、と言うより山野バンが最初に触れれば問題ないはずだ……多分。

 

コップを配り終えた後に箱のロックを開ける。そして中には当然……

 

「LBX……?」

 

覗き込んでいたミカからそんな声が漏れる。俺は素早く違和感を持たれないようにAX-00に触れる。

 

その途端、

 

『ユーザー認証開始……ユーザー確認中……ユーザー確認、使用を許可されます』

 

機械めいた声でそんなアナウンスを聞いて、なんとかなったとホッとした。

 

「何処のメーカーかしら?」

「AX-00、それ以外は何もない」

 

アミとミカが箱を調べるが、それ以外はわからなかった様子。それを横目に俺は試運転をする。この後の襲撃に備えるためだ。

 

「良かったなバン!LBXを手に入れられてよ!」

「……ああ」

 

本当ならば疫病神にしか見えないけれども。なんというか実際に見てみれば案外愛着が沸くものだ。

 

基本的な動作を繰り返して、少しずつ慣らす。

 

「明日、キタジマ模型店で勝負しようぜ!」

「……わかった。だが、今日のところは早めに帰るべきだ。そろそろ本当に日が暮れる」

「おう、そうだな。おい二人とも。そろそろ……」

 

小さな銃声が聞こえた。

 

「キャッ!」

「っ!」

「な!」

「まさかっ!」

 

俺がテーブルに目を向けると、そこにはLBX、デクーがいた。デクーは威嚇射撃を始める。

 

「隠れろ!」

 

俺の号令で弾かれるように三人は隠れる。

 

対して俺はAX-00を放り出して、デクーと相対する。あと二体くるはずだから早めに後衛のデクーを倒してしまいたかったのだ。

 

……だが。

 

「っ!」

 

既に他のデクーが駆けつけてきていた。その数合計して六体。

 

「六体……⁉︎原作と違う……!」

 

一気に殺到してくる前衛のデクー。なんとかAX-00を、全力で攻撃を回避させる。

 

だが、多勢に無勢。少しずつ確実に追い詰められていく。

 

「……不味い」

 

背中に冷や汗が伝う。ここで撃破されてしまえば、原作は崩壊してしまう。そんな事は許されない。勝たなければ俺には価値がない。

 

そんな時、

 

「クノイチ!出陣!」

「行って、アマゾネス」

「ウォーリアー投下!」

 

三人が自身のLBXを操作して助けてくれた。

 

「な、隠れていろと!」

「そんな事言ってる場合か⁉︎」

「仲間外れはごめんよ」

「右に同じ」

 

それぞれが一体ずつを相手にして、こちらの負担が減った。これは好都合かもしれない。利用するようで良心が痛んだが、そんな事を言っている場合ではないかもしれない。

何せ俺は山野バンよりも弱い。猫の手も借りたい気分だったのも事実だ。

 

「……行くぞ」

 

原作を再現しなければならない。

 

己のLBXの得物を構え、駆け出した。




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