うちの父はLBX開発者です   作:東雲兎

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ダンボール戦機W、YouTubeにて毎週木曜更新中!
みんな見てね!!


見てたから遅くなったとか言えないけど見てね!


箱の中の魔術師

 郷田、沙希さんと俺の即席チーム『焦土』はバトル開始から2分で相手LBXを消し炭にした。郷田が不良三人のうちの一人を胸倉つかんで持ち上げており、沙希さんは不良に足蹴にされていた荷物を片付け、俺は残りの不良をイスにして昼ご飯代わりのワンコインカップラーメンを食べていた。麺が硬めなのは三分たってないからだが、個人的にはこれくらいがちょうどいいと汁に絡めて麺をすする。

 

「バトル始める前に何かしてると思ったらカップ麺作ってたのかよ」

 

 カズが半目で見てくるが、やらんぞ。俺は今無性にジャンクフードを食いたいのだ。堕天使の料理はうまかったが完璧すぎた。端的に雑なやつを食いたくなった。本当はハンバーガー食いたい。

 

「いやいらねえよ。でもスープまで飲むなよ? 体に悪いぞ」

「……カズ。ホントに、私と同い年? 今の、おじさん臭い」

「おじっ!?」

 

 カズに言葉の刃がクリティカルヒット。ついでに店長にも流れ弾が当たったようで胸を押さえていた、健康気にしてたのか。

 

「んだとぉ!?」

 

 そこへ響いた先ほどまでとは質の違う郷田の叫びに、思わずその場の全員が振り返った。

 

「どうした」

「どうしたもこうしたもねぇ! こいつらの仲間がリコ達も襲うつもりだとよ!」

 

 怒り心頭といった様子の郷田。

 成る程、四天王を各個撃破しようとしたのか。さしづめ、こいつらは郷田の足止め役、あわよくばそのまま書きはと言ったところか。数の暴力で殴れば三人衆といえども倒せるのだ。物語のWの最初でカズやアミが暴走したLBXの大群に押しつぶされたように。

 怒る郷田にもはや玩具のように振り回される不良。そんな不良に僅かながらの哀れみと胃の中身をリバースしたら〆ると決意をたぎらせる。

 郷田はさらに情報を引き出そうと怒鳴るのを後目に俺はCCMを開き、友達の中でも情報通である少年と連絡を取る。

 

『もしもし〜』

 

 気の抜けた声。誰が電話をかけてきたのかを見ずに出たな?

 

「リュウ、俺だ。いきなりで悪いんだが、手を貸して欲しい」

『うぉっ!? バンか! みんな心配してたんだぞぉ!?』

「それについてはすまん。が今は人助けを優先させてくれ」

 

 ほんとごめんけど、今は時間が惜しい。今度埋め合わせするから勘弁してくれ。

 

『お、おう。というか手を貸して欲しいって。なんで俺なんだ?』

「俺の知る中でお前は情報の取捨選択という分野で他の追随を許さんからだ」

 

 確かに彼はただの情報通でしかなく。情報収集という点は宇崎さん率いるシーカーその他組織達に遅れをとるだろう。けど彼、大道寺リュウが凄いのは数多の情報の中で正しいものを持ち前の豊富な知識から正確に拾い上げる所だ。だから信用できるし、付き合いもあるから人柄的も含め信頼できる。

 

『わ、わかった。何が知りたいんだ?』

「ミソラ一中の不良が商店街周辺で騒ぎを起こしている。その場所を片っ端から教えてくれ」

『一中の不良!? お前なにやったんだよぅ……うぅ、みんなに聞いてみるけど期待しないでくれよぉ?』

「頼りにしてる」

 

 情けない声を上げるリュウに発破をかけて、一旦切るぞと通話を切断。みんなに目配せをして、未だ口を割らぬ不良から情報を得ようとしている郷田に制止をかけた。

 

「落ち着け郷田、片っ端から探し出そう」

「ちっ、それしかないか!」

 

 ミカが持ってきたロープで不良を縛っておき、その場を店長たちに任せて商店街に飛び出した。リュウから送られてきた位置情報を頼りに移動を開始する。

 

「お前たち、わかっているだろうがサーチ&デストロイ、サーチ&デストロイだ。奴らに後悔させてやれ……!」

「「「おう!」」」

 

 ダウナー系のミカすら応えてくれるほど波に乗った俺たちは店の前から一気に商店街の道を走り抜け、階段を駆け上がる。リュウの情報と自身の耳を頼りに妙に騒がしい場所を探し出す。

 

 走り、走り、走り。ゲームセンター前で郷田の仲間である爬虫類っぽい郷田の仲間、ギンジと彼を囲む一中の不良六人を発見し、最初の一人にとび膝をかました。

 

「郷田くん!? それにお前らは!?」

 

 突然の介入に目を丸くするギンジに不敵に笑って見せ、不良共に刑を宣告する。

 

「喰い荒らせ!」

 

 俺の後ろから三人が躍り出て、Dキューブを展開しそれぞれ戦闘へと突入する。

 

 

 

 

◎神谷重工某施設・医務室前◎

 

 

 某堕天使こと、神谷コウは表向きは父の会社である神谷重工お抱えの施設、裏ではイノベーターの基地となっている場所へと訪れていた。目的は当然、バンからの命令を果たすため。

 目的の一つを達成するために、施設の一角にある医務室に入る。清潔感あふれる室内にベッドが点在し、その一つに初老に入るかどうかと云った男性がいた。コウは全身に悔しさを滲ませているその男、強化ダンボールを生み出した霧島平治にこそ用があった。

 

 

「はじめまして、具合はいかがですか? 霧島さん」

「……君は、」

「私は神谷藤五郎の娘、神谷コウと申します。父がいつもお世話になっております」

 

 丁寧な受け答えにより己にされた教育が良い事を示す、つまり発言内容の説得力を強めた。コウは自身を魅力的に見せ、目の前の相手にその価値を売り込む為だ。

 

「神谷社長の!? 留学中と聞きましたが……お帰りになられてたのですね」

「六日前に戻って来まして、世界の広さを思い知らされました」

 

 コウは苦笑を演じて、相手に親しみやすさを与える下地を作る。こういった人間っぽさを先に見せておき、その後は人形の様な印象を与えられる様に努める。そうすると相手は基本困惑し、話の主導権を握りやすくもなる。がさすがに相手も元とはいえ一企業を率いていた者。困惑しながらも話を進めようとする。

 

「そ、それで何故一介の作業員にすぎない私の元へ?」

「はは、強化ダンボールの開発者が一介の作業員にすぎないというのは少々無理があると思いますよ?」

 

 起伏なく笑うコウ。対して顔を強張らせた霧島。その様子にコウは霧島の未練からくる憎しみが前情報通りだと確認する。

 髪をかき上げる動作で耳につけたピアスに触れる。ふりをしてその裏に隠された骨伝導式の通信機で合図を送る。

 

『大丈夫、偽装はうまくいってるとも』

 

 聞こえてきたのはノイズが雑ざった紫苑博士の声。盗聴をされぬように加工してる故のノイズ。少々鬱陶しいものの、聴き取れる程度なので問題はない。

 

 現在、紫苑によってコウはイノベーター施設の記録上から消えている。正確には他の部屋でLBX『ルシファー』を完成させる為に躍起になっていると偽装してあるのだ。つまりこの時にコウが霧島と会談している事は記録に残らず、しかも神谷重工社長の娘であるからスパイ行為をしている疑惑すらかけられない。

 

 

「本題に入りましょう。今回霧島さんに会いに来た理由は、真実をお伝えすべきと考えたからです」

「真実……ですか?」

「ええ、今回の事件。その発端、そして現れたテロリストの存在を」

 

 その言葉にまずは僅かな毒を仕込もう。彼の中にある憎しみを腐らせる毒を、そして疑心を植え込む。いずれ彼自身の意思であの方の役に立つように。

 

 

 

◎ミソラ商店街・ゲームセンター前◎

 

 

 

 ついさっきまで続いていた不良とバトルが終わり、歯応えのなさに少し拍子抜けしつつもギンジと情報共有を手早く済ませた俺たち。そこで他の三人衆、リコとテツオも襲われていると聞かされた。。

 カズ、ミカ、そして郷田の仲間であるギンジの3人を残りの三人衆を助けにいってもらい、俺は郷田と共にゲームセンターの中へと入ることとなったのだ。

 

「じゃあ頼んだぞ。カズ、ミカ」

「おう、任せろ! デストロイだな!」

「……見敵必殺」

 

 両拳をみぞおち前で打ち合わせるカズに、シュッシュッとシャドウボクシングを行うミカ。確かに俺はサーチアンドデストロイとは言ったが、いや殺す必要はないだろ。ただの比喩だって……あれ、この場合は比喩であってたか?

 ……やめとこう、俺が馬鹿なのが露呈するだけだ。

 

「ギンジ、案内をしてやれ。リコとテツオを頼んだぞ」

「あぁ、郷田くんも気を付けてくれよ、どうやらこの騒動の発端は一中の奴らじゃない」

 

 何故別れたのか、それはギンジからの情報にゲームセンターの中に一中の不良、その親玉がいるそうなのだ。

 というわけで、俺と郷田で親玉を抑え、他のメンツで四天王の残りの2人を助けに行ってもらう事になった。

 

「ギンジのやつはリコとテツオが囮となった事に気づいてここに強襲しようとしたらしいが、黒スーツの仮面野郎どもに邪魔されて見つかったらしい」

「仮面……イノベーターか?」

「分からん、が邪魔したんだ。すぐいなくなったとはいえ、味方というわけじゃあねぇだろうな」

 

 俺たちが作戦会議している中で郷田がギンジからさらに聞き出していた情報を俺に共有してくれる。成る程、別行動していても行動は阿吽の呼吸——流石は郷田三人衆。しかし、邪魔したやつはすぐにいなくなったか。どっかからまだ見ているかもしれないということだけ頭に置いておこう。

 ゲーム音があちらこちらから聞こえて来る店内を進むと、不良が3人。ちょっと前に設営されたLBXバトル用のステージでこちらを睨んできていた。

 カードをいじっているやつが苛立ったように吐き捨てる。

 

「ちっ、情けねぇ。外の奴らは後で焼き入れねぇとな」

「一中の番長だな?」

「そういうお前は郷田を破った山野バンだな?」

「ふむ、破ったのは俺ひとりの力ではないが……名前はその通りだ」

 

 寧ろ単体で勝つなら今くらいでないと無理だったし。

 

「なら、お前に勝てば、はれて俺はここら一帯の頭になれるわけだ」

「オイ、俺を忘れんなよ? 仙道ダイキ!」

「は! こっからは上を決めるバトルだ。負け犬はすっこんでな!」

「ンダトォ!?」

 

 すぐに頭に血が上った郷田を腕で静止し、仙道ダイキに向けてバトルルールの設定を決めに入る。

 

「郷田、挑発に乗るな。仙道とやら、バトルは2v3、レギュレーションはゼネラルでいいな?」

「ほぉゼネラルレギュレーション、アルテミスと同じか。いいぜ乗ってやるよ。どうせ箱の中の魔術師の奇術に翻弄されるしかないんだよお前らは! 行け『ジョーカー』!」

「ほざけ! 奇術なんぞぶっ壊せ『ハカイオー』!」

「果て無く征け『アキレス・リュカリオン』」

 

 さあ、タネの割れてる手品でどれだけやってくれるかな?箱の中の魔術師よ。

 






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