うちの父はLBX開発者です   作:東雲兎

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新たな力

俺は豪華で広い寝室。その一角にある椅子に着席し、目の前のテーブルを挟んで神谷コウと向き合っていた。

 

「……いやいや、待て待て」

「? どうかなされましたかバン様。それよりも紅茶はいかがですか?」

「ああ、ありがとう……」

 

神谷コウから紅茶を差し出される。それを受け取り、口に含んで一息つく。

 

「……ってそうじゃなくて」

「?」

「いや、訳がわからないという表情をするな」

 

コテンと首をかしげる彼女をジト目で睨み、質問を投げかけた。

 

「ここはどこだ?」

「ここは私の別荘です」

「俺のアキレスとCCMは?」

「ただ今、紫苑博士に預けてあります」

「なぜ俺はお前の別荘にいる?」

「かなりの重症だったので一時的に匿わせていただきました」

「あれから何時間たった?」

「丸一日です」

 

ここまで一息で問い詰め、ホッと息を吐き、紅茶を口にする。味はわからないが美味いのだろう。確か紅茶は香りを楽しむとかなんとかどっかの誰かが言ってた気がするし。

 

「紫苑の奴もここにいるのか?」

「はい。そしてレックスもまたここに滞在しております」

「レックスが?」

「ええ、恐らく私を見張っているのでしょう」

「お前はイノベーターか?」

「はい。所属上はそうなりますね」

 

ああ、なんというか……想像通りというか。

 

「ですが……」

 

目の前の少女が敵であるということを少し落胆していた時、神谷コウは俺の目を覗き込む。

 

「私はバン様の味方です。何があろうと、この身が朽ち果てようとも。貴方に全てを捧げる所存です」

「まだ、そんなことを言っているのかよ。進歩がないなお前は」

「それは嬉しいです。なぜなら私の想いは何も変わっていないのですから」

 

在りし日の思い出を懐かしみながら、彼女は胸の目の前で両手を固く結んだ。

 

そう、俺と彼女は過去に出逢っている。

 

そしてその時の俺は業腹な事に彼女のあり方を決定付けてしまった。あの頃の俺と会えるのならば全力で殴り飛ばしている事だろう。

 

「……レックスと会わせてくれるか?」

「承知しました。すぐに」

 

うやうやしく一礼して、扉の方に走っていく。恐らく俺の命令が嬉しかったのだろう。全く、可哀想なことをした。

 

「まぁ、致し方ないのかもしれんな」

 

あの時の最善で今に繋がっているのだ。過去は悔やむことしか出来ない。ならばこれからの未来を考えて行動すべきだろうさ。

 

 

 

 

数分後、寝室の扉がノックされた。

 

「よぅ、無事か? バン」

「……なんとかな。あの時は助かった。レックス」

 

グラサンをした渋い声の男が部屋に入ってくる。あの時は彼のおかげで助かったとしか言いようがない。

 

そして同時にあの時に現れた死神を思い出した。

 

「……なぁ、奴らはなんだ?」

「奴ら……か。それを知る覚悟はあるか?」

「無論だ」

「……奴らの名はデスサイズ。各地を転々とする。傭兵部隊だ。奴らの武器は……」

「LBX……?」

「その通りだ。奴らは武器としてLBXを扱う」

「成る程……で?」

「奴らの背後にいるのはワールドセイバーと呼ばれる組織らしい」

「ワールドセイバー……」

 

その名を聞く事になるとは思わなかった。ウォーズで出てきたテロリスト集団。勝てるのか?

 

「一応イノベーターとは対立しているようだがな。奴らのことだ。いつ手を組むかわかったもんじゃない」

「……レックス。頼みがある」

「なんだ?」

「俺と————」

 

その頼みにレックスは目を見開いた。

 

「それは……お前」

「頼む。貴方の力が必要だ」

 

戸惑うレックス。そこへ……

 

「その話。僕も混ぜてよ」

「紫苑博士……」

 

レックスは紫苑の名を複雑そうに呟いた。

 

「山野バン。修理が終わったよ」

「アキレスのか……感謝する」

「ついでに改造しておいたよ」

「なに?」

 

紫苑の言葉を訝しむ。だが、そのアキレスを見て驚愕した。

 

「これは……?」

「アキレス・リュカリオン。近接攻撃に特化した君に合わせたLBXだよ」

 

気高き騎士と攻撃的な人狼が合わさったようなフォルムに俺は驚くばかり。槍とメイスをそれぞれ持った歪な二刀流がまたカッコいい。

 

「バン……僕は君を利用する。だから君も全力で僕を利用してやってくれ」

「ああ、よろしく頼む」

 

アキレス・リュカリオンを受け取りながら、硬く握手する。そしてそこへまた一人やってきた。

 

「私も参加よろしいですか?バン様」

「コウ……ああ。頼む」

「くそ、これじゃあ俺が腑抜けみたいじゃないか」

 

それでようやくレックスは重い腰を上げた。

レックスは俺をグラサン越しに見据え、問いかけてきた。

 

「世界と戦う覚悟はあるのか?」

「当たり前だ。俺は誰かのために生きて死ぬのだから」

「はぁ、全く。トンだ子供だなお前は。良いだろう。ならば力を貸すのも吝かじゃない」

「感謝する」

 

そうして、俺たちは共犯者となった。


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