学校も終わり、取り敢えずは行きつけの書店に向かった。何故かと問われれば、LBXマガジンというものが毎月発売される。確かだが、それが発売された日が原作の開始の日でもあったはずだからだ。つまりLBXマガジンが発売されていれば、原作が開始されたかもしれない一つの目安なのだ
これも一つの理由だが、もう一つの理由として山野バンならそうしただろうという理由からだ。
俺は出来うる限り山野バンに則した行動をするように心がけている。
無口なのは元々だからしょうがないとして、それでも少しは山野バンを演じられるように彼の行動を覚えている限りのことをすると心がけているのだ。
「……今日発売か……カズに買って行ってやるか」
このあとキタジマ模型店に集合する予定なのだ。おそらくカズはこのことを知らないだろうから、買って行ってやるのだ。
会計を済ませて、書店を出る。時間的に走らないと約束の時間に間に合わないだろう。
だが、ここからキタジマ模型店までは朝のランニングに比べれば軽いものだ。
靴紐を硬く結んで、カバンを掛け直す。
「……行くか」
そうして俺は風になった。
◆
「……待たせたな」
「遅いわよバン」
「そうだぜ、何してたんだよ?」
「教えて」
いきなり質問責めにされた。隠す事ではないので素直に話す。
「……今日発売のLBXマガジンをな。カズに」
「え?マジか今日発売だったか!サンキューなバン!」
マガジンを手渡すと、カズに肩を組まれる。そこまで嬉しいのだろうか?
それはさておき、その騒ぎを聞きつけたのか奥からこの店を経営している北島夫妻がLBXの入った箱を持って出てきた。
「よ、みんな集まってるな」
「……店長」
「こっち来てみろ。おもしれぇもんがあるぞ」
そうすると皆が一斉に駆け寄り出す。俺も別に断る意味もなく、店長の元へと駆け寄った。
……待て、この展開何処かで……
「ん?どうしたバン?そんなとこで立ち止まったりして」
「……今行きます」
店長に促されるように一歩また一歩とその箱に近づいていく。その度に心臓が跳ね上がり、とても苦しい。
「見てみろ今日入荷したての新作だ」
「うぉー!すっげえ!」
「バン早く来なさいよ!すごいわよ!」
「真っ白な、機体」
苦しい、目の前がクラクラする。喉が干上がる。
ゆっくりと近づいて、俺が目にしたのは。
——アキレスと言う名のLBXだった。
「っっ!!」
「ん、どうしたんだバン。顔色が悪いぞ?」
「調子悪いの?奥で休む?」
北島夫妻が心配して肩を叩いてくる。
けれどもそんな事も気にする余裕が俺にはもう存在しなかった。
「……すみません。用事を思い出しました」
そう一方的に告げて、外に向かって走り出す。
後ろから何やら声が聞こえたけれど、気にしていられない。
何せ、原作が始まってしまったのだから。
走る、走る、走る。
LBX、AX-00を持つ女性を捜す為に。
◆
暫く街中を走っていたが、もう体力が尽きかけていた。
気づけば川の近くまで来ており、なんというかかなり走ったなと考えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
息が切れて目眩がする。それでも捜す事を止めるわけにはいかない。
しかしさすがに疲れたので一度休憩を挟む事にした。
「……くそ、何処にいるんだ」
土手の坂に転がり、息を整える。
そんな時、上の道から声をかけられた。
「見つけた……貴方が山野バン君ね?」
そう言ってこちらに近づいてくる女性。
その女性はまさしく俺が捜していた人物だった。