お台場ビックスタジアム。
そこで、LBX世界大会。アルテミスに三人の少年少女の姿があった。
「……」
「バン!無理をするな!俺のいる位置までおびき寄せろ!」
「……了解」
バンと呼ばれた少年は仲間の少年であるカズの声を聴き届け、自身の保有する異形と騎士の中間のような出立ちのLBXに指示を出す。バンのLBXはその操作を受け付けて、相手のLBXを二体同時に相手していたのをやめて、背中を向けて走り出す。
「逃がすかっ!」
相手は僅かに呆気に取られたものの、即座に追撃をかける。故にその姿は無防備となっていた。
それを確認したバンはLBXを走ることをやめさせ、振り返りざまに槍を一閃。その一撃で無防備になっていた片方を屠り、もう片方を槍を振った勢いのままに蹴り上げて動きを制限させる。
そこへカズのLBXが放ったライフルの弾丸が何発か殺到し、そのもう一体も屠る事に成功した。
進行役がバンたちの勝利と宣言する中で、バンは肩の力を抜いた。
「……」
「バン!あんまり無茶すんな!これからもまだ戦いがあるんだぞ!」
「……すまない」
「カズの言う通りよ。バン、無茶しすぎ」
「……アミ」
ふたりに責められるもそれが彼を真に心配してでの言葉だという事は理解していたので、バンはそれを甘んじて受けた。
「……思えば、遠くまで来たものだ」
「……そうね。あの時にはこんな風になるなんて思わなかったわ」
「……ああ、とんでもない事になっちまったな」
カズの言葉によってバンは今までの事に想いを馳せた。
◆
どうやら、俺は転生というものを経験したらしい。
そんな自覚が出来たのは俺という存在の人格が形成されてからだ。
死んだ記憶というのはなかったけれど、十中八九、ろくな死に方じゃないだろう。お世辞にも一般的に良い人生と言えるような人生を送ってないし。
別に不幸だったとは言わない。けれども、幸せだったかと聞かれれば首を捻らざるを得ないだろう。元々そういったのにはてんで疎い。
だが、幸せ不幸せに疎い俺でも、今の状況は確実に不幸だとわかる。わかってしまう。
父の名は、山野淳一郎。彼はLBXという小さな手のひらサイズの強力なロボットの生みの親だ。
ここからわかったのはこの世界は創作の世界であるという事。
そして俺は山野バン。いずれこの世界を救わなければならない存在だ。
俺は……どうすれば良い?
俺には荷が重すぎる……一体、どうすれば……
そんな時だった。
父の乗っていた飛行機が行方不明になった事がニュースで公開されたのは。
結局、俺には何も出来なかったのだ。
山野バンがこれを知っていたならば止められたのだろうか?そう、何度も俺は自身に問いかけた。
◆
それから俺は流されるようにLBXの操作の練習を開始した。それ以外にも体を鍛えるようにした。何があっても良いように。
「……ただいま」
「あ、バン!おはよー!」
「……アミか。どうした?」
日課の走り込みを終えて、家に帰宅すると客が来ていた。
川村アミ、俺の……正確には山野バンの幼なじみだ。
彼女はこの物語、ダンボール戦機において重要な人物だ。
「どうした?じゃないわよ。今日一緒に学校行こうって言ったじゃない」
「……ああ、そうだったな。すまない」
素直に謝罪して、準備をするためにまずはシャワーを浴びた。
そして、すぐに着替えて彼女の前に立つ。
「……準備完了だ」
「その前にご飯でしょ?」
「……母さん」
今にも飛び出そうとする俺に待ったをかけたのは山野バンの母親だった。
「アミちゃんも食べるでしょ?ほらふたりとも席に座った座った」
「ありがとうございますおばさん」
「……」
礼儀正しくお辞儀をするアミ。果たして山野バンはこんなに川村アミと仲が良かったのだろうか?なんて疑問が浮かぶけど、山野バンの母親に促されて俺も席に座る。
「いただきます」
「いただきます!」
「……いただきます」
それぞれが合掌し食事を摂り始めた。
「そういえば、バン。今日、母さん夕方から出かけるから、鍵は持って行きなさいね?」
「……了解」
——さて、原作はいつ始まるのやら。——
俺の中ではそれだけが気掛かりだった。なので、山野バンの母親の言葉を半分くらいしか理解していなかった。
朝食を食べ終わり、アミと共に家を出ると、そこには三影ミカと青島カズヤが待ち構えていた。
「よっす、おはよバン」
「おはよ」
俺が何かを言い出す前にアミが先制して挨拶を交わす。
「ふたりともおはよう!でもどうしたの?」
「いやさ、昨日お前がバンを迎えに行くって聞いてさ。ミカの奴がどうしても私も。と言って聞かなくてな」
「言ってない」
「いやでも……」
「言ってない」
「……はい、言ってません」
何やら青島カズヤが追い詰められている。三影ミカがどうしてそこまで彼を責め立てるのかわからない。
しかし原作ではそこまで交友は無かったはずだが、どうしてだろうか?
もしかしてアニメとか以外では意外と仲が良かったのかもしれない。同級生だし。
「……さて、行こう」
俺の号令で、学校への道を進み始める。さあ、山野バンの日常の始まりだ。