とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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お気に入り800件突破記念!!

 デリバリーバトラー、ISとリリカルな世界に出張します!!



 ……はい、嘘です。ごめんなさい。でもそういう夢を見ました。


 長くなってしまいましたOVA編、これにて完結にございます。



御坂と呼ばれて、最近やっと自分のことなんだと思えてきました   20-E

 ――全てが上手くいっている。

 

 

 彼女……城南 朝来は内心でそうほくそ笑んでいた。

 彼女はかつて長点上機学園という、学園都市トップクラス――いや、学園都市トップの学び舎にて能力開発担当の職務に従事していた。学園都市の科学者たちにとっては、まさしく羨望の的である立場である。

 

 

 ……しかし、彼女はいまや、ただのアンチスキルの一人である。

 

 

 学園都市の治安を守る。生徒達を、犯罪の手から遠ざける。

 

 そんな義憤に駆られてたわけでもない。正義感に背を押されたわけでもない。

 

 

 ただ、アンチスキルという立場が必要だったのだ。いや、正確にはアンチスキルという立場が好都合だった、というほうが正しいだろう。

 犯罪を取り締まる組織の人間が、犯罪行為に近いことをしている――などと、誰も思いはしないだろう。外部の警察機構の様な内部調査や摘発など無い組織は、城南として大変動きやすかったのだ。

 

 

(実験の経過は良好――あとは、模範的なサンプリングを用意して論文にまとめれば――!)

 

 

 見返せる。自身の研究を侮辱して、侮った連中を。

 

 

 パトロールの最中、顔が愉悦に歪まないようにするのは大変だった。警備強化週間という面倒極まりない取り決めのおかげで、暑苦しい教員アンチスキルとツーマンセルで都市をだらだらとパトロールしなければならない。

 

 

 もっとも、おかげでより多くの実験データも獲得できたのだから、プラスマイナスで言えば、彼女にとってややプラスと言える。

 

 

 

(最悪でもレベル3――最高なのはレベル5。あの超電磁砲のデータをサンプリングとして手に入れることが出来れば……!)

 

 

 あの時、なにやら手を繋いで離してを繰り返すカップルの片方が超電磁砲、御坂 美琴だと気付いたのは、少し後になってからだった。

 だからこそ悔やまれる。あの時、もう少し何かしらの接点が作れていれば、偽りの研究の協力とでも言ってサンプリングが出来たものを。

 

 

 

 

 ――そこで、話は冒頭に戻る。

 

 

 

 科学の都市で非現実的な話だが、神様などと言う存在が自分に微笑んでくれているとしか思えないチャンスが目の前を歩いているのだ。

 

 それも、アンチスキルとして声をかけるには絶好のシチュエーションを向こうが用意してくれている。

 

 美琴は少し顔を赤くしていて、そして隣を歩く執事服の深音はあたたかな笑顔を浮かべている。美琴のほうが深音に頼るように、手をしっかりと握っている様子は初々しいカップルそのものだ。それが、なんと薄暗い路地に入っていくではないか。

 

 

 ……不純異性交遊は禁止なのだ。ご法度なのだ。

 だから少々、多少私情が含まれるお説教も、許されるだろう。

 

 

 

 

 ――この時、気付けていれば。

 

 ターゲットとした美琴に、なんの違和感も無いこと(・・・・・・・・・・・)に気付けていれば……もしかしたら、結果も少しは変わっていたかもしれない。

 

 

 

 

 熱血教師を言いくるめるのは簡単だった。むしろ、一言二言それらしいことを呟いただけで率先して路地へと向かっている。

 

 やや足早に路地裏を進む。記憶が正しければ、この先は工事中――ぐるりと元の場所に戻ってしまう一本道だ。追いつけなければ、そのまま見逃してしまう可能性が高い。

 

 

 

 ……しかしその早足は、思いのほかすぐに止めることになる。

 

 

 

 狭い路地のど真ん中。誰も通りはしないだろうが、明らかに通行の邪魔になるように立っている。しかし、城南はそれが理由で立ち止まったわけではない。

 

 

 

(超電磁砲は、何処に……?)

 

 

 立っているのが、一人――しかも深音だけだった。

 

 まず見逃すなんてことは無いだろう常盤台の制服は、何処にも見当たらない。深音の影に隠れているなんてオチも当然無く、二人で入った路地に一人しかいないのだ。 

 

 

 何故? という疑問に解を出せぬうちに、深音はゆっくりと振り返る。その顔――というよりも、格好で覚えていたのだろう。同僚は見知った顔として職務を全うし出した。 

 

 

「……君は確か、この前公園にいた――いや、それよりも。こんなところで何をしているんだ? それにもう一人の子は……」

 

 

「大丈夫です。すぐに、来ます」

 

 

 

 その視線は、城南たちの背後へと向けられている。そして二人が振り返る前に、背後でゴムが擦れるような音が響いた。

 

 

 

「深音! 誰も通してー……って、アンチスキル? なんで?」

 

「……それはこちらの台詞だ。何で後ろから――というより何をしているんだ君達は」

 

 

 

 美琴と深音を交互に見て、おそらく学生の悪ふざけか何かと思っているのだろう、ため息をついている。

 

 

 ……しかし、城南は少しだけ、心穏やかではいられなかった。

 

 

 狭い路地である。前後――行きも帰りも、どちらも塞がれていた。

 

 

(まだバレ、ているわけじゃない。むしろ、この至近距離でデータを取るチャンス――!)

 

 

 一瞬の反応でいい。効果が如実にあらわれていることさえ確認できれば――と、三人に悟られぬようジャケットに忍ばせたリモコンを握り……。

 

 

 

「――へ?」

 

 

 

 その手は、何も握ることは無かった。

 

 思わず間の抜けた声を出したが、それどころではない。どこかで落としたのか、それとも別のところに――などと、取り繕う余裕も無く焦っていた。

 

 

 

 

 

「――お探しの物はこれですの? 城南 朝来さん?」

 

 

 

 声がしたからか、それとも名前を呼ばれてか。

 

 視線を上に、狭い空を見上げるように上げる。

 

 

 美琴と同じ常盤台の制服。そして、袖に付けられた盾の腕章。

 

 

 

「……いや、黒子。アンタそんなところで何してんのよ? やけに格好つけて登場してくれたけど」

 

「お姉様、真打とは遅れてくるものですの。それに、深音さんとは打ち合わせ済みですのよ? ……まあ、そんな些事は後回しにして――」

 

 

 テレポートにて深音の隣に再出現した黒子は片手で何かしらのリモコンを弄び、片手で端末データに眼を通す。

 

 

「『発電能力者による特殊知覚』――そしてその応用。……まぁキーワードさえある程度揃ってしまえば案外簡単でしたの。これ、貴女が以前提言した実験論文ですわよね?」

 

「な、なにを根拠に――!」

 

「……お姉様、一度だけ失礼いたしますの」

 

 

 黒子はそう美琴に告げると、弄んでいたリモコンを操作する。すると、今までで一番の悪寒が美琴の全身を襲い――彼女の身体を硬直させた。

 

 もっとも、それもほんの数秒。明らかに異常を見せた美琴を見て、再び操作して止めている。

 

 

 ――なによりの、現物証拠といえるだろう。

 

 

 そして、リアルタイムで耳の端末から初春により説明を受けている黒子と深音。

 しかし、それが無い美琴は――城南が一連の犯人なのだ、ということは察せても、一人蚊帳の外に置かれているようで居心地が悪い。

 

 

 

「あー、どーいうことなのか、説明してくれるわよね?」

 

「はい。簡単に言ってしまえば、特殊な電波を発生させていたんです。私たちは日ごろから多様な電磁波、磁場を受信していますが、それを無意識に処理しています。ですが――」

 

 

 立ち姿は以前変わらず。しかし、重心を移動させて、いつでも突貫できるように備えた深音。同じ電撃使いである彼は、むしろ城南よりも、この場においてそれに詳しいといえるだろう。

 

 

「――ほんの少しでも差異のある電波に注意が行くように、電撃使いにとってある種異質……明確に不快と感じる電波波形を送信し続けたんでしょう。その不快感を、美琴さんたちは『何者かの視線』として意識してしまった――というのが真相です。アンチスキルの厚いジャケットの下にでも、巻きつけているんでしょうね」

 

 

 黒子が電撃を落としたのだろう。視線も不快感も消えた美琴は――ニコリと。いや、にやりとした笑顔を浮かべた。

 

 いつか言ったが、笑顔とは本来、犬歯を見せるための闘争威嚇の一種である。たまりに溜まった鬱憤と、嬉し――ゲフン――恥ずかしいことをさせられた八つ当たりをあわせて。

 

 

 

 ……ボルテージは電圧に直変換されていく。

 

 

 

 

 バチリバチリという音と共に緊張感が高まっていく。たまらないのは全くの無関係であるアンチスキルだ。もう少し詳しく説明をしてほしいと切実に思っているが、隣の同僚は相当な焦り顔で――

 

 

 

 ――後ろ腰につけているバッグから――握りこぶしほどの大きさの、爆発物を取り出しているところだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……深音さんのがやっぱ安心感あるなぁ……」

 

 

 

 いまだ異議申し立てをしてくる心臓を、深い呼吸でなだめつつ、二つある路地の出入り口の片方に寄りかかる佐天。 

 

 気付けば落ちていて、気付けば目の前が足場であって。連続テレポートという初体験は大変に心臓に悪いものであった。

 

 

 

『白井さんの高速移動にお付き合いするときは少し工夫がいるんですよー』

 

「……それ、もうちょいと早く言ってほしかったなぁ、お姉さんは」

 

 

 端末越しの初春いわく、眼を閉じて到着を待つか、手元の画面に全力集中して最後の着地に神経を注ぐのが良いとのこと。……手を繋いでいるだけという大変不安定な状態だから、怖いことに変わりは無いらしいが。

 

 

 やっぱり深音さんのほうがいいなー、と結論付け、大きく伸びをする。少女としてそれはどうか? と思えるような呻き声を唸らせ、関節を鳴らして脱力。

 

 

(……深音さんに御坂さん、それに白井さん――うわぁ、改めて考えると過剰戦力だねぇ)

 

 

 佐天の中では、事件はすでに解決したものになっていた。なにせ、学園都市最強の一人とジャッジメントのエース。そして、どんな枕詞をつけても物足りない執事、その三人が揃っているのだ。過剰戦力にもほどがある。

 

 

 

 万が一が起きないかぎり、何事も無く終わる。

 だから、犯人を捕まえた後。その打ち上げも兼ねて、このままみんなでどこかへ遊びに繰り出す計画を立て始める。

 

(いろいろ聞かないとなぁ……二人きりでの一夜はどうだったのかってまさか一緒のベッドで寝たなんてないよね流石に男女七歳で同衾駄目でしょでもだとしたら何処で寝たの)

 

 

 そしてシュミレーションを重ねること数回。何故かどうしてか、佐天の妄想内でソファに座って美琴に膝枕をしている深音がいた。

 

 

 そこで、嫉妬などの感情は抱かず――『よし私もやってもらおう』と顔を赤く出来るのは佐天の――まあ、美徳、なのだろう。

 

 

 

 

 脱力させた身体に、もう一度むん、と力を込めたとき。

 

 

 

 ――路地から強烈な光が、カメラのフラッシュのように甲高い音と共に視界を染め上げていった。

 

 

 

 

 片耳でその音をもろに聞いてしまった佐天は、耳鳴りに涙を浮かべつつも、何事かと確認しようとして、路地裏から飛び出してきた、アンチスキルの女とすれ違う。

 

 

 

「う、初春!? 何、どうしたの!? 深音さん達は!?」

 

『す、スタングレネードみたいです! 深音さんは感覚が鋭い分余計に――とにかく、追ってください!! 私も何とか追尾してみますから!』

 

「っ、分かった!!」

 

 

 

 人通りの少ない道を選んで駆け抜けていく背中は、あと数秒走り出すのが遅ければ見失っていただろう。そして、頻繁に近道として路地裏を利用し、ほぼこの近辺を網羅している佐天だからこそ、走って追跡が出来たのだ。

 

 ――そして、ついでに言えば。限界耐久マラソンや階段の駆け上がりなどでひそかに鍛えられた健脚が、非常に役に立っていた。

 

 

 

 深音が回復するまでか、黒子がテレポート可能になるまでかは分からないが、上等だとばかりに佐天は追いかける。

 

 

 

(……確かこの先って狭い川しか……!)

 

 

 路地で幾度と無く、賭けじみたショートカットで距離をつめられた城南は、川沿いの一本道を走る。地図に載るかどうかという規模の川だ。そこに――逃走者にとっての幸運があった。

 

 どこかの学校の研究生、おそらく、水質調査でもしていたのだろう。小型船舶が駐留していた。

 

 

 ……そして、何度も言うが、格好はアンチスキルなのである。何かしらに理由をつけて、借用なんて造作もなかった。

 

 

 

「そこのボート待ったぁぁ!!!」

 

 

 

 そう叫ぶが、遅い。停船の縄ははずされ、水しぶきを上げて走るボート。根性論云々で人の足で追いつけるわけも無く。

 

 ……しかし、諦めてもいない。

 

 

 ……自分では追いつけないのなら、追いつけるものに、バトンを渡すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 城南は――振り切ったことに一安心して、現状に舌打ちをもらす。

 

 

 しかし、『舌打ち程度で済んでいる』と自覚して、ついで笑みも浮かべた。

 

 川は細いが、学区をいくつもまたいでいる。このまま学区外へ出てしまえば、時間も稼げるだろう。そのうちに学園都市外へ逃亡。そして、ほとぼりが冷めてまた戻れば良い。

 奪われたのはリモコンだけ。何時取られたのかはサッパリだが、所詮はそれだけで、本体は無事なのだ。大した被害ではない。

 

 

 

 

 ――全てが上手くいっている。いや、上手くやってみせる。

 

 

 

「く、フフ……はははっはは!!」

 

 

 そんな、こみ上げてくる笑いを取り繕うともせずに笑いあげる。自分の研究を馬鹿にした連中を見返す未来を夢想し、研究を称えられる自分を想像し……。

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 拍手の幻聴まで聞こえてきて、さすがに我に帰る。手をたたく音にしては。やけに硬質で、『パチ』ではなく『カン』という音調。それが、しだいに近づいてくる。

 

 

 

「……は?」

 

 

 間抜けて呆けて、しかし、それも致し方ないだろう。

 

 

 

 ……欄干の上を、片腕に少女を搭載した執事が駆けているのだ。足の幅ギリギリの欄干の上で、しかもボートに追いつけるだけの速度で。

 

 見覚えは当然ある。しかし、信じられない。至近距離で強力なスタングレネードを受けたにも関わらず、僅かな時間で快復していることも。今現在の状況も。

 

 

 ……あまりにもあまりな事態に陥ると人は思考を手放すのだと、城南は一つ、体験した。

 

 

 安定している上体は、美琴にとって走る車の上よりも、ずっとずっと、やりやすいものであった。

 

 ゆっくりと立ち上がり、船へと手を向ける美琴。親指に乗せた一枚のコインは――

 

 

「今までの鬱憤全部だと流石にかわいそうだし。……一発で勘弁してあげるわ」

 

 

 ボートのスクリュー音と欄干走りの音の中、不思議とその声は良く聞こえた。ついでに、その可憐なまでの笑顔が獰猛な笑顔に変わり――口が『 ふ き と べ 』の形に変わっていく光景も不思議としっかりと、よく見えた。

 

 

 

 

 

 

「……は、ははは」

 

 

 ――城南 朝来の、最大の失敗。

 

 それは最早、言わずとも分かるだろう。

 

 

 

 

 

 打ち上げられた船の中で、気を失っている犯人を見れば……それがそのまま答えである。

 

 

 

 

 

 

 

 

《 おまけ 直後談 》

 

 

「あ、でもさ。何で深音は不快な電波? ってヤツを感じなかったのよ?」

 

「推測ですが、男女での嫌悪感の価値観違い、でしょう。電撃使いの男子生徒に被害が無いのもそのためじゃないかと」

 

「……じゃあ、何で深音に触ってるときだけ私はその電波? の影響を受けなかったのよ」

 

「――簡単に言うと、私が避雷針のような役割を果たしたんですよ。表面積が大きい上に、操作性はほとんど受信のし易さになりますから」

 

 

 

 

《 おまけ 後日談(本命) 》

 

 

 

「……」チラッ…

 

 

 ……むぅ。

 

 

「……」チラッ…

 

 

「……お姉様、そんなにおつなぎになりたいのなら素直におっしゃれば……」

 

 

 

 自分の手を見て、ある人のあいている手を見て。……もどかしそうな常盤台のお姫様が居たりいなかったり。

 




読了ありがとうございました。



 まずは、このような拙作にいままでお付き合いくださいました皆々様に、ただただ御礼申し上げます。
 


 ここに、『とある科学の超兵執事』アニメ第一期の終了をご報告させていただきます。


 
 ご感想を下さった方、誤字脱字のご指摘をしてくださった方、そのたびお礼は言わせていただきましたが、この場を借りて、もう一度、そして何度でも言わせていただきます。



 ご感想、ご指摘、誤字脱字報告、本当に、本当にありがとうございました!!



 

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