とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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御坂と呼ばれて、最近やっと自分のことなんだと思えてきました   20-3

 

 

 逃げることは、絶対、恥なんかじゃない。

 

 でも、戦おうとすらしないことは、恥だと思うんだ――アタシ。

 

 

 ……覚悟は、ここに。

 ……決意は、ここに。

 

 

 

 では――いざ……っ!

 

 

 

「各々方――討ち入りにござる!」

 

 

 

 

「はぁーい佐天さん落ち着きましょうねー……っていうか最近コスプレに磨きがかかってません? 忠臣蔵討ち入りなんてする人がいるのかどうか疑問ですけど……」

「というより佐天さん? それ本当に模擬刀ですの? 抜刀音といわず光沢やらなにやらが真剣にしか見えないんですけど――」

 

 

 アタシは落ちちゅいてるぜ初春。あ、噛んだ。落ち着いてるぜ初春。

 ――やっぱ思いました? いやぁ、アタシも随分リアルな模擬刀だなぁーっとは思ってたんですけど。

 

 

「……内緒ですよ? 大根切れました。縦切りで」

 

「「……マジ物!?」」

 

 

 いやぁ、あの時は焦った焦った。軽いノリで投げた大根をちぇりおぉ! ってやったら葉っぱから根っこの先まで綺麗に真っ二つだもん。

 

 

「女性用の刀ってあるんですねー。アタシ、もっと重いものかと思ってましたよ。……ってんなこたぁどーでもいいんだよ初春。討ち入りだよ。抜け駆けした御坂さんに異議申し立てしないと!」

 

 

 

 深音さん家に、御坂さんがお泊まる。二人っきりで。

 ……由々しき事態じゃん!!

 

 

 下駄箱から取り出した草履(ぞうり)を履こうとして――手甲をつけた手首から、カシャンって軽い金属音。

 それに、あるぇ? って目を向けてたら、そのままもう片方でも同じ音。……手を合わせる一歩手前で固定されちゃってるアタシの両手。

 布でもかけて隠したら、もうアレだね。

 

 

「――銃刀法違反で拘束しますの。いえ、冗談抜きでそれ持ったまま天下の往来を走るとアンチスキルに本気で逮捕されますの。――まずは、落ち着いてくださいな?」

「むぅ……」

 

 

 玄関から、リビングまで戻る――でもなんか、なんだろ。納得いかないんだよなぁ。

 ……盛夏祭のときは結局、理恵ちゃんだけだったし。

 

 

 とぼとぼ、四角いテーブルの一辺を占領する感じで突っ伏す。

 ……初春とのお泊り会っていうんで、初春がお菓子(?)で買ってきたイチゴおでんなる缶詰があるけど――なんかなぁ。

 

 

「……あからさまに落ち込んでる佐天さん、というのも珍しいですわね」

「あー、多分、羨ましいのと寂しいので一杯一杯なんですよ。なんだかんだ、寂しがり屋さんですからねー」

 

 

 ちょっとお姉さんお姉さんしてる初春がニヨニヨして憎たらしい。……イチゴ柄のクセに。

 

 

「……白井さんはいいんですか? 御坂さんが、深音さんとはいえ男性と二人っきりなんですよ?」

 

 

 お姉様LOVEを公言して実行している白井さんが、改めてみると穏やか過ぎてなんか怖い。――うん、でもちょっと冷静になれた。

 

 アタシの問いかけに、白井さんはなにやら端末をいじりながら、苦笑している。

 

 

「いえ、まあ……ワタクシも最初は、ご兄妹とはいえ若い男女が二人っきりで、それも一つ屋根の下にいるなんてー、と思いましたけど。お姉様がご自分から言い出していることですし――」

 

 

 なにより――……って端末から視線をはずして、苦笑を浮かべて、アタシの部屋の天井を見上げる。

 

 

 

「深音さんですのよ? 『あの(・・)』。……何かがおこるなんて、いまこの瞬間に地球が木端微塵になる確率よりも低いですわ」

 

 

 そういって、白井さんはまた端末をなにやら弄り始める。

 いや、まあ。白井さんが言うことも分からないでもないっていうか完全賛同できるんだけど……。

 

 

 ――深音さんは、逆にこっちが女の子として自信を失くすくらいに、アタシ達を――その……『そういう眼』で見たりしない。いつだったか水着撮影のときも、ちょっと際どいかなぁって服のときも。

 それがアタシだけじゃなくて、固法先輩とかに対してもそうだったから、まあ、安心? は安心なん、だけど。

 

 

 ……冗談抜き、笑い話抜きで、深音さんは『紳士』っていう男の人、なんだと思う。

 

 

 困ってたら、見返りなんて求めないで助けてくれる。クラスの男子なんかと比べられないくらい丁寧な言葉だし、声聞いただけで落ち着くという反則技。

 しかもお姫様抱っこなんていう奥義まである。あれは危険だね。

 

 

 ……だからかなー。すっごいライバル――いや、ライバル候補かな? が多い気がするんだよね。

 

 固法先輩なんてめっさ怪しいし、常盤台の……泡浮さんと湾内さんだっけ? あの二人も深音さん見てる目が恋する女の子だったし。

 初春も怪しい。たまに膝枕をやりたがってる。ほかの男子にーって言ったらきっぱり無理って言ってたし。

 白井さんは――恋愛には行かないって分かってても、凄い信頼してるのが分かる。深音さんも真面目なときの白井さんを頼りにしてる感じがあるからね。

 黄泉川先生はなんかもう子供のときからの幼馴染ーみたいな雰囲気で…………ああ、この前お姫様抱っこで運ばれてきた木山先生も怪しい。

 

 

 

 ……うわぁ、思い返してみただけでいっぱいいるじゃん。それに絶対アタシの知らない人も要るだろうし……これからもっと、増えていくんだろうなぁ。

 

 

 でも、負けない。アタシが『ただいま』っていう人たちの、真ん中にいてほしい人なんだから。

 アタシの中の、絶対譲れないものの一本を再確認。

 

 

 

 

「――それで、佐天さん。貴女のおっしゃっていた『誰かが見てる』……という都市伝説ですが」

 

 

 

 

 ……そんで、もう一本。ただいまっていう人『たち』には御坂さんも当然入ってる。その人が困ってるなら、アタシだって動きますとも。

 

 

 って、かっこいいこと言いたいんだけど。

 

 

「……アタシが見てるサイトだと、この前話した概要だけですね……でも、何かあるとしたら、学校裏掲示板に載ってるかもです」

「学校裏掲示板、というのは……?」

 

「完全匿名で表立っていえないことを書き込む掲示板、って言えばいいんですかね? 『誰かが見てる』って、リアルに考えたら悪質なストーカーじゃないですか。だから……」

 

 誰々が怪しい、とか、最近休んでるAさんってまさかー、とか。

 学校ごとにある、非公式の掲示板。

 

 

「なるほど……そこに書き込みされている内容を精査すれば「ただ、一個問題が」……なんですの?」

「そういうサイトってパスワードっていうか、セキュリティがバカみたいに高いんです。それに、その学校の生徒以外でパスワードなんてまず手に入らないんで――」

 

 

 チラッと、初春を見る。

 白井さんもそれで理解してくれたのか、難しい顔で一唸り。

 

 

「ハッキング、というわけですのね?」

「です。そこは初春にお願いするしか……」

 

 

 

「うーん。とりあえず、常盤台中学の裏掲示板にアクセスできたので、そこから洗ってみましょうか。書き込みの絞り込みもこの一週間―― 十日間のほうがいいですかね?」

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 

 ん?

 

 

 ……んんん?

 

 

「……初春? 今アタシの言ったこと聞いてた?」

「聞いてましたよ? だからこうして掲示板開いて――」

 

 

 ば、バカみたいに、高いセキュリティ。しかもフィルターかけるとか、管理者権限でもないと出来ないんじゃないのそれ?

 

 ……うん。もういいや。結果よければなんとやら。

 

 

「まさか、常盤台中学にもあったなんてねー、裏掲示板。ちょっと意外かも」

「常盤台の、っていうよりは常盤台に関する掲示板、ですね。明らか男性視線の書き込みも多いみたいですし――だからセキュリティは薄っぺらかったんで簡単だったんですけど」

 

 黒い下地に、白い文字。思いっきりそれっぽい掲示板だねこれ――。でも、常盤台の生徒さんも一応書き込みしてるのか、たまに丁寧すぎる文章がちらほら。

 

 

 

 アタシ達三人で一つの画面を流し読んで、数分くらいかな。

 『私を見ているのはどなたですの!?』って見出しの、思いっきりそれらしいのを見つけた。

 

 ……語尾で白井さんをチラ見しちゃったのは内緒だよ?

 

 

「このM.Kさん、はどうやら常盤台の学生さんみたいですね――この人からお話を聞ければ……白井さん? どうかしたんですか? お顔が引きつってますけど……」

 

「M.K……それに、この分かりやすい決め台詞は、まさか……」

 

 

 

 

 白井さんが、なんかいきなり深いため息をついた。

 この、絵に描いたようなちょい高飛車のお嬢様みたいな文面――いや、まさか、ねぇ?

 

 

「とりあえず、この婚后――ではなく、M.Kさんにお話を聞きに行きましょうか」

 

 

 

 

 ――了解です、白井さん。

 

 

 あ、あの――了解したんで、そろそろこの手錠、はずしてもらっていいですか?

 あと着替えさせてください。この格好は不味いっていうか――あの? 聞いてます……!?

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「あら……?」

 

 

 一言目は、大体似通っていて、そんな感じ。そして、続く言葉も大体予想がついて――

 

 

「あらあらまあまあ……♪」

 

 

 そう、こうなる。

 

 

 すれ違った買い物かごを下げたおば――誰かのおかあさん。微笑ましいものをみたー、って笑顔で少し眺めて、ほんわりした笑顔でお買い物を続ける。

 そのお母さんに疑問を感じたほかの人が、疑問を解消するために同じものを見て――同じリアクションをとる。そして、その人にまた疑問をもった別の人がー、っていう、サイクル。

 

 

 

「――いっそ、殺しなさいよぉ……」

 

 

 その視線の先が、私たちだってことは分かりきってるのよぉ……! 

 

 あー、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。私なんか悪いことしたの? これってその罰なの? ってくらい……。

 

 

「むぅ。今日の夕食はどうしましょうか……美琴さん、なにか食べたいものとかありますか?」

 

 

 コ イ ツ は ! ?

 

 何で素? この衆人環視の中で晒し者あつかいされてるのに何で素でいられんのよ!? 執事服で片手にスーパーの買い物籠とか違和感あるのに似合ってるとかなんなのよ!?

 

 

(初々しいわねぇ、あの学生カップル。女の子のほうは顔真っ赤になっちゃって、でも男の子と手を離したくないと♪ 男の子のほうも優しそうな笑顔で、いい雰囲気ねー♪)

 

 

 しかもなんかいつもより笑顔の純度が割り増しだし――私か? 私が恥ずかしがってるのがそんなに楽しいのかコラ!?

 

 

「は……ハンバーグ……」

 

 

 

 ……にっこり笑うなコンチクショウ……!

 いいじゃないハンバーグ! なによなんか文句あん――って温かい視線が増えた!?

 

 

「あの……美琴さん、そろそろご自分がサイクルの起点にいるって気付いてくださいね?」

 

 

 深音がなんか、ちょっと苦笑交じりに振り向いて、小さくつぶやいた。

 私が起点? いや、無いでしょ。手つないでるって言っても完全につないでるわけじゃないし――ずっとうつむいてたんだし――。

 

 

 

「――では、今の美琴さんの状態を、そうですね……他の誰かに置き換えて、客観的に見てください」

 

 えと、黒子……よりも佐天さんのほうがいいかな。

 

 深音の手――というより、小指と薬指を離すまいと握って、顔を真っ赤にしてうつむいている佐天さん。いつもより歩幅短く歩いてて――たまに涙目で深音見上げ――て……。

 

 

 それ、が、私な、わけで。

 

 

「……ふにゃぁ!?」

 

 

 は、恥っず!? なにこれ、なによこれ!?

 

 

「あ、アンタもっと早く言いなさいよ……!」

「……それも込みで恥ずかしがっているのかとばかり、その――」

 

 

 ――よく見ると、本当によぉく見ると、深音の顔もいつもより少し赤い。

 私と違って、恥ずかしい、っていうより――照れてる? 

 

 

「とりあえず、買い物を済ませましょうか? ――正直、心臓に悪いです」

 

 

 ……それには全面的に、賛同するわ。

 

 そのまま少し足早に、ひき肉やら必要な食材をあらかた買って、そのまま急ぎ足でお店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どれも、どれもこれも全部全部みんなっ! 見てるやつのせいよ……!」

 

 

 深音の家に上がって早々。テーブルに突っ伏す。ひんやりした机がちょっと気持ちいい。

 

 

 人に見付からないで……それでいて、少し距離のある深音の家に行く方法。

 

 黒子が近くにいれば、テレポートタクシーっていうもうなんの非の打ち所もない手段が取れたんだろうけど、その黒子はいなかった。

 あるにはあるのよ。というよりあったの。でもって実行したの。 

 

 

 

 

 ……意外と、楽しかった。 深音街中コースター。

 

 そのへんにある遊園地の絶叫系なんてものともしないレベルよ。なんか私も声上げて楽しんじゃったし、さらなるアクロバットを要求したし。

 

 

「――途中から、絶対そういうの関係なしで楽しんでましたよね、美琴さん」

「うっぐう!?」

 

 言わないでよ思い返して猛烈に反省してる最中なんだから。

 

 上着を脱いで、ワイシャツの上に黒いエプロン装備の深音が、キッチンからヒョイと顔を覗かせてる。

 なんかいいにおいがしてきて――あ、お腹なった。

 

 

「すぐ出来ますから、もう少しまってくださいね?」

 

 

 ……。

 お腹の音に返事はNGよ深音

 

 ……でもこの部屋凄い落ち着くわね、やっぱり。この何日か、ずっと気を張ってたことなしにしても、すっごい身体が脱力してるのが分かる。

 

 

 

「美琴さん……例の視線は、どうですか?」

「……今のところはない、かな? 深音に触ってるときも無かったし――今も、深音の家にいるからかしらね。全然感じないわ」

 

 

 それはよかった。って、見えないけど笑ってるのが分かる。突っ伏した顔を動かして深音のほうを見たら、なんかちょっと嬉しそうに、フライパンを握ってる姿が見えた。

 

 

「……ごめんね。いきなり押しかけて。正直――ちょっと本当に参ったわ」

 

「全然かまいませんよ。……それに、ちょっと不謹慎ですけど嬉しかったというか、楽しかったですから」

 

 

 ――嬉しいに、楽しいってアンタね……

 

 

 

「なんとなく、ですけど。初めて美琴さんと兄妹らしい感じっていうんですか? 二人でお買い物して、少しふざけながら家に帰って……」

 

 

 両手に持ったお皿からは、いい感じの湯気と、お腹の減り具合を再確認させるくらいデミグラスソースのいいにおいが……。

 

 

「思い返してみたんですけど、こうして二人で食事……っていうのも、初めてだったりしますよね」

 

 

 

 ――いや、うん。まあ――

 

 

 こういうのも、たまには。うん、悪くない……かな?

 

 

 

 

 

《 おまけ 義妹によって消された歴史集 》

 

 

 その壱

 

 

「そういえば美琴さん。泊まっていくんですよね?」

 

「そ、そうだけど? いや、でもなんかちょっと、気恥ずかしいわね、やっぱ」

 

「えっと、まあそれは置いておいて……着替えなどは?」

 

 

「……」

 

 

「私のを着ることになりますけど……? 」

 

 

「……ふにゃあ!?」

 

 

  

 ……その弐以降、消し炭になっているため、拝読できず。

 

 

 

《 おまけ 2 》

 

 

 

「あ、でもでも白井さん。逆の意味で危ないかもしれませんよ?」

 

「逆? ですの?」

 

「深音さんじゃなくて、佐天さんみたいに御坂のほうから迫っちゃ――」

 

 

 テレポーターの暴走により、実況途絶。

 

 




読了ありがとうございました。


 ……予想以上に、長くなりそうなOVA編……水着会に並ぶやもしれません。


 誤字脱字・ご指摘などありましたらお願いします。
 

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