とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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遅くなりまして大変申し訳なく――そしていまだにシリアスモドキが――

 それよりも! 

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 ……しゅ、祝杯挙げてもいいですよね……!?


いま……あなたの目に何が見えていますか?   16-E

 

 正直――今の心境をどう表現して伝えればいいのか。ワタクシには、分かりませんでした。

 

 それでも敢えて言葉にして例えるのなら、虫食いだらけの数式に筆を走らせて、式と解がイコールで結ばれた瞬間といえばいいんですの?

 それとも、簡単に、乱雑にごっちゃになったジグソーパズルがやっと完成したとでも――ええ、今この思考が無意味なことは十分理解できていますの。

 

 

 ……ですけどきっと……『そんな無駄なことを考えていたい』ほど、ワタクシたちは呆然としていました。その現実を、受け入れたくはありませんでしたの。

 

 テレスティーナさん、いえ、テレスティーナ・木原が、この一連のポルターガイストの首謀者であるという事実を……。

 

 

 

 ワタクシたちが絶対に守らなければならないラインに、絶対近づけてはならない存在を、ワタクシ達は自分たちの手で――案内してしまった、ということですの

 

 

 最悪の悪手を、自分たちで打ってしまった。自分の首を自分の手で絞めるような暴挙ですの。

 

 

 

「擬似的にRSPK症候群を、ね――君、すまないけどその女の子が、その装置で何回検査を受けたか覚えているかい?」

 

「よ、四回ですの。――春上さんの体調を見ながら、一時間ごとに。それで時間がかかってしまって……その」

「っ!? じゃ、じゃあその検査って言うのが!?」

 

 

 ――お姉様が、深音さんの処置を続ける先生に詰め寄る。

 つかみ掛かりそうな勢いのお姉様でしたけど、寸でのところで……眠り続ける深音さんを見て、お止まりになってくださいました。

 先生はお姉様を一度も見ることなく、深音さんの脈を時計を見ながら図りつつ、何かのタイミングに合わせて大量に付けられた点滴をどんどん外していってますの。

 

 

「なるほど……確証はないけど、概ね間違いないんだね? 彼がここに来て、子供たちを暴走させようとするモノから守った回数も四回、時間周期も一時間ごとだった……やけに時間が規則正しいと思ったよ。まぁ、だから人為的だと気付けたんだけどね?」

「で、でも待ってください! あれは春上さんの能力強度の影響を調べるものであって……」

 

「それで彼女の、春上さんの精神感応の受信強度は上がった――のよね? その時に『お友達の声』って言うのは、聞こえたの?」

 

 

 固法先輩も理解されたようで――ええ、疑念のとおりですわ。

 強度が上がった、という『計測上』での結果。春上さんは意識を失うことも、ましてや記憶障害も……精神感応におけるテレパシーも当然、受信されませんでした。

 

 

「まあ、ないだろうね? そのときはもう深音くんが妨害して子供たちを守ってくれていたし、深睡眠誘導もしていてくれたから……違うかい?」

 

 

 先生の言葉に、わずかに反論した初春も口を閉ざしてしまいました。

 

 

「な、なら今から止めにいけばいいじゃないですか! 急げば間に合いますよ! それに、黄泉川先生たちにも連絡して「無駄で、しょうね」……そんな」

 

 

 

 ――木山先生が説特に応じなかった場合に備えて、と。強制力を持つために学園上層部に申請した大義名分。つまり、今の彼女には学園都市そのものが後ろ盾になっているということですの。

 

 止めにいっても、悪者はワタクシたち。アンチスキルも上層部からの圧力できっと動けないでしょう。

 

 

「え、えと――じゃ、じゃあ……」

 

 

 ――どうすれば、いいんですか?

 

 

 ……誰も答えられない、いえ、答えられるわけがありませんの。

 いってしまえば、詰み(チェックメイト)――ワタクシたちには打てる手が、もう――残されていません。

 

 

 

「――ごめん……私の、せいだ。私が先走ったりしたから……」

 

 

 お姉様は、指先が白くなるまで手を握り締めて――唇をぎゅっとかんで、そうつぶやきました。

 この場所の情報提供者は、確かにお姉様ですの。ですが――

 

 

「それは違うわ。あなたは悪くない……いえ、あなただけが悪いんじゃないわよ」

 

 

 ワタクシたちジャッジメントが、テレスティーナ・木原のフルネームを伝えていれば……もしかしたらお姉様が気付いたかも知れない。

 初春と佐天さんが、春上さんを友達に会わせたいと逸らず、ワタクシたちで情報をしっかりと交換していれば……テレスティーナ・木原が怪しいと思っていたかも知れない。

 深音さんが木山先生に協力すると連絡をくれていたら、私たち全員が木原先生側に協力して、また別の結末になっていたかもしれない。

 

 いくつもの小さな躓きが、今の状況の原因だとしたら――ワタクシたち全員に非があるようなものですの。

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 どうすればよかったんですの? どうすれば、最善になったんですの? 皆さんがどうかは分かりませんが、ワタクシは、そんなことを考えていました。

 

 

 先生は措置の手を止めて、押し黙って深音さんを見ているお姉様と、ついでワタクシたちを順番に見て、しずかにため息を付かれました。

 

 

 

 

「……それで、君たちはもう何もしないのかい?」

 

 

 

 先生は心底意外だ、という顔でワタクシ達全員をもう一度見回して――まるで、ワタクシ達が『立ち止まっている』ことに疑問を抱かれているようでしたの。

 

 

「いや、何も――って、もう何もできないじゃないのよ!? だって、あいつは学園都市の上層部から権限を持ってて、その気になったらいろいろ出来るんでしょ!?」

 

 お姉様は当然憤りにもにた反論で返しますが、それでも先生は涼しいお顔のまま。

 

「ああ、そういうことか……うん、まあでも、何もしないならしないで、君たちの安全を第一に考えるならそれで良いと思うんだけどね? ――彼から見たら、そっちのほうがいいと言うかもしれないしね――でも君たちはそれでいいのかい? そうなると彼一人に、無理をさせるということだけど」

 

 

 先生の言葉は、深音さんがテレスティーナを止めるために動く――と確信しているようでした。事実、先ほどから再開した先生の措置は一切の停滞をしていませんの。それどころか、とてつもなく迅速な手際で措置を続けています。

 

 ……処置が早ければ早いだけ、深音さんに課せられるタイムリミットは長くなるのは確かですけれど――ワタクシ達全員があきらめているのに、先生と、深音さんだけは諦めていらっしゃいませんでした。

 

 

「いや、だって……」

「それに、忘れていないかい? もし万が一、あの子達がなんの対策もなしに暴走状態のまま覚醒したら……それこそ学園都市そのものの危機なんだよ? まあ、それは建前として」

 

 

 学園都市そのものの危機を建前って……。

 先生はもう一度手を止めて、お姉様を――そして、ワタクシ達を見ました。

 

 

 

 

 

「彼は無理をするよ? 無茶もするだろうね? ……命の危険も歯牙にもかけないで無謀に挑むかもね。――学園都市が敵になろうと、あの子達を守るために。そして――……君たちを守るためにね?」

 

 

 

 ――……。

 

 

 

「君たちはそれを黙って――っと……」

 

 

 

 駆け出したのはお姉様――だけではありませんの。固法先輩も、初春も佐天さんも。

 そして当然、ワタクシも。

 

 

 ……ええ、そうですわよね。初春の言葉を取るわけじゃありませんけど。

 

 

 エンドロールには、まだまだ早すぎますの。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 行った、かな? ……やれやれ。ボクはただの医者なんだけど、最近医療以外のこともやっているような気がしてならないね。

 

 

 まあ、それが患者に必要なものなら、医者(ボク)の管轄になるんだけどね?

 

 

 

「――さて、と。子供たちばかりに無理をさせるわけには、いかないんだね」

 

 

 ……彼はボクを怒るだろうね。いや、それとも自分をふがいないと責めるだろうか。たぶん後者かな……誰かに怒りの感情を向ける彼がまったく想像できないことが、凄く疑問なんだけど。

 

 

 

 ――うん、深音君の処置はこれで良い。後は薬が回るまでの時間と、意識回復を待てば……30分くらいかな。深音君だと。

 

 

 いや、普通だと短くても半日以上はかかるんだよ? 本当だよ?

 

 

 ――ボクはいったい誰に説明しているんだろうね? まあ、そんなことは些事なんだけど。

 さてと、ボクはボクで――ボクに出来る無理をするとしよう。きっとあの子達に必要なことだろうからね?

 

 

 

 場所は……中庭でいいかな。どこに居ても、『学園都市内であれば』彼の目は確実に届くだろうけど、見晴らしがいいならすぐだろうし。

 

 

 

 

 

 

「っと、噂をすれば、かな」

 

 中庭に出てもいないんだけどね……ボクの医療関係に使っている携帯端末がEMC《エマージェンシーコール》を告げる。病院全体で連結しているはずのEMCが個人の端末だけが鳴るなんてことは、ありえないんだけどね。

 

 

 

『――やあ、盟友。私に何か用かな?』

 

 

 

 そんなありえないことをしてくるのは、ボクの知り合いには彼だけだ。名前を聞かなくとも、誰なのかはわかる。

 

「――それは、電話をかけた側の台詞ではないと思うんだけどね? アレイスター」

『フフ……それもそうだな』 

 

 

 電話の向こうで彼が微笑んでいるのが分かる。声も、とても分かりづらいけどほんの少し弾んでいるね。――機嫌がいいようでなによりだ。

 

「まぁ、君に用……というより頼みがあるのは確かだ」

『ふむ。――というと、今動いている木原に与えられた強制力のことか? あれならば学園都市に害意があると判明した時点で無効となる。それは分かっているはずだが? 盟友』

 

 

 ……学園都市に害意があると分かっていたなら動いてほしかったね。たぶん彼なら起承転結の『起』よりも前から感づいて――いや、止そう。過ぎた話だ。

 

 

「いや、そっちじゃないんだね」

『ふむ……?』

 

 

「――か―――、―――の――――なんだね?」

 

 

 ――やたらと強い風が吹いたけど、ちゃんと聞こえていたようだね。

 

 

『く、フフ……』

 

 

 いや、本当に珍しい。彼がここまで感情を見せるなんてね。

 

 

『いいだろう。そのように手配する。もっとも、統括理事会に反して動くものたちはさすがにその範囲ではないが――』

 

「それで十分さ。――しかし、今日は随分とご機嫌だねアレイスター。何か、いいことでもあったのかい?」

 

『フフ。わかるか? 以前この場所の『ゲート』をしている者にも不思議な目で見られてしまって自重していたのだが――やはり、嬉しくてね』

 

 

 ……すまない、アレイスター。ボクもたぶん不思議な顔するよ。

 というより、そのゲートの子はよく気味悪がらなかったね。軽くホラーだと思うんだけど。

 

 

 

『種子が順調に成長しているようでね……それが、嬉しいのだよ』

 

 

 種子、種。

 なんだかずいぶん比喩的な言い方をするけど――彼ほどの存在が『種』なんて言い方をするあたり、『結』の場面はかなり将来の話かな。

 

 

 

『それより、いいのか? 君の患者に動きがあったようだが……』

 

「……あそこに監視カメラの類はないはずなんだけど? まあ、教えてくれてありがとう。行って見るよ。それじゃあ、また」

 

『ああ。またいずれ』

 

 

 

 アレイスターの返事を遠くに、携帯を切る。

 深音君に動き、って起きたのかい? まだ10分も経ってないはずだけど――彼はボクの予想のずっと上を行くから困る。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 いや、はや。いやはや。

 君は本当にボクの予想の上を行くね、深音くん。

 

 

 

 ベッドの上に、誰もいないんだね?

 

 見事に蛻の殻。解薬剤の点滴も途中で引き抜かれてるみたいだし――というより、点滴の残量から見て、ボクがここを出てからすぐに目を覚ました?

 

 

 

「――無理をするな、とは聞いてくれないだろうね。――さて、深音君のお説教は誰に頼めばいいかな」

 

 

 

 

 ――ん? ボクの役目は、これで終わりだと思っているよ? 怪我をしないでほしいからね。

 

 

 

 さて。ボクのプライベートの携帯には、君を叱ってくれる人が結構いるんだ、ということを、思い知るといいよ? 深音君。




読了ありがとうございました。


 ここで出てきたサカサマの君。ことアレイスター様です。

 そしてついに深音が出陣。

 次回より、シリアスに区切りをつけてバトルが始まる――かも知れません。

 
 誤字脱字・ご指摘などありましたらお願いします。

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