とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

52 / 85
データが昇天されること、二回。


うっへっへ……もう、何も怖くない……!


君ヲ思フ声   14-3

 

 《   !!……COMPLETE……!!   》

 

 

 

 

 その言葉が、軽快なファンファーレと一緒に私たちを祝福し、出迎えてくれる。

 

 私はいったい――何度挑んだかしら。そして、そのたびに何度夢に見たかしら――この時を……この、瞬間を。

 

 でも、もう夢に見ることはない――なぜなら今この瞬間に、それを目の当たりにしているんだから。

 ……目覚ましのアラームに起こされて落胆する――なんてオチはないわよね? そんなオチだったら時計を壁に投げつけてやるわ。

 

 

 

「……ありがとう、佐天さん。貴女がいてくれたから、ここまで来れたわ」

 

「その言葉はこっちの台詞ですよ、固法先輩。先輩がいてくれたからこそ、です。……さあ、最後の仕上げが残ってますよ!」

 

 

 佐天さんも興奮してるのかしらね、目が爛々と輝いてまあ。ん……何よ? ――鏡を見てみろ? 分かってるんだから言わないでよ。 

 

 

 そして目の前に、最後に立ちふさがる障害の様に出現した、アルファベット表。

 

 

 

 

 私は、MとKを。佐天さんは、RとSの。

 

 

 

 

 

 ――自分のイニシャルを、それぞれ『撃ち抜いた』。

 

 

 

 学園都市が誇る技術を、コレでもかとふんだんに、ある意味無駄に使いきったガンシューティング《ラスト・アンサー》。その前人未踏の最難関、難易度アルティメット(開発者でも無理)をクリアした栄光。

 いまだかつて、誰一人として刻まれたことのないスコアボードにただひとつだけある私たちのイニシャルが、悠然と輝いている。

 

 

 見物で集った人たちの信じられないものを見るような視線。

 ……コレはクセになりそうね。お祝いでもしようかしら。

 

 

 

「「…………」」 

「あの、黒子さん、初春さん。その……お気を確かに。途中からどこかの傭兵が憑依したような固法さんは……まぁ、その。一過性のものですよきっと」

「っていうかなによあの弾幕ゲームみたいな攻撃……あれ撃ち落しながら敵やっつけるとか――あ、春上さん、もう大丈夫よー、ゾンビも何もいないから」

 

 御坂さんたちにぎゅっと目と耳を塞がれていた春上さんが、ただ『1th』を取った結果だけを見て軽く拍手。……いや、春上さん? これかなり、っていうかとてつもなく凄いことなのよ? 本当に分かってる?

 

 

 

 ――汗で滑りかけてたガンコン……だったかしら。それを戻して、私たちの激闘は本当の意味で終わった。

 

「ゾンビと機械と、なんか兵士っぽいのとか……見境無いにもほどがあるわよ、これ」

「途中に怪獣のような生物も出てましたよね……というよりあれは間違いなくAIMバーs「深音、それ以上はだめよ」……あの事件より前にあったということは、こちらが元祖でしょうか?」

 

 

 ん? 珍しいわね、御坂さんが深音くんを諭す感じで肩たたくなんて。

 

 

「いっやー、すっきりしたっ! 特にあの三面のボス! 腕みたいなのワラワラ出してくるし変な力で攻撃してくるし! ランダムで移動するコアを攻撃しないと大きくなってくんですよねあれ!」

 

 

「「……そうですか」」

 

 

 ……なにかしら、御坂兄妹の背中がやたら煤けてるけど。それになんか初春さんと白井さんが遠くを見るような目――疲れてるのかしら。

 ――指笛やら歓声の響いてるゲームセンターの中なのに、四人ともどうしたの? テンションが低いじゃない。

 

 

「でもまあ、先輩が『狙い撃つわよッ!!』って叫んだときはグッときましたね! ネタが分かって思わず呼応しちゃったじゃないっすか♪」

 

 

 

 

 ………………。

 

 え、そんなこと口走ってたの私……?

 

 

(固法先輩ってトリガーハッピーだったの? ジャッジメントとしてそれはどうなのよ黒子)

(ワタクシもはじめて知りましたの……というか知りたくなかったですの)

 

「とりがーはっぴー……?」

「深音の豆知識講座。《トリガーハッピー》とは、軍人、その中でも新兵がなりやすい状態のことですよ春上さん。『引き金を引く』という行為に過剰集中してしまい、命令などの情報が伝わらない状態をいうんですが……私の知っているそれとはまた別のようです」

 

 

 ……なにかしら、深音君の優しい目がツライ。

 それに、落ち着いたら思い出してきたわ。口走ってたってレベルじゃないわね、本気で叫んでるじゃない私……!?

 

 

 ……それで、佐天さんが『アタシは不器用なんで、乱れ撃つぜ!』って返してきて……それで余計に乗っちゃって。

 

 

 

「ち、違うの! あ、あれはほら、なんていうかその……『『『『『リ・プ・レ・イ!! リ・プ・レ・イ!!!』』』』』えと、あの、あー……」

 

 

 ――ああ、うん。

 

 

 こっからの挽回は、無理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ――やっちゃったわ」

 

「はは……まあ。そんなに気に病む必要もないと思いますよ? 誰にでも意外な一面というものはありますよ。美琴さんたちにも、もちろん私にも」

 

 ……深音君がリプレイやらアンコールやらを唱和する人たちを解散させてくれて、本当に助かったわ……何人か携帯で写真撮ろうとしてた人も抑えてくれたから――うん、本当に助かった。

 さりげなく自販機コーナーまで誘導してくれたり、疲れてもないのに自分からベンチに座ってくれたり。……渡されたこの缶コーヒーなんて、いつ買ったのかも分からなかったわよ。

 

 

(これじゃあどっちが先輩なんだか、わからないわね……はぁ……)

 

 

 御坂さんたちは改めて、ゲームセンターに初めて来たっていう春上さんに付いて回ってる。――佐天さんはこっちに残るかと思ったんだけど。

 ……少し離れたところにあるもぐら叩きの前から一歩も動いてないのは、何でかしら。

 

 

「……来学期からの転入生なんですってね、春上さん」

「そうらしいです。高校と中学の違いだけで、私と一緒になります」 

 

 

 一年生の、夏休み明け……そういえばそうね。深音君は、まあ……事情が事情だから分かるけど。時期的にはおかしいわね。――能力レベルが上がって上の学校に編入、っていう話はたまにあるけど、初春さんたちの通う柵川中学はその上の学校……って言うのにはまず当てはまらないし……。

 

 

(……って、何勘ぐってるのよ私は……)

 

 

 彼女が何かしたわけでも、何かするわけでもないでしょうに……この年齢で職業病とかいやよ? 気にするなら今日話された地震――。

 

 

「あ、そうだ深音君。あなたにも一応伝えておくわ。――最近学園都市で起こってる地震……振動現象なんだけど」

「――ジャッジメントの皆さんが集った理由でしたね。やはり、普通の地震じゃありませんでしたか……」

 

 

 やはり、っていうことは気づいてるってことね――まあ、振動現象があったときに連絡くれたし、そのときに振動のある場所とない場所の差が明確にあったら気づかないわけないか。

 

 

「先ほど、佐天さんがポルターガイストや異次元からの干渉などの噂を力説してましたよ――学園都市陥没が秒読みとも」

 

 ――実は注意喚起の説明を受けたときに真っ先に佐天さんの顔が思い浮かんだのは秘密よ?

 

「まぁ……ジャッジメントにはそういう類の噂とか虚言を止めてほしいって要請があったわ。それで――原因はRSPK症候群の同時多発。なんで同時多発が起きるのか、って言うのは現在調査中らしいわ」

「――無用な混乱を抑える、というのが無難でしょうね……私であれば『振動による何かしらの被害現場での活動』も少しは考えておけばいいでしょうか」

 

 

 その辺りは臨機応変に、ってことなんでしょうけど……発生してから人員召集して現場に向かうよりも、深音君が単騎駆けしたほうが効率よさそう――なんてこと、本当は考えちゃいけないんだろうし、

 そもそも、ジャッジメントでもアンチスキルでもない彼を頼りにしちゃいけないんでしょうけど……。

 

 

 

 

「深音ー、プリクラ撮るから集合。固法先輩――は復活してるわね」

 

「ぷりくら……?」

 

 

 

 

(RSPK症候群には理解を示して、プリクラに疑問――ホント。意外な一面よね)

 

 御坂さんから説明を受けて、どこか間違っているようで合っている解釈をする深音君を――私たちは頼りにするんでしょうね……きっと。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ねえ、初春……あんたさ――」

 

 

 佐天さんが、何かをためらうように視線をそらして……数秒さまよわせ、意を決したように。

 

 

「――ミニ丈の浴衣に、興味ない?」

 

「まったく微塵も、これっっっっぽっちも! ありません。ええ、断固として徹底抗戦の構えを取りますよ?」

 

 

 なんとなく予想できた爆弾を投下してきました。

 

 

 

 ……浴衣の着付け、ありがとうございます。その前の春上さんとの雁字搦めからの救助も、ありがとうございます。

 

 でもそれとコレとは、話は別物です。

 

 

「大丈夫だって! アンタ肌白いし足細いんだから似合うって絶対っ!」

「お褒めに預かり急悦至極――でも着ませんよ? 絶対に」

 

 佐天さんが手に持って押し付けてくる、ピンク色の――やたらめったら丈の短い浴衣。それを何とか押し返しつつ、佐天さんを見る。見返す。

 

 

「いいから着てよお願いだから……!! アタシだけだと恥ずかしいじゃん……!?」

「その恥ずかしいのに私を巻き込まないでくださいお願いですから……!?」

 

 長い髪を結った佐天さんの浴衣は、萌黄色。……それはもう大胆なミニ浴衣。室内で私たちしかいないからいいですけど、佐天さん? いろいろと女の子として見せちゃいけないものが……。

 

 ……っていうか何で普通の浴衣を着せる前に出さなかったんですかね? 

 

 いや、着ませんよ? 着ませんけど着付けって意外と手間ですし――その逆で脱ぐのも結構手間が――。

 

 

「く、くぅ……!?」

 

 そ、そんなことよりまずいです。非常にまずいです。腕力で押し切られそうです。思いっきり足開ける佐天に勝てるわけが――。

 

 

「で、でも結構かわいいと思うの、ほら、お花の柄とか……」

 

 あ、春上さん、それ禁句(タブー)です。

 

「おお! 春上さんいける口だねぇ! そういうことならすぐ着ようさあ着ようというか脱ごう! リアル『良いではないか』がいまここに!」

 

 

 

   そ れ が も く て き か ! ?

 

 

 

「え、ま、まって。でも私そういうの着たことないの――」

「No Problem♪ 私も初めてだから♪」

 

 

 

 ……なんでですかね、春上さんを助けないといけないんでしょうけど。手をワキワキさせてうっへっへって笑う佐天さんを見てると、結構本気で『うわぁ』って…………。 

 

 

「……えと、初春ー? 春上さんがピンチだぞー? ほら、春春コンビの相棒が絶賛ピンチだぞー……ごめん、悪乗りしすぎました、だからその極寒のごとき眼差しはやめてくださいお願いします」

 

 

 良いではないかー、をやろうとして印籠を突きつけられた人みたいに土下座しだす佐天さん。……反省しているようですが、誰かが言ってました。

 

 

 『釘を刺すときは思いっきり深く打ち付けたほうが効果的』って。

 

 

「寝言の動画」

 

「大変申し訳ありませんッした――ッ!!」

 

 

 おー、土下座の状態からジャンピング土下寝とはすごい。

 

「え、えと。初春、さん?」

「ああ、大丈夫ですよー春上さん」

 

 

 ――『伝家の宝刀』って、めったに使わないから、すごいんですよね?

 

 

 

 

 

 

「……初春ってさ、結構黒いよね……」

「? そりゃあ日本人ですからね。むしろ御坂さんとか白井さんが珍しいですよね」

 

(いや、腹が黒いんだって)

 

 

 人の弱みは千年保管。――あれ? 今何を……まあいいです。

 

 

「でも佐天さん、本当に冒険というか大胆というか……それかなり気をつけないと座ることも――」

「い、言わないでよ黒春。用意してから気づいたんだから……うわー、この丈考えた人絶対あれだよ、『今日こそ落とすっ!』 って勢いで作ったよコレ――あー、はずい……」

 

 

 ……現在進行形でチラチラ見られてますカラネー、男の人に。まあ、はずかしがって仕切りに裾押さえてる佐天さんも、原因の半分くらいはあるでしょうけど。

 

 ――うん? 黒春?

 

 

 

「あ、来た来た。初春さーん! 春上さーん!! ……」

「――おねがいっす御坂さん。せめて呼んで」 

 

 おーいって感じで、手を振ってくれた御坂さん。ものの見事に佐天さんで活動停止。

 

「お姉様のミニ丈――佐天さん、その浴衣の購入先を是非ワタクシに教えてほしいんですの。情報料は言い値で払いますわよ?」

「……貴女は逆に黙りましょうか白井さん。にしても大胆ね貴女……」

 

 

 ……大胆度合いで行くと、固法先輩もですよ? なんですかその帯の上に乗ってるものは。それ、嫌がらせですか? 宣戦布告ですか?

 

 

「……あ、やっぱり固法先輩に目が行くわよね」

「御坂さん? やっぱりってなによやっぱりって。……なによ、どこか変……なの? ねえ?」

 

 

 白地に淡い花柄で清楚に見せて、かーらーの! ダイナマイトですか。さすがジャッジメント界の策士。――佐天さんも自分の格好忘れてパルパルしてますし。

 

 

「……っていうか深音さんは? 姿見えないんですけど」

 

 

 

 

 佐天さんの問いかけに……あ、確実になにかあったな。って思わせる顔で、夜空を見上げる御坂さんと白井さん。

 

 

「――いいやつだったわ。本当に」

「はい。……とても、惜しい人を……!」

 

 

 ……お星様ですか? お星様になっちゃったんですか深音さん!?

 いや、まあ、たぶんいつもの冗談なんでしょうけど、なにがあったんですかね……?

 

 

 

 

 

 

 

《 おまけ 》

 

 

 

「さて、深音くん」

 

「着ませんよ?」

 

 

「むう、何が不満なのだ? 六という数字か? しかし『兄キャラ』で『和服』などそうそういないんだぞ? あまりわがままを言ってくれるな」

 

 

 寮監が、コスプレ(させる側)に――目覚めたという。




読了ありがとうございました。

 おかしいですよね、シリアスを目指していたんですよ、コレでも……。

 誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。