とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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とりあえず書き溜めている分を修正しつつ公開しています。
書き溜めが終わればタグの通りのんびりとした更新に……。


MAY DAY  1-2

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「なによ、これ……」

 

 

 廃棄された兵器開発の資料。初春が見つけた情報から隠された施設を見つけだし、地下数階分を降りきった三人は、目の前のその光景に絶句した。

 

 おそらく、ここで研究していた兵器の的として使用したのだろう、厚さ1mはあるだろうボロボロの金属柱に、巨大な亀裂の入った壁。

 そして、一角に積み上げられた、原型すら留めていない兵器だったものの残骸。兵器の墓場、と表現しても間違いではないだろう。

 

 

「ただ破棄された、というわけじゃなさそうですの。どちらかというと壊された……それも、再利用もなにも出来ないよう徹底的に」

「かろうじて砲身みたいなのが分かるだけだしね……そこの柱もそうだけど、どんな威力してんのよ……」

 

 

 的となっている柱は、金属で補強したのではなく完全な金属の塊である。それを容易く貫通するなど、どれだけの威力と貫通力を持っているのか。

 そして、それを実戦で使用したとなれば……現行の戦車の防御力など大した障害ではないだろう。多少の障害物も無視できそうだ。

 

 

「初春、端末からは何か分かりましたの?」

「ちょっと待ってくださいね……だいぶデータが消去されててある程度予想復元しないと――はい、できました。上の端末には無かった新しいのがいくつかあります――中でも、『NEXT-プラン』っていうのがここの研究所の主軸だったみたいです」

 

 

 

 

 <NEXT-プラン>

 

本計画は超能力者、及び、大能力者の遺伝子配列パターンを解析し、その配列図を元に他者の遺伝子配列を再構築させることによって、偶発的に生まれる高位能力者を100パーセント確実に発生させ、さらに発生した能力者を武装・強化手術することにより戦事的価値の底上げを目指すものである。

 

 素体となるには学園都市内のチャイルドエラーの中から0~5歳程度までを対象にする。

 

 

 被検体の強化手術の内容は全身の骨格・筋肉繊維の強化。自然治癒に関しては能力配列パターンにて用い、非武装・能力使用不可の状況においても高水準の戦術価値を見出すための物である。

 戦術的知識、格闘技術、過去の戦略データを強制インストールする。

 

 プロトタイプの成果を確認の後、計画は次段階へ移行し『NEXT』の量産体制を構築する予定であった。

 

 ここで問題が発生する。

 

 計画最終段階でプロトタイプの大半が暴走。コレを制圧するべく、正常稼動しているプロトタイプを稼動。多大な被害を被るも、制圧は完了した。

 暴走の原因を解明することができず、計画は事実上の停止。

 

 以上の報告を受け、本計画により被る損害を最小限に留めるため、委員会は進行中の全研究の即時停止を命令。

 

 『NEXT-プラン』を中止し、永久凍結する。今後研究チームは順次解散。データは所定の手続きに従い、破棄するものとする。

 

 

 

   ――――――

 

 

 

 

「なによ、これ……」

 

 

 美琴のその言葉は、この場に来たときと同じものだった。

 しかし前回以上に、その言葉は重い。黒子は事件の重大さに眉を寄せ、初春は計画の内容に震えてすらいた。

 

 

「じ、人体実験……ってことですよね」

「そう、なりますわね。計画自体は何年も前に凍結されたようですが――ここの研究者達を追えるかどうか――お姉さ「――ごめん、今話しかけないで。ぶち切れそう。……頭冷やしてくるわ」……はいですの」

 

 

 淡々とした……しかし、普通の感性の持ち主であれば恐怖を感じるほどのその声に、黒子はかすかに笑みを浮かべた。

 

(――優し過ぎますの、お姉様は)

 

 

 ……テレビの報道などで、なんらかの被害者に対してかわいそう、という感情を持つことは多いだろう。しかし、その被害者のために怒りを持つことは、果たしてあるだろうか。

 

 見ず知らずの名前さえ知らない、分からない子供達のために――美琴は激怒していた。

 

 

 その怒りを爆発させないように、抑えこむ。

 

 

 

「初春。より詳細なデータを探してみましょう。この件に関わった研究者1人でも見つけられれば、後は芋づるに出来る可能性もありますの」

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 ―プロトタイプの大半が暴走―

(人としてじゃない、もうモノとしか見てない)

 

 ―制圧は完了した―

(短い言葉で済ませるほど、些細なこと)

 

 ―損害を最小限に抑えるため―

(そりゃそうよね。世間に知られたら不味い研究だもの……)

 

 

 読み上げた内容を思い返す。一語一句違えることなく、作業日誌のように淡々としていたその文章を。

 

 

 

「ふざけんじゃ、ないわよ……」

 

 拳を握る。堅く硬く握られたその手は白くなり……紅いしずくが、流れて地面に落ちた。

 人を人とも思わない研究。命の尊さを無視した行為。美琴の怒りのあまりに、周囲を電撃で破壊したくなる衝動に駆られるが……自分の中にある別の怒りがそれを押し留めていた。

 

 

 

「なに、安心してんのよ私はっ……!?」

 

 自分への、怒りだった。

 何時だったろう、その性質の悪い噂を聞いたのは。

 

 

 『超電磁砲のDNAを使ったクローンの製造』

 『軍用兵器としての実用化』

 『行っていない場所で見かけられた自分』

 

 

 先ほど見た研究の内容はクローンでは無い。しかし、ほかの内容があまりにも近い。高位能力者の遺伝子配列云々、軍用兵器云々など噂そのままだった。

 

 それ故に安堵してしまった。噂が本当にならなくてよかったと、自分のクローンでなくてよかったと。

 一瞬程度であった。だが、その一瞬が許せなかったのだ。 

 

 そして怒りのままに歩き、どこかの部屋に辿り着く。

 その部屋、いや、通路というべきだろう。そこにずらりと並ぶ丁度人一人が入るほど大きな培養機。天井に取り付けられたものと床に取り付けられたものの、ほとんどの物がアクリルガラスが割れているか、調整を行うための機械部分が大破していた。

 

 

「ここで、子供達を――」

 

 

 培養機下部に取り付けられたナンバープレート。実験を行った子供達を名前ではなく、この番号で呼んでいたのだろう。

 

(……アクリルが内側から外側に向かって破られてる……ここであの報告書にあった暴走が起きた――そして、暴走しなかった子がそれを抑えて……)

 

 

 100から始まり並ぶ培養機を、心に刻み付けるように見ながら歩いていた。

 

 

(暴走しないで、それを抑えた子は……どう、なったんだろ)

 

 

 報告書には多大な被害、とあるだけで、詳細は書かれていない。

 そのまま死んでしまったのだろうか。それとも、どこかで生き残っているのだろうか。

 

 数年前の報告書、それも大半を消去されているデータでは確認は難しいだろう。

 さらに歩き続け、ナンバーも300台にかかる。

 

(306――307――308――309――……31……?)

 

 通路を歩く美琴から見て左下。309から312の列にあるはずの310番が無い。壊れてどこかにあるのだとしても、床から伸ばされてあるべきコード類がない。

 何かしらの理由があって持ち出したのか、あるいは……。

 

「欠、番……?」

 

 引っかかりを覚えながらもそのまま歩き続け、最後の599番を数えるも、欠番は310番のみ。いくつか損壊のない培養機を見つけたが、それだけだ。

 そして培養機の通路の先に、四つの電子錠で厳重にロックされた扉を発見する。扉には『処置室』とかかれており、ボロボロな培養機と廊下と比べても、扉自体には傷一つ無い。

 

 

「この先に……」

 

 

 一つ一つに手をかざして電流を流し、四つ全ての錠を開ける。

 

 

(欠番だった310番と、損壊の無かったいくつかの培養機……それが、暴走しなかった子達。でも暴走した子達を抑えるために、殆どが犠牲になった……けど報告には全滅とは書かれてない。生き残りがいた……それが310番)

 

 扉の先になんらかの形であれ、310番を打たれた子がいる、と。

 

 空気の排出音と共に開いた先は、当然のごとく真っ暗。手探りで照明のスイッチを探し、明かりをつける。

 

 

 

「やっぱり、ここにいたんだ……」

 

 

 

 培養液で水浸しとなった床、壊れることなく開けっ放しの、310と刻印されたプレートが付いている培養機。

 なにかしらの施術をしていたのだろうか、周囲には手術用の機器が散らばっていた。

 当然、開け放たれた培養機の中は空。靴が培養液に濡れることも、手がそれに濡れることもいとわず確認した結果だ。

 

 

「そりゃ、そうよね……あの研究資料だって数年前のだし」

 

 

 培養液で濡れてしまった手をハンカチで拭き、処置室の外へ出る。自動で施錠された扉に寄りかかりながら長い廊下を見て、ため息を――吐けなかった。

 

 

 

「……なに、これ……?」

 

 

 自分が歩いてきたときは、左右にあった破損した培養機の列でどうしてもそっちに目はいったが、それでも見落とすはずはない。

 

 

 

 『液体で描かれた足跡』など、それなりに歩いてきたのだから絶対気づいたはずだ。

 

 

 

 

「……馬鹿か私は!!」

 

 突然自身を罵倒したかと思えば、足跡を追うように走り出す美琴。美琴の足よりやや大きい足跡は、美琴よりずっとずっと長い幅で歩を刻んでいる。

 

 

「数年前の培養液が乾かないで残ってるわけ無いでしょうが!」

 

 

 実際、多少の誤差はあったにせよ破損した培養機は一目で乾ききっていた。もし仮に、蒸発しにくい、揮発性の低い液体だとしても培養機の側面から流れきっていないなど、ありえるはずがない。

 

 

 

「っ!」

 

 先ほど310番を欠番と判断させた、列の中にある空白。丁度その前の通路がせり上がり……ラックのようになっていた。当然、来たときにそんなものはせり上がってなどいない。

 

 そしてその向こう。

 

 

「待って!!」

 

 踵部のローラーをフル回転させる機動駆鎧、研究データにあった軍用パワーアーマーが走行を開始。2mを優に超える流線型を基本としたその巨躯は、重量を感じさせないほど急激な加速を見せつけ、美琴にほんの数秒しかその姿を晒さなかった。

 

「――どこに……」

 

 殆ど一本道であったため行く先など想像するまでもないが、そのパワーアーマーの各部には残骸で見た兵器の完成系があった。残弾数など分からないが、弾を必要としない兵器もいくつかある。

 

 ……美琴の脳裏に、『暴走』の二文字がよぎる。

 考えたくは無い。しかし可能性は十分にあり過ぎる。数年間もあの狭いカプセルに閉じ込められていたのだとしたら、普通の人間なら精神崩壊していてもおかしくは無い。

 

 

 そして、もしも暴走していたら?

 そして、完全武装に近い状態で学園都市へ出たら?

 

 

 全速力で追いかけるも人と機械の差ゆえに、その距離はどんどん開いていく。

 美琴が、呆然とする黒子と初春を視界に入れたとき。二人を飛び越えるように跳躍し、エレベーター部屋の竪穴を、飛び立っていった後だった。

 

 

(黒子たちを、避けた……?)

 

 

 丁度、最短距離を通る位置にいた黒子と初春。高速で金属の塊のようなパワーアーマーにぶつかられようものなら軽い怪我ではすまなかっただろう。

 しかし、最短距離を捨ててでも、二人に当たりようの無いほど大げさな回避行動を取った。

 

「お姉様、今のはまさか……?」

「多分その『まさか』よ……信じられないけど。とにかく追いかけないと……!」

 

 

(暴走なんてしてない。黒子たちを怪我させないように動いてくれてた――暴走しているわけない!!)

 

 信じるには十分だと、そう思い込む。

 ――ポケットの中の弾丸(コイン)をこれほど触りたくないと思ったのは、初めてのことだった。

 

 




読了ありがとうございました。
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