とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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思い そして 願い   10-3

 

 ワタクシは、アナタに出来ないことをやりますの。

 

 

 

 ……ですから、ワタクシに出来ないことを、アナタがしてくださいな。

  

 

 

 

***

 

 

 

 

 ……甲式特型 軍用機動駆鎧、通称を『ストリームライン』。

 

 かつてその研究に携わっていた者たちは、完成品を見て口をそろえてこう言っていた。

 

 

 

 『欠陥品で粗悪品の兵器モドキ』、と。

 

 

 

 全身を覆う装甲は名の由来の通り流線型(ストリームライン)が多く、空気抵抗の緩和と、受けた衝撃を流すことに特化した形状になっている。

 更に特殊加工された金属を装甲すべてに用いることで耐久性やその他諸々の強度を上げ――装備者の生存率の最大向上を達成した。

 

 

 黄泉川がその資料の設計値と実験データを見て曰く、動く核シェルターじゃんと比喩したのだが、実際装甲に使用されている金属は核シェルターなどに用いられる金属素材であり、あながち間違いでもなかった。

 

 

 しかし、その装甲に使われた金属の重量。それが、『ストリームライン』最大の欠点であった。 

 

 

 2m半ばを超える機体は、全武装の除いた基本アーマーだけでもその重量は1tを軽々と超える。当時最新のパワーアシストの補助を受けても重量を完全にカバーすることが出来ず、使用者の負荷としてかかる重量はおおよそ500kg。

 

 

 当然そんな重量を個人で動かせるわけがなく――……完全にNEXT専用兵装として扱われることになった。最も、もとよりそのつもりで開発していたのだが。

 

 

 何とか併用をと考えても、全身の筋肉・骨格を強化された者などが普通いるはずもない。むしろ、それを世に出せば人体実験をやっていた、と盛大に暴露するようなものだ。ゆえに『相当限られた者に、しかも隠しながらしか使用することの出来ない欠陥兵器』といわれた。

 

 

 その上パワーアシストで膨大な電力を消費するため、起動は数時間が限界。さらにエネルギー兵装が大半を占める武装を使えば、長くても一時間を越えることはないだろう。NEXT専用と謡いながら『極度の使用制限がかかる粗悪品』と立て続けに言われたわけである。

 

 

 

 ……だがしかし、物事には大体において例外があった――それが『電撃使いの能力を発現したNEXT』だ。彼らのみが十全……その欠陥・粗悪部分を帳消しにし、完全たる兵器として使役することが可能となる。

 

 それどころか、補って余るだけの火力を発揮し、その上で長時間戦闘をやってのけることが出来る。学園都市謹製の、最新兵器となるのだ。

 

 

 

 

(……正直、黄泉川先生から保管している、とのお話を聞いたときにはすぐにでも破壊しようとも考えましたが――)

 

 

 自分という存在(パーツ)で完全なる兵器となってしまう様なものを――二度と使用することはない。

 否、二度と思い出したくもないと考えていた物を再び身に纏い、深音はセンサーから映し出される『敵』を見る。

 

 

 兵器など不要なものだとは心から常々考えてはいたが、今はただ、守れるだけの力があることに感謝した。

 

 

 

 無数の能力を使った攻撃は、先ほど程度の数ならば十分に対処が出来るだろう。腕のような触手も同じだが、近くに切り落としたものは本体から伸ばされた腕と再度繋がり、再生する。

 

 逆に遠くに飛んでしまったものは本体に無視され、次第に塵に崩れて消えていった。

 

 

 

『……美琴さん、木山先生。今更ですが、アレの情報を教えてもらえますか?』

 

 

 深音という突然現れた『敵』に相手もそれなりに警戒しているのだろう。全身に出現しているすべての眼が鋼色の巨躯を睨み、威嚇するように唸りを上げている。

 

 

「キミは、深音君、なのか――その姿、いやそれより麻酔は――……?」

 

 

 信じられないといわんばかりに木山が呟くが、残念ながら振り返って説明している余裕はない。隙を見せれば、先ほどの弾幕がまた殺到するだろうことは予測できた。

 

 

「あー、うちの深音に『そういう常識』はあんまり通用しないわよ? で、アレだけど、AIMビースト? バーストだっけ? とにかく一万人分の学生の演算能力に物を言わせて絶賛暴走中。攻撃してもすぐに再生していく上に更に大きくなっていくわよ」

 

 

 深音が加わったために余裕が出来たのだろう。美琴の口調も幾分か軽い。それでも深音の隣りで帯電しながら警戒しているが、気持ち的には問題なさそうである。

 

 

『再生だけでも厄介なのに肥大化ですか――ですが、攻撃すべてが『そう』ではないみたいです。少なくても遠くに斬り飛ばせば再生はないようですし』

 

 

 

 両腕のアーマーからレーザーソーを伸ばし、これで切り離していけば――と告げようとしたところで、バーストがボコボコと、泡立つように自体を肥大化させていく。

 

 

 

 

「……ちょっと、ずるくない? それ」

 

 

 

 

 美琴の言葉に二人が同意したその直後、無数の触手が美琴たちの立っていた場所を滅多刺しにしていく。

 ソレよりも数瞬早く深音が二人を抱えて後方に大きく跳んでいたために被害はないが、穴だらけの地面を見てぞっとする美琴と木山。

 

 追撃を警戒した深音はとにかく二人の安全を優先させようと、踵のローラーで更に距離をとる。幸いにして追撃はなく、そのまま様子を見ることが出来た。

 

 

 そして、三人が離れたことでバーストは標的を変更する。その速度はゆっくりではあるが――都市部へと向いていた。

 

 

 木山がそれを理解し、しかし止める手立てもないことに歯噛みしている中――美琴は橋の上に、あるものを見つける。

 

 

「!――アンタさっきあれの足止めしろ、って言ってたわよね――具体的に、どれだけ足止めすればいいの?」

 

「は? あ、いや――そう、だな。解析をしてデータを打ち込むのにどれだけ急いでも二十分、しかし、ここからデータを打ち込めるだけの機材のあるところに行くまでの時間が「深音! 上の道路まで飛びあがって!」『了解です』きゃっ……!?」

  

 

 深音が指示通り大きく跳躍し、木山が崩落させた高速道路の橋に降りる。

 

 突然かかる重力に驚く木山に、今は気にかけている時間はない、と胸中での謝罪で済ませる深音。

 

 

 

「御坂さん! 木山先生も大丈夫ですか!? ――……それに、深音、さん……ですよね」

 

 

 自重でアスファルトにヒビを入れながら降り立った深音たちの前に走ってきたのは初春だった。

 

 いまだ手錠をされている状態であるが、戦闘の音で意識を取り戻したのだろう。その隣に立つ固法とともに、深音を見上げている。

 初春は事情を知っているため驚きは少ない。しかし、固法は深音の素性を一切知らないばすであるが動揺は少ない。――彼女の中で優先順位がしっかりとしている証拠だろう。

 

 

 その後ろに黄泉川と鉄装が並び、そして、さらにその後ろにある二人が乗ってきただろうアンチスキルの特殊車両。

 

 

 

「そうか、アンチスキルの車両に搭載されている機材なら――!」

 

 

 深音から降りた木山が車両へと駆け寄ろうとし……その前に黄泉川が立ちふさがる。その手には手錠が握られ……表情にも一切ふざけがない、アンチスキルとしての彼女がそこにいた。

 

 

 

「――木山 春生だな。レベルアッパー拡散の容疑と、アンチスキルへの公務執行妨害及び傷害罪。……覚悟は出来てるな?」

 

「ちょっ、今はそんなことしてる場合じゃ……「いや。いいんだ――」」

 

 

 

 やるべきことがある、との美琴の反論を封じたのは、ほかでもない木山自身であった。

 

 真っ直ぐ見てくる黄泉川に、視線を逸らすことなく返す。

 

 

 

「……今更、否定するつもりはない。罪は負うし罰も受けよう。――だが、それはアレを止めてからだ! 今は、私に出来ることをさせてくれ……!」

 

 

 頼む、と必死に頭を下げる木山に……黄泉川は深いため息を吐いた。苦笑を浮かべ頭をガシガシと掻くその姿は、いつもの彼女だった。

 

 

 

「こりゃ始末書もんじゃん――、まあいいや。で、なにをすりゃいいじゃんよ? アタシ達は」

 

 

 

 手に持った手錠をどこぞへと放り捨てた黄泉川が、指示を待つ。

 

 見回せば――その場にいる全員が、木山の言葉を待っていた。

 

 

 

 

 レベル5の美琴も、最大戦力であるだろう深音も。

 ジャッジメントの固法と初春も、アンチスキルの黄泉川、鉄装も。

 

 

 

 ……ほかの誰でもない、木山の言葉を待っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「まったく――美琴さんは強引過ぎます」

 

「う、うっさいわねー。しょうがないでしょ、アンタそのまんまだとロボット見てるみたいで違和感があって落ち着かないのよ」

 

 

 ヘッドパーツのみを外し、素顔を晒している深音がやれやれ、と言わんばかりに首を振る。アーマーがかなり大きいため、深音の顔がやたらと小さく見えるが気にしてはいけない。

 

 美琴はそんな深音の隣に立ち、都市部へ向い、ゆっくりと、しかし確実に進むバーストを見ていた。

 

 

 

「いや、顔を見せろというのも勿論そうなんですけど――正直危ないですよ。今からでも皆さんのところに戻っ「却下」……ですよね」

 

 

 首を振った直後、ため息を吐く。その反応に納得がいかないのか、美琴もムッと顔をしかめた。

 

 

「私があそこに残ってもなんにも出来ないわよ。……何にも出来ないくらいなら、あんたと一緒に『でっかい餌』になってやろうじゃない」

 

 

 木山が言った、『バーストはより多くのAIM拡散力場に呼応している可能性がある』という判断。都市部という人口……学生の多い場所では当然AIM拡散力場の反応も多いため、攻撃を与えた美琴や、一時とはいえ警戒心さえ見せた深音すら無視して進むことからも、その可能性は高いとされる。

 

 

 

 では、そんな相手を足止めするには、どうすればいいか。

  

 

 

 

 ――美琴が、取り出したコインを右手で弾く。

 

 ――深音は左腕のパーツを展開し、腕と一体となっている『砲』を構えた。

 

 

 

 二人とも特に打ち合わせたわけでもなく、殆ど背中を合わせるように立ち――大気を切り裂く轟音と共に、二条の光が射出された。

 

 

 

 

 ――!!!!!??????

 

 

 

 バーストの本体(一番最初の胎児)のすぐ両脇を『奪い取って』いった二筋の光は、片方は途中で掻き消えたが、もう片方はどこまでも伸びていき、やがて見えなくなった。

 

 

 

「名前つけるとしたら、『ツイン・レールガン』ってとこかしらね――やっぱ、正式な武器だけあってすごい射程ねアンタの……」

 

「チャージの時間と砲身を冷却しなければならないので連射はそれほどできないですけどね。……まあ、何はともあれ『第一段階』は成功のようです。では、行きましょうか」

 

 

 バーストが再び全身に『眼』を造り、二人を睨む。だがその場所に二人は既になく……視を合わせる間すら与えず、二人はバーストの目前へと至っていた。

 

 

 ――足止めをするには、どうすればいいか。もう答えは、お分かりだろう。

 

 

 右腕から伸ばしたレーザーソーを振るう深音と、その深音の左腕を足場にするように抱えられた美琴が至近距離でレールガンを放つ。

 

 大きく切り裂かれ、そしてまた打ち抜かれたバーストは絶叫を上げながら再生・増幅し、二人に向けて弾幕を張り、多腕を伸ばす。

 

 

「遅いっての!」

「芸がない、とはこのことでしょうか……!」

 

 

 能力の弾幕を美琴の電撃が、迫る多腕を深音の剣が、それぞれ易々と攻略していく。機動力の要である深音が僅かに後退しつつ受けているため、飛来してくる攻撃の体感速度も遅くなっているため迎撃がしやすいのだろう。

 

 

 

 そして、そんな攻防を幾度か繰り返し、都市部を背にするように周り込むことに成功した深音と美琴。その中でバーストの意識範囲を大まかに把握し、もう殆ど移動を許していない。

 

 

「第二段階も成功、ね。後は私達がデータ打ち込みとかの時間稼げるか、だけど――」

 

 

 

 攻防のさなかで、更に二周り、いや三周りほど巨大化しているバーストを、苦い顔で見上げる美琴。

 攻撃すれば攻撃するだけ巨大になる、というのは精神的に辛いのだろう。能力による攻撃は少しずつしか増えていかないが、多数の腕は体の大きさが増すに連れて倍々に増えている。 

 

 

 終わりはあるのだろうが、何時終わるのかも分からない。

 

 

 そんな中、深音は笑った。いつもの、見ているとホッとさせてくれる笑顔で。

 

 

 

「……大丈夫ですよ、絶対。美琴さんがいて、私もいるんです。むしろ、簡単じゃないですか?」

 

 

 慰めや安心させるために言っているのではなく、本当に心からそう言っている深音に、美琴も力強い笑みを返した。

 

 

 

 

「それもそうね! まあ、晩御飯までに終われば良し!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――場所は変わり。

 

 

 

「……御坂兄妹は今んとこ大丈夫そうじゃん。こっちも急ぐじゃんよ!」

 

 

 黄泉川自身も手を動かしつつ、周りを急がせる。木山・固法・初春がアンチレベルアッパーのアップデートを、黄泉川と鉄装が完成したソレを学園都市中に発信するための手段を、合法・非合法問わず確立していた。

 

 

「後四割でこちらは終わる! そっちこそどうなんだ!」

 

「頭の固い馬鹿野郎どもが責任だの予定だのうだうだ言って邪魔されてやっと五割じゃんよ! けど人口過密地帯は殆ど抑えてるじゃん!」

 

 

 学園都市内でも過疎過密はあるようで、地域的には五割というが、効果範囲にいる学生達はおよそ八割には届くと予想している黄泉川。それでも万が一聞き逃す使用学生がいてはいけないと、学園都市全域に伝達を入れまくっていた。

 

 ――非合法の方法は、先ほどからこの後山積みになるだろう始末書を想像して顔を青くしながらパソコンを操作している鉄装で大体ご想像願いたい。

 

 

「で、でも木山先生、コレでレベルアッパーのアンインストールが出来るならそのまま流せないんですか!?」

 

「――私に主導権があったときならこれでも大丈夫だったんだが……私は昏睡している学生達の脳の一部を借りて能力を使っていたに過ぎない。だがあれは、強い強制力で無理矢理使役しているとしか思えない。その強制的なラインは恐らく、レベルアッパーをアンインストールだけでは断てないはずだ」

 

 実際の測定結果を見て木山はソレを確認して、美琴に言った二十分という時間の延長を頼みたいほどだ。

 

 しかし、木山という専門家と、初春という学園都市屈指の情報処理能力を持つ少女、そして、初春には劣るとしても高い技術を持つ固法の三人掛りで、既に六割に達している。

 

 木山一人であれば、恐らく半分にも届いていなかっただろう。専門家でないはずの二人が、相当な戦力となっていた。

 

 

 

「だが、コレを発信できたとして、アレが止まるわけではない……! 精々能力使用をある程度制限して再生能力や肥大化を抑制するだけだ――」

 

 

 後はあの二人に任せるしか、という言葉を飲み込み、木山はさらに作業速度を上げる。

 

 

 

 任せることは分かりきっていた。ならばより余裕のある状況で、余力のある状態で任せることのが最低限の義務だと。

 

 

 

 

 

 

 

 ――決着は、目前に迫っていた。

 

 




読了ありがとうございました。

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