とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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能力と意思 力と信念   7-3

 

 

 

(初春……! 早くでなさい初春っ!)

 

 

 

 ……自分でも相当焦っている、ということが手にとるように分かるほどに――今のワタクシは焦っていましたの。いえ、むしろワタクシと同じ状況になって冷静でいられる方なんていらっしゃらないでしょう。

 

 ワタクシの隣りで同じように端末で連絡を取っている固法先輩も相当焦っているらしく、話す声音は殆ど怒鳴るような勢いですの。

 

 

 

「非番の子だろうと何だろうと総動員して!! 事は一刻を争うわ! 近隣の全支部にも応援要請して避難勧告に当たってもらって!」

 

 

 

 虚空爆破事件の追加情報、という名目で送られてきた新しい事実。それは、爆破事件の直前に、その周辺である量子が急速に変動する、というものでしたの。

 

 その情報は、場所や時間など、何ひとつ事前に防ぐ手立てがないワタクシ達ジャッジメントやアンチスキルの方々にとっては、唯一爆発の前に行動を起こせる鍵でした。回を重ねる毎に威力と範囲を上げていく爆発に、何時一般の方々や生徒が巻き込まれない保障はない。

 

 犯人の有力な手かがりもない今、出来ることは被害の縮小というのは情けない限りですが。それでも、誰かが傷を、怪我を追うよりはずっとずっとマシ。

 

 

 ……そして、緊急用の回線で連絡が来たのがおおよそ数分前。

 

 虚空爆破事件の前に変動していたという量子の変動が確認された、という内容でしたの。

 

 

 手がかりを聞かされた直前でまさか、という思いも当然ありましたけれど――次いで告げられた内容に、ワタクシと固法先輩は言葉を失いました。

 

 曰く、コレまでの爆発事件の時とは比べ物にならないほどの変動値であり、爆発の規模も比べ物にならない威力であろうことと――。

 

 

 ……それが、セブンスミストといわれる大型の洋服店のある場所で観測されたということ。

 

 

 

 今日は、休日。ともなれば学生や家族、多くの方が訪れていることは確実ですの。

 

 

 

 そして……その場所は、初春が佐天さんやお姉様、深音さんを連れてお買い物に行くといっていた場所。

 

 

 

 

『はい、初春です』

 

「初春ッ!! いまどこにいますの!?」

 

 

 

 ……耳がー、と情けない声が向こうで聞こえましたが、非常事態ですの。我慢なさい。

 

 

 

『あぅー……何をそんなに慌ててるんですか? 今御坂さんたちと一緒にセブンスミストに』

 

「やはり……今すぐその場から離れなさい初春! 例の連続爆破事件の前兆がそこで観測されましたの!」

 

『っ!? ダメです! まだお客さんがいっぱい……私だってジャッジメントなんです、避難誘導くらいできます!』

 

 

 

 確かに、誰が駆けつけるよりも早く、ワタクシがテレポートするよりも早く、現場で活動できるのは初春だけですの。

 しかし、その場合高確率でお姉様が首を突っ込んでくることは確実。――いえ、こんな状況で一般人だのなんだのと言ってはいられませんし……。

 

 

 

「……ワタクシ達もすぐに向います、決して、無理をしないでくださいな?」

 

『了解です!』

 

 

 

 勢いよく通信を切ったのか、ブツン、という音がやけに大きく聞こえましたの。

 

 

「初春さんは!?」

 

「……現場にいるとのことですの。指し当たって避難誘導をすると……」

 

「そう……こっちも非常召集をかけたからかなりの人数が来るはずよ――ただ、コレまでにジャッジメントが負傷してるから、どうしてもアンチスキルが主導するでしょうけど」

 

 

 

 今までにない規模、となれば、建物のワンフロアくらい半壊できそうですし……むしろ今まで一般人の被害者がいないだけ……奇跡――……。

 

 

 

 

「……固法先輩」

 

「? ……どうしたの?」

 

 

 

 

 

「今回の連続爆破事件――本当に一人も、一般の方の被害者はいらっしゃらないんですの?」

 

 

 固法先輩は首をかしげている。まあ、捉え方に寄っては一般の被害者がいて欲しそうな言葉ですし。

 

 

「そうよ? 幸いとは言いたくないけどジャッジメントだけ…………って、まさか!?」

 

 

 ……商品棚を丸々ぶち壊すだけの威力をもった爆発で、ジャッジメントだけが負傷? 買い物をしているお客に一切の被害がないなんてありえませんの。

 

 ですが有り得ないことが有り得た。

 

 当然ですわね……その前に小さな爆発で警戒でもさせて、『ジャッジメントを出動させてから本命を爆発』させているんですから。

 

 

 

「犯人の狙いは、私達(ジャッジメント)……?」

 

「確証はありませんが……あれだけの規模の爆発で負傷者がジャッジメントのメンバーだけ、という不可解な点はそれで解消されますの」

 

 

 それ以外でも手はありますの。

 

 落し物、と称してアルミを入れたバックやヌイグルミを、全く無関係の善意の方から手渡されたら?

 

 紛失物の捜索で、ものを探して欲しいと頼まれたら?

 

 

 

 ……ワタクシ達ジャッジメントは、簡単に獲物になってしまいます。簡単に見分けられる目印(腕章)も犯人から見たらただの的、ということでしょう。 

 

 

 

 そして、今この瞬間。その現場で、活動をスムーズにするために腕章をつけているのはおそらく唯一人――

 

 

「初春が危ない……ッ!?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 理恵ちゃんのお母さん捜索隊――は美琴さんたちと別れて僅か数分で結成理由である理恵ちゃんのお母さんを発見できたので、すぐさま解散となりました。

 

 

 またねー、と手を振ってくれる理恵ちゃん。今度は迷子なしで会いたいですね。

 

 

 

「――……さてと、美琴さんたちに合流しま『お、お客様にお知らせいたします。ただいま当建物内の電気系統に異常が発見されたため、これより緊急のメンテナンスを行わせていただきたいと思います。お客様には大変申し訳ないのですが、係りの者の指示に従い速やかに退去してください』……おや」

 

 

 遠めに見える理恵ちゃん親子も、当然私の周囲にいる一般のお客さんも。突然の放送にしばし呆然としました。

 しかし、かなり慌てていたアナウンスの声。そして警備服をきた、『係りの者』であろうひとたちの出現でザワザワと騒ぎが広がっていく。

 

 

 

 電気系統の故障……にしては随分と物々しいような。

 

 

 

 警備の方々にも少し焦り、といえばいいのか、事件やなにかの避難誘導に近いやり方でお客さんたちをお店の、建物の外へと誘導していく。

 ……それ以外に、しきりに周囲を確認しているのは――。

 

 

「情報が足りませんね……」

 

 

 しかし、何かがあった、もしくは起こったということは確実でしょう。……理恵ちゃん達は、外へ出て行く人の流れに乗りましたね。これで一応は安心です。

 

 

 

 さて、では私も美琴さんたちと――。

 

 

「「深音!」さん!」

 

 

 ――が、合流してきてくれました。はい。

 

 お二人ともあれ? と私の周囲を見渡して何かを探している。多分理恵ちゃんですかね。

 

 

「理恵ちゃんなら先ほどお母さんに。今は外へ出ているはずです――何か、あったんですね?」

 

 

 私の言葉に、あからさまに安堵の表情を浮かべるお二人。理恵ちゃんが無事に避難が出来ているとわかっただけでそこまで安堵するということは――……それだけのことが起きている、と見て間違いないでしょう。

 

 初春さんが一緒でないことも、それが原因でしょうか……。

 

 

「あんまり大きい声じゃ言えないんだけど……最近起きてる連続爆破事件、ってやつらしいの。それの前兆が確認されたとか何とか……初春さんが此処の偉い人とかに話を通して取り合えず避難を最優先ってことにしてるらしいけど」

 

「連続爆破――、あまり穏やかじゃないですね……初春さんはどちらに?」

 

「応援が来るまで出来ることをしたいって……」

 

 

 

 初春さんが一人で、ですか……。あまり、いい予感はしませんね。

 

 おそらく美琴さんも同じ意見なのか、私を見て難しい顔をしています。

 

 

「……佐天さん。佐天さんはこのまま避難する人たちの一番後ろについて行ってください」

 

「そんな! 私も役に立てます!」

 

「はい。ですから、避難する人たちが忘れ物などで戻ろうとするの抑えて欲しいのですが……」

 

 

 

 あれ? という言葉と共にぽかんとする佐天さん。……私、何か変なこと言いましたかね――?

 美琴さんは理解しているのか、何やら苦笑してますが……さて。

 

 

「あ、いや……てっきり『危ないからさっとさ逃げろ』的な意味かなぁって……」

 

「ああ……なるほど。まあ逃げて欲しい、という本心は当然ありますよ? もちろん美琴さんにも。――本当は私が守る、といえれば一番なんでしょうけど、そうも言ってはいられないようなので、『一番安全な役目を』……って佐天、聞いていますか?」

 

「っ!? は、はい! んじゃあ行って来ます!!」

 

 

 

 佐天さんは慌てて避難する方たちの最後尾へ。……転ばなければいいのですが。

 

 

「ハァ……アンタはまたそうやって無意識に乙女心を――まあいいわ。んで、私達は?」

 

「? 私達はこのまま初春さんと合流しようかと思います―― 一応聞いておきますけど、佐天さんと一緒に避難してくれたりは「すると思う?」……だと思いました。では、大急ぎで初春さんと合流しましょう」

 

 

 

 美琴さんの後に続くように私も走り出すんですが……正直、私が抱えて走ったほうが軽く数倍は速いんですけど……『抱えられるなんて恥ずかし過ぎる』というので抑えます。

 

 

 

「いたっ! ……まって、何であの子もいるの!?」 

 

 

 目的の初春さんと――私が確かに、お母さんのところに送った理恵ちゃんがいた。

 

 先ほどまでは持っていなかった、カエルのようなの動物の人形を持って。

 

 

 

 私達が二人を見つけたのは、理恵ちゃんがその人形を、渡すその瞬間。

 

 

 

 ――人形が内側に巻き込まれるように『えぐられた』。

 

 明らかな異常に、とっさに理恵ちゃんの手からそれを取り上げて自分の後方に投げる初春さん。自分も理恵ちゃんを抱えて、とっさに背を丸める。

 

 

 

「初春さん!」

 

「は、離れてください御坂さん! アレが爆弾です!」

 

 

 

 そう言われたからか、言われる前か。美琴さんはトップスピードに乗る。アスリートでもそうは出せない速度で、初春さんの前に躍り出た。

 

 スカートのポケットから取り出したコイン……爆発前にレールガンで打ち抜く、と。

 

 

 確かに、美琴さんのレールガンなら爆発する前に打ちぬける速度があるでしょうが――その前に出していた速度と、その急制動。

 

 コインはポロリと、その手から逃げ出してしまった。キンッという高い音共に地面へ。

 

 

 

 

「マズッ……深音!?」

 

 

 

 

 いえ、失敗してくれて良かったです。

 

 

 今人形を打ち抜かれたら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私も『レールガン』の被害に遭ってました。

 

 

 

 

 

 『腕の中にある人形』が更に収縮していく。周りの空間すら巻き込むように。その威力は何の前情報もないにも関わらず、直感で私の中の最大警鐘がかき鳴らされています。

 

 

 

 ……正確にはわかりませんが、爆発するまで数秒もないでしょう。

 

 

 

 

 

 ――では、足掻かせていただくとしましょう――

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
 
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