とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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とある執事の日常観察   6-E

 

 ね、ねぇ。ホントにこれやるの? 結構恥ずかしいんだけど……わかった。わかったから……はぁ。

 

 ――よし。

 

 

 

 

 

 

「は、はぁい♪ 『サウンド&ハープ』 の、週刊誌は軒並みコンビニで立ち読みする方。御坂 美琴です!」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 これは、私の意志じゃないわよ? ホント。

 ――ちょっと響きがいいなぁとかそんなこと思ってないから。でもこれだと深音がメインみたいなのよねぇ……コンビなのは全然いいとして。

 

 

「んー、68点! 恥ずかしがってちゃダメですってこういうことは! でもやっぱりコンビ名乗りとしては御坂さんが一番ですね! 語呂がいいです!」

 

「まあ兄妹ですから……でも佐天さん、なんでいきなりコンビ名乗りの練習なんかするんです? しかも結構辛口評価……」

 

 

 言われるがままにやった私がいうのもなんだけど、確かにそうよね。いきなりコンビだの相棒だの……。これ意味あるの?

 ……いや、まあ、なに? そんなに悪い感じじゃないし? 御坂兄妹とか呼ばれるよりは全然いいんじゃないとは思うけど。

 

 

 68点か……練習するべきね。 

 

 

 

 

「いえ? 特に。アタシが好きなだけ――って嘘ですよ! ちゃんと理由ありますから! だからそんな透明なものを見る目で見ないでください!」

 

 

 慌てたように取り繕う佐天さん。

 

 ……最近になって分かったことだけど、結構佐天さんて勢いっていうかその場のノリで行動しやすいのよねぇ……。頭より先に体が、ってタイプ。

 

 

(……呆れてらっしゃるようですけどお姉様も結構似たり寄ったりですのー、なんて口が裂けても言えませんの)

 

 

 ――黒子がなんか私のこと見て苦笑してた。……なんだろ、なんか軽くムカッてきた。

 

 

「それで、理由ってなんですか佐天さん?」

 

「そ、そりゃもちろん――……えっと、そう! 『黄泉坂コンビ』に対抗するために決まってんじゃん!」

 

 

 あー、今、考えたわね。絶対。

 

 

 

 ……公園の、テーブルを囲むようにあるベンチに、私達『六人』は座っていた。

 

 

 

「対抗とかコンビとか云々は置いておいて……話の本題からとても遠くに離れちゃったのは確かね。もう理由にある深音君の調査じゃないじゃないの……」

 

 

 苦笑と一緒にため息をつく、黒子たちのジャッジメントの先輩。確かミルk……じゃなかった固法って人。風紀委員の仕事は、と聞いたけど今日はホントは非番だったとのこと。

 

 『そういえば、確かに色々手伝ってもらってるのに殆ど知らないわね……』とか呟いて深音調査隊(佐天さん命名)に参加。――名前と携帯の番号くらいしか知らない事実に冷や汗を流してたわ。

 

 ……私、一応義妹って立場ですけど住所も知らないから、全然軽症ですよ。

 

 

 

 んで、私と黒子、佐天さんと初春さん。そして固法先輩。コレで五人。

 

 ……それで、六人目。

 

 

 

 

「名前だけのコンビなんて程度が知れるじゃん! 甘いぜ佐天ちゃん!」

 

「くぅ……!?」

 

 

 

 と、正直何で張り合ってるのか全く分からないところで佐天さんと張り合っている唯一の大人。

 

 本人曰く――名のあるスキルアウトたちを震撼させた『黄泉坂』コンビの片割れ。

 

 

 

 アンチスキルの――じゃん先生よ。

 

 

「黄泉坂まで出てるなら、もうちょっと頑張って名前思い出して欲しいじゃん……それだと外国人じゃん……しかも男じゃんよ。黄泉川な? 黄泉川 愛穂」

 

「あ、黄泉川先生の黄泉と、御坂 深音の坂で『黄泉坂』……でもこれって御坂さん一家なら誰でもできそうですね」

 

 

 

 まあ、御坂は苗字だからね。私じゃなくてもママとかでもこの人とタッグを――……タッグ、を?

 ――あれ、なんだろう。二人とも意気投合する未来しか想像できないんだけど? しかも高確率で周りの人に迷惑かけそうな感じで……。

 

 

 ……要注意しておこう、うん。

 

 

 

「ところがどっこい、ってやつじゃん。スキルアウトのヤンチャボウズ共を鉄拳指導できなきゃな。アタシの相棒にゃなれないじゃん」

 

 

 ニシシ、と子供っぽく笑って、軽く拳骨を見せる。――なんかの武道でもやってるのかしらね、ちょっと堅そう。

 

 黒子たちジャッジメント組はこの人のことを知ってるのか、らしいなぁ、って言う感じの苦笑。よく知らない佐天さんは『お堅い』イメージのあるアンチスキルのイメージにヒビでも入ったのかポカンとしてる。

 

 私もどちらかって言うと佐天さんの方、かな? 

 

 

 

「それに、アタシも深音っちの方が合わせ易い――いや、多分深音っちの方がアタシに合わせてんだろうけどさ。……聞いた話だと、深音っちは電撃使いのレベル4じゃん? そのへんのスキルアウトが束になったって勝てるわけが無い。本人だって、電撃使えば一瞬で片付けられるっていうのに、深音っちは一切能力は使わないじゃんよ」

 

 

 ――はい? って思わず聞き返したのは、黄泉川って先生を除いた、私達全員。

 

 え、つまり、なに? アイツ能力なしで大勢のスキルアウト制圧したってこと?

 

 私なんかたまーに絡まれるし、黒子はジャッジメントだからスキルアウトがらみの事件にあう。そういう時は必ず電撃やテレポートで瞬殺(気絶させているだけだからね?)しているから、アイツも同じ様に電撃つかってるのかと――。

 

 

 

「電撃を使わない、ってことは何か武器みたいなのを使ってるってこと?」

 

「だから鉄『拳』指導って言ってるじゃん? 不良なんかに武器を持ち出せるかっての――っていうアンチスキルはアタシだけなんだけどな? 深音っちはそれにわざわざ、かどうかは分からないけど合わせてくれてるじゃんよ」

 

 

 ――子供が本気で気の合う友達を見つけたときの顔、っていう表情があるなら、多分今のこの人ね。すんごい嬉しそう。

 

 

「ですが、深音さんの筋力を考えると鉄拳制裁も洒落にならない威力なのではないですの――?」

 

 

 黒子は顔を少し青くしながら、手を上げて発言する。……大人の男数人を担いで走れるからなぁ、アイツ。想像したら青くもなるか。

 

 

 

 ……執事服の上からよくわかんないけど、この前インナーだけになったときの筋肉なんかその……すご、かったし――

 

 

 

「御坂さん? 顔赤いですよ?」

 

「……へっ!? いや、なんでもないよ!? うん!」

 

 

「だからこれも言ってるじゃん。『アタシに合わせてる』って。それに、殴る蹴る、っていうことは深音っちは実際あんまやらないじゃん? アタシとの『クロスブレイク』の時くらいしか蹴り使わないし」

 

 

 

 ――とりあえず、とりあえずの疑問。

 

 クロスブレイクって何よ?

 

 

 

「必殺技的な奴ですね! ……でも殴ったり蹴ったりしないでどうやるんです? ゲージ溜めは?」

 

「ゲームとごっちゃになってますよ佐天さん……私としては、深音さんがそういう荒事に関係してる、っていうこと自体があんまり想像できないですねー」

 

 

 ――寮の花壇の世話を微笑みながらやってる深音を見てるだけに……初春さんの言うことにも同意したくなるわね。

 

 

「深音っちの戦い方? って言ったらおかしいけど――アレは多分、大分アレンジされまくってるけど原型は護身術じゃん」

 

 

 護身術? ってあれよね、自分の身を守る、って字のまんまの。この前授業でチラッとやってたっけ。「電撃があるからー」って殆ど聞き流したけど……。

 

 

「あえて形にするなら護身制圧術、って感じじゃん? 傷つけない・後遺症も残さないですっぱり意識だけ刈り取る。一対一でも一対多でも――。あー! くっそ。あの時もうちょい粘ってアンチスキルに入れておけばよかったじゃん!!」

 

 

 自分で説明しながらいきなり憤らないで欲しい。話の知らない佐天さんと固法先輩が付いていけてないから。

 

 

 

「と、とりあえず、深音さんは能力なしでも十分強い――と。……お姉様。女の子が浮かべちゃいけない好戦的な笑顔はお止めになってくださいまし。『笑顔は本来犬歯を見せる威嚇の行為』なんて言葉をご自分の辞書からポイしてくださいな」

 

 

 ――酷いわね黒子。そんな笑顔を誰が浮かべてるっていうのよ。

 

 

「あと他に深音のことを詳しく知ってそうな人、かぁ――寮監は……最後の最後にしておいて……」

 

「アイツは深音っちの執事のあれこれを延々と言うか、執事萌えを増やそうと延々と語り続けるかのどっちかだから止めとくじゃん……」

 

 

 ……そういえば深音が病院にいた時も知り合いみたいに話してたっけ――。

 っていうかどっちにしろ延々と語るんだ。 

 

 

「――腐れ縁じゃん。アタシと小萌っちはアイツの執事萌えに侵食されかけたからな」

 

 

 『アレは危なかったゼ』と、どこか遠い目をしだす黄泉川センセ。

 

 ――寮監は最後の最後からも外したほうがよさそうね。第一寮監にそういう話を持っていく勇気は無い。

 

 

「そういえば小萌っちの方には行ったじゃん? 勉強とか見てるから、アタシよりも話す機会は多いだろうし――知ってることは多いと思うじゃんよ」

 

「いえ、実はそちらの先生には真っ先にお伺いしたのですが――ご自宅に行ってもお留守でしたの。ですので、こうして連絡のつきやすい黄泉川先生にと」

 

 

 あー、なるほど、と苦笑している黄泉川センセ。

 

 

 

 

 

「……一応、どうやってその先生の住所を突き止めたのかは、聞かないで上げるわね? ……初春さん? でも、次は無いわよ……?」

 

「……この前の蕩けきった顔写真……」

 

「くっ!?」

 

 

 

 

 

 初春さんのハッキングテクが凄い。数秒で教師の住所を割り出したし。

 

 それにしても、固法さんがなんか初春さんを連れてってすぐ戻ってきたけど……勝ち誇った顔の初春さんと悔しそうな固法さん――……何があったのか、知りたいような、知りたくないような。

 

 

「んー、アタシも深音っちの知ってることってそんくらいじゃん」

 

 

 固法先輩と、黄泉川センセに聞けた内容を纏めると――

 

 

「仮免許ジャッジメント、でもって子煩悩――で、なんか素手でも強い?」

 

「真っ赤な他人が時折見かける内容程度の情報しかありませんの――」

 

 

 ……よ、ね。

 

 皆も『知らなさすぎだ』ってたった数行の内容に顔引きつらせてるし。

 

 

 最後の最後の、本当に最後の手段を、使うしかないのかしらね……。

 

 

 

 

「こうなったら――「っ! いるじゃん!」」

 

 

 

 ? 黄泉坂センセが閃いた! って顔で立ち上がる。いる、って何が――状況からして誰が? かしら。

 

 

 

 

「深音っちのことをアタシらより断然知ってる人がいるじゃんよ!」

 

 そういうなり、どこかへ連絡しだすセンセ。

 

 

 いや、――誰よ?

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「んん、エー……どうも! 『サウンド&ハープ』 の、朝は目覚まし時計より早く起きる方。御坂 深音です!」

 

 

 ――こんな感じでいいですか?

 

 

「随分斬新な自己紹介なんだね? ……というか、今更自己紹介されてもボクは君を知っているんだけど」

 

 

 ですよね。すみません、なんだか変な電波を受信した様で……なんでしょうか『サウンド&ハープ』って。音とハープ――竪琴? 楽器が音を出すのは当然な気がしますが。

 

 それに、自分の自己紹介をした、ってことはどちらかが私ですよね……サウンドが私だとしてハープ……あ、美琴さんですか。

 

 

 

 ――恥ずかしがって渋りながらもちょっと気に入ってそうですね、彼女なら。

 

 

 

「さて、とりあえず検査結果から言うと、もう完璧に回復したんだね? あんな状態からの急激な回復も驚いたけど、やはり弊害があったんだね? 一つ一つ細かい異常でも体中にあったんだけど。それもオールグリーンのオールクリア。そろそろ定期の通院も、いらないかもしれないね」

 

「――そうですか。でも、まさか気付かれるとは思いませんでした。そうと知られないように頑張ってみたんですが」

 

「君はボクを誰だと思っているんだい? ボクは医者なんだ。患者の状態は把握していないとね。

 ――身体能力はすぐに戻っていたようだけど、五感の殆どが正常に機能していなかった。まあ、それで日常生活に支障が無いってことも驚きの一つなんだけどね」

 

 

 

 視覚と嗅覚と……あとなんでしたっけ? とりあえず耳だけは生きていましたね。電撃使いの電波感知が無ければなんにも出来なかったでしょうね……。

 初めて美琴さんの顔を『見た』のはプール掃除の後でしたし。

 

 

 

 ――カエル先生が私の検査結果の書かれたカルテを置いて、私に向き合う。

 

 

 

「……あんまり、こういうことは言いたくないけどね? 君は色々と頑張り過ぎているんじゃないかな?

 ……君は人よりもずっと頑丈で、人よりもずっとずっと強い。君はそれで人の役に立てるし、多くの人を守れるんだろう。けれど、無理をしちゃいけない。それだけは、心に留めておいて欲しいんだね?」

 

「――わかりました」

 

 

 

 ――頑張ることは前に進むこと、それは大切だ。けれど、足を止めて、ゆっくり周りの景色を楽しむことも大切だよ?

 

 それだけ告げて、温かく笑う。多分これが医者としてではなく、この人本人の笑顔なんでしょうね……。

 

 

 

 

 診察室を後にして、窓から外を、空を見上げて――。あ、今日は晴れてたんですね……。

 

 ……先生の言うとおり、今まで少し急ぎ過ぎていたのかも知れません。お役に立てるならアレもコレも、という感情があったのは否定できませんし。

 

 

 今日は執事のお仕事もお休みです。小萌先生の勉強会もありません。

 

 

 

 ――やることない日、って何気に初めてですね。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ……深音?」

 

 

 呼ばれて目を廊下に戻すと、美琴さん……となにやらお知り合いの方々の御一行が。

 

 

「美琴さん。それにみなさんも――何故ここに?」

 

 

 ……何でしょう、皆さんがやたらと気まずそうです。

 

 

「ん? ああ。来たんだね黄泉川先生」

 

「リアルゲコ太!?」

 

 

 

 ……。美琴さん以外の全員でアイコンタクト。

 

 ――全力全開でスルー、で満場一致いたしました。

 

 

 

「(――またリアルゲコ太って言われたんだね?)彼女が深音君のことを良く知らない、というからね。深音君も来るからと丁度いいと呼んだんだけど、こんなにいっぱいいるとは思ってもなかったよ」

 

 

 苦笑をするカエル先生。

 

 私のこと、ですか? ――そういえば、自分のことを何かしら言った記憶も有りませんね。

 

 

 

「――特筆して、知っていてもらうようなことは何もないと思うのですが」

 

「それはー、えっと……っ! ああもういいや! この際気まずいとかどうとか面倒だしどうでもいいわ! 深音!!」

 

「はい!」

 

 

 

 ビシィ! と音が出そうな勢いで私のことを指差す美琴さん。目が充血して――あ、コレが血走った目、って奴ですかね。

 

 ――思わず背筋を伸ばしてしまったのは何故なのでしょう。

 

 

 

「コレからアンタの家に案内しなさい!! そこでとりあえず皆でご飯食べるわよ!!」

 

 

 

 意味が一切合切分かりません。でも逆らうと高確率で今現在バチバチさせている電流が電撃となるのは間違いないです。

 

 

 ――やることがない日、じゃなくなっちゃいましたね。

 

 でも、なんだか楽しいというか……。

 

 

 若干暴走しつつ佐天さんや黒子さんや初春さん。固法さんや黄泉川先生にまで指示を出している美琴さん。

 

 

 

 

 

「深音! あんたは案内! 会場がわかんないとどうしようもないでしょうが!?」

 

「はい、了解です」

 

 

 

 

 

 ――嬉しい、って言うんですかね、こういうの。

 

 

 

 

 

< おまけ >

 

 

「ヒック……おいぃ、アタシよりいい部屋に住んでるってどういうことじゃん深音っちぃ!?」

 

「それはー、深音ちゃんが『奨学金とお給金の使い方が分からない』って言うので私が進めたのですよー♪ あ、深音ちゃんビール追加でお願いするのです♪」

 

 

 

< おまけ そのに >

 

 

「ん? ああ、ゴメンゴメン。申請した書類ボクが持ちっぱなしだったね。後で郵送するから、自分の個人情報は確認しておくんだよ?」

 

「……深音自身が知らない情報を私らが知ってるはずないわよねそりゃ……」 




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