とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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やっちゃいました……身の程知らずにも皆様の目に晒すことにいたしました……!
いきなり本編ではなく、どこかであった『かもしれない』日常をご覧ください。


ご指摘により初春さんの名前を修正いたします。
      2013/11/19 陽紅


いつかどこかの兄妹の日常

「これは難しい問題です、とミサカは短い人生における最大の選択を前につぶやいてみます」

 

 淡々と、しかしとてつもなく重い感情をこめたその言葉に、その場に居合わせた誰もがゴクリと喉を鳴らす。

 否応無く高まっていく緊張感。呼吸すら忘れる緊迫感。周囲が見守るその中で、二択の難問に挑むは一人の挑戦者。

 

 右か、左か。

 甲か、乙か。

 

 双方をじっくりと吟味した後、しばし目を閉じ――二つの選択肢の、その先を視る。今までの経験、考えうる未知なる要素。ありとあらゆる状況をシュミレートし――静かに目を開ける。

 

「よし……決めました、――とミサカは深呼吸をしつつ、選択いたします」

 

 おお、と数人がこぼした言葉を気にすることも無い。自分が選びとった選択肢の正誤はどちらにせよ、選び抜いたことに後悔は無いとその背中が語る。

 

 

「……で、アンタはこの衆人環視の中なにをやってるわけ?」

「おお、美琴さんではありませんか。とミサカは気づかなかったことを申し訳なく思いつつ頭を下げます。ミサカはご覧のとおり、究極の選択をたった今終えたところですと僅かばかり誇らしげに返答いたします」

 

 その顔は無表情ながらもどこか晴れ晴れとしており、『自分はやりきった!』と言外にてその少女に語る。周りの見守っていた方々もなにやら共感しているらしく、うんうんと頷いていた。

 

「――いちおう、聞いてあげるけど。その手にもっているものはなに?」

 

 ここにきて選択者はおや、と首をかしげる。自身のシックスセンスが危険を知らせる警鐘を鳴らし、冷房とは別のゾクリとした悪寒を感じた。

 

「(ふむ。これが嫌な予感というものですか、とミサカは幾度目かになる自己確認を終えます)美琴さんが知らない訳がないとミサカは考えますが……見てのとおりです、とミサカは手に持ったものをお見せします」

 

「……豆腐と茄子ね」

「違います。正確には木綿豆腐です、とミサカは指をピッと立てて訂正します。ついでに本日はセールなので三割引なのです、と追加情報を述べます」

 

 

 第一血管、崩壊。

 

 

「も・め・ん!豆腐と茄子がどうしたっていうのよ」

「これも説明しなければなりませんか? とミサカは些か首を傾げつつそれでも丁寧に説明いたします。 本日の晩御飯です。とミサカは中華を希望なさっていたことを思い出したので麻婆豆腐か麻婆茄子のどちらにしようかと悩んでいたのですが、ここでミサカは閃いたのです」

 

 右手に豆腐を。左手に茄子を。その二つは、どちらも戻されることなく左腕に下げられた籠の中へ。

 

「どっちかなんて小さいことを言わず、両方……そう、麻婆茄子豆腐にすればいいのだと! とミサカは拳を握りつつ熱弁いたします」

「――で?」

 

 

 第二血管、陥落。

 少女の額当たりから、静電気では考えられないほどのスパークが走る。

 なにやら不穏な気配を感知したのだろう、周囲にあった人垣は既にない。遠くのほうで店員らしき人影が何かに祈っているのを除けば、周囲に人影はなかった。これが学園都市住民の必須スキル『ヤバ気なことから即行退避』である。

 

 

「いや、あの……とミサカは美琴嬢がお怒りになられているであろう理由をそこはかとなく予想しつつジリジリと後退いたします」

「なら一応言うけど、言われてたわよね? 能力があるけど安静にして、ほいほいと外出するなって――……」

 

 一度や二度ではないスパークが額と言わず全身から迸り始め、店内の照明や冷蔵機器に異常をきたしていた。

 

 

「それなのに……」

 

 

 

 臨界点・突破。

 

 

「なに堂々と買い物してんだゴラァァァアアアアア!!!!」

 

 

 

 ……彼女の名は、御坂 美琴。ここ学園都市230万人の頂点に立つ七人の超能力者(レベル5)の第三位。

 別名、『常盤台の超電磁砲』。レールガンではなくとも人なんて軽く炭化できるだろう雷撃が轟音と共に襲い掛かる。

 ほぼゼロ距離で放たれた雷撃を避けることなどできるはずもなく、それは直撃する。ゆっくりとスローモーションで倒れ……きる前に手を突いた。 

 

 

「……今の一撃は軽く人を殺傷できるレベルであるとミサカは判断いたします……ですが! 今晩の夕食のおかずは死守いたしました! とミサカはやり遂げた戦士の顔を」

「するなぁぁぁぁぁあ!!」

 

 追撃の雷撃。

 

 しかしそれでも買い物籠を死守しきったのは賞賛されるだろうが……中身はそうは行かなかったようだ。

 

 それを確認した、加害者とどこか似た雰囲気を持つ自称・戦士は、服以外無傷のまま静かに膝を突いた。

 

(……お店、休業かなぁ……ははは)

 

 そんな店員の、どこかすすけた笑いがあったとか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…………」

「わ、悪かったってばー。外出許可が出てるなんて聞いてなかったんだもん……」

 

 

 無表情のどこかにムスッとした感じを漂わせる。頬や服には煤が付き、火災現場を突き抜けてきたような少年は、それでも確りと両手にレジ袋を握っていた。

 

 

「最初の一撃はミサカが連絡しなかったための不幸な事故と考えられます。が、トドメの一撃は少々やり過ぎです。とミサカは少し拗ねながら美琴さんに苦言を申します。せっかく厳選した食材がパーです」

 

 隣を歩く美琴に半眼を向ける。

 

「第一、美琴さんが何故ココに? 帰り道は反対方向な上に常盤台中学とはだいぶ離れておりますが、とミサカは疑問を解消すべく問います」

「いや、それは……そのー……」

 

(お顔が真っ赤です。指をツンツンと付き合せる仕草は無意識ですか、とミサカは美琴さんの庇護欲を大いにたきつける行動に戦慄を覚えます。……そして言い寄ってきた男が避雷針になるのですね、とミサカは遠い目をしつつ黄昏ます)

 

 美琴の仕草は見ように寄らなくとも『恋する乙女』そのものだが、知っている者は知っている。

 

「本日は中華を予定しています。麻婆豆腐・茄子をメインに、餃子やワンタンなど多くの品目をそろえるつもりです。味はもちろん、美鈴様直伝の味ですと、ミサカはニヤリという笑みを浮かべつつ美琴さんに流し目を送ります」

「……うぅ……!」

 

 騙されてはいけない。これはただの『腹ヘリ乙女』なのだと。以前だまされ庇護欲から思わず抱きしめたところ最大電圧の落雷を浴びたのである。

 そんな、常盤台のミス・ツンデレの赤顔涙目にもだえることなくため息を付く。

 

「……食べていかれますか? とミサカは分かりきっt」

「食べる!!」

「……まあ、素直なことは美徳ということで。ミサカは自身を納得させます。どのみち1人2人増えたところで大差はありませんので、とミサカは料理における真意を語ります」

 

「1人2人………………っ!?」

 

 

 猛然と走り出した美琴を呆然と眺め、無表情の頬に一筋の汗を流した。

 

 

「……何故でしょう。本日二度目の嫌な予感がしますと、ミサカは身に覚えがないために理解が追いつかないと匙を投げ出したくなります。が、十中八九なにか揉め事がおきるだろうとミサカは予測し、美琴さんを止めるべく駆け出……」

 

 

 ――そうとして、状況を鑑みる。なんの制限もなく全力疾走できる運動神経抜群の少女と、スーパー最大容量のレジ袋四つを両手に搭載し、かつ中身を崩さないように走らなければならない自分。

 当然、追いつけるわけもない。否、追いつけるだろうが買ったものが悲惨なことになる。

 

 

「はぁ……とミサカはどうしようもなくため息をつき、できるだけ早足で美琴嬢を追うことにいたします。の前に、しかるべき処置を取るために連絡を……」

 

 

 

 

 

「なんで佐天さんと初春さんが当然のようにいるの!? そして黒子! 離れ、なさい!」

 

「「ご招待されました!」」

「アアンお姉様! 黒子のもとに駆けつけてくださるなんてッ! 黒子は……黒子は!」

 

 

 直立不動で敬礼する頭に花畑を咲かせる初春 飾利と元気良く挙手する佐天 涙子。

 

 そして、精神科医に連絡を取ろうか本気で悩ませる顔で美琴に迫る白井 黒子。

 

 

「お待たせして申し訳ありません、佐天さん、初春さん。……そしていらっしゃいませ、白井さん。とミサカは挨拶もそこそこに御二人の邪魔をしないようにコソコソと調理場に逃げ込みます」

「逃げるな助けてお願いだから!」

 

 結構……いやかなり際どいのか涙目である。黒子に至っては舌を高速で……もはや、彼女については何も語るまい。

 お得意の電撃で、とも考えたが必死の懇願を無視し続けるのも居たたまれない――というより電撃で他の2人に怪我や、家電の類を破壊されても困る。

 

 

「やれやれ、とミサカはつぶやきつつ」

 

 

 抜き足にて黒子の背後を取り、流れる動作でその首をホールド。

 

「――常盤台寮監直伝の意識刈りを行います」

 

 

 おおよそ人体からさせてはいけない鈍い音とともに――ジャッジメントのエースを瞬殺するのであった。

 少々怖いほどに手足をグッタリと下ろす黒子ではあるが、部外者を決め込んでいる少女2人はお茶を飲んでいる……どうやら見慣れた光景らしい。

 

「……色々と問いただしたい単語がいくつか聞こえたけど、とりあえずアリガト……」

「いえいえ、とその前に美琴さん、とミサカはふと思い出した懸念事項を問います」

「な、なによ……」

 

 

 真剣な視線。相変わらずの無表情ではあるが、まっすぐ逸らされない視線に思わずドキリとする美琴。

 

 

「寮への夜間外出の連絡は、したのでしょうか」

 

 高鳴った鼓動が一瞬にして凍りつく。

 時刻はもうすぐ夕食時。季節ゆえにまだ日はあるが――それは、なんの慰めにもならないだろう。さー、と擬音が聞こえるほどに目に見えて顔から血の気が引いていく少女が、学園都市最強の1人とは誰が思おうか。

 

「どどどどどどうしよう……『二度目はない』ってこの前言われたばっかなのに……」

「とりあえず、ミサカはお腹空いたーと目で訴えてくる御二人のために腕まくりをしつつ調理場という名の戦場へと向かいます」

 

「いやぁ、半分くらい冗談で言ったのがまさか本当になるとはねぇ~。よくやった先週のアタシ!」

 

 ニャハハとネコ笑いする佐天 涙子。隣の初春も楽しみなのか目がキラキッラと輝いている。

 

「今日の私はリミッター解除です! ……お昼を少なめにしたのでとってもお腹が空きました……」

 

「佐天さんも初春さんも他人事!?」

「「私達門限ありませんし?」」

 

 

 なんとも薄情である。

 しばらくしてなんとも食欲をそそる香りが漂いだした室内で、ようやく落ち着いた――否、諦めた美琴がorzの体勢のまま携帯をとりだす。コールするのは、当然寮の固定電話。

 

「うぅ……とりあえず、寮監に電話だけでもしよう……あとは煮るなり焼くなりどうにでもなれ……」

 

 1コール。2コール。……なんとも言えない間が辛い。

 

『はい、こちら常盤台中学女子寮ですが』

「あ、あの、御坂……です」

『ああ、御坂か……どうした? なにか問題でも起こったのか?』

 

 

 あれ、と疑問符を上げる美琴。夜間外出届けの時間どころかその門限でさえとうに過ぎており、予想していた(鬼の)寮監の反応ではない。むしろなにやら心配されている様子。

 

「えっと……夜間外出の件なんですけど……?」

『ああ、その話か……それならば先ほど深音君から連絡を受けている。いつもどおり苦笑してしまうほど丁寧な言葉でな。本来ならば本人からの連絡でなければ了承はしないんだが! 『提出時間前に本人に頼まれていた』らしいのでな……今回だけは大目に見てやろう。深音君に感謝するといい。あまり羽目を外し過ぎるなよ』

 

 その言葉を聴いて、ヘナヘナと脱力する美琴を横目に、鍋を振る深音と呼ばれた少年。

 

 

 

「……抜かりはありません、とミサカはできる男の笑みを浮かべます」

 

 

 

 御坂 深音(ミオト)。超電磁砲こと御坂 美琴の『兄』にして、電撃使いのレベル4(大能力者)。

 

『ああ、それと御坂。白井が何処にいるのか、知らないか?』

「へ?」

『……奴の外出届は出ていないんだが……まあいい。近くにいたら今日明日は寝ずの反省文と奉仕労働だと伝えておいてくれ。ではな』

 

 電話後の機械音が、祝福の鐘の音に聞こえたのはこれが最初だった、とは美琴の後日談である。

 逆に、地獄への門が開く音に聞こえたのもいたわけで。

 

「…………」ガタガタブルブル

「……まぁ、がんばんなさい?」

 

 

 

「不幸ですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 ……普通とはだいぶ違う、そんな兄妹のたまにある一日でした。

 

 

 

<おまけ>

 

「……で、なんでアンタはあの子たちのマネをしてるわけ?」

「すっげえ今更ですね。いえ、今回自分達の出番がない! と力説された上にせめて口調などで出演したいと脅s……懇願されました。何度か言いそびれそうになったときに背筋がゾゾゾっと。無表情なのも苦労しました。美琴さんに何度か噴出し……いえ、なんでもありませんヨ?」




感想など、微生物なみの心臓をバクバクさせながらお待ちしております。

さー……後に引けなくなったぞ私ー……。

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