正直ここまで伸びるとは思いませんでした。
サブタイ通りに早足で進んでいきますが、よろしくお願いします。
「うわ」
「…」
対人戦闘訓練の翌朝。目が覚めた僕の隣には、眉間に皺を寄らせながら殺気を放つ赤ん坊、ヴィノーがいた。
「どうしたんだ?ヴィノー」
「…てめぇ、マジにヒーローになんのか?」
「まあ、それも視野には入れているけど…それがどうした?」
「いや、なる事は悪いとは思わねぇ。…だが」
朝一番から普段見せることのない雰囲気を醸し出し、しかも口調とトーンまで真剣なヴィノーは久しく見ていない。
「今のままじゃ、てめぇと周りを滅ぼすぞ」
とうの昔に分かりきっている、当たり前のことを言い出した。…全く。
「そんなこと、僕が一番知ってるよ。皆に僕がどんなことをしてきたかはまだ言っていない。趣味も、どの辺に住んでいるかも、家族構成も、何もかもね」
「知らせてんのは名前と個性、んで成績ぐらい、か?」
「あぁ。入り込んで欲しい訳でも、欲しくない訳でもないが、勝手に絶望されても困るからね」
「じゃあ、それでも絶望しねぇ奴はどうすんだ?」
「良好な関係を築けるとは思うよ」
勝手に好いてきて、勝手に突き放す奴程身勝手な奴は居ないだろう。何様だと、僕はお前の価値を高めるための道具ではないと思いたくなる。…そう考えたら爆豪はまだマシな方なのか?突き放す割には自分の中で評価はする。…うん、あの性格を除けば割と良い方なのかもしれない。
運良く、そんな奴とはあまり知り合わなかったが、1-Aのクラスメイト達がそれに当てはまらないか。それをヴィノーは心配しているのだろう。
「心配する必要は無いよ、ヴィノー。離れるにせよ離れないにせよ、いずれ皆の前で全力を出す時がくるだろう。その時まで待つだけだ」
「まあてめぇには、そいつらが居なくともあいつらが居るからな」
「それもあるが、今の環境が楽しいっていうのは本音だけどね」
「…変わったな」
「そうかい?」
先程までの重い雰囲気はどこへやら、ヴィノーは柔らかく微笑んだ。そうしていれば、普通の赤ん坊なのに。
◇
「あっ、お、おはよう!白本君!」
「おはよう、緑谷君。元気そうで何よりだよ」
「元気っていうか、まだマシっていうか…その、うん!何とか動けるよ!」
「大丈夫なのかい?それは」
そんな朝の登校時間、僕はたまたま緑谷君に出会った。
昨日の対人戦闘訓練での負傷がまだ治りきっていないその右腕は、包帯に吊られていた。
「それにしても驚いたよ!まさか白本君の個性があんなに強いなんて…」
「オールマイト先生から聞いたのかい?」
「うんっ。…消滅、凄いね!」
「緑谷君の超パワーもね」
「い、いや…僕なんてまだ全然で…」
両手をバタバタと交差させながら、緑谷君は否定する。
確かに、使う度に身体がボロボロになるのはまだまだだとは思うが、あのパワーのことも考えれば、全然という訳ではないだろう。
2人とも雄英まで徒歩ということでそこからもしばらく話しながら歩いていると、雄英の門の前に、大きな人集りを見つけた。
「なんだろう、アレ」
「さあ…でも、あそこに固まられてたら邪魔なんだけどね」
何やら、大型のカメラやマイク等を持った人達のようだ。…もしかして、マスコミ?
そんなことを考えていたら、その中の1人の女性と目が合った。
「あっ!いた!雄英男子生徒2人!」
彼女のその言葉と共に、他の人達がぐるん、と首を回してこちらを見る。
地響きが起こるほどの人数がこちらへ駆けてくる。
「あの!」
手持ちタイプのマイクを向けられ、何を聞かれるのか。そう身構えた時だった。
「オールマイトの授業って、どんな感じですか!?」
やはりあの人は色んな意味でも『象徴』なのだろうと、改めて実感させられた。
ヒーロー科の教師になっただけでこの騒ぎか…。警察沙汰でもおかしくないんじゃないか?
「え!?あ…すいません、僕保健室行かなきゃいけなくて」
「僕はその付き添いです。ほら、彼の右手。来る途中に盛大に転んで、制服破るぐらいの怪我をしてしまったんです。傷は浅いですが、その分広いですので早めにして頂ければ…」
「ほ、ほんとね…。ごめんなさいね」
「いえ。…まあただ一つ言えるのは、不器用ながらも僕達のことを考えてくださる、良い先生ってことですね」
緑谷君の真実に、僕の嘘を絡ませる。これで引かなければ、マスコミとして以前に大人として、人間として終わっている。同業者に有らぬことを書かれないためにも、素直に引き下がってもらう。
それと同時に、僕達やオールマイトも有らぬことを書かれないように、最低限のコメントは残しておく。
咄嗟の判断にしては、上出来だろう。
◇ ◇
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させて貰った」
そのマスコミの対応に追われていたのか、今朝の相澤先生はどこか疲れているように見えた。
だが、そんなものは雰囲気だけだと言わんばかりに、物事を合理的に進めようとするのはいつも通りだった。
「爆豪、お前もうガキみてぇな真似するな。能力はあるんだから」
「…わかってるっ」
「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か。…何度も同じことは言わせるなよ。制御と操作、使いこなせるようになったら、増強系ってのは出来ることが大幅に増える」
「っ、はい!」
「んで、最後に白本」
爆豪と緑谷君。その2人に関しては、昨日オールマイトからも散々言われていたので、何となく小言がある気はしていたが、まさか僕にもあろうとは。
周りもそんなことを感じたようで、僕の方を数名が見ている。やめてくれ、照れる。
「最低限の威力まで抑え込むのは結構だが、『個性』を人に向けんのを恐れるなよ。即席コンビを組むことになる時もある。その時に人が多いからできません、なんて甘えたこと言わないように」
「はい。分かりました」
本当に、相澤先生は痛い所を突いてくる。確かに昨日の戦闘訓練では、僕は八百万さんにも峰田君に向けても個性は使わなかった。そこまで見られているのか…。
「さて、HRの本題だ。急で悪いが今日は君らに…」
本題、急、そして高校一年生でしていないことといえば。
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!!」
うん、まあそうだろう。というより、学級委員長だけで良いのか?他の委員会とかは…。
「委員長!やりたいですソレ俺!」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!」
「僕の為にあるヤツ☆」
「リーダー!やるやるー!」
「やらせろォ!!」
数人が思い思いに言葉にし、ほぼ全員が挙手。
途中、飯田君が投票制度を提案した結果―
「…え?」
緑谷君と八百万さんが3票ずつで、トップとなった。が、なぜその下に僕がいるんだ…、自分には入れてないのに…。
「なんでデクに…!誰が…!」
「まーおめぇに入るよか分かるけどな!」
瀬呂君と全く同意見だ。マニフェストに『俺の踏み台になれモブ共』等と書きそう…、というより、書くだろうお前なら。主に緑谷君に向けて。
「0票…分かってはいた!流石に聖職といったところか…!」
「他に入れたのね…」
「お前もやりたがってたのに…何がしたいんだ飯田…」
地に両手両足を付け、飯田君が嘆く。自分で立候補しつつ、投票制度を提案しつつも、自分が『正しい』と思った人に投票したのか。
「じゃ、委員長緑谷、副委員長八百万だ」
「うーん悔しい…」
「ママママジでマジでか…!」
皆が皆、立候補するものだから時間がかかると思っていたが、そこは流石の担任相澤先生。一瞬で終わらせた。
まあ、この2人ならどう転んでも悪くはならないだろう。…爆豪がキレた時にどう止めるのかは分からないけど…。
◇ ◇ ◇
「そういや今日は弁当だったな…」
「おっ、白本弁当か。一緒に食べようぜ」
「あぁ、良いよ。僕の分も食べてくれるならね」
「…どういうことだ?」
僕の呟きに、力道と轟君が反応した。
昨日は学食で昼食を食べたのだが、今日は弁当。朝の学級委員長の件や慣れない授業で忘れていた。
「量が多いんだよ。腐ったらダメだと思って、昨日の残りを全部持ってきたんだ」
「なるほど、残り物か」
「そうなるね。まあ自分で作った物だし、無駄にするのも嫌だからね」
『…え?』
今度は、僕のその一言に教室に残っていた大半の人間が反応した。
雄英高校では、昼食を食堂か教室で食べることができる。まあそれ以外の場所もあるが、基本はその2つ。新しく始まった高校生活で、変わった場所で食べる者もそうは居ないので、1-Aはその2つに分かれているのだ。
その1つ、教室にいる数人から声が上がったのだ。
「白本、自分で作ってきたのか?」
「え?…その事で驚いていたのかい?」
「まあ、そりゃそうでしょ。自分で弁当作ってる男子高校生なんてそうは居ないし」
「ってか料理出来んだな、白本」
「座るぜ」と、僕の席に上鳴、そして耳郎さん、前にいる力道が椅子を持ってきて弁当を広げた。
「あぁ。子どもも居るからね」
「へぇ、弟か妹?」
「外国で拾ってきた捨て子だよ」
「ツッコミどころが多い!?」
早速食べ始めている力道を尻目に、耳郎さんと上鳴が質問やらを飛ばしてくる。…うん、まあヴィノーについてはそういう反応になるのは分かってたけど。
「どこだったかな…アメリカ、いや、ヨーロッパ?とりあえず、その辺に行った時に出会ったんだ」
「今までどんなとこ行ってきたの?」
「…座るかい?芦戸さん」
「うん!」
「私もいいかしら、白本ちゃん」
「どうぞ」
「俺も良いか?」
「もちろんだよ、尾白」
1クラス20人の中で見れば、一時的だが大所帯が完成した。うーむ、視線が凄い。
「行った所と言えば、アメリカ、フランス、イギリス、イタリア、南アフリカ、中国、フィンランド…ぐらいかな」
「ぐらいかな、で済む量じゃないよね!?」
「ケロ。中学校にはちゃんと通えていたのかしら?」
「それは―」
ウゥ〜!
蛙吹さんの質問に答えようとしたその時、大音量でサイレンが鳴り響いた。なんだ?火事か地震?
なんて考えていると、すぐさまアナウンスが流れた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難して下さい』
「うるさいな。昼食ぐらい静かに食べさせてほしいんだけど」
「言ってる場合か!明らかヤベェだろ!?」
「そうでもないさ」
焦る上鳴と困惑するクラスメイト達に、一応窓の外を指差して状況を教える。
その先では、押し寄せ、大群と化したマスコミ達が雄英高校敷地内を這いずっていた。
「オールマイトの騒ぎから、マスコミが騒ぎ出したんだ。あそこまでいったら警察が来るだろう」
「…え、マスコミ?」
「ケロッ、よく気づいたわね。白本ちゃん」
「昼休み前でも、校門から騒ぎ声が聞こえてたからね。ボーッと見ていただけさ」
その後、警察が到着してマスコミは撤退した。
そして午後の授業の初め、他の委員を決める時に、学級委員長が緑谷君から飯田君に変わった。
何でも、食堂で率先して避難誘導をしていたらしく、緑谷君曰く『飯田君が正しい』そうだ。
副委員長のままの八百万さんは少し不機嫌そうな顔をしていたが、一件落着だろう。
ちなみに、僕は爆豪と峰田君以外からの推薦で風紀委員に決まった。峰田君は『オイラの邪魔になる』と血走った眼で風紀委員に立候補していたが、誰1人として彼に投票しなかった。
頑張るよ、と言った途端に全員の肩が震えたのが少しだけ気になった。
◇ ◇ ◇ ◇
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」
その翌日、水曜日の午後。教室に入ってきた相澤先生が間を置かずにそう言った。なった、ということは今までは1人か2人ってことか?
「ハーイ!なにするんですか!?」
「災害水難なんでもござれ、
瀬呂君の質問に直ぐに答える相澤先生。
人命救助かぁ…対人戦闘訓練に次いで苦手かもしれない。お前何が出来るんだよ、とは言われそうだが、正直消すこととしか言いようがない。
「今回コスチュームの着用は各自の判断に任せる。中には活動を限定するものもあるだろうからな。訓練場まではバスに乗っていく。以上、準備開始」
救助訓練か。まあ動きやすさも考えて、この前の方のコスチュームで良いだろう。
先日の対人戦闘訓練でコスチュームの修繕が必要になった緑谷君以外が各自のコスチュームを着て、雄英内にあるバス停で並ぶ。
そこに来たのは、夜間バスのような大型バスではなく、半分より手前が向かい合うような座席、奥が2席ずつ2列というバスだった。
その中で話題に上がったのが―
「あなたの個性、オールマイトに似てる」
やはりというか、個性だった。考えてみれば、教室よりも狭くて距離も近い閉鎖空間にクラス全員が入るのは初めてではないだろうか。
そんな会話の中で、緑谷君にそう切り出したのは蛙吹さん、もとい梅雨ちゃんだった。名前で読んでほしいそうだ。
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ?似て非なるってヤツだぜ」
梅雨ちゃんにそう返したのは、緑谷君ではなく鋭児郎。
会話を盛り上げようとしているのか、相手の個性の評価をしつつ、自分の個性の説明に入る。その流れに乗って、周りにいるクラスメイト達も話し始める。
「派手で強えっつったら、やっぱ爆豪と轟、んで零だろ」
「え?」
「ア?」
鋭児郎から出た3人の中に、なぜか僕が入っていた。…派手、か?確かに瓦礫が崩れ落ちるのは派手だけど、それすら消した時はショボイなんてもんじゃないけど…。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだと出すわコラ!ってかコイツらと一括りにすんな!」
「そうそう。爆豪の方が応用が効くんだから」
「ったりめーだクソが!」
褒めたのになぜキレられたのか。
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!」
上鳴の的確に的を射ている…のか分かりにくい例えに、またも爆豪がキレる。こいつがキレない時なんてあるのだろうか、という程にキレてるな。
「もう着くぞ。いい加減にしろ…」
「はいっ!」
流石に騒ぎすぎたからか、一番前に座る相澤先生から注意の言葉が飛んだ。なぜあの声量でバスの1番後ろまで声が届くのだろうか。うーむ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「水難事故、土砂災害、火事、etc…。あらゆる事故や災害を想定して、僕が作った演習場。
着いた場所は、まるで遊園地のような場所だった。なぜ名称も被せたのかは、ここを管理している13号先生しか分からないだろう。
「えー、では演習を始める前にお小言を一つ、二つ…三つ四つ…」
増えるな。でもまあ、初めての人命救助訓練だ。言うことも色々あるのだろう。
このUSJの中にいるのは、相澤先生と僕ら、そして13号先生の計23人。その内のほぼ全員が、救助経験など無いのだから。
「僕の個性はブラックホール。ありとあらゆるものを吸い込み、チリにします。使い方次第で人を救うことも出来ますが、一歩間違えれば簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう。しかし!この訓練では心機一転!今までの対人戦闘ではなく、どう活用すれば人命のためになるのか、それを学んでいきましょう!」
そう僕らに言い聞かせる13号先生は、まさにヒーローであり教師そのものだった。…僕も、将来このように…。
「っ、全員一塊になって動くな!!」
僕も含め、皆が13号先生の話に感銘を受けていたその時。普段からは想像が出来ないような大声を、相澤先生が上げた。
「13号!生徒を守れ!
相澤先生の視線の先にある、USJの中心にある噴水。そこに突如として現れた黒い靄のようなものから、多くの大人が這い出ている。
そしてそれを相澤先生は敵だといった。
「13号、生徒の避難を頼む。センサー系もやられてると見ていい。上鳴、お前も個性での連絡を試してみろ」
「…っス!」
ほとんどの人間が状況把握も儘ならない状態で、13号先生と相澤先生の指示により僕達の避難が始まろうとしていた。
僕達に指示を出した後、まるで落ちるように階段を駆け下りていく相澤先生。広場にいる異形型や発動型を、近接戦闘で薙ぎ倒していく。
そんな時だった。
「では、私はここであなた達の相手をしましょうか…」
僕達の前に、黒い靄が現れたのは。恐らく、相澤先生の瞬きの隙を突いたのだろう。
「我々は敵連合。この度雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
靄のセリフと共に、爆豪と鋭児郎が攻撃を仕掛けた。
あまりダメージを与えられたようにも見えない敵は、不敵に笑う。
くそっ…、2人が近すぎて攻撃出来ない…。
「危ない危ない…、生徒とはいえ、優秀な金の卵」
靄の身体から、同じようなモノが拡散する。
「散らして」
「皆っ、集まれ!」
いち早く奴が何をするか察することが出来た僕は、複数人を守る体制に入る。
しかし、何をされるのか分からない方が多く、大半が動けないままだった。このままではほんの数人しか守れない。
「嬲り」
「バ・スプリフォ」
だが、近くに居た者だけでも、靄から防ぐ。それが今僕に出来ることだった。
「殺す」
靄が晴れた時、僕の周りからは約半数を超えるクラスメイトが居なくなっていた。
「ほう、面白い個性の生徒がいるようだ」
「…いきなりなんだい?嬲り殺す、という割には蚊にも劣るような攻撃だが」
「期待していたのなら申し訳ない。何しろ、私はあまり殺傷能力が高くないものでね…」
「へぇ…。まあ、敵には変わりないんだろう?…なら」
靄の懐まで一気に接近する。
「速いっ…!」
「こうするだけだ。テオ・ラディス」
直撃すれば一撃で数十人を葬れる程の消滅波を、右掌から放つ。
「ぐぅっ…、なかなか、素晴らしい個性だ…」
「なるほどね、ワープか。いい個性だ。でも、僕には敵わない」
皆が散り散りになったこと、そして僕の個性が効かなかったことから想像できるこいつの個性は、『ワープ』系の物だろう。
「白本くん!いけません、僕が戦います!」
「先生?」
背後からの13号先生の声に、振り向いてしまった。
視線の先には、戸惑うクラスメイト数人と、僕に向かって手を伸ばす13号先生がいた。
「13号…もう少し、生徒を信用してあげるべきだ」
「何を…!」
焦りを孕んだ13号先生の声に一瞬意識を取られた瞬間、僕の視界が暗転した。
開けた視界の先にいたのは。
「白本っ!?」
「尾白?」
多数の敵に囲まれながら、1人奮闘していた尾白だった。
宙から放り出された形になりながら、思案する。
どうやら、尾白はこの1人火災エリアで戦っているようだ。それも、まだ飛ばされて時間が経っていない。…ということは、まだ隠れている敵がいるということだ。
「ラージア・ラディス」
「うおっ!」
「んだアレ!」
尾白が居ない方の建物や瓦礫を、落ちながら消し去る。
火は愚か、倒壊したビル、散らばった瓦礫などが一瞬にして更地に変わる。
その更地の上に、両足でしっかりと着地する。
「やあ。無事そうで何よりだよ」
「助けが来てくれたのは嬉しいけど、敵だからって消し飛ばすのは…」
「言える場合かい?今の僕達は被害者。そして、ここは個性を使える場所。時と場合を考えても、一切罪には問われない」
「まあそうだけど、俺に出来るかどうか…」
「大丈夫だよ。いざとなったら、僕が助けるさ」
「頼もしい限りだ、よ!」
着地した僕の背後を守るように構える尾白。2対多ではこの形が良いのかどうかなど分かりはしないが、互いの背後を守れているので良しとする。
尾白の得意分野は個性の尻尾を使った近接戦闘。なら、僕とタッグを組んで戦うよりも別々で戦った方が良いだろう。
僕達が話をしている最中に攻めてきたのであろう敵に尾白が攻撃した音が聞こえた。きっと、語尾の強調と共にしたのだろう。
僕の方も、そろそろやるか。…と言っても。
「死ねや糞ガキがァ!」
「ぶっ殺す!」
「ヒャッハァー!」
ただの有象無象に向け、中級技を放つだけなのだが。
「テオ・ラディス」
大気やらその他諸々が消え去る僅かな音のみを発生させ、僕の右手のひらから圧縮された消滅波を放つ。範囲こそラージア・ラディスには劣るが、消滅波自体の破壊力はこちらの方が圧倒的に高い。
「終わったよ、尾白」
「早いな!でも、俺の方も、もう、終わる!」
セリフの区切りと共に、尾白の重い一撃が敵達を沈める。
流れるように叩き込まれた一撃は、その音を聞くだけでも威力が伝わる程だった。
「凄いね」
「白本の早さには及ばないよ」
「それはまあ、ジャンルが違うからだろう?」
「そうかもしれないけどさ…」
尻尾と全身から力を抜き、リラックスした様子でこちらに歩いてくる尾白。その顔には、安堵はあるものの、どこかやはり緊張した面持ちがあった。
「白本、俺はすぐ飛ばされたから良くは分かってないんだけど、何か特にやばそうなものとか無かったか?」
「パッと見たところ、大した奴は居なかったよ。ただ、黒くてデカい奴が少しだけ気になるぐらいかな」
「…そいつは、どこに?」
「中央広場。恐らく、相澤先生が戦ってると思う。…行くかい?」
「一応、な。てか帰るためにはその広場通らないとダメだし」
「それもそうだね」
最後に火災エリア全域をラージア・ラディスで鎮火し、僕と尾白は中央広場へと足を向けた。
何故か焦る気持ちが、僕達の脚を速めた。
原作12巻まででオリ主が全力で戦える機会がほぼ無い件について。作者の頭の中では、8〜11巻辺りで色々と、という案が出ている程度です…。