望まぬモノ   作:チャリ丸

5 / 12
サブタイ通り(授業)だけどサブタイ通りじゃない(やってる内容)

1万近くを数日で書き上げれた自分を褒めたい。

4巻から12巻と小説版2冊買ったから読むんだ…。

盛大に誤字をしていた所がありましたので、修正しました。


最初の最初の第一歩

「わーたーしーがー!!」

「来っ」

「え、マジで!?」

 

個性把握テストの翌日。午前の内に必修科目や英語などといった普通の科目を終わらせ、昼食を摂った午後。

初めてのヒーロー基礎学。ヒーローとしての素地を形成していくための、ヒーローになるためには必須となる課目をこれから受ける。その担当が、迫力のある声の持ち主―

 

「普通にドアから来た!!」

 

平和の象徴、オールマイトなのだ。…やっぱり、僕と同じ日本人だとは思えない。まさかとは思うが、実は日本語の上手い外国人なのか?

 

「オールマイトだ!すげぇ、本当に先生やってるんだ!」

「銀時代のコスチュームだ…!」

「画風違いすぎて鳥肌が…」

 

皆が騒ぎ出すが、まあ驚くのも無理はない。何せ、現在日本で最強とも言えるヒーローが、自分達にその基礎を教えてくれるのだ。滅多に、いや、ほぼ奇跡と言っても過言ではないだろう。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目であり、単位数も最も多いぞ!早速だが今日はコレ!」

 

そう言って、オールマイトが力を溜めるポーズから、僕達に突き出したプレートには『BATTLE』の文字が。…ほう。

 

「戦闘訓練!!」

「戦闘…訓練…!」

 

爆豪の方から、嬉しさを押し殺したかのような声が聞こえる。…その声、ヒーロー志望が出していいような声じゃないと思うんだが。

 

「そして、そいつに伴い…こちら!」

 

オールマイトの声と共に、教室の左前方の壁から、各自の出席番号が書かれたロッカーのような物が迫り出す。

 

「入学前に送ってもらった「個性届け」と「要望」に沿ってあつらえた戦闘服!着替えたら、順次グラウンド・βに集まるんだ!」

「はーい!」

 

爆豪だけかと思いきや、皆も嬉しそう、というよりも楽しそうな声を出した。まあ、テレビで見るプロヒーロー達のようなド派手なコスチュームを要望として出したのなら、楽しみだろう。

僕も一応、二種類(・・・)作ってもらってはいるが、今日は地味な方で良いだろう。

 

 

カツリ、ガコン、ドルンと、それぞれの個性に合わせたコスチュームが様々な音を立てながら、グラウンド・βへと向かう。

 

「さあ、始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!」

 

視界が開けた先に待っていたのは、相変わらずだだっ広い敷地とオールマイト。見回せば、僕以外のコスチュームはそれなりにカッコよく、個性に合わせた物となっている。

 

「お、おい零。お前のそれ、コスチュームなのか?」

「あぁ。個性の発動に邪魔なものを除いた結果さ。それに、動きやすい方が楽なんだ」

「そうか…」

 

全身を、数世紀前のプロレスラーのような格好に包んだ力道が話しかけてくる。まあ、僕の格好を見てヒーローだとは分からないだろう。

白のタンクトップに、紺のジーンズ。そして、ただのスニーカー。

それが、僕が学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれるというシステム―被服控除―で頼んだ物だった。

 

「ヒーローっぽくは無いけど、普通に機能としては優秀だよ。エネルギーを内からは通し、外からは減少させる素材をメインに全て作ってもらっているんだ」

「そういうことか」

 

バ・スプリフォやバ・ランズラディス等の発動に邪魔にならないようにしている。後は、他に無駄なものが必要ない、というのが本音だ。

 

「良いじゃないか皆、…か、カッコイイぜ!」

 

そう言うオールマイトだったが、一瞬僕の方を見て吹きかけたのは突っ込まない方が良いのだろうか。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

「いいや!もう二歩先に踏み込む!」

 

声から判断するに、飯田君がオールマイトに質問をする。ああ、どこかで見た事があると思ったら、入試の時のところか。

 

「屋内での対人戦闘(・・・・)訓練さ!今時の凶悪敵は、屋外ではなく屋内に潜んでいる確率の方が高いんだ。そこで、君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれ、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

対人戦闘…いきなり、か。僕が、最も苦手としている物だ。

 

「…けれども。皆、このクラスに特特待生がいる、ということは知っているかい?」

 

オールマイトがその言葉を放った瞬間、全員が僕の方を見た。おい爆豪、舌打ちするな。

 

「…知っているみたいだね。ということで、白本少年以外の皆で、一旦2人組を作ってもらうよ!その組のどれかに、追加で入ってもらうからね!」

「はい」

 

つまり、ランダムでどこかが2対3になるという訳か。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」

「分かれ方とはどのようにすればよろしいですか?」

「このマント、ヤバくない?」

「んんん〜、聖徳太子ィ!」

 

僕の話が終わった瞬間、八百万さん、爆豪、ショートボブの女子、飯田君、キラキラした男子が一気に喋り出した。

最初こそ言葉に詰まりかけていたオールマイトだったが、話す順番が決まったのだろうか、再び話し始めた。…カンペを持ちながら。

 

「いいかい!?状況設定は「敵」がアジトに核兵器を隠し持っていて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている!「ヒーロー」は制限時間内に「敵」を捕まえるか核兵器を回収する事。「敵」は制限時間まで核兵器を守るか「ヒーロー」を捕まえる事が勝利の条件になってるよ!そして、コンビ及び対戦相手は、くじだ!」

「適当なのですか!?」

 

何とも、現代においてありえそうでありえなさそうな状況設定だが、何も無い更地で殴り合うよりかは、即興のコンビネーションや状況把握、判断能力を問える良い設定だろう。

飯田君も、僕の考えと同じようなことを言った緑谷君の考えに賛同し、オールマイトの準備していたくじを引いた。

 

くじの分かれ方は、僕の前まででこうなった。

 

A:緑谷出久&麗日お茶子

B:轟焦凍&障子目蔵

C:峰田実&八百万百

D:飯田天哉&爆豪勝己

E:芦戸三奈&青山優雅

F:砂藤力道&口田甲司

G:耳郎響香&上鳴電気

H:蛙吹梅雨&常闇踏陰

I:尾白猿尾&葉隠透

J:切島鋭児郎&瀬呂範太

 

ここの内、どこかに僕が入る。Dだけは絶対に嫌だ。

 

「来んなよクソが…!」

 

くじの箱に手を突っ込む僕の背後から、爆豪の呪詛が聞こえる。僕だって同じさ。

箱の中には10個のボールが、それぞれA〜Jまでのアルファベットが書かれており、その組に僕が入るのだ。

箱の中で適当に手を動かし、掴んだボールを取り出す。

 

「…J、です」

「うむ。ならば、瀬呂少年と切島少年のところだな!」

 

鋭児郎のところか。それと、瀬呂君は確か肘からセロハンテープのような物を出せる個性、だったか?

 

「では続いて、最初の対戦相手は…こいつらだ!」

 

オールマイトが『HERO』、『VILLAIN』と書かれた箱のそれぞれから、AとDの玉を取り出した。…あ。

 

「Aコンビがヒーロー!Dコンビか敵だ!」

 

緑谷君、頑張れ。

 

◇ ◇

 

屋内対人戦闘訓練、開始

 

爆豪と飯田君が核兵器を守るビルの地下、多くのモニターがある部屋に、残った僕達とオールマイトはいた。

 

「さあ、君たちも考えて見るんだぞ」

 

確かに、敵の行動も、それに対するヒーローの行動も、卵とはいえこんなにはっきりと見れる機会なんてそうはないだろう。

 

「いきなり奇襲!」

 

頭にブドウのような物を付けた、峰田君が、モニターに映る爆豪を見て声を上げた。

そして、緑谷くんと麗日さんの死角から飛び出した爆豪は、躊躇いなくその右手を振るい、ビルの壁を爆破した。

 

「やっぱり、みみっちいな爆豪。個性のことを黙っていただけでキレすぎだろう」

「…やっぱ、緑谷って爆豪に喋ってなかったのか?」

「爆豪だけじゃなく、僕にも、多分他の人にもね」

「へぇ、何でだろうな。あんなすげぇ個性なのに」

「緑谷君には緑谷君の事情があるんだろう、きっと」

 

力道と会話をしながら、モニターを見る。麗日さんがビルの散策に当たる時間を、緑谷君が爆豪を引きつける事で稼ぐようだ。

 

「っ、と。危ないな」

「うぉい!先生!爆豪のやつ相当クレイジーだぜ!殺しちまうって」

 

麗日さんが飯田君のいる部屋に入って数秒後、ビルが大きく揺れた。そのモニターを見ていなかったが、おそらく爆豪が大技を放ったのだろう。

 

「爆豪少年、次それ撃ったら…強制終了で君らの負けとする。屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く!ヒーローとしてはもちろん、敵としても愚策だそれは!大幅減点だからな!」

 

なぜだ。爆豪に言われているはずなのに僕の心に思いっきり突き刺さるんだが。

その後、オールマイトのその忠告を聞いた爆豪は緑谷君との肉弾戦に持ち込んだ。急に戦法を変えたにも関わらず、咄嗟の判断で攻撃を当ててくるあたり、あいつの戦闘センスの高さは確かな物なのだろう。

だが、これは2対2だ。1対1×2ではない。

 

「うぉわ!今度はなんだ!?」

「今の衝撃、緑くんの!?」

 

上鳴と芦戸さんが驚いた声を出す。他の面々も、地に膝をつく者はいないが、ふらついている者は相当数いた。

 

「っ、今ので決まったみたいだ。ヒーローチーム、WIIIIN!」

 

緑谷君が爆豪からの攻撃を受けつつ、空振りしたアッパーは天井を突き抜け、麗日さんと飯田君のいるフロアの床を破壊した。

そして、『個性』で柱を軽くした麗日さんがそれらの瓦礫を飯田君の方に打ち、怯んでいる間に核兵器にタッチ。勝者、Aチームとなった。

 

「ではでは、私は4人を迎えに行ってくるよ!戻ってきしだい、講評を開始するからね。各自今の訓練のどこが良くて、どこが悪いか考えておくように!」

 

そう言って、オールマイトは足早にモニタールームを出た。

 

◇ ◇ ◇

 

その後、麗日さん、飯田君、爆豪が戻ってきてから講評が始まった。重傷の緑谷君は保健室に送られたらしい。

その講評を簡単にまとめると爆豪と緑谷君の私怨による戦闘、そして麗日さんの気の抜けた場面、という比較対象もあってMVPは飯田君になった。本人は涙を堪えながら肩を震わせていたが、そこまで嬉しいものなのか?

 

そして、次の訓練もつつがなく執り行われた。

チームBとチームIの戦闘では轟君の『半冷半燃』の個性が猛威を振るい、一瞬で決着がついた。

チームHとチームFの戦闘では、行動の俊敏性において勝っていたチームHが勝利。

チームEとチームGは、耳郎さんの『個性』による索敵から上鳴の『個性』の連携で、チームEの奮闘虚しく、チームGが勝った。

 

さあ、いよいよだ。

 

「では、最後の訓練だ!チームCとチームJだけど、どっちがヒーローでどっちが敵になるか分からないようにするため、くじで出た方をヒーローとするよ!」

 

何も書かれていない箱に、CとJと書かれた2つのボールを入れ、かき混ぜるオールマイト。取り出したボールに書かれていたのは―

 

「むっ!では、チームCがヒーローチーム!チームJが敵チームだ!」

 

峰田実&八百万百の、チームCだった。ということは、僕と鋭児郎、瀬呂君は敵チームか。

 

敵チームということで、僕達3人は確保テープと小型通信機を身につけ、核兵器のハリボテのある部屋で作戦会議を開くことにした。

 

「おっし。んじゃまずは個性の情報交換からいくか」

 

まず何をするかという議題が出る前に、鋭児郎が個性の開示を求めた。いや、そんな大袈裟なものじゃないけど。

 

「早速俺から。俺の個性は『硬化』、ただガチガチに硬くできるって感じだ」

「俺の個性は『テープ』つって、肘から粘着性のある紐状の物体を出せる。ある程度までは伸ばせるし、引き戻したりもそのままちぎってトラップにもできる。破壊力はねーけど、拘束するなら任せろ!」

 

鋭児郎が『硬化』で、瀬呂君が『テープ』。本来なら、このままでも十分バランスの良いペアだったのだろう。

 

「そういや、零の『個性』って何なんだ?一斉に話せる時に話す、とか言ってたけど」

「あぁ。流石にもう言うさ。オールマイト先生にも、向こうのメンツに話してもらうしね。でも、実践した方が早いかな。『ラディス』」

 

鋭児郎の問に答えるように、壁に向かってエネルギーを放つ。ちょうど人1人ぐらいなら余裕で通れる程の穴が、一瞬にして空いた。

 

「僕の個性は『消滅』。文字通り、物体も個性も、何でも消し去る個性さ」

「マ…ジか」

「な、何でも消せんの?」

「あぁ。少し力を入れれば、このビルを地下ごとぐらいは余裕でね」

 

話した途端、鋭児郎と瀬呂君の頬が引き攣る。耳に付けている小型通信機からも、クラスメイト達の驚く声が聞こえる。オールマイトが付けているのに、そのマイクに声が入るなんてどれだけ騒いでるんだ…。

 

「強烈な個性だな…。けど、その分強い!そんだけ出来ることがハッキリしてたら、かえって作戦も立てやすいだろ!」

「だな!」

「…怖く、無いのか?」

「いやまあ、ぶっちゃけえぐい個性だとは思ったけどよ。使い方次第、だろ?零だって、それを上手く使えてるしよ」

「そうそう。俺だって、近くでは見れてねーけど、その『消滅』で肉体強化を編み出すってことは、相当訓練してんだろ?」

「まあ、ね」

 

正直、驚いたと同時に、ありがたかった。

個性を伝えることで、どんな反応をされるかというのを、内心不安ではいたのだ。ここまでしっかりと肯定されるとは思っていなかった。

 

「…じゃあ、作戦をどうしようか」

「んー、なんかいい案無いか?」

「瀬呂君が個性を使いつつ、索敵。敵に遭遇し次第、鋭児郎に連絡を入れて挟み撃ちってのはどうだい?」

「挟み撃ちか…。男らしくねぇかもしれねぇけど、これも敵の行動を知るためってオールマイトも言ってたしな!」

「おっ、いいんじゃねぇの?…その間、白本は?」

「まあ、万能な八百万さんとあの峰田君だからね。恐らく何とかして逃げ道を作るかもしれない。けど、この訓練にはどこにも逃げられない場所がある」

「まさか…ここか?」

「あぁ。挟み撃ちになってしばらくしたら、瀬呂君はここに戻ってきてくれ。後は、また通信を入れて説明するよ」

 

いつの間にか僕が主体で作戦を立ててしまったが、2人とも反対していないのでこれで良いのだろう。…ふふ、さあ八百万さん。あの時の借りは返してもらうぞ…。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

『くっ、峰田さん!こちらへ!』

『ヒィィ!』

「うおっ。切島のやつ、単騎かよ」

「アレ、でも反対側のちょっと離れたとこに瀬呂いるよ?」

「挟み撃ち…ま、定石だね!」

 

砂藤と耳郎の言葉に、一言で的確な解説をするオールマイト。その視線の先のモニターには、八百万百と峰田実が、どこかに誘導されているように動かされていた。

 

―白本少年、作戦の立案もなかなかに良かったぞ!

 

切島と瀬呂の個性を聞いてからの作戦。それは実に的確なものだった。巻き付けられた時点で敗北となる『確保テープ』に似たものを肘から出す瀬呂。そして、八百万が時間をかけて作った武装でも、ダメージを与えにくい切島。奇襲の形で、狭い通路で迫られた八百万と峰田は、退避の一手を取るしか無かった。

 

『っ、このまま部屋へ!』

『分かってんよぉぉ!』

 

峰田の八百万が、2階へと続く階段を駆け上がる。その彼らを追跡するように、切島も駆け上がってくる。

 

『瀬呂君、3人とは逆回りで戻ってきてくれ。3階は、僕が消した壁から部屋に』

『りょーかい!』

『峰田さん、個性で足止めはできませんの!?』

『ばっちり見られてんのに切島に投げても避けられるだけだって!』

 

着実に作戦を進めていく敵チームと、追い詰められていくヒーローチーム。やはり、人数の差は大きいのだろう。

 

「む?そう言えば、白本君はどこに…」

「あそこだよ飯田少年!ずっと、核兵器のある部屋で待っているのさ!」

 

オールマイトが指差す先のモニターには、1人ジーンズのポケットに片手を突っ込みながら何かを待っている白本がいた。

 

『戻って来たね、瀬呂君』

『おう。…えっ、今なんで分かったんだ?』

『テープが壁にくっつく音と、後は風切り音かな。慣れれば簡単に聞こえるさ』

『…なんか、特特待生の才能の一片を知れた気がするわ』

『そうかい?』

 

2人が話をしている間も、切島は2人を追い続ける。緑谷が状況判断能力に優れ、それを用いて上手く避けていたのとは違い、今の八百万と峰田は何とか時間を稼ぎながら退避しているという状況だった。

 

―まあ、他のヒーローの助けを待つという意味では、間違ってないけどね!

 

『っ!峰田さん!あそこですわ!』

『も、もしかして核の部屋か!?』

 

しばらくして、3階に上がった2人は、背後から来る切島から逃げるように核兵器のハリボテのある部屋へと転がり込んだ。

 

『やあ、待ってたよ。ヒーロー』

 

オールマイトの、そして八百万と峰田の耳に、落ち着きを纏った声が届く。

 

『白本、さん…』

『ヒィ!?な、なんかすげぇ雰囲気…』

 

その部屋にいたのはただ1人。核兵器のハリボテの前に立つ、白本零だった。

 

「…なんか、やべぇ敵の親玉みたいに見えんだけど…」

「奇遇だね上鳴。ウチも、凄いやばいやつに見えてきた…」

『良くぞここまで、鋭児郎の攻撃を退けたね。本来なら、僕が動かずとも捕獲出来ていたかも知れないのに』

 

モニタールームに、上鳴と耳郎の声が小さいながらもよく響く。

他の1-Aのメンバーは、モニターを見ているだけだった。

白本が一歩踏み出すのに合わせて八百万と峰田が一歩下がる。

 

『峰田さん。白本さんが何かを仕掛けてきたら、前に出ますわ。峰田さんは後ろからサポートを』

『わ、分かったけどぉ…』

 

―即興での立案。流石は八百万少女といったところか!峰田少年も、ようやく決心がついたみたいだしね!

Cチームの小型通信機での会話から、ヒーローチームの作戦を知るオールマイト。これで、どのような作戦がぶつかるかを知った。

 

『だが、ここまで来たのなら僕も動こう。少しだけ、ね』

『行きますわ!峰田さん!』

『お、おう!』

 

右手を八百万と峰田の方に向ける白本。最大限まで手加減した『個性』が、その手のひらから放たれる。

 

『ラディス』

『なっ!?き、消えた!?』

『な、何だよその個性!!っ、お゛っ…』

『お前の相手は俺たちだぜ、峰田!』

『挟み撃ちで悪いが、今の俺たちは敵なんだぜぇ!』

『瀬呂に切島ぁ!?』

 

白本が仕掛けようとした瞬間。八百万が白本に接近、峰田が部屋の入り口まで下がった。

白本の放った『個性』は、先程まで八百万がいた足場を消滅させ、無骨な鉄筋を覗かせた。

入り口まで峰田の首に背後から瀬呂のテープが巻き付けられ、通路に引きずり出される。

 

「イイね!相手を待ち伏せた後に、戦力の分断。ヒーローチームでも敵チームでも使える良い作戦だよ!」

 

核兵器のハリボテのある部屋では白本vs八百万が、部屋の前の通路では、切島&瀬呂vs峰田が始まろうとしていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ラディス」

「この…っ!強すぎ、ますわ!」

「そうは言われてもね。…スプリフォ」

 

僕の攻撃を避けながらも、『個性』によって様々な物を創りながら僕に攻撃をしてくる八百万さん。『個性』で出した『物体』ならばラディスでもスプリフォでも消せるのだが、手札の多さを匂わせるためにもスプリフォを使う。

 

「個性を消すなんて…!」

「見て分かっただろう?君と僕の『個性』では、相性が悪すぎる」

「それでも、諦める理由にはなりません!」

 

僕の動きを制限しようとしているのか、縄や紐状の物を創り、投げてくる。

ふむ。しかし、このまま核兵器を守り続けるのも面倒だ。それに、このまま八百万さんとの攻防が長引くのも面白くない。…なら。

 

「安心して攻撃してきなよ。核兵器に傷は付かないからさ」

「元からそのつもりです!」

 

僕の挑発に乗ってか乗らずか、刀を創造した八百万さんは、僕に肉薄してきた。その表情は、どこか先程よりも険しくはない。僕の身体、そして格好と戦闘スタイルから、肉弾戦は弱いと判断したのだろうか。だが。

 

「甘いよ」

 

八百万さんが僕の目の前で刀を振りかぶる。

 

「リア・ウルク」

「えっ…」

 

僕の身体を光が包むと同時に、八百万さんの身体が後ろに倒れてくる。生身で受けれて良かった。リア・ウルクを掛けた状態なら、相澤先生の戦闘術を100%引き出せる。

リア・ウルクで八百万さんの背後に回る。その際に、八百万さんの身体の周りに捕獲テープを散らす。

 

「残念。これで、終わりだ」

 

八百万さんの全身を、捕獲テープで縛る。…やましい気持ちなど、一切ない。…と言ったら嘘になってしまうか。色々と反則だろう、そのスタイルは。縛ったせいで余計やばい事になってるじゃないか。

 

「そっちも、終わったようだね」

「おう!でも、峰田の個性で拳やらに色々くっついちまったけどな」

「ひでぇぞ白本ォ!おいらに2人を当てるなんてよぉ!」

「切島の足元にばら蒔かれたせいで最初苦戦したけど、何とかって感じ?」

「終わりよければ全て良し、さ」

『ヴィランチーム、WIIIIN!』

 

個性把握テストでの借りはきっちり返したよ、八百万さん。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

戦闘訓練終了後、僕は、個性把握テストの50m走以上の人に囲まれながら歩いていた。

 

「凄いな白本君は!『消滅』なんていう個性を、あそこまで上手く扱えるとは!」

「ほんと!それに、立ててた作戦だって完璧だったし!」

「はぁ、ウチのペアも上鳴みたいなアホじゃなかったら良かったのに」

「ちょ、酷くね耳郎!?」

「お、おい白本ぉ…お前ほんとにアレ訓練のつもりだったんだよなぁ?入った時の雰囲気ガチすぎて若干ビビっちまったぜ…」

「『消滅』か。どう挑めば良いかが不明な個性に対し、2人は良くやった方だとは思うがな」

「凄いわ白本ちゃん。あなた、敵の役があまりにもしっくりきていたわ」

「それ言っちゃうの!?梅雨ちゃん!」

「白本って、何か武道とかやってたのか?最後の八百万さんとの接近戦、明らかに素人の動きじゃなかったけど」

「挟み撃ちって聞いた時はあんま男らしくねぇかなー、とは思ったけど、敵の思考回路を知るって目標を立てればそうでもないな。盲点だったぜ」

「あぁ。きっと、そういう風に様々な視点で考えることができるのも白本が強い理由の一つなんだろう。落ち着いているしな」

「いやマジ、俺と切島が楽に勝たせてもらったみたいでちょっと嫌なんだけど…」

「やー、ほんと凄かったよー!緑くんのも作戦勝ちって言いそうだけど、白本のも凄かったよねー!」

「まあでも僕の輝きには負けるかな!」

「零、お前そんなすげぇ個性だったんだな…。特特待生ってか、何となくすげぇ理由が分かったぜ…」

「…、…っ」

「今回は負けましたわ…、しかし、これで一勝一敗!次は勝ちますわよ!」

「俺もだ白本。…次、いつかやる時が来たら、俺が勝たせてもらう」

 

どれぐらい増えたか。1-Aほぼ全員である。

歩く僕の右隣で両手を複雑に動かしながら話しかけてくる飯田君に、便乗して褒めてくれる麗日さん。

同じチームという理由で着いてきた鋭児郎に瀬呂君。

鋭児郎に着いてきた上鳴に、そのペアの耳郎さん。

対戦相手の峰田君と八百万さんに、その彼女に着いてきた蛙吹さんと葉隠さん。

蛙吹さんのペアの常闇君。蛙吹さんにツッコんだ葉隠さんとそのペアの尾白君。

上鳴と耳郎さんに着いてきた芦戸さんとそのペアの青山君。

冷静な考察をする障子君と、対抗心を露わにしてくる轟君。

そして、少し引き攣った笑みを浮かべる力道とその隣でハンドサインを送っている口田君。

 

つまりは、僕と同じ中学の緑谷君と爆豪を除く全てのクラスメイトに囲まれていた。…なぜだ。個性もほんの一部しか使っていないし、作戦も穴が多いものだったのに…。

 

「むっ!?どうしたんだい白本君!顔色が悪いが…」

「いや、なぜ皆僕の周りにいるのかってね…」

「え?そりゃあ…」

「特特待生で」

「個性が強烈で」

「作戦が普通に良くて」

「想像以上に敵が似合ってて」

「何よりも個性を扱いきれてるからじゃねぇの?」

 

麗日さんの言葉に、上鳴、芦戸さん、峰田君、蛙吹さん、切島が続いた。蛙吹さん、僕だって一応ヒーロー科なんだけど…。

 

「個性を扱えてるという点では、恐らく学年トップだろうな」

「そうなん?轟くん」

「あぁ。聞くところによると、高校入学時に多数の技の開発までに至ってる奴はほぼいねぇ。しかも白本、お前既に多くの技を作ってるだろ?」

「なかなか鋭いね、轟君。その通りさ。どんなものかは言わないけど、大小合わせて16個かな。今17個目を開発中なんだ」

『マジで!?』

 

八百万さん、轟君といった冷静組を除いた面々が、物凄い声量を上げる。…耳が痛い。

 

「けど、本気は出すけど全力は絶対に出さないよ。出す時は誰かが死ぬ時だからね」

「いや、怖ぇよ。…演習で全力出すなよ?」

「あぁ。全力は出さない。絶対にね」

 

苦笑いしながらツッコむ鋭児郎。

まあ、誰かと言ってもクラスメイトの皆じゃないのは確かだけどね。




後書きとしては

―めげるな八百万!立ち直れ爆豪!

的な感じです。

轟君がまだ轟君してない(エンデヴァー的な意味で)
障子君の口調難しすぎてハゲます。

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