望まぬモノ   作:チャリ丸

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オリ主の介入、並びにガッシュ側とのクロスにより、若干の世界観の変更などありますが、ご容赦ください。
ここどうなの?や、ここおかしくない?と感じる場所があれば、メッセージや感想などに書き込んで頂ければ、返信させていただきます。


雄英入学編
高校入学


「じゃあ行ってくるよ、ヴィノー。くれぐれも変な人が来てもドアを開けないようにね。チャイムでちゃんと確認すること。それと、ネット通販をしてもいいとは言ったけど、買うものはちゃんと要るかどうか考えてから買うこと。レンチンばっかりなのは申し訳無いけど、なんなら作り置きの僕の晩御飯を食べても良いからね。後、ちゃんと昼寝はしておく―」

「早く行けや!」

 

朝、久しぶりにこんなに早く家を出るというのだから、ヴィノーに留守番をする際の注意を言い聞かせていると、怒鳴られた。

酷いじゃないか。僕はお前が心配で言ってやっているのに。追い出された挙句鍵までかけられるなんて。

 

「今日は夜まで帰ってくんなよ!友達の一人ぐらい作ってきやがれ!」

 

玄関の扉越しに僕にそう言うヴィノーは、大きな声で怒鳴りながらも、その声色はどこか嬉色を帯びていた。

 

「可愛げのないガキンチョだなぁ…」

 

そんな声を聞いた僕も、自然と笑みが零れてしまう。

 

今日僕は、雄英高校の制服に袖を通し、数年ぶりの学校生活のスタートを切る。

 

 

毎年、一般入試において倍率300を超えるという、雄英高校のヒーロー科。全国屈指で、しかも一般入試での定員が僅か36名なのだから、納得の数字だ。

 

「でも、300って凄いな…。他の国立高校のヒーロー科じゃだめなのか?」

 

ヒーローだけになりたい、という思いでここに来ていない僕には分からない事なのだろう。きっと、それだけ多くの受験生がここを受けるだけの魅力があるのだろう。

 

「…ドア、でかいな。オールマイトでも半分いかないんじゃないか?」

 

そんな事を考えていると、既に僕の配属されたクラスである1-Aのドアの前に来ていた。

そのドアは、同級生達の平均と比べても割と高い身長の僕の上背の、約3倍はくだらない程の巨大な物だった。

 

「まあ、そういう個性の生徒、教員もいるから、かな」

 

少しの期待と不安を胸に、ドアを開ける。

ほぼ初めての学校生活。まず僕に待ち受けていたのは。

 

「っ、オイ白本ォ!テメェまだあん時の話終わってねぇからなァ!」

 

両目を限界まで釣り上げながらこちらに怒鳴る、爆発金髪イガグリだった。

 

「…爆豪、僕は朝からうるさいのは」

「黙れぶっ殺すぞクソが!テメェみてぇなゴミ『個性』が、雄英に、それも入試受けずに受かる訳ねぇだろうがァ!」

 

おい。人の個性を勝手にゴミだとか言うなよ。それにお前がバラしたせいで他の奴らもこっちに集中してるじゃないか…。

 

「脳の血管切れて死ぬぞ」

「死なねぇよむしろテメェが死ねボケ!大体、『減少』なんてクソみてぇな個性で、ここで一番になれるなんて思うなよ!アァ!?」

「思ってないし、それが本当の『個性』な訳ないじゃないか」

「…どういうことだ、オイ」

 

『減少』。それが、僕がたまに通っていた学校生活で、黙っていることが不可能になった時に使っていた、嘘の『個性』。

個性の応用の幅も地味めにしており、自分の受けるダメージを少し減らすだけ。もちろん、『スプリフォ』で誤魔化していただけなのだが。

 

「お前のような奴が、そうやって絡んでくるのがめんどくさいから誤魔化してただけだ。それに、自分に推薦の声が掛からなかったのを人のせいにするな。お前だって、なまじ能力は高いんだ。普通にしてりゃ、特待生にでもなれたんじゃないか?」

「これが俺の普通だクソ白髪イガグリがァ!」

「だからうるさいよ、金髪イガグリボンバーマン」

 

ギャーギャー騒ぐ爆豪を無視し、自分の席を探す。

ちなみに、適当に褒めて無視というのは爆豪に対して最も有効な手の一つだ。あいつは、キレるが賢い。なので、自分がキレていても相手にしてもらえない、というのを察すると直ぐに自分の中で溜め込むのだ。他人から見れば、母親に駄々をこね続ける赤ん坊の、よりみっともないような物。流石の爆豪もそんな風には見られたくないのだろう。

 

「僕の席は、っと…一番後ろか。しかも、なんでここだけ飛び出てるんだ?」

 

案外、直ぐに席は見つけられた。いや、この場合は視界に入った、とでも言えばいいのだろうか。

ドアから2列目の最後尾。そこだけ、他の列とは違い、座席が一つだけはみ出していた。やめてくれ、目立つじゃないか。

 

「おっす!俺、砂藤力道ってんだ。さっきの、凄かったぜ。だよな、轟」

「あぁ。来て早々、なぜかは知らないがあいつやたらとキレてたからな。それを直ぐに止めるなんて…どういう考え方で喋ってんだ?」

「えっ、度胸とかそっちじゃなくて?」

 

そのはみ出た座席に荷物を置くと、僕の前に座る男子生徒―砂藤力道君―から声を掛けられた。巻き込まれた形になった轟君の少しズレた回答に苦笑いしながらも、砂藤君はまたもこちらに話を回した。

 

「あいつと、知り合いなのか?」

「中学が同じってだけだよ。…あぁ、自己紹介がまだだったね。僕は白本零。白い本は零冊だと覚えやすいよ」

「す、すげぇ名前だな」

「そうかい?」

 

このご時世、様々な名前が増えているのだ。しっかりとした読みである僕の名前は、まだマシな方だろう。

 

「砂藤君。これから何をするか、っていうのは知ってるかい?」

「いいや、まだ全然何も分からねぇ。普通なら、何かしら書いてある紙が机に置いてあってもおかしくねぇんだが…。っと、そうだ。俺の事は気軽に力道、とでも呼んでくれ。君も要らねぇし」

「分かったよ、力道。なら僕のことも、好きに呼んでくれ」

「分かった。なら、これからよろしくな、零」

 

右手を差し出されたので、同じく差し出し、手を握る。

ふと、じっと僕のことを見つめている視線に気づいたのでそちらを見ると、何故か僕の頭部を注視する轟君がいた。

 

「どう、したんだい?」

「いや。その髪、地毛なのかと思ってな」

「地毛だし、それブーメランだよ?」

「…ブーメランなんて今ここに無いぞ?」

「力道、轟君ってずっとこんな感じなのかい?」

「い、いや。俺もそこまで喋った訳じゃねぇけど…」

 

確かに、白髪で爆豪よりも爆発した、まるで静電気を帯びたビニールテープのような髪型の僕も僕だけど、半分赤色で半分白色の轟君も轟君だと思う。

 

「お友達ごっこがしたいなら、他所へ行け」

 

ふと、聞いたことのある声がした。その方向、教室の前の扉の方を見ると、見知った2人と知らない1人の女子が、何やら話していた。

 

「ここはヒーロー科だ」

 

見知った内の1人、相澤先生はもぞりもぞりと寝袋を器用に動かし、直立した。…どうやって動いてるんだ?

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

ヌボーっとした相澤先生を見て、僕を含む数人の生徒を除く数人が固まる。

 

「担任の相澤消太だ。よろしく」

 

寝袋から出てきた髭の生えたもっさりヘアーが、いきなり先生で担任だと言われても、どう反応すればいいか分からないのも当然だろう。

現に、見知ったもう1人である緑谷君も全く反応出来ていないし。

 

「早速だが、全員体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

そう言って相澤先生が寝袋の中から取り出したのは、雄英高校の体操服だった。…いや、なんで寝袋の中に?

 

◇ ◇

 

『個性把握テストォ!?』

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「そんな悠長な行事、出てる時間なんてないよ。雄英の自由な校風は、先生側にも適用される」

 

体操服に着替え、グラウンドに連れ出された僕達を待ち受けていたのは、抜き打ちテストだった。それも『個性』の。しかも、グラウンドにに他のクラスの生徒が誰もいないということは、まさか貸し切り?

 

「体力テスト、中学は、確か個性の使用が禁止のはずだ。…爆豪、中学の時のソフトボール投げ、何mだった?」

「67m」

 

個性を使わずに中学生が67mって、確か数世紀前じゃほぼありえなかったんだっけ?それを、個性を使うことによって全てのテストをこなすことで、自分の個性がどういうことに向いているか、そしてその今の限界値を知る。…なるほど。

 

「じゃ、個性使ってやってみな。その円から出なきゃ何してもいいよ」

「んじゃ早速…っ!死ねぇ!!」

 

ヒーローらしからぬ掛け声と共に、爆風を残して消えたボールは、恐らく数百m先に落ちた。

 

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を作る第一歩だ」

 

相澤先生が僕らに見せた端末に書かれていた数字は『702.5m』。文字通り次元の違う数字に、クラスメイト達が騒ぎ出す。…まあ確かに、興味深い。

 

「なんだそれ!すげぇ面白そう!」

「705!?やっべぇ!!」

「個性思いっきり使えるんだ!流石雄英高校ヒーロー科!」

「……面白そう、ねぇ」

 

ざわめくクラスメイト達を見て、相澤先生の雰囲気が変わった。

まるで睨むようにこちらを見る彼からは、何かしらの確固たる意志が感じ取られた。

 

「ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気なのか。…よし決めた。この個性把握テスト、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

なるほどな。本気でヒーローを目指すのなら、『個性』と真剣に向き合え、ということか。それはそれで面白い(・・・)

 

「今日、日本は理不尽に塗れている。それどころか、一部のトップヒーローを除き、ヒーローの質自体が落ちているとも言われている。海外にはオールマイトには劣るが、それに近いクラスのヒーローをゴロゴロ抱えている国もあるぐらいだ。これからの日本のヒーローには、そういった理不尽(ピンチ)を乗り越えていく能力が問われてくる」

 

つまりは、高校のヒーロー教育課程の中でしっかりとした地盤を組み立てておくことで、より質の高いヒーローを育成する、ということか。それが出来ないような人材は、今の日本には要らないと。

 

「これから三年間、我々雄英高校は全力で君たちに苦難を与え続ける。〝Plus Ultra(更に向こうへ)〟だろう?君たちも全力で成長し、乗り越えて来い」

 

◇ ◇ ◇

 

第1種目:50m走

 

「フッ!」

「3秒04!」

「ケロ…負けちゃったわ」

 

除籍処分を掛け、いきなり執り行われた個性把握テスト。その最初の50m走の第一走者。眼鏡を掛けた男子生徒の、脚に付いたエンジンのような物を駆使した記録から、計測はスタートした。

 

「まさに独壇場って感じだね。…大丈夫かい?力道」

「あ、あぁ。ただ、ちょっと個性が持つか心配でな」

「へぇ…。まあ、お互い頑張ろう」

 

力道の体格からして、力や地の体力は申し分無いのだろう。だが、そこでスタミナを気にするということは、何か別の物を消費してしまう個性なのか。

力道と会話している間にも計測は進んでおり、ショートボブの女子と尻尾の生えた男子の組みや、やたらキラキラした男子と紫色っぽいピンクの女子の組みなど、どんどんと終わっていた。

 

「皆、速いなぁ…。気合いも入ってるし」

「なんだよ、随分と余裕だな」

「得意分野でもあるからね」

「…マジかよ」

 

僕のその一言に、どこかしらショックを受けたような表情を浮かべる力道。相対的に自分の成績が悪く見られ、除籍処分になることを恐れているのだろうか。

 

「手は抜かないから安心してくれ」

「出来ねぇよ!?」

「次ー、砂藤、白本ー」

 

そうこうしている内にも、僕達の番が回ってきたようだ。…さて、と。

 

「『リア・ウルク』」

「なんだアレ。全身がぼんやり光ってる…」

「どんな個性なんだろ…」

「ヨーイ」

 

後ろで並んでいるクラスメイトからの声が聞こえる。

この個性把握テスト。正直、まともに使えるのはこの『リア・ウルク』だけだろう。他の何かを使えばボールやらコースやら測定器やら、全てが消えてしまう。なので、『リア・ウルク』だけで全てをこなす。

 

「でも、僕の個性を舐めるなってことだ」

「START!」

「よっ」

「くっ、速い…!」

 

互いにクラウチングスタートの体勢から走ったが、10m地点で既に力道の身体が後ろに流れていく。僕の細い身体と力道の格闘技専門のような実践向けの身体、という時点で風の抵抗等も関係してくるのだろうが、今はそれすらも消している。

仮にも、特特待生なんだ。これくらいできなければ、笑われてしまう。

 

「4秒04!」

「アレ、意外と遅いや」

「5秒26!」

「お、お前速すぎるぞ!?」

「力道こそ、その体格でそれなら十分だろう」

 

以前、敵との戦闘でこれぐらいの距離を詰めた時にはもう少し速い気がしたのだが、気のせいだったか?

そんな事を考えながら、次の邪魔にならないようにゴールから離れると。

 

「アレで遅いって、普段どんな生活してんだよ!」

「う゛っ…」

 

不意に背中に衝撃が走った。敵襲か…!などと中二のようなこと考えずに振り向く。するとそこには、尖った赤髪の青年と、他数人が立っていた。

 

「お、悪い。ちょっと強かったか」

「いや、大丈夫だよ。…君は」

「あぁ、そういやまだ自己紹介してなかったな。俺ぁ切島鋭児郎ってんだ。よろしくな!」

「あぁ、よろしく。僕は白本零。別にこだわっては無いから、好きに呼んでくれ」

「おし、んじゃ。俺のことも名前で呼んでくれ、零!」

「分かったよ、鋭児郎」

 

差し出された手を取る。…ふっ、どうだヴィノー。お前が馬鹿にしていた僕でも、着実に友達を増やしているぞ…。

 

「はいはーい!んじゃ次、私も自己紹介するー!芦戸三奈っていうの!速かったねー!」

「俺、上鳴電気。上鳴でいいぜ。てかその髪どうなってんだ?」

「俺は尾白猿尾。俺も尾白って呼んでくれ。にしても凄かったな。見たところ、肉体強化の個性なのか?」

「ありがとう。髪は地毛で、アレは個性での一つの使い方だよ。よろしく、芦戸さん、上鳴、尾白」

 

まるでタイミングを見計らったかのように次々と人が押し寄せる。何故だ、と思ったが答えは簡単で、それまで出ていた眼鏡を掛けた男子生徒、飯田君の一位に次ぐ記録だったからだ。

 

「あ、アレで使い方の一つなんだ…」

「あぁ。まあ、本来の使い方は近いうちに分かるよ。皆にコソコソ言うよりも、一斉にちゃんと分かってほしいからね」

「ってことは、かなりややこしい個性な感じ?」

「いや、そうでもないさ。ただ―」

 

現在走っているペアに、視線をやる。両手を交差させ、後ろに向けて連続で爆破させながら空中を凄まじいスピードで進む爆豪がゴールし、緑谷君はまだ普通に走っていた。

 

「今まで嘘を付いていたってのもあるからね」

 

第2種目:握力測定

 

「『リア・ウルク』…よっ、と。225kgだ」

「いやいやいや、言い方軽いって」

 

そんな事を言うなよ、上鳴。ほら、隣を見てみろ。触手を生やした、多分異形型の個性の男子が500kgオーバーしてるんだぞ?

 

「普通、ただの増強系じゃないとそんないかねぇだろ」

「そうかい?」

「そうだって。俺も、何とかクラス3位は取れたけどよ…。増強系で負けてたら流石に泣けるぜ」

 

そう言いながらこちらに近づいてくる力道は、どこか満足気な雰囲気を出しながらも、苦笑していた。記録を聞いてみると、492kg。十分過ぎると思うのだが。

 

「にしても、轟と八百万ってやべぇな。あいつら特待生なんだってよ」

「うげっ、出たよ才能マン。…お?そういや、何でか知らねーけど、今年ってウチのクラス、21人いるよな?何でだ?」

「さあなぁ…。っ、も、もしかして…、あのオールマイトとかエンデヴァーとかの特特待生ってのが居るんじゃねぇのか?」

 

ぎくり。いや、轟君達から飛び火する可能性はあるとは思ってたけど…あ。

 

「…ん?そういや零。お前朝、爆豪に入試受けずに受かったー、とか言われてなかったっけ?」

「…あぁ、そうだよ」

「ん、んじゃアレか?轟と八百万が特待生ってことは…」

「…察しの通り、僕が特特待生だ」

「……マジ?」

「あぁ。大マジだ」

 

瞬間、力道と上鳴の凄まじい叫びが、体育館に響いた。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

第3種目:反復横飛び

 

「絶対ぇ負けねぇ」

「負けませんわ…!」

「死ねクソがァ!」

「あ、あの、えと…その、し、白本君!」

「…ん?どう、したんだい?緑谷君」

「顔が死んでる!」

 

握力測定の後、再びグラウンドに戻ってきた僕達は、次の反復横飛びの計測に入った。…のはいいのだが、特待生組の轟君と八百万さん。そして、爆豪の3人から明確な敵意を当てられた僕の顔は、正しく死んでいるだろう。

 

「いや、流石にこうも早くバレるとは思ってなかったからね」

「うん…。僕も驚いてるよ。白本君が、ゆ、雄英の、しかもヒーロー科の特特待生で入学したなんて…」

「…あぁ。そういや、あの時は合格した、としか言わないように、先生に頼んでおいたからね」

 

雄英からの、一般入試合否結果発表の日。無事合格を勝ち取った爆豪と緑谷君は、僕と同じ担任の先生に報告に行き、そこで僕の雄英進学を聞いたそうだ。そして、爆豪がその帰りにたまたまスーパーに買い物に行く途中だった僕を見つけ、そこで一悶着あったということだ。

 

「じゃ、じゃあ白本君の個性って、めちゃくちゃ凄いってこと?」

「…多分、ね。いずれ、皆の前で分かると思うけど」

「そ、そうなんだ…」

「それよりも、大丈夫なのかい?緑谷君。顔面蒼白だけど…」

「うん。だ、大丈夫、だよ…」

 

否、それまでの、そしてそこからの緑谷君も普通では無かった。今までの測定では一切個性を使ったような記録でも無かったし、第3種目の反復横飛びでも個性は使わず、そして第4種目の立ち幅跳びでも個性は使わなかった。

 

そして、第5種目のソフトボール投げ。意を決した表情の緑谷君は、顔を強ばらせたまま、円の中に入っていった。

 

「しかし、まずいぞ緑谷君は。このままでは…」

「アァ?ったりめーだろ。無個性のザコだぞ!」

「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「はぁ!?」

 

飯田君がそういうということは、やはり個性が発現したのだろう。だが、なぜ今まで使わなかったんだ…?

その問に対する解は、アッサリと知らされることとなる。

 

「46m」

「な…。い、今、確かに使おうって…」

 

セリフから察するに、緑谷君は何かしらの個性の能力を使おうとした。…そして。

 

「個性を消した」

 

相澤先生に止められた。

 

「全く、つくづくあの入試は、合理性に欠く。お前のような奴でも入学出来るんだからな」

「個性を、消す…!そうか…!抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!」

「イレイザー?…誰?俺知らない」

「名前だけは聞いたことある!確か、アングラ系ヒーローだったはず!」

 

緑谷君を睨みながらも、相澤先生のその背中には生徒からのどぎつい言葉が突き刺さる。いや、相澤先生だしそんな事は気にしてないのか?『人気やファンなんて、仕事をする上では邪魔なだけだ』みたいに考えてそうだし。

 

その後、緑谷君に近づいた相澤先生は彼にいくつかの言葉を放った後に、離れていった。

 

「…とっとと済ませな。個性は戻した」

 

その声色から、最終勧告に近いようなものなのだと悟る。見たところ、個性が上手く使えないであろう緑谷君への忠告。それを、どう受け止めるか。

 

「見込み…ゼロ」

 

緑谷君の投球フォームの途中で、相澤先生がそう呟いたのが聞こえた。…が、突然その目を見開き、緑谷君の指先を見た。恐らく、個性は消していないのだろう。

 

「今」

 

緑谷君の人差し指から離れたボールは、一番始めに爆豪が投げたそれと同じような、いや、下手をすればそれよりも速いスピードで飛んでいった。

 

「まだ、動けます…!」

「こいつ…!」

 

やりやがった。まさにそんな表情を、相澤先生は浮かべていた。その顔は、どこか嬉しそうだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そこから、爆豪が緑谷君に突っかかるのを相澤先生が止めた後、個性把握テストは再開された。

持久走と上体起こし、そして長座体前屈。持久走以外は、これといって個性を使って記録をあまり伸ばせなかったが、それなりの成績は残せただろう。

 

「んじゃ、パパッと成績発表。トータルは単純に各種目の評点の合計。口頭説明は時間の無駄なんで一括開示する」

 

生徒に、緊張が走る。それもそうだ。たった1日で、自分の高校生活が終わってしまうかもしれないのだから。

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「…!?はぁーーー!?」

 

…しれないのだから。いや、真面目に受け取ったこっちもこっちだけど、あんなマジな雰囲気を出しておいてウソって…。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…。ちょっと考えれば分かりますわ…。ふふっ…」

 

未だドヤ顔を続ける相澤先生と、なぜか僕の方を見て微笑んだ…いや、鼻で笑い全力でドヤ顔を向ける八百万百に、無性に腹が立った。

 

「…八百万さん」

「っ、い、いえ。別に白本さんを笑った訳では…あ、その…、笑ってしまったのですが、呆気に取られているあなたが面白くて、つい…」

「へぇ。そんなに間抜けヅラだったか…」

「ほ、本当ですっ!決してあなたに勝てたから見下しているなどという意味は篭っていませんので!」

 

なるほど。つまりは馬鹿にした笑いではない、ということか。流石、個性把握テスト一位なだけはある。

…5位、か。いや、微妙すぎるだろ。

 

「ま、個性把握テストとは言ったが、これで個性の最大限全てを知れた訳じゃない。もっと他の得意分野がある個性の奴だっているだろう。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。今日はこれにて終わり。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。以上、解散」

 

矢継ぎ早に言う事を全て言った相澤先生は、そそくさと校舎に消えた。

僕の高校生活1日目は、あまりパッとしないまま終わった。うん、まあ最初だし。こんなもんか。




特特待生にしては順位低すぎね?と思う方もおられるかも知れませんが、基本『戦闘特化型』個性なのだと思ってください。

書いてて思った、『消滅』の汎用性の低さ…。

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