望まぬモノ   作:チャリ丸

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お久しぶりです更新遅れてすんませんっ!

…いやあの、言い訳としてはジャンプで読んでなかったので、コミックで話の流れを確かめるために遅れてました。

まだ全っ然死穢八斎會らへんとは関係ないんですけどね!
ごめんよ!


決勝 2

 

 開戦のゴングがプレゼントマイクによって鳴らされる直前、切島は空いた尾白の隣の席に腰掛けていた。

 

「なあ尾白。零どこ行ったんだ?」

「多分、外だと思う。…緑谷の試合が始まってすぐに、どこかに行ったっきり帰ってこないんだ」

「…何でだ?」

「俺も分からないんだ…」

「何にも言ってないってことは、精神統一か?」

「案外うんことかじゃね?」

「ははっ、汚ぇって瀬呂」

 

 切島、尾白、上鳴、瀬呂の4人で軽口を叩きながら、話が進む。

 

「けど、精神統一で合ってると思う」

「だろーなー。なんか戦いギリギリまで高めてるって感じするわ」

「俺もそんな表現しか出てこねー」

「なんか精神統一してる姿めちゃくちゃ似合ってそうだしな」

「「「分かる」」」

 

 白本が胡座で目を瞑り、もしくは木陰で木に凭れながら精神統一している姿を思い浮かべる。

 A組の中の誰よりもその姿は似合うだろうし、何より目を開けた時が恐ろしそうに思える。

 1歩踏み出した瞬間に周囲の建物が消滅しそうなオーラが出ていそうだ。

 

「てかよ、白本って個性使えないんじゃね?」

「だよなー、俺も考えてたんだけどよ。爆豪とか轟とかよりも殺傷力あんじゃん?キツくね?」

「生かすか殺すか二択って、零も言ってたしな…」

「「「そこんとこ、なんか聞いてないか?尾白」」」

「なんで俺に聞くんだ…」

 

 瀬呂、切島、上鳴が、全く同じセリフで同時に尾白に問う。

 尾白としては、当然そのこと自体に疑問を持ち…。

 

「いや、お前何だかんだで白本と良くいるだろ?」

「砂藤とかと一緒にいるし」

「切島と瀬呂だってたまに一緒にいるじゃないか」

「まあそうだけどよ、さっきまで一緒にいたんだろ?」

「…うーん…。一応、身体能力もずば抜けて高いから、近接格闘だけで行くと思うけど?」

「それ、轟とかキツくねぇか?」

「そこはほら、なんだアレ。個性消す方の技で」

「『スプリフォ』だっけ?いやマジで、白本って才能マンどうこうの前に普通に強すぎんだろ…。『消滅』の使い分けとか頭爆発しそうになるっての」

「上鳴馬鹿だしな」

「瀬呂てめっ」

 

 上鳴が頭の後ろで手を交差させ、背もたれに体重を掛ける。

 人が脱帽や諦めて降参をする時などに出る仕草だ。

 同じポーズを取った瀬呂からの一言に、上鳴が軽く殴り掛かる。

 

「確かに強いけどよ、俺らも追いつかねぇとヤバいって」

「いや、それは分かってるぜ?」

「おっ、3人とも。そろそろ次の試合が始まるみたいだよ」

 

 尾白の呼びかけで、瀬呂、切島、上鳴の視線がステージに集中する。

 プレゼントマイクのアナウンスが場内に響き、後は試合開始の合図を待つだけ…なのだが。

 

「つっても飯田じゃね?個性も戦闘向きだし」

「どうだかなー。でもまあ、体格差だけ見たらな」

「飯田は真面目すぎっけど、その分アツイ奴だしよ!」

「ははは…。誰も峰田は応援しない、と…」

「にしても飯田のやつ、緊張しすぎじゃね?」

「まあ…真面目だしな」

「だよな」

 

 次戦の飯田優勢。

 それは薄々尾白も勘づいていたことだ。

 普段から真面目な飯田と、ある意味学年一不真面目な峰田。

 下馬評はもちろん、自分達の中でも飯田優勢というよりは飯田に勝ってほしいという気持ちが多少出てきていた。

 

『ファイッ!』

 

 戦いのゴングが鳴る。

 その瞬間、飯田は今まで誰にも見せたことの無かった加速をもって、峰田へと駆け出す。

 

「レシプロ・バースト!」

 

 飯田が持つ、完全初見殺しの技。

 それは自らの『個性』を強引に暴発させることで、圧倒的、爆発的な加速力を生み出す。

 代わりにこのレシプロ・バーストを使うと加速は10秒ほどしか持たず、かつこの後『個性』は使えなくなるのだが初見の峰田になら通用する。

 

 本来なら個性の穴を敢えて突いた欠陥のある技だが、必ず効く。

 

 そう思っての判断だった。

 

『うおっと!飯田、いきなりの超加速ー!こりゃ一気に決まんじゃねぇ…か…。…えっ…』

 

 しかし、それは自らの慢心が産んだ最悪の選択だということを思い知らされる。

 レシプロ・バーストによる超加速で突進する飯田の隣を、同じく凄まじい速度で峰田が通り過ぎた。

 

「何っ!?」

『た、対する峰田、飯田の超加速を軽く避けてたぁー!どうやったんだ!?アレ!』

『…簡単だ。飯田の足元、峰田がいたとこをよく見てみろ』

 

 相澤の実況を聞き、飯田も視点を自身の足元へと下げる。

 するとそこには、峰田の『もぎもぎ』が地面にくっついていた。

 

『アレはうまく使えば移動手段にもなる。試合開始から力抜いてたのはもぎもぎを一つでも速く地面に付けるためだろう。…意外と考えてんな、峰田』

『つ、つーことは何だ!?あの加速を読んでたってことか!?』

『そうなるな。まあ飯田が変に力みすぎてたからバレてんのかも知れねぇが』

 

 峰田本人には反発し、それ以外にはくっつく『もぎもぎ』。

 それを、飯田がレシプロ・バーストを発動する隙を見て地面へと投げつけ、タイミング良く踏んだのだ。

 予選第一種目の障害物競走の時にも見せた、峰田にしか出来ない移動方法だった。

 

「…おいらよぉ」

 

 ふと、背後から声が聞こえる。

 少し離れた距離で、かつそれほど大きくない声だったが、その声は確かに飯田の耳に入っていた。

 

「確かに、エロいことにも興味はあるし、でもそういうのがヒーローに相応しくねぇって言われるのも理解してんだ」

 

 その声に振り向く。

 広がっていた光景に思わず息を呑んでしまう。

 地面に散らばる『もぎもぎ』の数々。まともな移動は出来るものの、素早いフットワークは制限される程度に散りばめられていた。

『レシプロ・バースト』が不発に終わり、自分が焦っている時に散らしたのだろう。

 

「でもよ、おいらにも、真っ当なヒーローになりたいって気持ちはあるんだ…。おいらが目指すヒーロー像は、至って単純っ!」

 

 彼が頭のもぎもぎを右手でもぎ取り、宙に投げ―

 

「ただ、最高にカッケェ、誰にでもモテるヒーローなんだこんにゃろー!」

 

 ―そのままぶん殴った。

『個性』の能力そのまま、峰田の右手に反発した『もぎもぎ』は、右ストレートの威力も加わって飯田もビックリな速度でまっすぐ飛んできた。

 

「くぅっ…!まずいな…」

 

 豪速球と化したもぎもぎを避ける飯田。

 彼の焦りは、もぎもぎが散らばっていることもあるが、大半はレシプロ・バーストが不発に終わったことによるものだった。

 

「へへっ。見たところ、レシプロとかいう奴はもう使えねぇっぽいな!」

「だが、それでも怯むわけにはいかない!」

 

 本当に使えないのか。と飯田がうまく引っ掛かってくれたことに内心ほくそ笑む峰田。

 レシプロ・バーストがもう使えないかというのはあくまでも希望的観測。

 だがそこで、煽りに近いセリフを吐くことで、恐らく飯田は答えを言うだろうという確信が彼にはあった。

 

「おいらだって、白本の力だけでここまで来たわけじゃねぇんだぁ!」

 

 屋内対人戦闘、敵襲撃事件、そして雄英体育祭。

 形は違えど、峰田は戦闘中の白本零の近くに頻繁に居た。

 彼に学ぶこともあれば、学んでも自分には出来ないことも多々ある。

 だがそれでもヒーロー志望の一端としての小さなプライドがある。

 

「それは俺も同じだ!峰田くん!」

 

 個性が一時的に使えない飯田が、峰田に向かってまっすぐ突き進んでくる。

 いくら個性が使えないとはいえ、彼の恵まれた体格はかなりの速度を生んでいた。

 

「俺も轟くんの力だけでここにいる訳では無い!そんなこと、誰もが「ちげぇんだよなぁ、飯田…」…何?」

 

 しかし、彼の行く手を阻むのが地に撒き散らされて付着している『もぎもぎ』。

 一度でも触れてしまえば行動不能になってしまうそれは、ある意味最強の兵器だった。

 一瞬足を止めた飯田に俯いた峰田が再び語りかける。

 

「予選通過した時のおいらとお前じゃ、周りからの期待のされ方がちげぇんだ…。…正直、決勝に上がるのすら諦めてたしよ。…でも、こんなおいらを、あいつは選んでくれたんだ」

「峰田くん…」

 

 一部からバカ真面目メガネという称号を貰っている飯田の心に、峰田の言葉が刺さる。

 

「おいらだって、これでもヒーロー志望なんだ…。日頃の行いが悪いってのは自覚してるけど、それでも…!」

 

 峰田の目が飯田の姿をしっかりと捉える。

 その目には、確固たる意志が備わっていた。

 

「そいつらを見返してやりてぇって気持ちぐらい、あるんだよなぁ!」

 

 足元にある『もぎもぎ』目掛けて、峰田が跳ぶ。

 

「『グレープ・ロケット』ォ!」

「っ、ぐっ…!」

 

 両足で踏みつけると同時、凄まじい速度で峰田が飯田へと突撃した。

 それを足元のもぎもぎを踏まないようにしながら、かろうじて避ける飯田。

 彼の額に大粒の雫が浮かぶ。

 

『…にしても、ここまで組み立てんのが上手いとはな』

『へ?どゆこった?』

『ったく…。峰田の攻め方のことだ。初手で飯田の必殺を避け、その隙に自分の個性を展開。相手を一気に不利にしながらフィールドを自分の独壇場に変えてんだ。こりゃ、流れが一気に変わるぞ』

 

 ステージ上では峰田がもぎもぎに触れ、反復横飛びのように素早く移動している。

 対する飯田は『レシプロ・バースト』の反動で個性が使えず、ただその峰田を顔を動かしながら目で追うことしか出来ていない。

 

『飯田に広範囲攻撃がありゃ別だが、無けりゃ完全に峰田のペースだ。不利な状況での近接戦闘で簡単にひっくり返せるほど、峰田の個性はヤワじゃない』

『ヒューッ!ミイラマン絶賛!こりゃ意外や意外、A組峰田が決めるのかー!?』

 

(…まあ、実際)

 

 実況席から試合の様子を眺める相澤は、包帯に覆われたその顔の口端部を僅か上げた。

 

(峰田があそこまで出来るとは思ってなかったんだがな)

 

 相澤の中で、峰田実という生徒の評価はそれほど高くはなかった。

 常日頃から爆豪とは別ベクトルで素行が悪く、女生徒からの苦情も幾らか寄せられていた。

 先日の敵襲撃事件の際もただ緑谷出久と白本零の指示に従っただけだと聞く。

 

 そんな彼が、体格が大きく、近接戦闘にも向いた飯田にあそこまで健闘しているのは何故か。

 

(…まさか、アイツか?)

 

 ステージから視線をずらす。

 

 1年A組のメンツが座る所から20mほど離れた場所に立つ白髪の青年は、耳に携帯端末を当てていた。

 

 

 ◇

 

 

「…あぁ。そっちは大丈夫かい?」

『うむ。奴もいるからな、凶悪敵の出現率は大分と減ってきたものだ。…してクリアよ、先ほどからお前を見ている奴がいるようだが?』

「安心してくれ、ただの担任さ」

 

 国際電話で遠く離れた知人と話す。

 こうしてこいつの声を聞くのは、随分と久しぶりな気がする。

 

「バリーとは仲良くやっているかい?」

『無論。共に同じフィンランドのトップヒーローとして、互いに邁進している所だ。…とはいえ、単純な戦闘能力ならバリーにはに勝てぬのだがな』

「ヒーローは戦闘能力だけじゃないだろ?アース」

 

 かつて訪れた地、フィンランドにて戦闘における技能指導をした1人である、現在フィンランドのヒーローランキング1位の『剣聖』アース。

 彼からつい先程、電話がかかってきたのだ。

 

『そう言ってくれると助かる。…それでだクリア。良からぬ噂を耳にした』

「良からぬ噂?」

『うむ。敵連合…先日、お前と会敵した奴らだが、どうも一部の魔物を取り込もうとしているようだ』

「なんだ、そんなことか」

『そんなこと、だと?』

 

 端末越しの声が、疑問に満ちたものへと変わる。

 それは当然のことだ。魔物と魔物の戦いでは、どちらが勝つかは分からない。相手の手札も分からず、最大出力すらも分からないのだから。

 

「僕が、他の魔物に負けると思うかい?」

『…ふっ、そうだな。杞憂であったな』

 

 だがそれでも、僕は自身の勝利を疑わない。

 かつての経験があるからこその絶対的な強さを、僕は過信とも取れるほどに信じている。

 

「無いとは思うが、もしお前達が僕の敵になるという時は容赦はしない。今しがた新しい『シン・クリア』も完成したんだ。…手合わせ、するかい?」

『遠慮させてもらおう。…それに、その『シン・クリア』はこの体育祭で使う可能性もあるのではないか?』

「どうかな。…僕としては、そうであることを願うんだけど」

 

 魔力を探知した結果、雄英高校に魔物は僕1人しかいなかった。

 そんな所で『シン・クリア』を放つ訳にもいかないだろうが、それでも新しく開発した技だ。出来るだけ早くお披露目したい。

 例えこの場でなくとも、相手は誰でもいい。

 間接的に『敵』に強さを知らしめることが出来るのならそれでいい。

 

『ぬぅ…。言っておきながらアレだが、クリアのそれはおいそれと簡単に出して良いものでは無いのではないか?』

「安心してくれ。今回のはそれ自体に一切の殺傷能力は無い」

『ほう。…となると肉体強化系、か?』

「お見事」

 

 自動追尾の超遠距離、自由行動の遠距離、自身最強の中距離と『シン・クリア』は揃っていた。

 そこに「ヒーローになる」という目標が出来たのだ。使い勝手の良い肉体強化を生み出さない理由が無い。

 

『それならば手合わせしたいものだ。近隣国のヒーロー達も、『シン』を続々と編み出していると耳に挟むこともあるからな』

「へぇ、そうなんだ。ならその時はヴィノーを連れていくかもしれないな」

『ヴィノーを連れてくるのか…』

「当たり前だろ?さすがの僕でも、4分の1の力でお前達を複数相手取るのは苦労するからね」

『…なんだか、楽しそうだな。クリア』

 

 魔物数体を相手取るのに僕単体ではキツいという意思を伝えた所、アースの声が何かを悟ったかのようなものに変わった。

 

「どういうことだい?」

『なに、簡単なことだ。一時期、敵を殺しすぎたせいで個性を使いたくなくなったお前が、また戦うことを考えられるようになっているからな』

「そういうことか。…どうやら、余計な心配をかけたようだね」

『構わぬ。まあまた戦いたくなったらいつでも連絡してくれ。日本は、お前には狭すぎるだろうからな』

「あぁ、そうするよ」

 

 返事と共に電話を切る。

 

 アースも多忙な身だ。いくらフィンランドヒーロービルボード2位に着けている『悪童』バリーが頑張っても、フィンランド国民の中ではアースの方が圧倒的に支持率は高い。

 フィンランドのオールマイトのような存在なのだ。忙しくないはずがない。

 

「…でも、最後のは否定させてもらうよ。アース」

 

 彼は強く、そして聡明だ。

 相棒を1人しか雇わず、その人物も戦闘時以外はほとんど働かない。

 事務処理や後始末、本来は大人数の相棒でやるような仕事ですら、アースは1人でこなしてしまう。

 そんな聡明かつ出来る彼だが、最後に1つ間違いを残していった。

 

「今の僕に、日本が狭すぎることはない」

 

 僕達魔物は、魔物以外の『個性持ち』を見下す傾向にある。

 肉体の質、馬力の違い、個性の規模、治癒能力の速さなど、圧倒的な差があるのは確かに事実だ。

 僕も雄英に入学するまではそう思っていた。

 誰も僕に勝てる人間などいないだろう、と。

 だが実際はどうだ。

 

 敵の襲撃にあっても誰1人死ぬこと無かった。

 短期間で『個性』の応用の幅を広げている。

 おまけに、『ヒーロー』としての心構えで言えば、僕よりもしっかりしている人物などごまんと居る。

 そして僕の眼下では、あの臆病な峰田くんが善戦している。

 

「…やはり、面白いな」

 

 もしかしたら倒されるかもしれない。

 緑谷君にしろ、爆豪にしろ、轟くんにしろ、八百万さんだってそうだ。パワーで言えば、力道もだ。

 全員が全員どう化けるか分からないのだ。

 今の僕はただ『魔物』と『経験』というアドバンテージに乗っかっているが、それもどこまで縮められるか分からない。

 

「楽しみだ」

 

 上から目線で何を言うのか、と言われれば言い返すことはできない。

 まだ僕の実力を何も見せていないからだ。

 

「1回戦の相手はB組の拳藤さん。相手に不足は無い」

 

 フィールドでは、飯田くんが峰田くんに降参を告げていた。

 仕方ないことだろう。両足が『もぎもぎ』で固定され、上半身もまともに動かせるのは首から上というぐらいに、全身に『もぎもぎ』が付いている。

 

「戦い、か…」

 

 久しぶりの同世代との1対1での戦闘に、心臓が大きく脈打った。




主人公何様って思うかも知れませんが、それについても少々お待ちください。
仮免らへんで書きます(遅い)

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