異世界転生したカズマは召喚師になりました。   作:お前のターン

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長らく音沙汰なしにしてましたが、ようやく投稿でぇす。
ちょっと短いです。


迫り来る狂気

目を細めると天国が見える。

あなたは、そんな体験をしたことがあるだろうか?俺はある。進行形で。

 

「何か言い残す事はあるかしら?」

 

彼女はニヤリと笑いながら俺の襟首を掴み持ち上げる。

対する俺は脱力し、なす術もなく吊し上げられる。

 

ああ、世界は残酷だ。力ある者が弱者を蹂躙するだなんて、まさに地獄だろう。

 

「くっ…………殺せっ!」

「あ、そう。それじゃあ一思いに」

「ウソウソウソウソ!!冗談だって!!!」

 

と、現実逃避は止めてちゃんと抵抗する事にした。

その一言を聞き入れてくれたのか、手を離され床に着地した。

 

「…………で、何か謝罪の言葉はあるかしら?」

「あー…………うん。良い柄だったな―――って嘘だって!!!そんな安易に剣を振りかざすな!!!」

「あんたね、素直に謝れないの?何?恥ずかしいの?」

「ばっか、素直に感想を言ったろーが。あとついでにすまんかった」

「ついでって…………はぁ。いいわ、後でゆんゆんに密告の刑に処しましょう」

「すんませんすんませんすんません!!!マジで勘弁して下さい!!!」

 

木造建築の床にめり込むがごとく頭を地に打ち付けながら土下座をかましてやった。だが、それで奴が満足するわけも無く、またもや含み笑いを作ると手の甲を顎に付け、高笑いしながらのたまり始めた。

 

「ははははははははっ!そう、それでいいのよ!!分かったらこの服代を奢りなさい!!!」

「え?いや、最初からそのつもりだったけど…………?」

「…………え?」

「ん?いや、だってこういうのは男の方が出すのが普通じゃないのか?…………たぶん」

 

素直に心情を伝えると、以外だったのか頬を染めながら「フンッ」と鼻を鳴らして明後日の方向を向いてしまった。

 

「そう。分かっているならいいわ…………」

「そ、そうか?」

 

何故だか分からんが、取り敢えず刑に処される事は回避したようだ、

その後もジャンヌはあれよこれよと色んな服を選んでは試着を試した。その度に感想を俺に求め、その度に俺が墓穴を掘りまくって憤怒の炎が舞い上がったのであった。

 

「会計、15万4500エリスになります」

「っ!!?」

 

いざ会計に出すと、驚愕の金額を告げられた。

 

「ジャ、ジャンヌしゃん?」

 

思わずジャンヌの方へ振り返った。だが、奴は知らぬ存ぜずの顔で他の服を眺めては着ようとしていやがる。

 

「あ、あの~…………」

「ん…………これも中々に」

「お~い、ジャンヌさ~ん…………?」

「いや、でもあれも捨てがたい……」

「お~い…………おいって言ってんだろうが!?」

「なによ、うるさいわね。あ、あとこれも買って」

「馬鹿かお前!!?金額!金額がおかしいんだが!?」

 

別に、お金が無いわけではない。むしろ、デュラハン討伐のお金で割りと豊かまであるが。だが、しかしだ。俺は服でここまでお金が掛かるとは思ってもいなかった。というか、ここまでかける必要なくね?

 

「誰かさんが奢ってくれるって、言ってたから」

「誰だよそいつ!俺だよ!!あ~くそ、頼むからもうちょっと抑えてくれ。今手持ちが心許ないんだよ」

「あっれぇ~?さっき真顔で奢るみたいな事を言っておいて、いざ金の事になると怖じ気つくの?」

「ああそうだよ」

「…………言い切ったわね」

「あたぼうよ」

 

ったりめぇよ!いくら懐が豊かになったとはいえ、金にはうるさいカズマさんだよ俺は。思えば、冒険者始めたての頃はこいつの浪費癖が問題で苦労したもんだ。そんな奴が、またもそんな兆しを見せている。ならばそれを未然に防ぐのが一般ピーポーの思考というもの。

 

「とにかく!少しは―――」

「あっ、ゆんゆん」

「おぉいジャンヌ!早く会計済ませるぞ!!ほら、早く」

「おっけー…………ちょろ」

(こいつぶん殴ってやりたい!!!)

 

ああ、ちくしょう…………まったく埒があかない。「ゆんゆん」のワードをちらつかすだけで体が拒絶反応を見せ始めているし、何よりこの干物女であるジャンヌオルタに良いようにされているのが癪に触る。

結局、ゆんゆんなどという邪神は其処に在らず、普通に買わされた。阿鼻叫喚、嗚呼あかん状態。隣を歩くジャンヌは機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。対する俺は、誰かさんが買ったはずの誰かさんの分の服を誰かさんの変わりに持っている。

 

…………おい、少しは持てよ。

 

と、言いかけたがやめた。何せここまで上機嫌なのは珍しいからだ。最近は何かと張り積めていたようだし、今だけは良しとしてやろう、このやろう。

 

「なぁ、何でそんな機嫌良い訳?」

「…………べ、別にあんたには関係ないでしょう?」

「あぁ、そうだな。ま、その調子でいてくれ」

「…………?そう、よく分からないけど」

 

分かれ。お前さん、新しい玩具を買ってもらった子供の様にウキウキしてるぞ。

 

(ふふ♪以前ドレスを着たことはあったけど、ここまでオシャレ出来るなんてね…………まぁ今更誰に見栄を張ってるんだって話だけど)

「…………あぁ、そういやこれからどうする?戻るか?」

「そうね…………あれ?そういえばネロは?」

「なんか用があるって言ってたけど、そういや長いな。こんな未開の地で一体何の用事があるんだろうな」

「…………一旦宿に戻りましょう。嫌な予感がするわ」

 

自ずと歩調が早くなる。ジャンヌの一言でふと嫌な考えが過ったからだ。何も最初から全く心配していなかったわけでもないが、それでももしもの事がある。

 

(何事もなければいいけど…………)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

宿に戻るとネロはいた。

ただ、少し服が汚れていて表情も浮かない感じだ。これは何かあったに違いないと一目でわかった。

 

「ネロ?何かあったのか?」

「うむ。先程の魔王軍幹部と戦ったのだが…………」

「えっ!?」

「どういうこと?説明しなさい」

「実は…………」

 

一通りの説明を受けると、ジャンヌは苛立ちを隠せない様でめつきがキツくなっていた。

 

「そう、あの冷血黒女までいるのね。しかも敵だなんて…………いいわ。会うことがあればその時はこの私が殺してあげましょう」

「知り合いか?」

「まさか。ただ心底嫌っているだけよ」

(知ってんじゃねぇか……)

 

「しかし、まさかあのエミヤオルタという男が余を助けるとは…………実は味方なのか?」

「一概にそうとは言えないでしょう。あいつの行動理念なんて到底理解できないわ。ただ、気まぐれで助けるような奴でないことは分かるわ」

「そうする理由があった…………?」

「そう。例えば、人類に害する者だと判断したとかね」

 

暫くの間、二人の間で俺にはちょっと分からない会話が続けられた。

 

「…………ということになるでしょう」

「うむ。やはりあの男は危険であることに変わりあるまい」

「あの~…………もうそろそろいいか?」

「あら、いたの?」

 

いたよ!しかもお前が買わせた服をぎょうさん持ってな!?

 

「…………む?それは、ドレスではないか!?お主らまさか余が不在の間に買い物をしておったのか!?羨ましいぞ、余にも寄越すがよい!」

「ちょ……!?やめなさい!それは私が選んだものなのよ!!ていうか、あんたは四六時中ドレス着てるでしょうが!?」

「う~!余もたまには他の衣装を着てみたいぞ!!」

 

ああ…………今度は買い物袋に入った服をめぐって争いを始めやがった。

始めにネロがドレスを一着ほど抜き取ると、それに反応してジャンヌが手に取った物と俺の持っていた買い物袋を強奪して俺を盾に隠れた。

 

「カズマ、そこを退くがよい!」

「ああ、俺もそうしたいのは山々なんだが、服の後ろをめっちゃ掴まれてて動けないんだ」

「むぅ……!」

「そもそも、これは私が買ったものなのよ。あんたはあんたで買いにいけばいいでしょう?」

「むむむ……!分かった。では、カズマよ。エスコートせよ」

 

俺かよー。

ここで俺を連れてくのかよー。絶対山盛りに服を選んでは試着しまくっては買い占める気だろ?嫌だよ。そもそも誰かさんが俺の財布の中を涼しくしやがったからそんなに余裕ねぇよ。

だが、ネロはおかまいなく俺の前の服を引っ張りまくる。対抗しようとジャンヌも加減せずひいてくる。

 

「痛い。ちょっと痛いんだけどお二人さん」

「ジャンヌ!お主はもうカズマに用はなかろう!?離すがよい!!」

「関係ないでしょう!?それより、あんただって戦闘の後なんだから休んだ方がいいんじゃないの!」

「余は大丈夫だ!それよりもドレスの新調の方が大事だ!!」

「あんたの頭にはオシャレすることしかないわけ!?」

 

痛い痛い。ちょっと本当に痛いんですー。マジで痛いんですけどー。やめてくれません?

 

「カズマ、あんたも突っ立ってないでなんとかいってやりなさい!」

「そうだカズマ!お主からもこの頑固者を説得するのだ!!」

 

ああもう…………いっぺんに話すなよ。しかも対極の意見言うなよ。どちらかの肩を持てってか?はっ、そんなことしたらどちらか一人から理不尽な攻撃受けるだろうが。

だからこうしよう。

 

「…………胸が当たってる。ので、このままでよろしく。あ、でも引っ張る力は弱めて――――」

 

そこまで言ったところで両方向からパンチを喰らって倒れた。

酷いなぁ。俺が何したって言うんだ?

 

「ネロ、この男は溝に捨ててしまいましょう」

「そうだな。そうしよう」

「お、お前らには人の心が無いのかー!?」

 

拝啓 お父さん、お母さん

僕は今から捨てられるそうで――――って、ああーーーー!ちょっと、ちょっと待って!!本当に待って!!二人して担いで窓から投げようとしないでくれ!!!

 

「次言ったら本当に捨てるから」

 

なんとか捨てられずに済んだようだ。

 

「はぁ…………はぁ…………死ぬかと思った。そういや、さっき言ってたアルトリアだっけ?そいつはまだ里の近くにいるのか?」

「恐らくは」

「なら早く紅魔の人達に言って倒してもらった方がよくね?」

「無理ね」

「…………なんで?」

「まず対魔力のせいで魔法が効きにくい。それと、あいつは恐らく優秀なマスター資質のある者に召喚されている。なら当然スペックは本来の通り怪物並みよ。あいつの宝具ひとふりであらゆるものが消し飛ぶわ」

「無理ゲーじゃん」

 

あれ?悠長に話してるけど、かなりまずくね?この里終わったくね?

 

「とはいえ、あいつが万能かと言われればそれは違うわ。何事にも相性というものがある。それこそ、エミヤオルタはアーチャーよ。可能性はあるわ」

「俺が言うのもなんだけど、他力本願じゃねぇか」

「当然、出来るならば加勢するわよ。あいつの宝具なら当たれば殺せるでしょう」

「まじか!?おうおう、以外とヌルゲーだったか」

 

ここでようやく安堵の声が出た。

ああ、マジでどうしようかと思ったぞ。俺の脳内では既に逃走プランが確立されていたからな。

いざとなればカズマオウチカエル気でいる。

 

「よし。取り敢えず作戦は呪文使うな、それと他力本願で行こう」

「呪文も何もハナから使えないでしょう?あと、どんだけ自分の手を汚したくないのよ。他力他力って、たまには自力とやらを見せてもらいたいわね」

「お、俺はまだ本気を出していないだけだからな。その内、いつか本気だす。だからそれまで待て、しかして希望せよってな」

「あんた、何処でそのネタ知ったのよ?」

「前の世界でWikipedia先生に教わった」

「それは大層物知りな先生なんでしょうね。で、本当にどうするの?」

「どうもしない。里の人には注意換気だけはしておいて、俺達はなるべく里の外に出ないようにしよう」

 

さて、問題はめぐみん達だ。

俺やジャンヌだけなら即トンズラかましてお家カエルんだが、彼女達の里を見捨てる訳にもいかん。…………いや、本音いうと超逃げたい。別に里のエリート連中に任せておけばいんじゃね?って気分なんだけど、その言い分だとめぐみん達はおろかジャンヌとネロも納得してくれそうにない。

 

(どうにか回避できないもんか…………)

 

と、そんな事を考えながら呑気にお茶してた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おい、どうするんだ…………?」

 

ローブを被った男が険しい表情で問いを投げた。しかし、一変して誰もが口を開こうとしない。

 

「…………どうするって、どうもできんだろう?魔法が効かないんだぞ?あれでどう戦えと…………」

「里なら3日で直せる。今は避難させることが優先だと思う」

 

木々に隠れ、細々と会話を続ける男達。

その者達の目前には黒い鎧を纏った王が一人、禍々しい魔力を振り撒きながら歩いていた。

 

「…………一旦戻ろう。さっきのスライム型の敵も厄介だ。今ならまだ…………」

 

そっと音を立てないように中腰気味に立ち上がる。

それに続くように隣にいた二人も立とうとした…………。

 

「まったく、今日は厄びだ―――」

 

最初に立ち上がった者の顔面に火の玉が直撃した。それは燃やす事無く、一瞬で頭部を消し飛ばした。

 

「…………えっ?あ、ああ、あああああああああ!!?」

「な、何が起こって…………!!?」

 

消し飛んだ断片から血が飛び散り、男達を真っ赤に染めた。

一瞬の事で脳が状況を読み込めず、惨劇を目の当たりにして叫び、立ちすくむ。

 

「…………し、死んでる?」

「ええ、そうよ?私が殺すために撃ち抜いたんだから」

「だ、誰だっ……!?」

「これから死にゆく人に名乗っても仕方ないでしょう?」

「なっ!?」

「ひっ!に、にげ―――」

『ディンダー』

 

その者が放った魔法は瞬く間に男の体を包み、渦となって焼き付くした。

 

「は!?な、なんで初級魔法でこんな威力が……!?」

「あらあら?あなた達、それでも紅魔族?魔法って、使用者の技量次第でこんなにも強くなるのよ?」

「ひっ……!た、助けて!!」

「駄目よ。逃がさないわ」

 

男はがむしゃらに走った。

とにかく遠くへ。この女から少しでも遠くへ。離れなければ殺される。本能がそう言っている。だが、逃げた先にも未来はなかった。

 

「ほう?ノコノコと私の前に現れるとは……」

「っ!?しまっ―――……くそ、こうなったらやるしかねぇ!!」

 

男は即座に詠唱を始めた。

しかし、それをただ眺めている訳もない。

 

「話にならない。死ぬがいい」

 

僅か一秒足らずで距離を詰め、黒き聖剣を男の心臓へと突き刺した。

 

「がはっ…………!うっ……くそ……お前らなんか、きっと…………族長が―――」

 

その言葉は紡がれる事はなく、男の首は遥か彼方へと消し飛んだ。

 

「あらあら…………やりすぎではなくて?」

「あなたこそ。頭部を焼滅させていたではないですか、マスターウォルバク?」

「ああもうっ、その呼び名は恥ずかしいからやめてちょうだい」

「…………失礼。では、マスターと」

「うん…………まぁ、それでいいわ」

 

赤い髪に人間の外見にそぐわない2つの角、観るものの色欲をそそるかの様な熟れた肢体。されどその身は人にあらず、悪魔である。

 

「それで、あなたは何をしていたのかしら?」

「この周辺で2騎のサーヴァントと交戦していました。あともう少しで一騎は落とせていたのですが…………」

「邪魔をされたのね?」

「…………はい。申し訳ない」

「いいわ。取り敢えず、その邪魔をしたっていう奴の方から殺しましょう?出来るだけ惨たらしくね」

 

ニヤリ、と悪魔の名に恥じぬ陰湿な笑みを浮かべる。

その体からはそれだけでは物足りないと言わんばかりに燃える様な魔力が迸っていた。

 

「……了解した。では、マスター……」

「ええ、そうね。そろそろおいでなさい?」

 

それは後ろに感じる気配へと向けられていた。

 

「…………はっ、てめぇ…………よくもそこの奴をけしかけてくれたな!ウォルバク!?」

 

どろどろに、いまにも溶けて消えてしまいそうに小さいスライム。ハンスがそこにいた。

 

「あらぁ?誰かと思えば…………負け犬のハン…………はん…………なんだったかしら?」

「……殺す!」

「あっ、手が滑った♪」

 

振り向き様に人差し指から放たれたおぼろげな炎がハンスを襲った。

 

「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!」

「はははははははは!!!滑稽!滑稽ね!!そのまま惨たらしく絶命なさい!!!」

「……た、助け……助けて……くれ」

「あらぁ?何?あ、いい忘れたけど、その炎はあなたをじっくりと焼いていくからね?ゆっくり、じっくりと、体よりも精神を先に殺す様に私が改良した魔法なの。存分に味わってね、あと8時間くらい♪」

「っ―――!!?嫌だ!殺して、殺してくれ!!いっそ殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「はははははははははははは!!!!堪らないわ!この感覚!!他者を蹂躙しているこの時が一番生きていると実感出来るの!!!ふふ、あなたは一体どれだけ無様な断末魔を聞かせてくれるのかしら?」

 

悪魔。まさに悪魔だ。

ハンスは彼女を見てそう確信した。こいつは、この女は本物の悪魔だ。いや、もはや化け物の類いだ。こいつには逆らえない、敵わない、敵対してはならないと、地獄の業火に焼かれながらそう思った。

これだけの仕打ちを受けて尚、抱くのは憎悪ではなく絶望。底無しの悪意の塊にただ恐怖した。

 

「…………マスター、殺すのならば一思いに」

「あら、セイバー?マスターである私に口答えするのかしら?」

「…………いえ」

「うふふ!さぁさぁ、もっと激しく燃えてちょうだい!!ああ、でも殺さない程度に。それでいて最高に苦しめながら!!あぁ……あぁ……興奮しちゃう♥」

 

その異様な光景を前に、セイバーはただ目を閉じ沈黙していた。マスターであるウォルバクの業の深さに畏怖と嫌悪を抱かざるを得ないから、ただ彼女は目の前の残酷な光景を直視せずに、ただただこの時間が早く終わることを願っていた。

 

(…………ああ、死にたくない。死にたくない…………死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!俺はこんなところで死にたくない!こんな、何の理由もなく、意味もなく、こんな奴に、こんな死に方を、こんな最後を迎えたくない!!!)

 

消えゆきそうは意識の中、ハンスは願った。

この地獄から解放してほしい、と。

 

「…………なん……で、も…………する」

「はははは!…………え?何か言ったの?」

「なんでも…………する、から…………助け…………て…………くれ」

「…………そう。そうねぇ…………どうしようかしら?」

 

意見を求めるべくセイバーへと向くが、当然彼女の意見など元から聞き入るつもりもない。

 

「…………マスターの思うがままに」

「そっ。なら…………そうね、いいわ。その命乞いに耳を貸してあげましょう」

「っ!!?ほん、とぅ…………か?」

「ええ。私は悪魔よ?悪魔は契約にはうるさいものなのよ?」

「…………な、にを…………すればいい?」

「…………そうね」

 

指をパチンッと鳴らし、ハンスへ掛けていた炎を止める。

そして、またも悪行を企てる顔を浮かべてこういい放った。

 

「この里にいる紅魔族…………とある少女を私の元へと連れてきてほしいの」

「…………わかった。……それ、で…………なまえ…………は?」

「彼女の名は――――よ」

「…………わかった。約束だ。それを成せば俺は―――」

「ええ、もちろん。解放するわ」

 

口元に人差し指をあて、歪んだ口元を止める。そうしないと―――

 

(馬鹿な奴。こんな口約束を信じるなんて)

 

本心が漏れてしまうから。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ただいま戻りました」

「おう、お帰り」

 

夕方になるとめぐみんとゆんゆんが戻ってきた。

ゆんゆんの方は相変わらず俺を見るなり母ちゃんみたく「お茶いれますね」と、世話焼きを始めた。

 

もう一度いう。お前は俺の母ちゃんか?

 

「はい、どうぞ」

「おぅ…………あんがと」

「いえいえ、当然の事ですから」

「え?いや、そんな事を頼んだつもりは…………」

「ですから、夜のお世話の方も…………?」

「ぶっ!」

 

思わずお茶を吹いてしまった。

 

「いやいやいや!待て、ちょっと待て!!何かってに口走ってんだ!?」

「うっわ、引くわね。そんな事までさせる気なの?前から思ってたけど、あんたの守備範囲広すぎない?」

「んなわけねぇだろ!?」

「カズマ!余は腹が空いたぞ。何か趣向を凝らした絶品を食べたいぞ」

「注文多すぎな。普通に宿屋の飯でいいだろ?」

「むー、ケチだなカズマは」

「今更だな」

 

その後は、みんなでどんちゃん騒ぎした。

途中、めぐみんが今日は爆裂魔法を撃っていないとかで禁断症状的な状態に陥ってたけど知らんぷりした。結局ジャンヌが無理矢理酒を流し込んで酔い潰した。

 

(ああ、こうしてると平和だなって思えてくるな……)

 

この時の俺はそう思っていた。

だが、こんな甘い日々はあっという間に消える。

翌日、それは現実となった。

 

 

 




次回からシリアスかつ急展開が続きます。

次回は頑張って早めに書きます!(定期)

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