異世界転生したカズマは召喚師になりました。 作:お前のターン
早く書くという気概と言いつつ、1週間も空きました(^_^;)
が、それもこれも全てFateGrandorderのイベントが…………長かった。
「…………おかわり」
「あいよ」
店員が俺の茶碗を取り、2杯目のご飯を注ぐべく店の奥へと消えていく。
「…………おかわり」
「あいよ」
店員がめぐみんの茶碗を取り、2杯目のご飯を注ぐべく店の奥へと消えていく。ついでに俺の分を置いていった。
「…………おいめぐみん。それ、俺がおかわりした分なんだが?」
「何をケチケチしてるんですか?後から持ってくる私の分を頂けばいいではないですか?」
「待て。その間、およそ30秒の空白の代償は?」
「後で特大の爆裂魔法を見せてあげますよ?」
「わー凄い嬉しくないー」
迷うことなく茶碗を奪い返す。
だが、めぐみんはそれに直ぐ様反応し、俺と取っ組み合いになった。
「おい馬鹿離せよ!お前な、たった数十秒の空腹に耐えられないのか!?子供か、お前は子供なのか!?大人のレディーなんだろ!?」
「いえいえ、私はまごうことなく大人で、立派な、素敵で知的なレディーですよ!」
「はぁ、そうか?そうなのかー!?俺の目には背伸びをしているただのお子さんに見え―――ぶふぉ!!?」
俺の懐にめぐみんの頭部がめり込んだ。
「おい…………危うく胃から物が逆流するところだったぞ!?」
「おやおや?それは大変ですね?では、とてもじゃないですが2杯目なんて頂けませんね?吐き気を催しているのなら、無理はしない方がいいですよ」
そう言うと、奴は俺の茶碗と店員が持ってきた自分の分を受け取り、俺の方を見て鼻で笑った。
俺は悔しさのあまり、瞬時にめぐみんから新しい方の茶碗を奪い取り、ついでにおかずをつまみ食いした。
「ああーー!?それは私が最後に食べようと残しておいた分ではないですか!?」
「へぇ?そうなのかぁ?そりゃ残念だったなぁ!?他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんだ!確かに美味いなぁ!!!」
「この男……最低です。人のご飯を奪っておいて、どや顔して論破した気になってます…………」
「はっ!それなんてブーメラン?数秒前のお前に復唱させてやりてぇわ!!」
俺とめぐみんによる醜い食い意地争いは激化していき、互いに互いの取り分を食い漁る様になっていた。
「おぉ、このヒレカツ美味いな?」
「いえいえ、こっちの茶漬けカツ丼も中々に美味ですよ?」
「「はははははー!」」
終いには相手の注文した分だけを食べていた。我ながら思う。よくもまぁ、恥ずかしげもなく年下とはいえ異性の女の子のご飯を横取りしたなと。もうこれ、間接キスだろ?
「…………てか、ゆんゆんが何も言わずにこっちを見て目を見開いてるんだけど?」
「いえ、よく聞くと…………何か言って―――」
「か、かかかかカズマさんと、か、かかかか間接キ、きききききき、キス?私のカズマさんがめぐみんと?え?え?え?なんで?どうして?どうして私じゃなくてめぐみんと仲睦まじくイチャイチャちちくりあってるの?え?どうしてなの?ふ、ふふ…………腐腐腐腐腐!ど、どうしようかしら?私も唾液を汁に混ぜてカズマさんと飲ませあいっこしようかしら!?」
「「Oh……」」
困るなぁ。こんなところまでそんな性癖持ち込まないで欲しいなぁ。普通にめぐみんと俺とのやりとりが羨ましいんだろうけど、そんな病んだ方向で策を立案するのはやめて欲しいなぁ。
「なぁ、そろそろやめね?」
「やめるとは言っても、既にほとんど残ってませんが?それでもですか?加えて言わせて貰いますと、更なる間接キスを引き起こし、更に彼女の逆鱗に触れる可能性が」
「か、カズマさん!良かったら私の―――」
「ご馳走さま」
「あれっ!?今、私が話しかける寸前に急に食べ終えました?」
「あー、美味しかった。ん?どした、ゆんゆん?」
「え?あ、あの…………いえ、何でもないです」
よし、勝った。
今回は
それから会計を済ませると、やたら後ろで暗くしているゆんゆんと澄まし顔のめぐみんを連れて店を後にした。
「…………で、お前はなんでそわそわしてんの?」
「…………ふんっ」
振り返ると、ジャンヌが視点が定まらないのか、あちらこちら見ながら若干頬を染めていた。
「あの!やっぱりジャンヌさんの胸がバインバインなのは何か秘訣があるんですか!?」
「あれですか!異性に揉んでもらってるんですか!?」
「ばっ―――そんな訳ないでしょう!?いい加減にくだらない質問はやめなさい!!」
ふにふらとどとんこが両脇に張り付いて質問攻めしている。その内容は男の俺が聞くと口ごもりそうになるが、それは彼女もまたしかりの様で。目を見て話せてない。
「あの!バストはどれくらいですか!?」
「ちょっと、もう少し声抑えなさいよ。あと、どうして私にばかりそう言うことを聞くのよ?ゆんゆんだって…………」
「だってあの子、真顔で『私、何もしてないよ?』って平然と言ってくるんだよ?ムカつかない?あの胸、揉みしごいてやりたいわ」
「…………」
「あっ!ジャンヌさんは別だよ?だって、お姉さんだもん。私達の人生の先輩だもん!」
おっと、ジャンヌも察して黙ってますね、これ。明らかに巨乳に対して並々ならぬ憎しみを抱いらっしゃいますね。たぶん、ジャンヌも自然とその胸に育ったから黙ったんだろうな、うん。
「ねぇねぇ!ジャンヌさんはどういう事をしてたの!?」
「…………牛乳飲む、とか?」
おぉ、なんかそれっぽい事言ってる。でも、どうせなら目を逸らさず言わないとな。ふにふらはちょっと首かしげてるぞ?
「でも~、私もそれで試してるけど全然で……」
「あ、あなたはまだ14歳でしょ?希望はあるのだから、早まる事はないでしょう?」
「14歳であんな胸をしてる化物が身近にいるんですが?」
「あれは別格よ。見ては駄目」
おい、そんな危険物みたいな言い方はやめてやれよ…………あながち間違ってはないけども。
「で、ジャンヌさんってば、どんなイヤらしい事をカズマさんにお願いしたの?」
「「は?」」
「だって、それだけ大きいだもん。何かしてるよね~?ね?」
「…………」
待て。そこで俺を見るなよ。
よせ、俺の事を軽蔑の眼差しで見るなめぐみん。
頼むから眼からビームで俺の方を睨むなゆんゆん。
あえて言おう。俺は無罪だと!
「…………コホン。私は特に何も。…………あ、もしかしたらカズマが私にそう願ったからこのスタイルになったのかも?」
「「「は?」」」
「ちょ!!?おい、何でそこで俺の名前が出てくるんだよ!?俺は特に何もして―――」
そう言いかけて、俺はふと思い出す。そう、彼女を召喚した時の事を。
(…………あ、そういえばソシャゲのガチャ感覚で、美人巨乳キャラが欲しいなぁって思ったっけ?)
懐かしいなぁ…………ん?
「「「…………」」」←無言の睨み
「ち、違うから!!!俺は無罪だ!つーか、逆にお前が毎日エロい事考えてるからそんな体型になったんじゃねぇのか!?」
「はぁ!?私は別にそんな事考えてないわよ!!ばーか、ばーか!!!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんですー!はい、論破!!」
「ムカつくわね!!?あんただって私の体を見てたまに発情してたくせに、出会って直ぐに私の胸をガン見してたくせに!!!」
「はぁ!!?言い掛かりだろ!?俺がいつそんな事したってんだ!?お前のそのイヤらしい体はお前の責任だっつーの!!!」
ムキになったのか俺の方へとガンガン近づいてくる。あ、ちょ、ちょっと近いです。やばい。思いの外やっきになってつかみかかってきた。
「ねぇ!あんた、前から思ってたけど、実は私の胸をいっつも見てるわよね!?」
「はぁ!?」
「他にも、私があんたの部屋でTシャツ一丁で寛いでいる時、ずっとそわそわしてたでしょ!?」
「そ、それは薄着で無防備なお前が悪いんだろうが!?」
「他にも、私と会って間もない頃は私とゆんゆんでハーレム作るぞって息巻いていたじゃない!!?」
「ばーかばーか!!!あ、あとばーか!!!適当言ってるんじゃねぇ!!?」
「はっ!ついに言い訳も苦しくなったわけね!!」
ち、ちくしょう……急展開でまったくついていけんぞ。
俺は助けを求めようと辺りを見たが、そもそも周りには女性しかいない。この手の話題で味方する女性はそうそうおるまい。現に俺とジャンヌが至近距離での言い争いを夫婦喧嘩と勘違いして和やかに笑う老夫婦が見える。両隣には若干…………いや、かなり不機嫌なゆんゆんが静かに詠唱している。めぐみんは呆れた顔でどーどーとジャンヌをあやしている。
「…………はっ、やっぱりあんたはロリコンなのね。めぐみんとゆんゆんを嫁に貰って、その後も手当たり次第漁る訳ね。この変態が」
「何でそうなるんだよ!?お前な、俺も前から思ってたけど、女絡みの話になると態度悪くなるよな?あれか、実は俺の事を―――」
「ばっ―――ばばばばば馬鹿じゃないの!!?自意識過剰にも限度があるでしょう!?」
そうは言うが、明らかに動揺が隠せていない。俺の胸をどんと押すと、後退りするように距離を取った。
俺とて本気で言った訳でもなかったのだが、彼女は俯いて、その言葉に過敏に反応を示した。
「ジャンヌさん顔真っ赤だー。可愛いね」
「うん。黙ってると綺麗で、恥じらうととっても可愛い。まさに女の子の理想よね」
「なっ、なななな何を言い出すのよあなた達まで!?」
「だって、本当の事だもん?ジャンヌさん、ヒロイン力高すぎだよ?」
「わ、私は―――っ…………私は、わた…………しは…………」
紡ぐ言葉が思い付かないのか、突然胸に手を当てて考え込む素振りを見せる。それがまた、愛らしく見えるのだが…………これを言葉にするのはよそう。どうせ本人以外は分かってる。それに、肝心の本人がそう言われて純粋に喜ぶ部類ではないのだ。
「…………私は、何の取り柄もない一人の女よ。誰かに誉められる事は…………資格なんてないのよ」
「「?」」
(あいつ、まだ過去を引きずってんのか……?)
この言葉は俺以外は理解できないだろう。しかし、それをこの場面で持ち出すのはやめて欲しいもんだ。フォロー入れれるのは俺くらいだぞ。
「資格なんて知るかよ。ただ単にお前の事を誉めた。この二人はそこまで難しい事は考えてないと思うぞ」
「え?何?」
「私達、誉められてるの?貶されてるの?」
「――――はっ!そ、そうね…………私ったら、どうして脈絡も無くこういう事を話したのかしら?もう、歳なのかもね」
「えっ?歳?ジャンヌさん、いくつなの?」
「永遠の19歳だ」
「え?ちょっと何言ってるのかわかんない」
だろうな。だが、俺の言ってる事は間違いではないと思うぞ。しかし、それを証明する手段もその気もない。彼女にさえ、意図が伝わるのであれば。
「…………ジャンヌ、何か悩みがあるならいつでも言ってくれよ?俺も含めて、今ある仲間がお前が此処に在る理由なんだから。だから、その…………なんだ、困ってるなら力になるぞ?」
「…………ふふ」
俺が死ぬほど恥ずかしい事を言い終えると、彼女は優しく微笑んだ。
「そうね。そうだったわね。頼りないマスターさん?」
「お、おい……一言多くね?」
「ならお言葉に甘えて、相談に乗って貰おうかしらね?」
「…………へ?」
―――――――――――――――――――――――――――
「どう、似合うかしら?」
「…………凄く似合ってる、と思う」
彼女は黒いドレスを身に纏い、確認するかのように前と後ろを見せてくる。少し露出が多いのが気になるが、そこから覗く肢体の曲線美がまた彼女を色気強く魅せた。
「…………そう。なら、取り敢えずキープね」
「へい!ありがとうごさいます。それで、お客様?次はこちらの御召し物なんていかがですか?」
「ちょっと、誰がそんな悪趣味な服持ってこいと言ったのよ。服は私の思うがままに選ぶわ」
「す、すみません…………」
そう言うと、服屋の店員はしょんぼりとして下がっていった。
「…………で、これがお悩み相談なのか?」
「ええ、そうよ。たまには着飾ってみたいと思うのは女性として当然でしょう?」
(ジャンヌからそんな言葉が飛び出てくること事態がアブノーマルだと思う俺がいる…………)
「ちょっと、難しい顔をしてないでなんとか言いなさいよ」
「お、おう…………まぁ、その、なんだ…………今日のジャンヌは年相応に可愛いらしい少女に見える」
「年下のあんたに少女って言われるとゾッとするわね」
「例えだよ例え!!!素直に照れろよ。ったく、これだから社畜は…………」
「はいはい、次いくわよ」
「あっ―――ちょ、待てよ!おおい!?」
ジャンヌは振り向く事無く、俺を置いて行くが如くずかずか店の奥へと進んでいった。
「可愛い、か…………ふふ」
―――――――――――――――――――――――――――
「ねぇ、あの二人良い感じじゃない?」
「うん。もう、あれだね。カップルだよ」
二人の後を追うようにこそこそと隠れる少女達。地元の店でなければ店員に呼び止められるくらい不自然につけ回していた。
「ねぇねぇ!めぐみん、あんたもこのままだとやばいんじゃ―――」
「我が名はめぐみん!最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!!…………ふっ、決まりましたね」
「何やってんの?」
試着室で高らかに名乗りを上げ、マントを翻すめぐみん。こちらの話などまるで耳に入っていないかのように自分に夢中になっていた。
「あのね、人がせっかくあんたの恋路を心配して―――」
「結構ですよ」
「…………え?」
予想に反して否定する事はなく、何故か悟った風な面持ちで見やる。その表情には焦りや嫉妬はなく、ただ暖かい視線だけ。
「今日くらいは、リードしてる分を取り戻させてあげますよ」
「おっ、大人だね~?何、余裕綽々な感じ?」
「まさか。あの男は誰にでも靡く尻軽男ですよ?危険は常について回ってると言っても過言ではありませんよ」
「え?そ、そう?…………あんたも大変なんだね」
「ふっ!恋する乙女はいつだってそうですよ?まだ恋すらしていないふにふらさん?」
「ちょ―――な、なんでここで『さん』付け!?ていうか、あからさまに見下してない!!?別にまだ行き遅れてる訳じゃないからね!!?」
「はて?私によく分からない悩みですね」
「むっか―――!」
バンバンと床を踏みしめるふにふら。
「ちょ、やめなよふにふら。あたしだってまだ―――」
「うっさい!どどんこも少しは男を探す努力くらいしたら!?あのめぐみんに先を越されてるんだよ!?悔しくないの!!?」
「いや、そう言う訳じゃないけど…………ね?」
「なによ?どうかしたの?」
どうにも浮かない面持ちで心配そうに話すどどんこに疑問を覚える。視線の先を辿ると、そこには物陰に隠れて二人の動向を監視するゆんゆんがいた。
「あ、ああ、ああああ…………いいなぁ。私もあんな風にカズマさんとイチャコラ―――デートしたいなぁ。いいなぁ、あんなにも楽しそうに笑って。ジャンヌさんは全体的にスタイルも顔も綺麗だから羨ましいよぉ。私も、あんな風に自分に自信を持って、女の子らしい自分でカズマさんと話してみたいなぁ。それで、最後にはキ、キス?とかしてみたいなぁ…………」
一人でぶつぶつと呟きながら表情を喜怒哀楽と変わり変わる。二人は見えているのに、そんな自分の不審行動は見えていないようだ。
「ね?あんな風にはなりたくないよね?」
「あぁ…………あそこまで依存するのはよくないわね」
「あの子の性癖は、元が友達すらいないことから派生したんだろうとカズマが言ってましたよ」
「あたしらのせいなの!?」
感慨深く考える素振りを見せるめぐみんだが、自分が一番の要因だと気づいているのだろうか?と、心配になるふにふらだった。
――――――――――――――――――――――――――――
「ふふ、これもいいわね」
「おぉ…………ワンピースとか、以外だけど似合いそうだな。ていうか、基本素材が良いと大概の服は似合うって聞いたぞ」
「あら、そうなの?…………ふーん?」
お、照れてらっしゃる。
「お客様、でしたら次はこちらを―――」
「だがらどうしてそんな厨二病くさい服持ってくんのよ!?喧嘩売ってるの!?なによ、これ!全身黒ずくめのマントとタイツ、それに更に黒い短パンって!?何?私に魔術でも使わせたいの!!?」
「いえいえそんな。とてもお客様に似合ってると思いますが…………?」
真顔で返す店員。以外と似合ってると断言されちょっと流されそうなジャンヌ。
俺も乗るしかない、このビックウェーブに。
「そうだぞ、ジャンヌ。そこで更に決め台詞を言えば最高にクールだぞ」
「はっ!?正気なの!?」
「ああ!」
「ぐっ…………!?わ、わかったわよ。…………一回だけよ?」
以外にも俺の提案を受け入れてくれた。
そして、ジャンヌはマントの端を持ち、いきおいよく翻して堂々とこう言いはなった。
「我が名はジャンヌダルク!救国の聖女にして災厄の魔女!!しかしてその正体は竜の魔女にして、炎を操る者、ダークフレイムマスター!!!」
その瞬間、思わず吹いた。
「ぷっ―――ぶっ!!あは、あははははははははははは!!!腹痛いわー!!!ちょ、やめっ!!!ぷふっ!!あははははははははは!!!!もう、おまっ―――取り敢えず最高だわ!!!」
「あんたが言えって言ったんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
鬼の形相で掴み掛かってきた。
だが、爆笑している俺に抵抗する気力があるはずもなく、意図も容易く締め上げられた。恥ずかしさのあまり手加減が出来ないのか、そもそもする気もないのか容赦なく壁に打ち付けられた。
「痛っ…………!!?」
「ふん、だ!私をコケにした罰よ」
「…………」
「なによ?急に押し黙って…………反省する気になった?」
「…………やっぱり、黒か」
下から覗き見えたジャンヌのあれの色を無意識に呟いてしまった。
その後、俺は誰もが震え上がる様な彼女の覇気に当てられながらボコボコにされたのであった。
めでたし…………いや、全くめでたくないけど。
――――――――――――――――――――――――――――
「失望だな。これが全力とは…………ふっ、片腹痛い」
「くっ…………!」
ボヤける視界の中、剣にすがるように彼女は立っていた。最早力を入れる事すら億劫だと言うのに、体はとうに悲鳴を上げているというのに、目前の敵は息一つ乱さず立っている。
(これで…………終わり、か)
決着は既に決している。自身は既に死に体。もはや勝ち目などない。
「ネロ・クラウディウス。あなたはここで倒れろ」
構えた剣から逆十字の黒い光が放たれる。それはとても禍々しく、それでいて儚く、悲しい光。栄光と希望、輝ける彼の剣の威光は堕ち、殺意だけを解き放つ。
(ああ、どうして余はいつも―――)
静かに目を閉じる。
剣は空高く上げられる。
(役にたてないのだろうか)
嘆願虚しく、彼女の想いは潰える。
『エクス―――』
「がら空きだ」
はずだった。
彼女の一撃は、突然の銃撃により阻止された。
「…………な、何が起こって?」
「ぐっ、貴様…………邪魔をするのか」
「邪魔?いやはや、それは少し違うな。俺からすれば今の一撃で君を殺せればそれで良かったのだがな」
「つまり、邪魔をする気はなかった。だが、私を殺す機会を伺っていたという訳だな」
「ふむ、概ね合っている」
「…………外道め」
セイバー・オルタの鎧には数弾撃ち込まれた後がある。そこからの出血はほとんどない。ならば、ダメージも殆どないだろう。
「魔力で編んだ鎧を貫通するとは、余程高度な武器と見受ける。だが、そのような武器を使う英霊を私は知らない」
「当然だ。元より俺は、英霊と称するにはいささか見劣りする者でね。君が知らないのは無理もない。が、それは逆に好都合。何しろ、私は君の事を良く知っているからな」
「ほう、我が真名を知り得た所でどうする気だ?勝ちの目があると思うか、アーチャー」
「…………ふん」
再び剣から禍々しい光を放ち始める。
だが、それに怯える様子もなく歩いてネロの方へと向かう。
「大丈夫か。たてるのか?」
「む…………そなたが何故?」
「いまはどうでもいい。それより、動けるんだな?ならば、あともう少しだけ踏ん張る事だ。死にたくなければな」
「ふん。だがもう遅い…………」
「ああ、言い忘れていたよ」
「…………なに?」
そして再びエミヤ・オルタは彼女の方へと向きやる。
「君がいまいる辺りに、草木で隠れていて見えないだろうが細工を施しておいた。存分に味わうといい」
「なっ―――」
それと同時に、隠しておいた投影剣に弾丸を撃ち込む。そして、それは爆弾に火を点火したかの様に弾ける。
『
「しまっ―――」
「もう遅い」
退く暇もなく、真下からの爆発を受けて彼方へと吹き飛ばされる。
「くっ―――かはっ!」
「…………ふん。さて、これで何分持つだろうかね」
騎士王が喰らった一撃はとても重たい様に思えたが、どうにも彼の見立てでは数分の足とめにしかならないらしい。
「何故、余を助けた…………?」
「ふん。勘違いをするな。たまたま好機にお前が居合わせただけのこと、礼を言われる筋合いは無いさ」
「…………そうか」
「ああ、それと。君は早く逃げるといい。騎士王の興味は私へと移ったはずだ。ならば、巻き添えを食らわない所までは自力で逃げるんだな」
「まったく、そなたは食えない男よの」
「ふん。お気に召さない様で残念だ」
その言葉を最後に、ネロは持ちうる力を振り絞り森を駆け抜けた。決して振り向く事無く、ただひたすらに。仲間の元へと。
さてさて、特に物語が佳境に入っているのか入っていないのか分からない状況ですが…………取り敢えず、まだまだ長いかもと言っておきます。
次回は…………たぶん、早めに投稿します。(定期)