異世界転生したカズマは召喚師になりました。   作:お前のターン

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だいぶ間が空いたけど、続きです。
もうカズマ一行と敵戦力の差がどうのとかまるっきり考えてない…………嘘です。深く考えてないだけです←同じ意味

今回はだいたい一万文字くらいです。なるべく文字数を落とさず書こうと思います。




黒聖女、黒歴史、黒騎士

魔王幹部との交戦の最中、英霊としての能力を引き出して戦ったものの、俺は対して魔力が長く持たなかった。別に自分を卑下してるつもりも燃費が悪いだの言い訳する気はないが、やはり俺に戦いの才能は無いのだと悟った。

 

「…………でも、戦わないといけない時もある。だから強くなれってか」

 

畳の上に大の字で転がりながらそんな事を思った。ジャンヌはそれを悪いとは言わなかったけれど、死なないように努力するべきだと言った。『自分と渡り合えるくらいに強くなれ』と。

 

(それが出来たら苦労しないっての…………)

 

その彼女は今現在で傍らで外を眺めている。

枯渇している状態で無理したり、ツンツンばっかりしてて、正直言うとそんな彼女の事を未だに全然理解できていない。無理してしようとは思っていないしツンが強くてデレの頻度が少な過ぎて割りに合わないとか、そんな感じで互いに踏み込んだ話はしたことがない。…………別にそうなりたいと思っていないと言うわけでもない。

 

(そう言えば、初めて会ったときのあいつは…………)

 

常に冷めてて、でも飲みの席になるとはっちゃける。そんな訳の分からない社畜女だった。

 

「…………なにこっちみてんのよ?」

「いや、別に。ただ…………いや、なんでもない」

「気になるじゃない。いいなさいよ」

「そうか?それじゃ――――」

 

なんの気ない昔話。前はどうだったの、前よりも打ち解けて話せるようになったなぁと、でもそれでも…………。

 

「やっぱりジャンヌは、何かを恐れてる気がする」

「…………」

 

今回の件に限った話ではない。思えば最初からそうだった。あいつは、自分を社畜だの干物女だのとにかく働きたがらない自堕落女だと言っていたのに、いざモンスターと遭遇すると先陣を切って戦いに臨んでいた。俺はその矛盾をただのツンデレなんだと思い込んでいた。

 

「でも、本当はどうなんだ?お前は、一体何を思って、何のために俺を守ってくれるんだ?」

「何を思って…………か。それをあなたに話して、あなたは私の事を理解できますか?しようと思えますか?」

「…………」

 

いつもと違う言葉使い、いつもと違う雰囲気。それが指し示すところはつまり、『踏み込む勇気が、背負う覚悟があるのか』と意味しているのだと思う。

元々彼女は聖女のような言葉使いで話していたらしい。それが段々と廃れていって今のような砕けた感じになったのだとか。それを今になって持ち出されると変な感じがするが、逆にそれが彼女が本気でそう言っていると思わせる。

 

「…………でも、話さないと伝わらないだろ。何も分からないままより、話されても分からない方がまだいい」

「それは何の解決にもならないし妥協案ですらない気がするんだけど。それで理解されなければただ私の心をさらけ出しただけで私が損するだけじゃない?」

「でも、人間は溜め込んだ物を吐き出すだけでだいぶ楽になるもんだぞ?」

「…………そうね、酒で酔った時もしかりね」

「いや、そんな汚物的な意味じゃなくてだな」

「分かってるわよ、空気読みなさいよ。ロリコン」

「その関係ないワードを持ち出すお前こそ空気読めよな」

 

談笑すると、意を決したように俺と向き合う。

 

「ねぇ、カズマは誰かに必要とされることに幸福を感じる人?」

「いきなり難問だな。…………場合によりけりだな。面倒事を押し付けるやつに必要とされても嬉しくない。でも、可愛い子や美人に頼られるのは悪くない。むしろ推奨」

「つまり人を選ぶけど、そう感じるのね」

「んん…………まぁ、そうか」

「私はちょっと違う」

「?」

「…………そうね、順を追って以前体験した事を話しましょうか」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

全てが憎かった。自分を裏切ったフランスが。魔女と称して汚名を被せ殺し、罵った者達が。

 

だから殺した。慈悲もなく、情けもなく、ただ殺した。殺して殺して殺しつくした。その結果、人類史を正す為にやってきた者達とそれに協力するサーヴァント達によって阻止され、終にはまた命を落とした。

 

それがまた憎らしい事に、ジャンヌダルクという英霊によってだ。要は堕ちた自分を生前の様な聖女である自分が殺したのだ。しかも、自分の正体を看破した上で。

それがまた、更に憎くくて、悔しかった。

 

だってそれは、自分はあるはずのない存在だと突きつけられたからだ。

聖女は言った。悔いはあれど恨みはない、救おうとした人達に裏切られてもそれはいいのだと。それでも私は、彼等に復讐など望んでいないのだと。

 

ヘドが出る。そんな綺麗事を真っ直ぐな瞳で言い放ったのだ。そんなはずはない。理解できない。偽善だ。正義を体現するための抗弁だ。そんな事は、絶対にありえない。

そして、戦いの最中彼女は自分にこう問うた。

 

『あなたは、自分の家族を覚えていますか?』

 

最初は意味の分からない質問だと思った。でも、その言葉を受けて気づく。

 

思い出せない。何も、誰も、あるのはただ憎しみだけ。

 

ここでようやく聖女(ジャンヌダルク)は答えを確信した。そして、言葉にしなくともそれを魔女(わたし)は理解した。

 

つまり私は偽者なんだと。

 

否定できなかった。確かに内にあるのは憎しみだけ。過去がないのだ。英霊と言えど元は人間。生前の記憶を有しているはずなのだ。まして聖女が覚えているのに、こちらだけ無いのはおかしい。バーサーカーならともかく、いまの私は復讐者。アヴェンジャーなのだ。理性はある、なのに記憶が飛ぶなどあるものなのか?召喚に不具合でもあったのか?否、違った。

 

そもそも、私にそんな過去はなかったのだ。

 

そこで再び表現しがたい不安と恐怖に襲われた。ならば私は誰だ?何故彼等を憎む?私は偽者だというのに?そもそもこの感情すら借り得た物ではないのか?

 

そう。やはり、私は(竜の魔女)であっても、(本物)ではなかった。

 

私の存在に対する謎の答えは簡単だった。

とある一人の男が、かつての私を『あるかもしれない一面』を形どって聖杯に望んだもの。それが、私の源泉だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「つまりジャンヌは、たった一人の男に望まれて生まれた英霊で、その他の誰にも望まれなかった者だったという事なのか…………?」

「そうでしょうね。自分にすら否定されたのだから。だけど、それでも私は『ジャンヌダルクのあるかもしれない一面』として在り続ける事を望んだわ」

 

いわゆる『Ifルート』ってやつか?オルタの言葉の意味は『反転』らしいが、それを主張し続けたとはという事は、悪性で悪役だと自分から言っているような物だ。

そんなこと、誰が望んでやろうと思えるだろうか?

 

「そう。だから私は壊れているのだと思う。だって、憎しみに駆られて殺しまくって、挙げ句その動機すら借り物でしたって…………笑い話にしても質が悪いわ」

「…………」

 

返す言葉が思い付かなかった。

召喚した際に俺は彼女の事を深く言及する事は無かった。勝手を知らないというのもあるが、そもそも英霊召喚システムについては無関心、無知識だ。真名やその過去が価値ある物だとは知らない。ただ、俺は仲間として誰かを呼びたかっただけだ。だからこそ、俺は踏み込む気も勇気もなかった。

 

「…………それで、ジャンヌは俺に何を望むんだ?必要とされる理由が欲しいのか?」

「どうかしら?昔はそうだったかもしれないけどね…………カズマ達と一緒にいると、そんな事を考えるのがどうでもよくなった気がするわ」

「なんだそれ?じゃあ何で話したんだ?」

「気まぐれよ」

「そうなのか?」

「そうよ」

「…………そういう事にしておこうか」

 

思えば彼女の言うことも分からなくもない。

例えば俺だ。俺は元の世界で死んで転生した。そしてそのままこの世界に流れ着いた。とすれば当然俺を知るものは居ないわけで、誰からも無関心な存在な訳だ。悪く言えばいきなり天涯孤独の身になった訳だ。はっきり言って笑えない状態な気がする。死んで生き返っただけでも儲けもんだと諦める他はない。

そして、ジャンヌダルク。俺に異例な方法で召喚される以外、呼び出される確率は遥かに低かった。更に、彼女も俺と同じで孤独な身だ。互いに似た者同士なのかもしれない。

 

「なぁ?今はどうなんだ?今も憎しみで生きているのか?」

「今は…………違う、とだけ言っておくわ」

「ん?はっきり言ってくれよ?俺達を守る為とか、酒を飲むためとかじゃないのか?」

「あんた馬鹿じゃないの?前者は猛烈に恥ずかしい言葉を言ってる事を自覚しなさい。後者の方は私をなんだと思ってるのか今一度確認する必要性を感じさせるのだけど?」

「ばっか、俺は大真面目だぞ」

「分かった。あんたは私の事を酔っぱらいだと認識してるのね。焼いてあげるから表に出なさい」

 

おっと冗談が過ぎたようだ、やめておこう。これ以上は死傷者が出かねん。

ようやく話も一段落着いたところで気だるそうに立つジャンヌ。どうやらバックからお菓子を漁っているようだ。

 

「…………う~ん、何かなかったかしら」

「直ぐ様お酒を取り出さないあたり、成長したんだな……」

「ねぇ、私を酔っぱらいに仕立て上げるのやめてくれない?そんな事で成長したとか言われても馬鹿にされてるようにしか聞こえないんだけど」

 

しかしながら手を休めない。こっち向くでもなく相変わらずだ。俺と言えば、ジャンヌとの戦いで負った傷をさすりながら横になっている。戻ってきてから手当てはしたものの、痛いことにはかわりない。

 

「ゆんゆんがこの傷を見たら何て言うだろうな~」

 

と、冗談半分で言っていたら……。

 

「カズマさん、今から皆で駄菓子屋さんいきません…………か?」

「お、おう…………?」

 

戸を叩くでもなく、確認するでもなく、いきなりゆんゆんが降臨した。

 

「…………その、傷は…………一体?誰に?ヤラレタノデスカ?」

「…………だ、誰だったけかー?」

 

俺は迷うことなく目を反らした。

 

「カズマさん?こっちを見てくれませんか?それと、ちゃんと思い出してくださいね?」

「え?あ、ああー…………う~ん、どうだったっけかな?」

「ねぇちょっと、カズマ、あんた何処にお菓子しまったのよ。教えなさいよ、そんな傷唾でも着けてたら治るでしょうに」

 

こいつー!?人がせっかく誤魔化そうとしてるのに何地雷踏もうとしてやがんだ!!?

 

「お菓子はその横のバッグだ。それと、この傷については触れるな。危険だぞ」

「は?何言ってるの?手加減してたから大した事……には…………」

「うふ♥犯人、み~つけた☆!」

 

ついに犯人を見つけたゆんゆんは何処からか杖を取りだし、迷うことなくジャンヌへと標準を定めていた。

 

「え?ちょ、ちょちょちょっと待ちなさいよ!!?落ち着いて、お願いだから!!!私は、良かれと思ってそいつの訓練に付き合っただけで―――」

「うふふ☆イタイノイタイノキエチャエ」

 

狂喜とも言える笑顔で、呪文を高速詠唱し、手に雷の槍を生成した。

 

「残念です。ジャンヌさんはツンが強いだけで絶対にカズマさんを傷つける事だけはしないと思っていたのに。デレの代償としては重すぎますよね?」

「だっ―――誰がツンデレよ!!?言ってる事は合ってるかもだけど、あんたもやろうとしている事は大概じゃないの!!?」

「大丈夫です…………同じ苦痛を味わってもらうだけでいいですから(^-^)」

「嫌よ!!!」

 

そう言うと、直ぐに鎧を身に纏い黒剣を構えた。あのジャンヌオルタともあろうお方が冷や汗をかいてらっしゃる。おお、怖い。怖いぞゆんゆん。あのジャンヌ・デレタさんをここまで震え上がらせるとは。

 

「…………よし、俺は関係ないから寝るわ」

「駄目ですよ?」

「ぐへっ……!」

 

俺の服を掴み無理やり引きずるゆんゆん。

 

「後で一緒に食べに出掛けるんですから、そこで待っていてくださいね?」

「…………は、はい」

「言質、とりましたよ?絶対に破らないでくださいね」

 

ああ、なんて事だ。彼女は優しく囁いているというのに、俺にはこう聞こえる。

 

『逃げたら殺しますよ?』と。

 

(ちょ、ちょっとなんなのよあの娘!?何で急に私に対して攻撃しようとしてるの!?何で私はこんなにも怖がっているの!?そして何で私は彼処で爆弾発言しちゃったの?過去の自分を殴ってやりたいわ)

 

さすがのジャンヌもただならぬ殺気にあてられ同様を隠せずにいる。ゆんゆんが踏み込んだ分だけ後退を繰り返す。されど彼女は歩みを止めず、ただ一点ジャンヌだけを見据えて距離を詰め続ける。

 

「お、落ち着きなさい!あなた、自分が何をしようとしているのか分かっているの!!?」

「はい。軽い、とても軽い懲罰を与えているんですよ?」

 

ほー、そうか。これで軽いのか。あんな禍々しい殺気なのになぁ。これはもう魔王軍幹部クラスだわ。

 

「さらば、ジャンヌ。お前の事は忘れない……」

「え?ちょ、嘘でしょ?ねぇ!?」

「…………あいつは、いい奴だったよ」

「勝手に殺してんじゃないわよーー!!!?」

 

そのあと、ゆんゆんが無茶苦茶した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「もうっ、ジャンヌさんも泣き止んでくださいよ?」

「べ、別に泣いてなんか無いわよ!!…………ぐすっ」

「…………」

 

完全にゆんゆんという恐怖を植え付けられたジャンヌ。めぐみんも以前『病ん病ん』を垣間見たのだが、それはもう酷く怯えていた。しかし、まさか彼女までもこうなってしまうとは…………正直笑えない。

 

「お、おい……元気出せよ」

「うっ…………誰のせいだと思ってるのよ?ぐすっ。責任とりなさいよ」

「よし、取り敢えず泣きながらその台詞はやめようか?駄菓子屋の婆さんが軽蔑の眼差しを向けてきてるから。めぐみんとかふにふら達まで俺の事を蔑んでるから。俺の評判が臨界点を越す勢いで下がってるから」

 

駄菓子屋で適当なつまみになりそうな菓子を選んでいるのだが、隣で泣きながらすがり付いてくるジャンヌを見てあらぬ誤解を受けている。こんな時、ネロがいればフォローを入れてくれるのだが、生憎と彼女は不在だ。行き先は知らないが『少し出掛けてくる』とだけ残して去っていった。

 

「ねぇねぇ?カズマ、ジャンヌさんにどんな鬼畜プレイ要求したの?」

「人をドSみたいに言うの止めろよ。あと、こいつが泣いているのはある意味では自業自得だから。俺は無罪だから」

「おや?あれだけ『いつかジャンヌをデレさせて、ご主人様って言わせたい』と酒の席で宣っていたのにですか?」

「「「…………」」」

「お、おいめぐみん!!!変な事を言うなよ!!!?いつ俺が言った―――」

「カズマさん?(o^-^o)」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!生まれてきてごめんなさい!昨日バックにあったお菓子平らげてごめんなさい!!酒も飲みまくってごめんなさい!!!とにかくごめんなさい!!!日頃のジャンヌに対する鬱憤でやったんですごめんなさい!!!!ジャンヌがたまに薄着で俺を誘惑してきてモヤモヤしてたんですごめんなさい!!!!」

「ちょ―――何私を巻き込んでんのよ!!?違うから!!!薄着の件は違うのよ!!?あれよ、ただ暑かったのよ!!?違うからね!?別に色気でカズマを釣ろうとかこれっぽっちも思ってなかったから!!!」

「この二人、どうして急にゆんゆんに土下座しているのでしょうか…………?」

「さぁ?何かあるんじゃない?」

 

俺は謝りつつ、被害を最小限に押さえるべく道連れとしてジャンヌを。ジャンヌは以外とアンポンタンなのか更に爆弾を落としている。

当然、ゆんゆんは満面の笑みだった。

 

「うふふ❤どうして二人して高速土下座してるんですか?」

「「えっ?」」

「私が謝って許すような人に見えますかぁ?」

 

デスヨネー!

うん、読めてた。諦めようか、いっそ逃げるか?

 

「…………ぐっ、いい加減にしないさいよゆんゆん。いつまでもあんたみたいな子供に怖じけついてる訳には―――」

「ん?(^-^)」

「……わけ…………には……」

「はい?(o^-^o)」

「………………………………ごめんなさい」

 

終には謝ったか。だが、今のゆんゆんでは…………。

 

「仕方ありませんね。今回は特例ですよ?(私の)カズマさんにあまりちょっかいをかけないでくださいね?」

「…………了解」

(とうとう立場が逆転したか……。恐るべし、ゆんゆん。ていうか、何か()つけてなかったか?意味深なんだけど?)

 

ようやくほとぼりも冷めたかと思うと、ゆんゆんは俺の隣にべったりと着いてきた。

 

「カズマさん、あまりお菓子の食べ過ぎは良くないですよ?」

「お、おう…………気を付ける」

 

笑えない。彼女は終始笑顔で話しているのに笑えない。背筋に冷たい何かが走る感覚。俺を捉えて離さない彼女の眼。離れるなと言わんばかりに怪力で腕を組んで服を掴む手。

 

どうして、こうなった?

 

「ていうか、ゆんゆんってやっぱりカズマにぞっこんだったの?今に至るまで散々あやふやに答えておいて、そのイチャつきようはなに?付き合ってるの?」

 

おい馬鹿ふにふら言葉を選べよここにおあせられるのは偉大なる魔女教ヤンデレ司教色欲担当のゆんゆんでおあせられるぞ?死ぬぞ、お前の安易な発言で意図も簡単に俺は死ぬるぞついでにジャンヌもトラウマをぶり返すからやめてくれお願いだから後でうまい棒買ってあげるから。

 

「えっと……そう言われても、ねぇ?カズマさん?」

 

はい、来ました死刑宣告。これはあれだな。否定したら殺すんですねわかります。分かってる、分かってるから力を強めないで。腕がミシミシ言ってる。ついでに言うと眼から光が消えて本当に怖いから。そんな病んだ眼差しで俺を見るなよ。

 

「…………そ、そうだな。友達以上恋人みまっ―――ぐふっ!!?」

 

目にも止まらぬ速業で俺の懐に一撃を加えるゆんゆん。一瞬、意識が冥界へと飛びかけたが気にしないでおこう。

 

(しまった。選択肢を間違えたか…………)

 

くっ、これならどうだっ!

 

「友達以上だ」

「ごめん、表現が曖昧すぎて分かんない」

「考えるな、感じろ」

「ごめん、何言ってるか分かんない」

 

ちくしょう。こいつ、以外にも鈍感なのか。

 

「ね、ねぇカズマ?そろそろ昼時なんだから食べに行きましょうよ?ね?」

「お、おうそうだな!そうするか!?」

 

ナイスだジャンヌ!やっぱりお前はいざというときには頼りになる奴だ!!

 

「では、私は肉類が食べたいですね」

「おっ、やっぱりお前はがっつりいくタイプか。ふにふらとどどんこは?」

「えー?どうしよっかー?」

「私は―――」

「カズマさん?」

「え?」

 

無理やりな勢いで質問を投げ掛けたのだが、突然ゆんゆんに袖を引っ張られる。

 

「ど、どした…………?」

 

恐る恐る問うてみる。

 

「どうして、どうして最初に私に聞かないんですか?誰よりも先に聞くべきは私じゃないんですか?」

 

ああもうこいつ面倒くせー!!!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ネロはカズマと別れた後、再び先の場所へと退き返していた。

そしてそこにあったのは戦闘の爪跡だった。

 

(これは…………草木が腐っている?それに、何かが溶けた様な後と臭い)

 

辺りを見渡せば何処もかしこもそんな有り様。シルビアが逃げたと思われる方向をたどり、森へと入った中でも。むしろそこが一番酷い有り様だった。

 

「ふむ、敵はあの女だけではないという事か」

 

しかし、もう辺りには誰も見当たらない。静かだ。恐らくもう、誰もいない―――

 

「ったく、あいつら即座にテレポート使ってトンズラしやがって…………」

「――っ!?」

 

少し離れた通りを歩いている男がいた。そして隣にはシルビアも。

 

「それにしても助かったわ。まさかあんたがこの里に来てるとは思わなかったけど。あんた、担当はアルカンレティアじゃなかった?」

「そ、そりゃあ…………色々とあったんだよ」

「そ、そう?取り敢えず聞かない方がいいみたいね……」

 

咄嗟に身を隠そうにも周りの草木は枯れている。離れた所に岩壁があるが、とても直ぐに身を潜めれない。故に、彼女のとった行動は。

 

「ったく、もう二度とあの街には―――」

「はぁ!!!」

「なっ―――ぐあぁ!!?」

 

奇襲だった。

 

「くそがっ!!!まだ敵が残ってやがったか!!?」

「あの女、さっきの…………ハンス、油断せずに全力で殺しなさい!」

(右腕を断ったというのにあの気力、やはりただ者ではないか)

 

即座に距離を取る。そして再び敵の全貌を見やる。

 

(敵の数は二人。先の護衛連中はいない。そして…………何故かあの男、切断した腕から血が流れていない?)

 

ハンスの腕を凝視するもやはり出血は見られない。加えて本人もそこまで焦る様子はない。

 

(…………早まったか?)

 

動揺を顔には出さない。静かに剣に火を灯す。更には魔力を込めて殺傷能力を高める。

ハンスの方は未だにこちらの様子を見ている。シルビアは迷うことなくハンスの後ろへと回り、防御に徹する構えだ。

 

「不意打ちとはやってくれるじゃねぇか?」

「ふむ。余とて、好んでそうしている訳ではない。だが、その方が連れている女は魔王軍幹部。そして汝のその精神力と滲み出る圧力。そなたも同じと見た。ならば、容赦はない」

「はっ!小させぇ剣士がほざくじゃねぇか。おうとも、お前の読みは当たってる。んじゃ、殺りあうか」

「―――っ!!?」

 

切断したはずの腕がウネウネと動き始めたかと思うと、突然液状へと変化し始めた。

 

「なっ、これはなんだ…………!?」

「なんだ、知らねぇのか?スライムだよ。まぁ詳しく教える義理はねぇか。んじゃ行くぜ!?」

「くっ……!」

 

横たわっていた腕はその全貌をスライムへと変化し、ハンスの元へと集まっていく。そして、徐々に膨らみ始めたハンスの体はやがて大きなスライムとなり、完全に人の姿を捨てていた。

 

「これは、攻撃が通るのか…………?」

「はっ!!命を賭けて試してみな!!!」

 

そして、大きな波となり濁流の如くなだれ込む。

大きさはあるものの、ネロは瞬時に危険性を察知し回避行動を始めていた。草木は枯れた、だがその胴は残っているため、それを足場に飛んで、飛んで、かわし続けた。

 

「はっはぁ!!やっぱり人間ってのは逃げる事だけは一丁前だな、おい!?」

「くっ…………攻め手が見つからないとは」

 

変形はするものの、一度膨らんだ時よりは体積が増えている訳でもない。だが、肉体を捨てたハンスに体力の限界という物が果たして訪れるのか。

 

(よもや、魔王軍にここまで厄介な者がおろうとは…………!?)

 

押し寄せる本流は木の胴までも少しずつ侵食していた。霧の様に充満する腐った空気。生命を枯らす毒が蔓延しているのだ。長丁場の戦いは不利だろう。

 

「おいおい、どうしたよ!?攻撃してこないのか!!?」

「ちょっと!あんたね、私もいることを忘れてない!?」

「ああ!?生きたけりゃ逃げてろ!!殺すぞ」

「ちっ、あんの糞ノイローゼ男が…………!」

 

回避する片目に彼等の様子を伺う。二人が共闘する様子はない。そもそも、ハンスの方はどうみても単独で戦う方が向いているだろう。同じ幹部でもここまで実力が違えば足手まといになるだろう。

 

「すまぬ、カズマ…………。余は、ドジを踏んでしまったやもしれん」

 

剣を握る手から力が失われていく。

 

「はははははは!!丁度獲物を殺りそこなってなぁ!?憂さ晴らしがしたかったんだよ!ありがとな、俺の為に死んでくれ!!」

(…………せめて、一太刀でも!)

 

そう決心し、地に降りる。そして、剣に宿した炎を膨らませる。

 

「はっ!いいねぇ!!盛大に死ねや!!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

決死の一撃だった。これで最後。この一太刀に全てを込めて放つ。倒せなくとも良い。傷ひとつつければよし、凌げれば尚よし、あわよくば倒せれば、と。

しかして、それは―――

 

「悪手だな」

 

どれも叶わず。

 

「なっ―――にが起こって…………!?」

「ああっ!?んだ、こりゃ…………黒い物体?人か?」

「どれも違うな。だが、知らなくともよい。貴様は消えろ」

 

突如として二人の間に舞い降りたのは、黒い鎧を身に纏い、色白の肌、禍々しい黒い剣を持った少女。そして、寸分たがわずネロ・クラウディウスと同じ顔なのである。

 

「っ!!?てめぇ、ウォルバクの―――」

「消えろ。理性の欠けた汚物め」

 

剣を空高くかざし、逆十字の黒い波動を放つ。そして、手に取る聖剣の名を高らかに唄う。

 

約束された勝利の剣(エクスかリバー・モルガン)

 

その剣が放った一撃は意図も容易くハンスを消し飛ばし、尚もとどまる事を知らず天を衝く十字架となった。

その場にあったはずの地形は姿を変え、ハンスですら腐食という破壊に止まっていたものが跡形もなく消し飛んだ。

 

「…………そなたは、まさか」

「立て。ローマの皇帝よ。脅威はまだここにいるぞ」

「―――っ!?」

「お前の実力、アーサー王アルトリアペンドラゴンが推し量ろう。全霊を持って挑むがいい」

 

告げられた真名に、思わず固唾を飲んでしまう。

しかし、彼女はこちらの意思など酌む気はない。じわりじわりと此方へと歩み寄っている。

 

「…………良かろう。ローマ帝国五代皇帝ネロ・クラウディウスが受けて立つ。余の力、存分に味わうが良い!」

「おうとも。この剣で全て粉砕してやろう」

 

地を踏みしめ、立ち上がる。再び剣に火を灯し構える。

対する相手は変わらず剣を下ろしたまま歩み寄っている。

 

(内包する魔力量、放たれる殺気、王としての威厳と威圧。やはり、反転(オルタ)と言えど王の中の王と称するに値する力の持ち主よ。余は、全霊をとして挑もう。例え勝てぬと分かっていても)

 

「行くぞ、アーサー王!」

 

そして、互いの距離が間合いに入った瞬間に全魔力を解放し、渾身の一撃を放った。

 

 

 

 

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます!

二週間くらい間が空いて、そろそろ忘れられてそうーだなと思い急遽書きました。色々と適当になってそう……。

しかして、物語もちょいちょい進めていきます。設定がどうのこうのとか関係なしにやりたい方に突っ走ります。

ではまた、近い内に続きを書くという気概で書きます。

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