異世界転生したカズマは召喚師になりました。   作:お前のターン

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今回もちょっと短め。

少しずつ今回の敵さんがチラホラ顔を見せ始めます。


真に迫る覚悟

翌日、めぐみん達が宿屋から出ていくまで部屋でゴロゴロしていると、ジャンヌから声をかけられた。

 

「カズマ、行くわよ」

「ん?ああ、観光めぐりだっけか?」

「違うわよ。さっさと準備しなさいな」

 

いまいち言葉の意味が分からないままなのだが、ジャンヌに急かされるままにネロを引き連れて岩に聖剣の刺さった場所に連れてこられた。

そこに至るまでに全く会話が発生しなかった事に若干の違和感を覚えつつ、俺はジャンヌの機嫌を伺うように尋ねてみた。

 

「なぁ?ここで何をするんだ?昨日からなんだが張り詰めてる様子だったけど、何かあるのか?」

 

俺の言葉に少しだけ反応を見せた。一瞬だけ口元をひきつらせてしかめっ面になったが、やがて自分を落ち着かせるように溜め息をつくと、真剣味を帯びた顔で語り始めた。

 

「カズマ、あんたはもう少し…………いや、私と渡り合えるくらい強くなるべきよ」

「はぁ?いきなり何言って…………無理だろ、普通に考えて」

「無理と諦めて、いざあんたが死ぬかもしれないビンチに陥ったらどうするの?潔く死ねるの?」

「…………どうしたんだよ、急に」

「どうもしない。ただ、今のあんたは危ういのよ。私やネロが守れる範囲にも限界があるの。特に、魔力が枯渇しているこの状況は危険よ。以前のデュラハンの時だって…………」

「いやいや、急にどうしたんだよ?この里には無駄に強い紅魔の人達がいるだろ?そんな焦る事な―――」

「黙りなさい!!!」

 

突如として激昂し、俺の言葉を遮った。

そのジャンヌの表情は真剣そのもので、冗談や虚勢を許容できるような雰囲気では無かった。

その言葉を引き金に旗を顕現させ、黒剣を俺の方へと投げやった。

 

「あ、危な…………!おい、いきなり何のつもりだよ!?」

「構えなさい。出なければあんたの腹に風穴開けるわよ」

「お前、本気か…………?」

 

返答はなかった。ただ一点、俺の方だけを見て待っていた。この状況の意味を探るべく、ネロの方へと視線を向けるが、彼女も俺と同様ジャンヌの行動の意味が分からないでいた。ただ唖然として、止める素振りこそなけれどその行動の意味を探ろうとしていた。

 

「…………わかった。お前がその気なら」

「…………来なさい」

 

『憑依』スキルを発動させ、英霊の力を身に纏う。

イメージするのは剣、以前選んだあの力だ。二つの夫婦剣を使い、デュラハンとあいまみえた時の、近接及び遠距離に対応できる『エミヤ』の能力。

 

「憑依完了…………『エミヤ』」

「ふん………」

 

気のせいかも知れないが、『エミヤ』という言葉に反応したように見えた。しかし、既に互いに臨戦体勢に入っており、交わす言葉もない。あるのは、相手を倒す意志と武器。そして―――

 

「ふっ!」

「はぁ!」

 

互いの武器が鳴らす鈍い金属音と火花だった。

片方の剣で黒剣の攻撃を受け止めると、俺は瞬時に突きの構えでもう片方の得物を狙った。

 

「ふっ、浅いわよ!」

 

だが、受け止めた方の剣から炎を生み出し、熱と剣圧を振りかざし後退させられた。その隙にジャンヌはスキルを唱え攻撃力を底上げした。

 

『自己改造EX』

 

唱え終わると、今度は黒剣を投げつけてきた。それをどうにか捌くが、その隙に距離を詰め、旗の尖端を使って連撃を加えてきた。

 

「ふっ、はっ!」

「ちょ……!?やっぱり本気なのかよ!?」

「何を今更…………覚悟がないなら切り裂かれなさい!」

「死んでもお断りだ!!」

 

両手の剣で受け止め、そのまま上へと弾く。そこで出来た刹那の時間で俺は『クリエイトアース』を使い、一瞬だが視界を潰した。

 

「くっ、小癪な手を…………!?」

 

攻めいる事も考えたが、俺は冷静になる余裕を作るため一旦距離を取った。

しかし、ジャンヌの目的は、どうすれば彼女に敗北を認めさせられるのか、そこが重要だった。ただ打ち負かせば彼女は収まってくれるのか?そもそも勝機はあるのか?どちらも難解だ、一筋縄ではいかない。

 

(そもそも、俺はこの力をよく知らない…………使う能力だって、未だに底も見えない。ジャンヌの力もだ。知らない事だらけでどうしろってんだよ)

 

今に至って、ようやく自身の借り得た能力に疑問を抱く。

自分の使っている剣は一体何なのか?どうしてこの剣を真っ先に思い描いたのか?何故弓や剣を使う?クラス分けされたのならそれに見合った得物を使わなければ妙だ。アーチャならば、本来は弓で戦う者のはずだ。なのに、先に思い描くのは剣、剣、剣。

彼の中に在るのは、何処まで行っても剣だけだった。

 

「はぁ……はぁ……くそ、もう息が切れて……」

「…………次はとるわ」

 

彼女の持つ旗先に魔力が込められた。

動きが見えないことはない。ただ圧倒されているのだ。彼女の力に、威圧に、気づかぬ内に恐れている。

 

(…………駄目だ、このままだと勝てない)

 

ここでようやく己に問う。この力の使い方を。

これまで憑依させてきたどの英霊とも違う。自身から生みでてくる感情が何もないのだ。それは自分に問題があるのかもしれない。その英霊の真に迫る覚悟がない。それは事実だ。これまでもそうだった。溢れでる力にばかり目を向け、英霊そのものに目を向けることをしなかった。

 

「…………くそっ」

「はぁぁぁぁ!」

 

踏み込みむと、ジャンヌは先端に乗せた魔力を自分へと向けて放つ。穿つは心臓、ではなく得物の方だった。何処まで言っても本当に命をとる気はないらしい。瞬時にそう思った。だが、その侮りをジャンヌは見逃さなかった。

 

「油断、するな!!!」

「うっ…………!?」

 

期待に反し、先端で突くのではなく横凪ぎで両手の武器を両断してきた。その際に右腕を軽くだが斬られ血が飛び散った。

 

「…………いてぇ」

「油断、怠慢、怠惰。哀れねカズマ。私にほんの少しでも手加減や手心を期待したの?だとしたらとんでもない大馬鹿ね。この先も腑抜けた状態で戦うつもりなら容赦なくこの旗でその身を貫くわ」

「本気、ってことか。分かったよ。俺も全力で戦う…………行くぞ」

「来なさい、贋作者(フェイカー)

 

それからの攻防は接戦だった…………あくまで俺の見解だが。俺の攻撃も、ジャンヌの攻撃も互いの得物で防ぎあい、決定打になるような一撃は入らなかった。

 

(また、手加減してるのか……?)

 

俺の脳裏でそんな考えが過った。

目の前の彼女は休む暇なく鋭い一撃を加えてくる。だが、その一撃一撃が俺の知っている彼女のそれと威力がだいぶ異なるのだ。俺の創った出来損ないの刀など一撃受ければ刃が欠けたり粉砕されてもおかしくないはずだ。

 

「…………お前、迷っているのか?」

「はぁ?何を?」

「いや、知らんけど。でも今のお前は―――」

「無駄口叩く暇があったら構えなさい。出なければ、死ぬわよ」

「…………やってみろよ」

 

再び互いの剣が交わる。だが、予想通りその威力は相殺出来る程度のもの。しかも片方の剣だけで受け止められる。自身に攻撃上昇スキルを掛けた英霊の攻撃が、ネロと同じ高みに並び立つ彼女の一撃がこんなにも弱いはずがない。

 

「はぁ!」

 

剣を弾きあげ、隙を作り懐に入る。

 

「くっ……?」

(カズマが押している…………?)

 

この時、ネロも同様の疑問を抱いていた。彼女の言葉通りなら手加減はしていない。ならば、今の彼女が押されているのはカズマが上手ということになる。

 

(しかし、お世辞にもあのカズマがジャンヌよりも強いとは思えない)

(なんだ?この違和感は?やっぱりジャンヌは…………手を抜いている?)

 

両者の疑惑は重なり、確かな答えへと繋がりつつあった。

 

「…………お前、まだ戦える状態じゃないのか?」

「…………」

「ジャンヌ、どうしてそんな無茶を?」

「…………問答は無用よ。続けるわ」

「なっ……!?」

 

攻撃を緩め、剣を降ろした。その合間に問いを投げ掛けたがジャンヌは答えず残った得物である旗で斬りかかる。

(くそっ、どうしてこいつはここまで食らいついてくるんだ?)

 

二つの剣で受け止める。

以前の憑依で、ランサークラスである『クーフーリン』の武器ゲイ・ボルグで受けたときには槍が軋み、大地に亀裂が走る程の一撃だった。だが、いまの彼女の一撃は低レベル冒険者であるカズマですら易々と防げる程度だ。こんな攻撃を放つ彼女が、まともな状態と言えるはずがない。

 

「やめろ!魔力が枯渇しているならそう言えよ!!」

「だからなに!?その程度の私に苦戦してるあんたには丁度いいでしょう!!」

「そういう問答じゃ…………ねぇ!!!」

 

今度こそ、彼女の象徴である龍紋の旗を弾き、武器を奪った。

 

「今のお前は全力出すのはおろか、現界すら危うい。そうだろ?」

「…………はっ、流石はマスター様って訳。そういうところは見抜けるのね」

「ジャンヌ、どうしてこんな事をするんだよ?お前がそこまで無茶して俺を鍛えようとするのはなんでだ?」

「…………」

 

しばらくの間、沈黙が続いた。

俺は、その間に武器をしまい、憑依を解いた。たった数分の戦闘ではあるが俺の体力は殆ど限界まで削られていた。だが、彼女の限界を見切った所で精神的に幾ばくかの余裕が出来たおかげか、不思議とたいした疲労感は感じられなかった。

 

「…………エミヤ・オルタ」

「誰?外国人?」

「何処の出身かは知らないわよ。でも、そいつがあんたを狙う可能性があるのよ」

「…………ネロが言っていたサーヴァントの事か」

 

昨日、ネロから一通りの説明を受けたが、あくまでかもしれない程度の事で特に詳しい事は分からないでいた。知っているのは、彼がサーヴァントであることだけ。

 

「私達英霊は本来、聖杯の寄るべに従い現れる者。あんたは異例中の異例。世界の理から外れた原理でその権利を得ているから。でも、唯一あの男は違う。世界は違えど基本原理に従って現界している」

 

覚悟を決めたように真剣な表情で話すジャンヌ。そんな彼女に俺は、真顔でこう返した。

 

「すまん、まるで意味がわからん」

「「…………」」

 

何故か二人からジト目で見られた。

いや、俺は悪くないだろ?そんなあたかも知ってる前提で話されても困るわ。まず、聖杯とはなんぞや?そこから頼む、解説役のネロさん。

それから、俺は一通りの説明をネロから受けると、漸くかという感じで座り込んでいたジャンヌが口を開いた。

 

「それで、あいつはこの世の秩序を守る為に現れたって事よ、わかった?」

「なんか、急に適当になったな?え?俺のせいなの?」

「黙って空気読みなさい、ロリコン」

「わかっ―――って、待て。それは了承しないからな」

 

どうやら彼の現れる理由と、彼との会話での事がジャンヌを急かしていたようだ。

 

(英霊なんぞに狙われたら俺なんかひとたまりもないぞ……?)

 

その想いはジャンヌも同じだったようで、自身では俺を守り得ないから、俺自らの力を底上げするべく剣を交えた、という事らしい。

 

(ったく、これだからツンデレは。もうちょっと分かりやすく用件を伝えろってんだ)

 

ポリポリと頭をかきながらポンっとジャンヌの頭に手を置いた。

 

「…………なんのつもり?」

「いや、なんとなく」

「どけなさい、恥ずかしい…………」

「おっ?デレたぞ」

「うむ、最高にキュートだぞジャンヌ」

「からかってんじゃないわよ!!?」

 

朗報、ジャンヌがデレた。

というのは冗談として、漸くジャンヌの思惑を理解した俺は改めて問うてみる。

 

「それで、俺なんかで勝算はあるのか?」

「絶望的とだけ言っておくわ」

「それ無理だって断言してるからな!!?」

 

やはりこの方は容赦が無いようだ。ちょっと期待した俺の淡い気持ちはズバッと否定された。まぁ、分かってたけども。

当然だが、ネロが戦うのは駄目なのかも聞いてみた。しかし、クラス相性からして彼女もまた絶望的らしい。その為にほぼクラス相性など関係無いアヴェンジャーである彼女が最有力候補だったのだが…………。

 

「魔力枯渇状態だと…………まぁ、仕方ないだろ?」

「うむ。それに、確実にあやつがカズマを襲うとは限らない。そこまで心配をする必要はなかろう」

「…………まぁ、だといいけど」

 

ふて腐れた顔ではあるが、なんとなく了承してくれたようだ。要は俺の身を案じてるからそう言ってくれてるんだ。ならば、基本的に強い紅魔の里の皆さんの近くにいれば大丈夫だろう。それが他力本願な俺の最善策だ。

うん、全く自分でどうにかしようと思ってない。流石俺、くずいわ。

 

「ほらっ!あんた達早く逃げるわよ!!!」

 

近くで女の人が叫ぶ声が聞こえた。声のする方向を見ると、何やら草木をかぎ分ける音と、数人が駈けてくる音が聞こえた。

 

「ま、待ってくださいよ~!シルビアさ~ん!!」

「置いてかないでくださいよ~!!」

「なら早く来る!!死にたいの!!?」

「「うっす!!!」」

 

しかし、予想に反して、出てきたのは女性だけではなく悪魔もだった。

 

「え?あれ、どういう集団?見るからにあの女の人が悪魔を引き連れてるぞ?」

「そう見えるわね」

 

いまいち状況が掴めない。俺達はただ彼等を眺めていた。

 

「…………ん?人間!!?」

 

どうやら向こうもこっちに気づいたようだ。

 

「あれ?目が紅くない?…………どうやら普通の人間らしいわね」

 

なんだ?その、普通の人間って?表現おかしくね?

 

「ねぇ?あんた達、殺さないから大人しく人質として捕まってくれない?」

「ナンパするならもう少し言葉を選べよ、おばさん」

「いい年したおばさんがする行為じゃないわね?見るに堪えないわ」

「…………余も罵倒しなければならんのか?」

「あ、あんた達!!!私をお、おお、おばさんですって!!?」

「うん」

「うっさいわね、おばさん」

「…………ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ!言ったわね!?言っては言けない事を言ったわねあんた達!!!?」

 

すると、おばさ―――…………シルビアは激昂し、隠していた鞭を取り出した。

 

「あんた達、やっておしまい!!!」

「「へ、へい!!!」」

 

自分で戦うのではなく、部下をけしかけてきた。

 

「お、お前ら!よくもシルビア様が一番気にしてる事を言ってくれたな!?」

「そうだ!ああ見えて心は乙女なんだぞ!!肌だって気にするし、ボディバランスにだって気を着けてらっしゃるんだぞ!!年の癖に無理すんなとか言うんじゃねぇ!!!」

「「言ってないけど」」

「えっ!?…………あ、すまん。それ俺の心情だったわ」

「あ~ん~た~ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?死にたいの!!?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

賑やかな方達だな。とても魔王軍とは思えない。

しかし、それとこれとは話が別だ。命を狙われては抗わない訳にはいかない。

 

「……いけるか、ジャンヌ?」

「ええ、あんな雑魚なら問題ないわ」

「余が先人を切る。カズマ達は周りの雑兵を頼む」

「おう、頼むネロ。頼りにしてるぞ」

「うむ!存分に頼るがよい!!」

 

ニコッと笑うと、刀から火を放ち、シルビアへと斬り込んでいった。シルビアは一瞬だけビクついた素振りを見せたが、意を決したかのように鞭に魔力を乗せてあちらこちらへと振り回し始めた。

 

「あんた達!早くやっておしまい!!」

「余の疾走は何人たりとも妨げる事は叶わず!故に、余は止まらぬ!!覚悟を決めるがよい、おば―――…………ええっと、シルビア!!!」

「わざわざ言い直さなくても聞こえてんのよ!!!なによ、あんたらよってたかって私をそこまでおばさん扱いするわけ!!?これだから人間は!!!」

 

ああ……これは、俺とジャンヌが悪いな。シルビアはおばさんという風潮を広めたせいでネロまでおばさんと言いかけた。別に敵に情けをかけるわけじゃないが、流石にあの状況でおばさんはないわな…………。

 

「憑依―エミヤ―。からの……『投影、開始(トレース、オン)』」

 

先の戦いで使用した夫婦剣を手に持つ。

 

「な、なんだあいつ!?いきなり刀を生成しやがったぞ!?」

「あいつ、ただもんじゃねぇ…………!」

 

どうやら相手さんには好評なようだ、うむ。正直、エミヤという英霊から力を借り得ているだけなのでそこまで威張れる立場ではない。が、そこはあえて虚勢を張る。

 

「ふっふっふ、これは俺が愛用している伝説の両手剣だ。この剣の錆になった奴の数は知れず…………ふっ、お前達もこの最強の剣の餌食になるがいい!いくぞ、虎鉄……いや、菊一文字?いやいや、ここはあえてムラマサで―――」

「おい、あいつ何か一人でイタイ名前言ってるぞ?」

「やっぱあいつも紅魔族なのか?あの変というか若干口に出すと恥ずかしいネーミングセンスはそうだろうな」

「ちくしょうてめぇらぶっ殺してやる!!!」

 

くっ、俺の虚勢がこんなにも早くも見抜かれるとは……!

 

「別に恥ずかしがる必要ないじゃない?その刀を使ってる英霊だっているのよ?」

「けど、使う度に厨二扱いされるとか嫌だぞ!?」

「まぁ、その気持ちは分からなくもないけど…………とりあえず、その力を使って早く倒しなさいな。さっきの戦いで少しは戦い方のヒントはあげたんだから」

「お、おう…………」

 

英霊の力、英霊エミヤの本質、これを見極めなければ真に迫る事が出来たとは言えない。つまり、力の全部を出しきれないわけだ。俺の未熟さも相まってか投影以外の力の使い方をよく知らない。

 

「…………大事なのはイメージ、か」

 

原理は恐らくそうだ。脳裏に想像した物を構造から確かな物として作る。そして、それを自らの武器として操り、放つ。これがアーチャーとしての戦い方のはずだ。

 

「イメージしろ…………投影、開始(トレース、オン)

 

すぐにイメージ出来るのは剣だ。無駄に漫画やアニメで出てくるような強そうな聖剣はやめる。魔力がもたん。

 

「―――憑依経験、共感終了」

 

創るものは剣。何処の武具屋にでも売っている基本的な形のもの。長さは、太さは、持ち手は、構成材質は、すべてをイメージしろ。それを武器とし、造り、放つ。

 

「―――工程完了。全投影、待機(ロールアウト バレット クリア)

「な、なんだあれ!?空中にいっぱい剣が現れたぞ!?」

「はぁ!?なんか怖いし、意味わかんねぇ!!に、逃げろ!!!」

 

現れた剣を維持、そしてその標準を敵へと定める。耐えろ、堪えろ、魔力を暴走させるな。今の俺なら大丈夫、いつかのようにあの言葉に発狂はしない。今は、創った剣を放つ事だけに集中しろ。

大事なのは、イメージだ。いまの(エミヤ)に、出来ないはずはない。

 

「―――停止解凍、(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)……!!!」

 

全ての剣を解放し、敵へと連続で発射した。

 

「うげっ!」

「ぐふっ……!?」

「ちょ!?あ、あんた達!?」

「ぐっ、もう少しだ、もっと、もっとだ!!」

 

想像以上に魔力の消費が激しい。このままだと、俺の魔力は15秒と持たず絶えるだろう。だが、それを知らないシルビアは仲間を守る為に前へと出向き、俺の放つ剣を弾き出した。

 

「なっ、自分から剣の嵐に飛び込むだと……!?」

 

ネロとの攻防から一瞬の隙を作り、仲間の危機を見かねて飛び込んできたようだ。

 

(なっ!?嘘だろ、鞭で弾いてるのか!?)

「うっ!?あ、あぁぁぁぁ!?くっ、この程度!!!」

 

全てを弾けている訳ではないようだ。数発掠り、一刀は右肩の辺りに突き刺さっている。

 

「死なせない、やらせないわよ!!!」

(くそっ、こっちの魔力が…………!?)

 

空中投影した剣は全て消え去り、俺は魔力切れでその場に崩れるように倒れた。

 

「好機!死になさい!!」

「しまっ―――」

 

その隙を見逃さず、シルビアは俺へと鞭を放った。

だが、それを見逃すネロではない。パキィンと高い金属音を奏でる。剣で受け止め、瞬時にシルビアへと強襲する。

 

「はぁぁぁぁ!余のマスターには手を出させん!!」

「このっ!?どきなさい、そいつ殺せない!!!」

 

再び二人は戦闘を繰り広げ始めた。

俺は、腰に据えた剣を持ち、迎え撃つ素振りだけは見せる。丸腰だとひとたまりもないからな。

 

「やれ!弱ったクソガキを殺せ!!」

「シルビア様の仇、俺が伐つ!!!」

「ちょっと私まだ死んでないんですけどー!?」

 

俺を打たんが為に襲い来る魔物達。

 

「まずいわね…………!」

「くっ、俺もジャンヌも魔力が……」

 

窮地に陥った俺達。だが―――

 

『カースドライトニング』

 

正確無慈悲な一撃が魔物の群れを一掃した。

 

「いたぞ!魔王軍だ!!」

「やれぇ!やってしまえ!!」

「捕らえて実験台だぁ!!!」

 

紅魔族の方達が大勢で駆けつけてくれた。

更に畳み掛けるように上級魔法をぶちこむ。容赦無さすぎとも思えるくらいに。その状況を不利と見たシルビアは撤退命令を出し、逃げていった。

 

「はっはっは!正義は勝つ!!」

「我が力の前にひれ伏すがよい……」

「またつまらぬ者をほふってしまつった…………」

 

安定のどや顔フィニッシュ。なんだろう?助けてくれたんだけどあまり素直に喜べない自分がいる。

 

「おや?カズマじゃないか。大丈夫だったか?」

「ぶろっこり―……ああ、助かった。恩にきる」

「ならせめて名前を間違えないでくれ……」

 

間一髪のところで救われた俺達、そのあとは魔王軍をおう側と安全なところまで案内する側に別れた。俺達は里の安全なところに連れていってもらった。

そして、俺は宿に戻ると、倒れるように畳へと寝転んだ。

 

「…………はぁ、疲れた」

「そうね。私も、今日はもう大人しくしてるわ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あっちに逃げたぞ!!!」

 

魔王軍をおう紅魔族、そして流れるように逃げるシルビア一行。

 

「もうっ!なんなのよあのマッドサイエンティスト達は!!?」

「シルビア様…………俺達のことは、置いて…………逃げて―――」

「馬鹿いってんじゃないわよ!!?あんな奴らに殺されるなんて許さないわよ!!!」

「シルビア様…………!」

 

魔王軍とは思えない人情ぶりで信頼を集めるシルビアだが、その表情は硬く、完全に追い詰められていた。

 

「くそっ、もうこうなったら私が戦うしか…………!」

「いたぞ!やれ!!」

「ふるぼっこだ!!!」

 

シルビアへと放たれる強烈な魔法の雨。だが、それを庇うように何者かが立ち塞がった。

 

「あめぇんだよぉ!!!」

「「「なっ、なんだと!!?」」」

 

右腕をスライム上へと変形させ、地面に叩きつけ、壁のように変形させる。全ての魔法を飲み込み、スライムの中で火が消えるようにシュッと音を立てて消えた。

 

「な、なんだあいつは……!?」

「新手か?」

「何者だ、貴様!名を名乗れ!!」

「あぁ?名前だと…………へっ」

 

その男は、怪しい表情で笑うと、体全体をスライム状へと変形させた。

 

「デットリーポイズンスライム、ハンスだ。よろしくなぁ、紅魔の馬鹿共。んじゃ、死んでくれ」

 

そして、濁流のように彼等へと襲いかかった。

 

 




シルビアとデットリーポイズンスラァイムのハンスさんが登場です。
シルビアはともかく、アニメでたいした見せ場のなかったハンスさんはデュランハン同様滅茶強設定で登場します。打撃?魔法?それがなんぼのもんじゃい!!!という風に普通の魔法は効きません。

今回の里での話は彼らだけ倒せば終わるという訳ではないので更に難関です。最終的にはあの人との決着が待っています。

では、今回はこれで。
急いで続きを書きますのでしばしお待ちを!

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