異世界転生したカズマは召喚師になりました。   作:お前のターン

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前回と前々回で平均文字数が落ちたので、平均10000文字を維持するためにちょっと多目です。

話の内容は相変わらずハチャメチャ、でもちょっと今後の展開も混ぜておきました。


最強兵器こめっこ降臨

ゆんゆんの家で尋問のような質問攻めを受けた後、どうにか話を切り終えてめぐみんの家へと向かった。族長からは、『今日は泊まるといい』と何度も年押しされた。

 

「いきなりそんな事言われても困るんだよな…………」

「え?どうしてですか?何か困る事があるんですか?」

「だってなぁ、いくらゆんゆんと言えど女の子の家に泊まるんだぞ?緊張するし、親御さんの配慮が気まずい。普通に迷惑なんだよ。あ、別にゆんゆんが嫌とかじゃないぞ?」

「分かってますよ。カズマさんは優しいですもんね」

 

本当にわかっているのだろうか?俺が言いたいのは、ゆんゆんの性癖が怖いという事だと。あの子のヤンデレ具合は日に日に悪くなってる気がするし、少しでも他の女の話をすると、ゆんゆんと親父さんの顔が険しくなる。ほんと、息が詰まる思いだ。

 

「めぐみんの親はまともなんだろうな?」

「当たり前じゃないですか。どこぞのぼっちと一緒にしないでください」

「え!?どうして私が貶されてるの!?」

「マジで頼むからな。俺は元々人と話すのが得意じゃないんだ。まして親とか…………帰りてー」

 

帰りたい気持ちを抱え、仕方なくといった感じで歩く。里自体はさほど広くないので直ぐに着きそうだ。先の会話で既に手紙がおふざけだと知っているので変に気負いしなくてもいい訳ではない。ゆんゆんみたく、俺の事をあることないこと語っている可能性がある。

 

「着きましたよ」

 

めぐみんに案内され着いた家は、今にも崩れそうなボロボロ物件だった。

 

「…………」

「おい、何故無口になって可哀想な目で我が家を眺めているのか聞こうじゃないか?」

「…………いや、別に何でもない」

「むぅ、家は貧乏なんですよ。仕方ないではないですか?そこのボッチみたく、肥えてないんですよ」

「ねぇ?どうして私の胸を見ながら言うの?これは関係ないよね?」

「さて、入るとしますか」

「無視!?」

 

わんわん喚くゆんゆんは置いといて、玄関を開けると、歴史を感じさせる古びた家特有の匂いが舞い込んできた。中を見ると、やはりといった感じでボロボロで中で誰かが歩いているのかギシギシ聞こえてくる。

 

「帰りましたよ」

 

めぐみんがそう言うと、数秒置いてバタバタと聞こえてきた。

 

「おねーちゃん?おねーちゃんだ、おかえりー!」

「おお、こめっこ。ただいま帰りました。元気にしていましたか?」

「うん!」

 

中から出てきたのはめぐみんを小型化したような小めぐみんだった。ただ、本人と違いその表情にはあどけなさがあり、まさに幼女という感じで仕草も可愛らしかった。

 

「私の妹に発情しないでください、いやらしいです」

「してねぇよ!?やっぱり妹言うだけあって似てるなって思っただけだよ!」

「久しぶり、こめっこちゃん」

「あー、えっと…………えっと……………………誰だっけ?」

「忘れられてる!!?」

「………………あっ!そけっとぉ?」

「違うよ?ゆんゆんだよ、ゆんゆん。昔何度か会った事あるよね?」

「えー?違うの?だってボインだよ?合ってないの?お姉ちゃん、誰?」

「…………………………………………ぐすっ」

 

時に、純情無垢な子供の言葉は心に突き刺さる。まして、それが知り合いの妹となるとダメージが尚大きいのだろう。

 

「まぁまぁ、ゆんゆんもそんな落ち込むなよ。ゆんゆんが本当にほしいのは友達だろ?大丈夫、きっといつかめくり会えるさ」

「カズマさんもサラッと酷いです。いつかと言わず今欲しいんです……」

 

うぅむ、年頃の女の子の気持ちは分からん。というか、友達欲しいならそれ相応の職種に着くべきだったろうに。冒険者で『友達』を作ろうだなんて無茶だし、そういう職種じゃないから。仲間で我慢してほしいもんだ。

 

「えっと、こんにちは、こめっこちゃん?」

「……………………」

「あ、あれ?こめっこ…………ちゃん?」

「……………………」

 

あれ?何故かフリーズしたぞ?俺、なんかおかしい事言ったか?

その後数秒の沈黙を経てこめっこはようやく口を開いた。だが―――

 

「おとーさん、おかーさん、お姉ちゃんが男引っ掛けて帰って来たー!」

「おいちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

こめっこは俺の予想を上回る爆弾発言をしていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「さて、先ずは掛けるといい」

「あ、はい…………」

 

あの後、両親が苦笑いしながら出てきた。『この子はまた何を言って…………』という感じだった。だが、俺を見た瞬間何故か真顔になった。そして、渋い声で中に案内された。

 

(それで今に至る訳だけど……………………気まずい!)

 

ゆんゆんの家と違って両親が出てきたのもあるが、こっちの親もまた渋い顔で、それっぽい雰囲気と威厳を発している。隣にいる奥さんはやんわりとした表情でこちらを見ている。めぐみんの親だけあって、40前後と思われるのだが、かなり美人だ。案の定胸囲が寂しいのだが。

 

「何か言いましたか?」

「いっ!?いいえ!な、何も言ってません!!」

 

おかしい、心を読まれた。どうも紅魔の人間は悟いな。めぐみん然りゆんゆん然り、妙なところで鋭い。

 

「さて、カズマくんだったかな?」

「はい…………」

「君の事は手紙で聞いているよ。娘がお世話になっているようだね」

「い、いえ……」

「うふふ、そんな謙遜なさらなくてもいいんですよ?」

「あ、あはは…………そう言って頂けると幸いです」

 

なんだろう、親の圧力とでも言うんだろうか?正直口が重いというか、何を話していいか皆目検討がつかない。精々返事をするのが精一杯だ。

 

「めぐみん、あなたからも紹介しなさいな」

「この二人が私の親です。以上です」

「全く…………すみませんね?家の娘はこうふてぶてしい所がありますので……」

「い、いえ。もう慣れましたから」

「うふふ、まぁそうでしょうね。あれだけ仲が良い風に書かれているんですから」

「………………え?」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえた。え?いま、なんて?

瞬時にめぐみんをこっちに引っ張り、小声で問い詰めた。

 

「おい、お前手紙になんて書いた?言え」

「は、はて?私は事実を書いたまでですよ?」

「なんでそこでハテナがつくんだよ、正直に言えよ」

「あらあら、本当に仲がいいんですね?」

「あ、これは、その…………」

 

振り向くと、奥さんの方がニヤニヤと笑っていた。声も表情も優しいのだが、妙に気になる言い方をしてくる。この人、俺に何を見ているんだろう?

 

「そんなにくっついて、いつもこういう感じなの、めぐみん?」

「えっ!?あ、いえ、その…………あ、ああ!そういえばこめっこは私のお土産が気になっていたんですよね!?先に開けて―――」

「こめっこなら先に貴方のお土産を食べてたわよ?」

「なっ!!?」

「すみません、めぐみんの手紙に何が書かれてたのか教えてもらえませんか?」

「いいですよ」

「ちょ、やめ―――」

 

反発するめぐみんの頭を押さえて、奥さんへと問いただしてみた。

奥さんは『うふふ』と笑いながら、頬に手を当てて楽しそうに話し始めた。

 

「例えば…………カズマさんはいつもめぐみんにセクハラをしてきて、私にメロメロだー……とか」

「おい」

「…………」

「他にも、いつも私を見る目がエロいとか」

「おまえぇ……」

「今度一緒に暮らそうって言われたとか」

「「…………」」

「いつもめぐみんをおかずに―――」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

秘技『スライディング土下座』

※言い訳が苦しくなったときは迷わず使うんだ!

遂に俺の方まで苦しくなるような事を述べ始めた。最初はまぁ言いがかりと処理できたが、最後らへんは洒落にならない。完全にプロポーズだろ。

 

「すみません、違うんです、許してください」

「いえいえ。責任さえ取っていただければ構いませんよ。めぐみんも、少なからずカズマさんに好意を―――」

「あ、ああ!そういえばまだ友達に挨拶をしてませんでしたね!!行きましょうか!!?」

「めぐみん、あなた友達いないでしょう?」

「「え?」」

「な、ななななな何を言っているんですか!!?いますよ、一人や二人いますよ!!!」

「そうね、ゆんゆんさんと仲が良すぎて百合の花だって、周りから敬遠されてたから…………ゆんゆんさんしかいないのよね……」

「「違います!!!!」」

 

おお……やはり里でも百合扱いされてたのか。仲の良さはさておき、めぐみんが俺に好意を抱いてると奥さんが言いかけた気がするんだが、とりあえず置いておこう。問い詰めると、ゆんゆんが覚醒しそうだからな。目が紅く光ってレーザービーム放ちそうだ。

 

「カズマくん。君は、娘の事をどう思っているのかね?」

「仲間です」

「カズマくん。君は、娘の事をどう思っているのかね?」

「…………仲間です」

「カズマくん。君は―――」

「しつけぇよ!!?あ、いやっ…………その、言わせたいだけですよね?」

「……………………質問を変えよう」

 

何かを決心したかのように顔をクワッと険しくさせたかと思うと、身を乗り出して質問してきた。

 

「3億エリスの話は本当かね?」

「…………へ?」

「めぐみん、本当なのか?」

「ええ、まぁ一応」

「…………そう、か!」

 

次の瞬間、二人は大急ぎで動き始めた。

 

「母さん、この家一番のお茶を出すんだ!」

「あなた、家には一種類しかありませんよ!いえ、でも出来る限りのお菓子は出しましょう!!先行投資ですもの!!!」

「あ、あの…………」

「いやぁ、カズマくん。ゆっくりくつろいでくれたまえ!3億エリスの話はまた今度詳しくするとして……うん、君さえ良ければめぐみんを託そうじゃないか?」

「すみません意味がわかりません」

「いやいや、君と一緒にいれば家は大儲け―――じゃなくて、とても助かるんだ。どうだね?今後とも家族ぐるみで付き合っていこうじゃないか?」

「おいめぐみん。手紙といい、お金といい、お前の父さんいい性格してるな?」

「ええ、そうでしょう。その腐った性根を叩きのめす為にも一発くれてやってください」

「おし、わかった。歯ぁくいしばれぇぇぇぇぇ!」

「ま、待ちまえ!いいか、落ち着くんだ。ほら?ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ―――」

「ふーーーーー!!!」

「あうちっ!!!?」

 

思いっきりしばいてやった。

 

「あ、あなた!?」

「すみません、俺の右手が疼いて仕方なかったんです。しばき倒せと轟き叫んでたんです」

「まったく…………あなた?そんなに攻め過ぎてはダメですよ?」

「あ、あれ?怒らないどころか無視―――」

「カズマさん」

「は、はい…………!?」

 

しばき倒しておいてなんだが、まるで状況がつかめてない。奥さんは旦那さんを軽く宥めると一枚の手紙を出してきた。

 

「これにサインしてください。慰謝料はこれで勘弁してあげますので」

「え?………………あの、これ婚約届けなんですが?」

「はい、そうですよ?」

 

いやまるで意味がわからんのだが?つか、慰謝料ってさっきの一撃怒ってるのかな?それとも弱みにつけ込んで更に俺からたかろうってか?

じわりじわりと寄ってくる奥さん。そこで屍となって横たわっているひょいさぶろーもせめてもの反撃として足を掴んでくる。おかげで後ろに下がれず奥さんという驚異から逃れずにいる。

 

「あの、カズマさんも困ってますので…………やめてもらえませんか?」

「ゆんゆん……!」

 

ここでようやく最終兵器ゆんゆんが動いた。よし、やれゆんゆん!お前のヤンデレでこの場を打開するんだ!!

 

「あら?ゆんゆんさんもカズマさんの事が好きなの?あらあら、困りましたわね~、二股は許せませんよ、カズマさん?」

「お義父さん、そういうの許しませんからね!」

「お、俺は悪くないですよ!勝手にその気になっているのはそっちじゃないですか!?」

「あらあら?言い訳とは見苦しいですよ?」

「ちょっと待ってください!ほら、ゆんゆんも何か言ってやれ―――」

 

そこでゆんゆんの方へ助け船を求めたのだが、いつの間に臨戦態勢に入ったのか、杖を持って魔法をつかおうとしていた。

 

「奥さん、カズマさんは渡しませんよ」

「うふふ、ゆんゆんさんったら、余程カズマさんにご執心なんですね~?」

「そういう奥さんはお金にご執心みたいですね?お金と結婚されたら良かったのでは?」

「「うふふふふふふ…………!!」」

 

こっわ、なにこの人達!?女の醜い争いがいまここに起ころうとしている!?

俺が現実逃避しようか悩んでいたのだが、そばでお菓子を貪り食っているこめっこを見て閃いた。

 

「こめっこちゃん、ちょっといいかな?」

「うん?なにー?」

「実はな……」

 

俺は、こめっこを利用してこの二人を撃退する作戦を考えた。卑怯かも知れないが、この無垢な子供を利用させてもらおう。相手が金の亡者なんだ、多少は手段が汚かろうがいいだろう。

 

「おとーさん」

「ん?なんだ、こめっこ?」

「おとーさんなんて大っ嫌い!!!」

「んなっ…………んだとぅ!!?」

 

奥義『無垢なる子供の嘆き』(おとーさん、だいっきらい!)

これは、娘を溺愛している親父さんほど威力が高まるこめっこ保有のエクストラスキルだ。効果としては、麻痺、唖然、攻防ダウン、混乱、意識ダウンなどといった状態異常などがある。

 

「こ、こめっ…………こめっこが…………わしの事を…………きっ…………きら…………きらい?は、はははは…………はははは…………はぁ」

(なんかすごくダメージ受けてる)

 

どうしよう、思いの外ダメージが大きいみたいだ。後が心配だけど今は放っておこう。先に奥さんの方だ。

 

「次は奥さんの方だ。こめっこ」

「うん!」

「流石はカズマ。戦略的にエグい方法ばかりとりますね……」

「うるへ、元はお前のせいだろうが。少しは手を貸せよ」

 

次なる作戦をこめっこに伝える。

 

「行け!こめっこ!!」

『おかーさん、固形物食べたい!!!』

「うっ!!?…………うっ、私だって…………私だって…………食べたいのに。私は悪くないのに。悪いのは稼ぎのないあの人なのに…………うぅ」

 

奥義『無垢なる少女の本音(お腹…………空いたよ、お母さん?)

日頃は家が貧乏な為にお腹いっぱいに食べられない子供の嘆き。本当に言いたい、言いたいけど、親を困らせたくない。そんな無垢な子供の本音をさらけ出すことにより衝撃を与える物だ。これを聞いたものは立ち直れない…………精神的に。

 

「な、なんだか分からないが相当ダメージを受けてるみたいだな」

「カズマさん、今のうちです!」

「お、おう……。こめっこ、後で何か美味しい物買ってきてやるからな。二人の事は頼んだぞ?」

「うん!おにーちゃん、美味しい物たくさんくれるから大好きー!!」

「は、ははは…………この子、将来大物になるな」

 

どうしてこんな状況になったのか最早頭を悩めるレベルなのだが、ひとまずは逃げる事にした。もう、この二人の親には極力関わらないようにしよう。絶対ろくな事にはならない。

 

「い、行くぞ二人とも……」

「はい」

「こめっこ、そこのお菓子はお姉ちゃんの分も残して置くのですよ?」

「…………おにーちゃん、またねー!」

「おう!」

「あ、あれ!?こめっこ、返事は!!?返事はどうしたのですか!!?」

「…………あ、あとそけっともねー!!」

「ゆんゆんだよ!?」

「あ、あの!?こめっこ!!?」

 

後の事はこめっこに託した。

死屍累々となったご両親を一別すると、俺はジャンヌ達の元へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

カズマ一行と別れたジャンヌ達は近くに合った店で暇を潰していた。

 

「この餅美味しいわね」

「うむ、あんことやらをかけて食べるのもあるが、それもまた美味!」

「おやおや、お客さんはあんこ餅食べるのは初めてかい?」

 

風情を感じさせる店にて里を眺めながら食べていると、店の主のお婆さんが話しかけてきた。ネロはいつもみたく笑顔で「うむ!」と答えたが、ジャンヌは何処かぎこちなくしていた。

 

「え、えぇ……そうよ。それよりばばあ―――じゃなくて、婆さんは店の仕事放り出して呑気に客と会話?」

「言い直さんでも聞こえておるぞ?それと、どのみち暇なんでな。こうしてのんびり構えてる訳じゃ」

「へぇ、あそ。それで、なんかよう?」

「…………お主ら、奥のお客と知り合いかの?」

「「?」」

 

店の主にそう言われて振り向くと、なるほど、普通に怖い感じの客が座っていた。褐色系の肌にタラコ唇、加えて鋭くてそれでいて何かを睨み潰すような視線は怖くて堪らないだろう。その男は物音立てず淡々と団子を食べていた。このお婆さんがこうして逃げるようにこちらへ話しかけてくるのも頷ける。

 

「まったく、怖くてたまらんねぇ……」

「…………そうね」

「……ジャンヌ?」

 

急に声のトーンを落とすジャンヌに疑問を覚えるネロ。彼女の様子がいつもと違い、尋常でないほどの殺気を後ろに向けて放っていた。

 

「お婆さん、勘定はここにおいておく」

「んあっ!?あ、ああそうかい……」

 

男は食べ終えると、そそくさと勘定を置いて外で食べているこちらまで歩いてきた。出口がこちらにあるにせよ、何度かこちらをじろりと見てきた。その事に少しは嫌な感じがしたのだが、ジャンヌの方を見ると端にいる自分には聞こえない程度に何かを呟いていた。

 

(いま、何を…………?)

 

読唇術を心得ている訳でもなく、当然ネロにはその言葉が聞き取れなかった。

だが、ジャンヌは今度は確かな殺意を持って、彼にこう告げた。

 

「相変わらず、悪趣味な武器ね……」

「…………ジャンヌ?」

「何でもないわ。それより、そろそろ行きましょう」

「う、うむ……」

 

何かを言いかけたジャンヌだか、その事について特に問いつめる事はしなかった。暴君と言われたネロだが、さっきの様子から見て安易に触れて良い案件では無いのだろうと思い、聞かずにいた。

それから二人は会話もなく里を練り歩いていた。

 

(むぅ、何か話すべきか……?)

 

あれから何も会話が発生せず、気まずい雰囲気が続いていた。幾度か興味をそそる店がちらついていたのだが、ジャンヌの放つ異様な雰囲気がそれを拒んでいるように見えた。

 

「…………ん?なにあれ?」

「…………?」

 

ようやく言葉を発したかと思うと、疑問符を浮かべて側にある店で何やら男と店員がもめていた。

 

「なぁ、頼む。これ買い取ってくれ!」

「そんな事いったってなぁ…………あんた、なんでこんなに石鹸と洗剤を仕入れたんだ?」

「アクシズ教徒に無理やり押し付けられたんだよ!!!」

「アクシズ教徒…………すまんが、他所を当たってくれ」

「あ、おい!頼む、頼むよぉぉぉぉぉぉぉ!!!もう嫌なんだよ、あいつら俺を見るたびに洗剤と石鹸を勧めてくるんだ!!!これだけじゃなくてもっと数を抱えてるんだよ!もう、もう石鹸と洗剤を見るだけで…………洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!頭がおかしくなりそうだ!!!綺麗になっちまうわぁ!!!!」

「あんた、頼むから帰ってくれ……」

 

お店の前でその男は発狂していた。店主も周りも色物を見る目で避け始めていた。

 

「…………何あれ?」

「分からん。ただ、あれはもはや狂人の域だな。かかわり合いにならない方が無難だろう」

「そうね、早くカズマと合流しましょう」

 

あえて目を向ける事はせず、そのまま歩みを進めた。

それからほどなくして待ち合わせた所へ着いたのだが、少しくるのが早かったのかまだ誰もいなかった。

 

「あいつ、まさか親に乗せられて政略結婚でもさせられてんじゃないの?」

「結婚?齢14で結婚出来るのか?」

「らしいわよ。この前のダストっていう文字通りのゴミ男が豪語してたわ」

「ジャンヌはたまに物言いがキツイときがあるな」

「いつものことよ」

 

特に会話が弾む訳でもなく、端的な会話をしていた。

 

「…………ったく、なんであいつがいんのよ」

「…………ジャンヌ?」

「なんでもないわよ、こっちの話」

「そ、そうか……」

 

やはり先の事を気にしているのだろう。表情が堅いままだった。それに、何故か先程から周囲への警戒をしている。まるで、何者かからの襲撃に備えているかのように。

 

「…………ジャンヌ。お主は一体、何にいらついているのだ?」

「いらつく?そんな生易しいもんじゃないわよ。あんただって少しは感付いているんでしょう?さっきの男のこと」

「…………しかし、勘違いではないのか?余はルーラーでもなければそういった判別スキルもない。詳しい事はわからないのだ」

「…………まぁ、かかわり合いにならなければ問題ないでしょうけど」

 

そして、それからも会話が続く事はなく、そのまま周りから眺めながら待機していた。

ほどなくしてカズマ達が戻ってきた。

 

「おう、終わったぞ」

「そう。どうだったの?」

「手紙は嘘だってよ。茶目っ気いれただけのおふざけだったらしい」

「はぁ!!?なにそれふざけてんの!!?そいつ、ぶっ殺してきたんでしょうね!?」

「お、落ち着け……どした?なんでそんな怒ってんの?」

「別に……なんでもないわよ。それで、今日の宿はどうするのよ?」

「…………………………よし、こうしよう。めぐみんとゆんゆんはそれぞれの家で。俺達は宿をとろう」

「はぁ?どっちかに泊まった方が―――」

「頼む!……………………な?」

「あんたこそ何があったのよ…………」

 

お互いに何かあったのだろうと気を使い、それ以上の言明は避けてくれた。

「カズマさん、私も宿に泊まります」

「え?いや、別にゆんゆんは―――」

「泊まります」

「…………そう?」

「私もそうしましょうかね。今のあの家には戻りたくないですし」

「いや、半分自業自得だからな?」

「はて?なんのことでしょう?」

 

こいつ、白々しく口笛吹いてやがる!?こんにゃろう……その柔らかそうな頬を思いっきり捻ってやろうか。

しかし、俺もそこまで大人なげない事はしない。夕暮れまで時間もあることだし、それぞれに好きな事をさせようと思う。

 

「めぐみん、ゆんゆん、お前ら久しぶりの故郷なんだし誰かに会ってこいよ。友達とかさ」

「「…………」」

「あんたねぇ…………いまのわざとでしょう?」

「え?…………あっ!そ、そっか。そうだったな。すまん、皆で観光巡りしようか」

「……ちょっと傷つきましたよ」

「…………私もです」

 

しまった。忘れていた。二人には会いに行くような『友達』がいないということを。

 

「でもさ、ゆんゆんは以前ふにふら?……だとかどとんこだったっけか?その子達の事を友達って言ってたろ?」

「ああ、それはただかつあげされてた人ですよ。友達という単語をちらつかせて彼女をたかっていたらしいですよ」

「なんだそれ!?酷くね!?」

「うっ…………友達だと思ってたのに」

「ど、ドンマイ……ゆんゆん!」

 

ここで忘れていたリアルぼっち設定の実態が明らかになっていく。ただのぼっちに飽きたらず、たかられていたとは…………これ、大丈夫か?

 

「めぐみん、ゆんゆん、お前ら苦労してきたんだな……」

「認めたくはないですが、苦労してきたのは事実ですね。日々の食糧にすら頭を悩ませ、誰かにねだらなければ栄養失調になる毎日…………固形物なんて、一ヶ月に何度食べれたか……」

「ねぇ?学校の日は私との勝負に勝って毎日弁当食べてたの忘れたの?まるで私の弁当がめぐみんの物みたいになってたけど?」

「おや?そうでしたか?」

「わざとね!?絶対に覚えてるでしょ!?」

 

その後、特に何事もなく宿を取った俺達。部屋分けで俺と女性陣で1対4の割合になるからとゆんゆんが駄々を捏ねて俺と相部屋になろうとしてきた。身の危険を感じた俺は咄嗟にジャンヌを指名してしまった。これはミステイクかとも思ったが、何故かジャンヌは『まぁ、その方が安全ね』と悟った顔でそう言って納得した。この反応には皆驚いた。絶対に罵倒やらなんやらが飛んでくると思ったからな。

 

「どうしたんだ、ジャンヌのやつ?」

「…………実は」

 

ネロから昼間に合った男のことを聞いた。当然、めぐみんもゆんゆんもその男に覚えはなく、外から来たのだろうと結論に至った。

 

(それがジャンヌとどう関係して…………?)

 

誰にもジャンヌの悩む訳は分からず、成り行きで相部屋の俺が聞くことになった。

…………嫌だな、緊張する。

 

「カズマさん。言っておきますけど、絶対にジャンヌさんに変な事をしないでくださいね!!!」

「分かってるよ。そんなことしたら俺が殺されるわ」

 

そして、日は暮れて夜になった。

夜になると、ジャンヌは一人で出ていった。まるで、何かに引き寄せられるように、強ばった表情で去っていった。

 

 

 




このすばらしいギャグ展開とFateらしいシリアス展開を書いていると、どっちの路線で書いていいか分からなくなる時があります。基本的にこのすばギャグで下記進めていきますが、シリアスになるとごっちゃになります(´・ω・`)

今後の展開として、これからようやく紅魔の少女達が出てきます。その裏方で敵側の描写も少々……。
では、また読んで頂けると幸いです。

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