異世界転生したカズマは召喚師になりました。   作:お前のターン

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すいません、前半と後編に分けると言いつつまだ続きます。


昨日の敵は今日も敵

剣と剣がぶつかり合う。火花を散らし、削り合う。片方は大剣を握りしめ、連続で斬りかかる死霊騎士デュラハン。もう片方は駆け出しクルセイダー、ダクネス。

剣技ではデュラハンが圧倒的だった。しかし、ダクネスは持ち前の頑丈さを活かし耐えていた。

 

「ほぅ?この俺の攻撃をここまで受けて尚倒れぬか」

「くっ、なんて一撃だ……!全身に衝撃が伝ってくる」

「ふっ、耐えるだけで―――」

「だがそれがいい!!!」

「………………ふぁ?」

 

相変わらずダクネスはぶれない。

先程俺を助けたイケメンっぷりは何処へ行ったのやらと、半分アヘ顔みたくなってる。こんな修羅場なのに戦いを―――ではなく、受ける事を楽しんでいる。

 

(相変わらずだな…………ホント、敵にはしたくない)

 

 

だが、味方になれば意外と頼もしい事が分かった。

なにせ、本当にぶれない。いくら攻撃されても倒れないのだ。デュラハンもまさか攻撃される事を喜んでいるとは思っていないだろう。

 

「き、貴様…………一体何を言っている?」

「どうした!!?魔王軍幹部の攻撃はこの程度か!!!」

「な、なにおぅ…………!?」

 

うん、たぶん会話が成立してない。

 

「行くぞクリス。ダクネスが惹き付けてくれている今がチャンスだ」

「了解。久々の連携プレイだね。まさか鈍ってないよね?」

「当然」

 

俺とクリスは『潜伏』スキルを発動させ、デュラハンへと忍び寄る。流石は俺の盗賊師匠だ、冒険者の俺とはスキルの切れが違う。なんというか存在感が無い。景色から色が抜け落ちた様な、まるで透明に溶け込むナニかだ。

 

「攻撃開始」

「あいよ」

 

さて、作戦開始だ。

まずは、既にやっている通りダクネスが正面切ってデュラハンとぶつかり合う。必要なら『デコイ』というクルセイダー特有の惹き付けスキルを使う。これには相当のリスクを伴う。何故なら他のアンデットまで呼び寄せる危険性があるからだ。今のところ、ジャンヌが焼け野はらにしたおかげでその気配はないのだが…………。

そして、第2段階。俺とクリスによる強襲だ。

 

「ぬっ!?貴様ら、一体何処から―――」

『『アサシネイト!』』

「かはっ…………!」

 

二人の渾身の一撃がデュラハンを抉った。盗賊、というより暗殺よりの攻撃スキルだ。刃に魔力を込め切り刻む。

 

「小癪な…………!またしてもその様な小技で俺を出し抜こうという気か!?」

「カズマ、次はあれでいくよ」

「プランTだな」

 

そして、その隙にダクネスが『デコイ』を発動させる。これが、俺とクリス、ダクネスの即興連携技だ。ダクネスが壁になっている間に俺とクリスは気配を断ち、攻撃を仕掛ける。ヒット&アウェイ戦法だ。

更に、ここからクリスによる独壇場が始まる。

 

「何がプランTだ!ただの陰湿な嫌がらせではないか!?」

「ふん、何を勘違いしている?」

「なんだと?」

「それは先程までの戦法だ。あまり私の仲間を見くびるなよ」

 

そう言うと、ダクネスは一旦下がった。そして、俺も気付かれないようにダクネスとめぐみんの元へと行く。

 

「よし、作戦通りだ。頼むぞめぐみん」

「ふっ、大船に乗ったつもりでいるといいでしょう!」

「めぐみん、なるべく早く頼むぞ」

 

めぐみんは呪文詠唱を始めた。

ダクネスはめぐみんの前に立ち、敵からの万が一の攻撃に備える。俺は敵感知で周囲を探る。

そして、その間クリスは―――

 

「…………貴様一人か?」

「まぁね。君の相手は私一人で十分ってこと…………みたいだね」

「ふざけたことを!俺を舐めるのも大概にしろ!!」

 

デュラハンは堪忍袋の緒が切れた様にクリスへと切りかかった。だが、クリスは慌てる事なくそっとスキルを唱えた。

 

『疾風迅雷』

 

全身から魔力を放出した。それだけなら驚くほどの変化でも無いのだが、クリスのそれは尋常ならざる奥義なのだ。

 

「なっ!?消えた…………?」

「こっちだよ」

「何っ――」

 

次の瞬間、目にも止まらない斬撃がデュラハンを襲った。その攻撃は鎧を裂き、空を切り、肉を断った。

 

(な、何が起こって…………!?)

 

言葉にする事すら間に合わない。クリスの加えた一撃と思える攻撃は、そこから無数の斬撃を生んだ。あらゆる方向から力を加えられ、それに伴う肉体の衝撃が逃げきらない内に次の攻撃を加える。それが延々と続いた。

 

「かはっ!くふっ!?がはぁ…………!!?」

「…………しぶといね、キミ」

「…………くっ、貴様一体何者だ?」

 

並の人間なら数度切り裂かれ肉片になっていてもおかしくないのだが…………デュラハンは少し苦痛に顔を歪める程度で立ち上がった。

 

「ははは、傷つくね…………結構本気だったんだけど?」

「安心しろ、効いているぞ。後一万回加えれば死ぬかもしれないぞ?」

「…………はぁ、じゃあ次でおしまいね」

 

今度は全魔力を開放した。それは、デュラハンから見れば大した量ではない。何しろ、ゆんゆんの3分の1にも満たないのだ。だが、クリスにとっては全開。全力全開、本気モードだ。

 

「…………空気が変わったな」

「そう?…………やっぱりキミはやりづらいな」

「奇遇だな。俺もそう思っていた………………次で終わらせる」

「あはは、それはお断りさせてもらうね」

「そうか、だが―――」

 

デュラハンの言葉が紡がれる前にクリスは飛んだ。

 

(またか、またしても見失った…………)

 

デュラハンには幾分の余裕があった。何故なら先程までの攻撃は何一つ致命傷に至るほどの威力は無かったからだ。

しかし、クリスの放った殺気がそれを変えた。

 

(なんだ?急に寒気が―――)

『真・アサシネイト』

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

閃光の一撃がデュラハンの左腕を断ち切った。

 

「くそがっ!」

「わっ!?あぶなっ…………!」

 

沈めたと思ったが、流石は幹部というべきか激痛に怯むことなくクリスに反撃の一撃を放った。

 

「あぁ…………これでも駄目か」

「はぁ……はぁ……当然だ。この程度で屈する俺ではない!」

「そっか、それじゃああの子に任せよっかな」

「何?貴様、何を言っている…………?」

 

クリスは再び『潜伏』を発動させ、目の前から消えた。

 

(馬鹿な。目の前にいたのに見失うなど…………)

「ふっ、次は私の番ですね!」

「…………ほぅ?」

 

クリスが消えた後、後ろにいためぐみんとダクネスが姿を現した。

 

「紅魔の者か。ふん、噂通り目立ちたがりの頭のおかしい種族のようだな。俺の実力は痛いほど知っているだろうに」

「ええ、知っていますとも」

「ならば―――」

「ですが…………」

 

デュラハンの問いに、めぐみんは目の色を変えた。まさに意味通りに紅く光り、感情が高ぶる。

 

「あなたは私の仲間を傷つけ過ぎました」

「戦いとはそういうものだ。余程生半可な人生を送ってきたらしいな」

「…………そうですか。なら、そう思ったまま逝ってください」

 

めぐみんは既に詠唱を終えている。直ぐに杖をデュラハンへと向け、スキルを唱える。

 

『エクスプロージョン!!!』

 

爆裂魔法が炸裂した。

念のために距離は取っていたが、それでも強い振動が空気と地面を伝ってくる。デュラハンを中心とした範囲に撃ち込んだが、それを察知したのか咄嗟に範囲から逃れようと僅かだか後退していた。しかし、あくまでそれはほんの僅か。逃げれるはずもない。

 

 

「ふっ…………決まりました」

「よし、とりあえず作戦通りだな」

「まだ安心するには早い。私の強敵センサーが反応している」

 

なんだそれ?こいつ、何処かに触手でも生えてんのか?

 

「ぐっ……!駆け出しにしてはやるが、それが限界だろう」

 

案の定、デュラハンは立ち上がった。

だが、先程までと違い、禍々しい障気が消えていた。鎧もボロボロで心なしか構えも崩れ気味だ。もしかしたら結構ガタが来ているのかもしれない。

俺は、これを好機と判断し、追撃を試みた。

 

「くらえデュラハン!ネロの仇だ!!」

「甘いわ!この程度かわすまでも―――」

「…………と言うと思ったぜ」

 

真正面から突っ込んできた俺に何の躊躇もなく剣を向けるデュラハン。だが、それこそが俺の狙い。

 

「はっ!くらうかよ!!」

「貴様…………!?」

「手土産だ、もらっとけ!」

 

そのまま突っ込むと思わせ、急に方向転換する。当然奴の間合いに入る何て事は滅多にするもんじゃないし、する気もない。ギリギリの距離で交わしつつ、スキルを唱えた。

 

『クリエイトウォーター!』

「なっ!?き、貴様!まさか…………!?」

 

俺が使ったのはあくまで初級の水を生成する魔法だ。たが、デュラハンはそれを大袈裟に避けた。

 

(やっぱりか………!)

 

ゲームや漫画でよくある話だが、アンデットは水に弱い。あくまで予想だったのだが、今の反応で確信に変わった。

 

「くらいやがれっ!」

「や、やめろ!こんな初級魔法を乱発しよってからに!?なんの嫌がらせだ!!?」

 

俺は問答無用で撃ち続けた。初級だけあって消費魔力も軽量で済む。いま現在レベルが20後半もある俺からすれば余裕だ。まだまだ撃てる。

しかし、デュラハンも馬鹿ではない。流石に何十発も撃つと避けるだけではなく、距離を詰め始めてきた。

 

(やっば……!もし近距離戦になったらまずい!!)

「い、いい加減あっちらこっちら撃つのはやめろ!!!さもないと斬るぞ!?」

 

なんかデュラハンの仮面がとれてきている気がする…………。先程までの余裕も何処へやらと、口調もなんかおかしい。付け加えて言うと、『クリエイトウォーター』をかわす格好がキモい。まるでピエロみたくウネウネ動く。しかも腕に顔を抱えたままで。はっきり言ってホラーだ。

 

「あ、ちょっ……や、やめんか!?」

「うるせぇ!こちとら怒り心頭なんだよ!!お前こそふざけてんじゃねぇ!!!」

「好きでやってないわい!お前が連発するからだろうが!!?」

「…………あの、何を遊んでいるのですか?」

「遊んでねぇよ!…………くそ、あいつ本当に素早いな」

「では、例の作戦といきましょうか?」

 

懐に隠していた袋を出すと、高質のマナタイトを取り出した。そう、これこそが秘策だ。めぐみんは爆裂魔法を撃つと魔力切れで倒れる。ならば、その魔力を何度も補充し何度もぶちかます。相手が倒れるまでやめない。ずっとめぐみんのターンだ。

 

「ふふふ、日に何度も爆裂魔法が撃てるなんて…………はぁ、ははは…………」

 

流石は爆裂狂。悦に浸ってやがる。別にいいんだけど、その杖に股を擦り付ける動作は止めてくれ。わりと卑猥に見えるから。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に―――」

 

再び呪文の詠唱に入るめぐみん。

さて、問題はここからなんだよな…………。

 

「よし。行け変態」

「ひゃうん…………!?はぁ……はぁ……悪くない、ああ、悪くないぞ!この扱い、その目!!私を完全に見下す奴の目だ…………!!!」

 

そう言うと、変態は万歳しながらデュラハンに突撃していった。

…………やっぱ変態だわ、あいつ。

 

「な、なんだお前!?何故自ら攻撃を受けにくる!!?」

「どうした!?腕が一本無くなっては本気が出せないか!!もっと根性を見せろ!!!魔王軍幹部の辱しめとはこの程度が!!!?」

「誰もそんな事しとらんわ!!!」

 

ああ…………大変そうだな。あいつとの会話は精神的にくる。まず間違いなく会話が成立しない。だって、こっちは拒否してるのに、あっちはどうしたのだのこの程度だの煽ってくる。意味もわからないが、それよりも目が怖い。逝ってる、本当に逝ってるから。

ダクネスという痴女がデュラハンを追いかけ回している間に着々と詠唱は進む。まるで、あいつが活躍してるみたいだ。あいつという変態が窮地を救う日がやってこようとは…………。

 

「カズマ!準備完了です!!」

「おう。変態!準備出来たから退避しろ!!」

「んんっ!?はぁ…………いい。いいぞカズマ!もっと罵ってくれ!!出きるだけ強く、酷く、吐き捨てる様にだ!!!」

「いいから黙って従えこの筋金入りのド変態が!!!」

「ド・変態…………!!?んきゅうぅ…………いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「ふぁ!!?」

「おい馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なんで敵に突っ込んでいくんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?今から爆裂魔法ぶちこむっていってんだろうが!!!?」

 

何をとち狂ったか、あの変態はデュラハンへと突っ込んで行った。

馬鹿だ、本当に馬鹿だ。変態ってだけじゃない、知性までイカれているかも知れない。更なる刺激を求めて敵に引っ付くとかもう…………よし、こいつもまとめて撃つか。

それがいい、そうしよう。

 

「よし、めぐみん。やれ」

「はい?いいのですか?まだダクネスが―――」

「彼処にいるのは変態と敵だ。問題ない。仮に問題があったとしても、それは敵を倒すための尊い犠牲として割り切ろう。というわけだ、やってくれ。出きるだけ盛大に」

「…………少し悪意を感じるのですが、まぁいいでしょう!ダクネスは仮にもクルセイダー。必ず耐えうるでしょう。行きます!!」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

再び爆裂魔法が発動した。

今度はデュラハン及びダクネスを巻き込んだ強烈な一撃だ。何度も観ていたら分かるのだ、肌を伝っていく振動が強く、全体に響き渡る。大地に走る亀裂、宙に舞う粉塵、そして極めつけは隕石が落ちたような破壊跡。これを何度も耐えるとか正直おかしいと思う。

 

「ぐっ…………!貴様ら、仲間ごと撃ち込むだと!?正気か、お前らには人間の心は無いの―――」

「はぁ……!いい、実にいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「…………か?」

「こんな攻撃を受けたのは初めてだ!初体験だ!!気持ち良すぎてアヘってしまいそうだ!!?」

 

既にアヘ顔になっている気がするんですが。違うんですか?違うんですね?…………違いませんよね?

 

「…………オ、オマエラ―、ナカマニコウゲキスルナドショウキカー?」

 

デュラハンさんのTake2が入った。

なんかもうカタコトになってるけど、相当参ってるんだろうな。だって、おかしいもん。デュラハンの言ってることの方が正しいはずなのに誰も肯定しない。

みんな『ダクネスにはご褒美』、そう思っている。

 

「まさか我が究極の攻撃魔法を二度もくらって生きているとは…………くやしいです」

「よしよし、3発目も頼むぞ。ほれ、マナタイト」

 

これまた同じくマナタイトからの魔力補給、からの爆裂魔法戦法だ。流石に2発もダクネスに当てると俺とめぐみんが後で批難の嵐をくらいそうなので、少しは誘導してやろう。

 

「おい、変態。いい加減戻れ。お前、顔では喜んでるけど鎧壊れてるからな?結構体力的にはキツいんだろ?」

「…………ふっ、構わん。撃て」

「撃ちません」

「撃て」

「撃ちません」

「撃つんだ、頼む」

「頼まれません」

「撃つしかあるまい」

「ありません」

「「……………………」」

 

一瞬、時が止まった気がした。

 

「カズマ!どうして撃たない!?私はこんなにも欲して―――ではなく、好機というのに!?」

「言い直しても遅いわ!人がせっかく心配してやってんのになんだよその反応は!?」

「だから構うなと言っているだろう!いいから、撃て!!鬼畜のカズマとは異名だけか!?本性を晒してみろ!!!」

「お前っ!!?人が下手に出てたら調子に乗りやがって!?何が鬼畜のカズマだ、頭が逝ってるお前には言われたくないわ!!!」

 

もう知らん。本当に知らん。知ら管だ。

めぐみんに命令し、爆裂魔法を撃ち込むように指示を出す。その際に少しはアレな顔をされたが、これは本人からの要望なので俺は悪くない。だから俺をそんな目で見るな、まるで俺が悪役みたいだろうが。

 

「…………まぁ、カズマに悪気はないのは分かってますから。やりましょう」

 

ようし、なんとか聞き入れてくれた。少しは俺の事を分かってくれているのかも知れない。同情まみれに声のトーンを落としてくる。

 

「貴様ら…………本当に仲間なのか?」

「当然だ。私たちは志を共にした仲だ。共に悪を、お前を撃ち取らんが為に剣を取ったのだ」

「ほぅ…………?」

 

は?志同じ?何いってんだ。誰がこんな変態と…………。

 

「だが、志は高くても実力が伴っていないようだな。貴様らの奥の手やら尽く効いていないが?」

「強がりを。片手を失って何を言う?」

「…………試してみるか?」

 

デュラハンが兜を宙に投げると、そこから魔方陣が広がり、黒く禍々しい目が顕現した。

そして、ダクネスは当たりもしない癖に一丁前にデュラハンへと斬りかかった。

 

「見える、見えるぞ。お前の揺れが」

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 

案の定、ダクネスの剣は空を切った。だが、驚くべき事にデュラハンは避ける動作を最小限にしたかと思うと、一瞬で背後へと回ったのだ。

 

「ぬるい」

「なっ―――かはっ!?」

 

重い一撃がダクネスの横腹を抉った。

 

「あ……あぁ…………ぁ」

「スキル『魔眼』。誉めてやろう、俺に本気を出させたこと。黄泉で誇るがいい」

「だ、ダクネス!!?」

 

流石に今の一撃はヤバい。いくら鎧を身に付けているとはいえ、完全に破壊され血がドロドロ流れ落ちていた。あのドMなダクネスが苦い顔をしている。

 

「まだ……だ!私は倒れるわけには―――」

「そうか、ならば直ぐに楽にしてやる」

 

またしてもデュラハンは宙に兜を投げた。

 

(まずい!?あれが発動したらもう―――)

 

あのスキルは恐らく動体視力を極限にまで上げる能力だろう。加えて視界も広がり、敵の動きも良く見えることだろう。更に、デュラハンは一流の騎士。まさに鬼に金棒だ。

 

『キャッスル・オブ・ストーン!!!』

「何っ!!?」

 

だが、死の瀬戸際とも言える刹那の瞬間にダクネスはスキルを発動させた。

目映い光がダクネスを包み、全てを遮断する。加えて自らも動く事が出来ず、完全に一時しのぎのスキルだ。

 

「…………っは!?よし、いまだめぐみん!!!」

「了解です!我が狂気を持て現界せよ―――」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

またも人類最強の攻撃魔法が炸裂した。

 

「ぐっ!!?ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

(効いている!?)

 

先程までは少し怯んだだけで立ち上がっていたのだが、今度はやけに苦しそうだ。それは魔力が切れてきたのか、障気が消えたせいか…………とにくかくチャンスだ。

 

「おのれ、舐めてかかったのが仇になったか……!やれ、アンデットナイト共よ!!!」

 

デュラハンがひと振りすると、地面からアンデットが這い上がってきた。

 

「くそ!だけどこの機を逃したらもう勝ち目はない。ならもう、いくしか…………!」

「カズマ、私も魔力充電すんだよ」

「クリス!よし、最後の攻撃だ。一緒に頼むぞ!!」

「オッケー、これで終わりにしよう」

 

もう俺達には時間の猶予が無かった。這い上がってくるアンデットもそうだが、ジャンヌが払ったアンデットもそこを埋めるように集まってきているのだ。これに囲まれれば最後。命は無いだろう。

 

『疾風迅雷』

『憑依』

 

先程と同じくクリスは魔力を解放する。更に剣には風を束ね威力を上昇させる。隣にいても分かるくらいに彼女の殺気が感じ取れた。それはとても冷たく、静かで恐ろしいほどに研ぎ澄まされていた。

そして、俺はスキル『憑依』を発動した。

もう以前のような無茶はしない。ランサーだのアーチャーだの俺には合っていないのだろう。途中でぶっ倒れるなんてまっぴらだ。だから、今度は無難かつ相性の良さそうなクラスを選ぶ。

 

「カズマ、私は右から叩くから反対はお願い」

「おう、任された」

 

先にクリスが出た。

 

(クラス……アサシン、後は運だ。頼むぞ!)

 

運に身を委ねアンデットの群れへと突撃した。

感じる、少しずつ英霊の力が流れ込んでくる。それはまるで刃物だ。悲しくも研ぎ澄まされた殺意が内から込み上げてくる。

 

(ぐっ!?…………けど、この程度なら!)

「憑依完了…………ジャック・ザ・リッパー」

「なんだ……急に霧が?」

 

憑依した英霊の能力で、霧を発生させる。これは本来何の耐性もない人が吸ったら猛毒なので多少の手加減はする。しかし、それで十分だった。俺とクリスには『暗視』スキルがある。それに範囲もデュラハンとアンデットナイトの群れの辺りまでだ。めぐみん達には害はない。

 

「1、2、3…………多いね」

「ふっ!はっ!…………確かに。後20体はいるな」

 

霧に乗じて攻撃しているのだが、いかんせん相性が悪い。良かれと思って使ったのだが、どうにもこのアンデット達は生命力を目印にしているようだ。切りかかる咄嗟の瞬間に動くのでやりづらい。

 

「くそっ、早くデュラハンのところまで行かないとダクネスが…………!」

「確かあのスキルは魔力が著しく減るからね。ダクネスの魔力が切れたらおしまいだよ」

「ったく、世話の焼ける変態だな」

 

更に刃に魔力を込め、アンデットの群れを切り裂いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

中衛

 

「……………………はっ、そろそろ疲れたわね」

 

地に旗を刺し、それにすがるように立っていた。体の至るところから出血し、背中には剣が数本刺さっていた。

 

「ジャンヌさん!!」

「ゆんゆん?あんた、後衛はどうしたのよ……?」

「今は数が減って戦況は安定しています。それより、ジャンヌさんこそ大丈夫なんですか!?」

「あぁ…………駄目かも。体中痛いわ」

「今すぐプリーストのところへ連れていきます。だからもう少し辛抱してくださいね!」

「いいわ、このままで。それと、あんたは早くカズマのところへ行きなさい。ネロがやられたの、このままだと…………」

「ネロさんが…………!?」

「だから…………」

 

あの最強とも思えたネロが倒れた。これがどういう意味を表しているのかは分かっている。けれど、たった一人で数千という群れを相手している彼女を置いていく事など出来るはずもない。

 

「ジャンヌさんはどうするんですか?このままだと―――」

「私の心配はしなくていいわ。死ぬことはないの、カズマの中に還るだけだもの。それに、まだ戦える」

「けど…………!」

「いいから行きなさい!なんの為に私が一人で戦っていると思ってんのよ!!ここを突破されたら終わりなことくらい分かるでしょう!!?」

「っ…………!!?」

「…………だから、行きなさい。私の気持ちが変わらない内に」

 

体を起こすと、黒剣を顕現させた。そして、それをアンデットへと投げつける。するとそこから炎が生まれ、燃やし尽くした。

 

「あんたはまだ戦える。けど、私は満身創痍なのよ。背中に剣が何本も刺さって超痛いし、左腕だってほとんど感覚が残ってないのよ…………頭も痛いし、気分最悪よ。だから…………精々足掻いて、こいつらに一泡吹かせてやるわ」

「ジャンヌさん…………」

「はっ、こんだけ頑張ってるんだから後でシュワシュワ奢りなさいよね」

「…………分かりました。武運を祈ります」

 

そう言い残し、ゆんゆんは前へと進んだ。

 

「祈る…………ねぇ。それはちょっと違うんじゃないかしら?私は信じない、神を、天命を。」

 

血に染まる頬を拭いながら、天を仰ぎ見る。どこまでも澄んだ色、曇りなき空だ。

 

「もし神というものが存在するなら私には罰が下るでしょうに…………ああ、これが罰なのかもね。それでも、私は信じない。私は主を信じない」

 

何十体という群れが襲いかかってくる。けれど、抵抗出来るだけの力は既に無い。

うっすらと見えるゆんゆんの背中、辺りには仲間はいない。いや、遠ざけたとも言える。

 

「次から次へと、これが背信者への報復なのかしら―――かはっ!!?」

 

剣がジャンヌの腹を貫いた。

 

「ああ…………あぁ……痛い……わね、とても痛いわ」

 

残された右腕にもつ旗で凪ぎ払う。しかし、今度こそ地に崩れる。

 

(…………血が、溢れ落ちる。まずいわね、これは)

 

今度は空から無数の槍が降り注ぐ。

無情にもそれは彼女の体を貫き、地に串刺しにした。

 

「がはっ…………ごほっ…………」

 

言葉も出なかった。痛みも感じない。ただ意識が遠退いていく。

 

(…………終わり、か)

 

後目に写るのは後衛へと流れ込むアンデットの軍勢。既に死に体である自分など気にも止めないのだろう。

 

「…………れが…………ご」

 

薄れ行く意識の中、最後にジャンヌが考えた一手。

 

(これが最後。私の血肉を糧とし燃えなさい。これは、私の憎悪によって産み出された一撃。精々足掻いて共に逝きなさい)

 

自滅覚悟の宝具開放だった。

 

吠え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

残存魔力を全てを賭け、更には自身を形成する魔力をも注ぎ込む。

それは、文字通り渾身の一撃だった。黒剣は行く手を塞ぐ様に地から這い出てアンデットを貫く。まるで墓標のようにそびえ立つそれに、串刺しになるアンデットの絵面は地獄を現したようだ。更に、遅れてやってくる炎が逃げ場を塞ぎ、燃やさんが為にじわりじわりと忍び寄る。

 

「…………後は、頼んだわよ。カズマ、ゆんゆん」

 

その一言を最後に、ジャンヌは消えた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

「くっ!?」

 

ダクネスの無敵スキルは続いていた。

無駄だと分かっているがデュラハンは何度か斬りつけていた。

隙を見て逃げ出すとでも思っているのだろうか?

 

「待ってろよダクネス!直ぐに助けて―――」

「ああ、すまないが頼む…………別に急ぐ必要は無いが」

「強がるなよ、たまには素直になれ」

「う………正直言うと少し物足りな―――」

「OK、少し黙ってろ」

 

人がせっかく急いで救出をしようというのに、やる気を削がれる言葉だな。

デュラハンの呼び出したアンデットナイトはさほど強くは無かった。恐らく駆け出し冒険者でも相手出来る程度だ。それもデュラハンが弱っている証拠だろう。

 

「ふん、どうやら貴様よりあの二人を先に倒した方が良さそうだな」

「くっ、すまないカズマ。私では時間稼ぎにもならなかった…………」

「気にすんな。お前にはしては上出来だ。だから後もう少し維持してろよ」

「むぅ、そこは『この役立たずが!!!』とか『使えない雌豚が!!!』と罵るところだろう…………」

「お前な、一体俺の事をなんだと思ってるんだ?」

「ふっ、知れた事。やり手の変態エロマだ!!!」

「うるせえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!誰だよそいつ!?だたの犯罪者だろ!!?」

 

あーやだやだ。助けるのが嫌になるわ。変態に変態と言われるとかもう終わってんだろ。しかも、いつの間に俺がエロい事になってるんだよ…………。

気がつけばクリスは周りの敵を片付け、デュラハンの元まで来ていた。

 

「お待たせ、ダクネス。さて、今度こそ終わらせてもらうよ?」

「貴様か。やはり決着を着けねばならんようだな。こい、今度は本気で相手してやろう」

「『魔眼』だっけ?便利なスキルだね。でも、それで私を追えるのかな?」

「そうだな、この霧ではできまい。まずはこの霧を消させてもらおうか」

 

剣を地に突き刺すと、デュラハンは体中から障気を放ち始めた。

 

(はっ!?なんだこれ、霧が黒い靄に上塗りされていく…………!?)

 

霧の様に視界が悪くは無いが、息が詰まりそうだ。しかも心なしかデュラハンの雰囲気が変わった気がする。

 

「貴様に地獄の障気が耐えれるかな?」

「うっ、なにこれ…………気持ち悪い」

「こないのか?ならば、こちらから行かせてもらう!」

「―――っ!?」

 

一瞬で距離を詰めたかと思うと、剣を放り投げてきた。

 

「わ、わわわ…………!?」

「紙一重でかわすか、ならば―――」

 

遠くでアンデットと戦いつつなので見辛いが、デュラハンは剣を投げてクリスに隙を作らせた。そして、かわすことを計算して体術で攻めていた。

 

「はっ!」

「危なっ!?ちょ、スキル無しじゃ反応できないよ…………!」

「俺を剣技だけの輩と思わぬことだ。伊達に貴様らより長生きしているわけではない」

「キミ死んでるでしょ…………!って、冗談言ってる場合じゃない」

「逃がすものか!!!」

 

クリスはギリギリで攻撃をかわしているが、それも辛そうだった。どれも紙一重でしかも次の動きを読まれて先に攻撃を仕掛けられている。魔力を常時解放状態にする『疾風迅雷』でこれでは後の展開がキツい。魔力も切れるが、まずこれ以上の動きが出来ない。いずれ終わりが訪れてしまう。

 

(くそ、早くこっちも終わらせて助けに行かないと!)

 

一方、俺の方は相変わらずアンデットの群れと戦っていた。残りは僅かだか、デュラハンの障気のせいか動きが鈍い。逆にアンデットは強くなった気がする。

 

「よく分かんねぇけど、この英霊はマジで暗殺特化だな。霧があればまだしも、多対一の戦闘には向いてねぇ…………」

 

単純に持ち前の短剣とダガーでアンデットの首を断つという戦法でしか戦えない。クリスみたいに高速で動けるならまだしも、これだと普通に苦戦する。

 

「だぁもう!仕方ねぇな!!」

『クリエイトアース、からのバインド!』

 

アンデットの足元に縄状に生成し、地に縛り付ける。これで、足止めは出来るはずだ。

 

「めぐみん、後で爆裂魔法で処理しといてくれ!」

「了解です!」

 

そして、ようやくクリスの元へと駆けつける。

だが、そこで俺が見たのは…………。

 

「ほう?ようやく来たか」

「か、ずま…………」

「くっ…………すまない」

「嘘、だろ…………?」

 

血塗れで地に横たわる、二人の姿だった。

 

 




さて、このすば二期が終わってしまいましたね…………。
てっきり最後は、ゆんゆんが『カズマさんの子供が欲しい!』と言って終わると予想してたのに…………。

それはそれとして、ようやくデュラハンがスキルを使いました。『死の宣告』は使う場面がないので恐らく作中には使いません。
代わりに『障気』というスキルを付け足しときました。
さてさて、カズマさんはデュラハンに勝てるんでしょうかね~。
シリアス展開のデュラハンは最強やで!

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