一か月ぶりの投稿です。失踪しかけましたが何とか踏みとどまりました。
もう少しで完結すると思いますので、それまでは頑張って投稿できるといいな。
それでは第九話どうぞ。
――大学入試は、基本的に二段階で行われる。
一月中旬のセンター試験と、二月の本試の二つだ。
クリスマスに後輩ちゃんと会ってから数週間後にあったセンター試験、これは大丈夫だった。いままで塾やら学校やらで繰り返してきた模擬試験とほぼ同じ点が取れたのだ。
そして今日こそ本番、第一志望の前期試験の日である。
家族に見送られてから家を出る。
筆記用具、腕時計、受験票、カイロ、弁当、現金。すべて持っている。
全ては今日を乗り切るためにやって来たんだ。しょうもないミスで一年を棒に振りたくはない。
――そして何よりも心強いお守りが一つ。
『がんばってください。応援しています』
今日の早朝、後輩ちゃんから送られてきたLINE。
本当にシンプルな言葉だが、それだけでやる気が出る。
「……よし」
さあ、戦いの時間だ。
――次の日。
窓の光で目が覚める。
時計を見るともう十時。だいぶ良く眠ったものだ。
――結局、昨日の本試は普通に終わった。
数学の解答を書く場所を間違えていたことに終了間際に気付いたり、物理で最初の問題が解けずにパニックになったりもしたがまあなんとか終えることはできた。
そして試験を終えると家に直行。後輩ちゃんと少しLINEをした後夕飯も取らずにベッドイン。そのまま今まで爆睡していたのだ。
計十数時間寝ていたおかげで体はスッキリしたが、お腹が空いてしょうがない。この時間だったら母さんたちも起きているだろうし、何か適当に作ってもらおう。
「……アレ?」
そんな時、急に何かが頭をよぎった。
……なにか忘れている。結構重要な何かを。
……僕の志望校の試験は一日で終わる。だから今日も試験でした!なんてことはない。
……じゃあ塾か?いや後期の勉強もあるけど、今日ぐらいは遊んでいいって――
……うん?遊ぶ?誰と?
「あっ」
もしかして。
急いでLINEを確認する。そこには昨日の後輩ちゃんとのLINEがあり――
『じゃあ明日、十時に駅前ですね。楽しみにしてます』
そこには後輩ちゃんと遊ぶ約束をしたLINEが!
そして現在時刻は午前十時!
遅刻⁉まずいですよ!
「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわああああああ」
こうして僕は何も食わずに服装だけ整えて家を飛び出したのでした。
「先輩さん。何か言いたいことはありますか?」
「少しだけ言い訳させてください」
――三十分遅刻して駅前に到着した僕に待っていたのは後輩ちゃんのお説教だった。
二か月ぶりの再会がこんな始まり方なのはどうかと思うが、今の後輩ちゃんは激おこぷんぷん丸なので下手に何か言わないほうがいい。
「……へえ、寝過ごしたんですか」
「ハイ」
「なら私の二時間近い待ち時間は無駄死にですか?」
「本当に申し訳ない。そうだ」
「本気で反省してます?」
してるしてる。
少しでも後輩ちゃんの機嫌を直そうと首を縦に振っていると、ふと一つのことに気が付いた。
……ん?二時間?
「……集合時間って十時だったよね?」
「そうですよ。だからこうして遅れた先輩さんに怒って――」
「……なんで二時間も待ってたの?」
「……あ」
僕の質問に、後輩ちゃんは顔を赤くさせる。
もしかして、もしかしてだけど……
「……楽しみすぎて、早く着すぎちゃった?」
「ッ‼」
どうやらマジで図星のようだ。
そっかーそんなに楽しみにしてくれてたんだー
「ち、違います!べべべ別に先輩さんと会うのが二か月ぶりだから早く会いたくて早く着すぎちゃったとかそんなこと!」
わーすっごいわかりやすい反応だナー
「……ほんとにごめんね?そんな楽しみにしてくれてたのに遅れちゃって……」
「だ、だから違います!」
うん。やっぱり後輩ちゃんはかわいい。
そんなかわいい後輩ちゃんのためにも今日は楽しませてあげなくては。
「それじゃあ待ってくれた二時間を取り戻すためにも早く行こっか?」
「話を聞いてください先輩さん!」
――こうして僕と後輩ちゃんは街に繰り出した。
――AM10:45
「いやーたこ焼き美味しいねー」
「……」(むすっ)
「あー、えっと」
「……」(むすっむすっ)
「……やっぱり、まだ怒ってる?」
「……知りませんっ、先輩さんのことなんか」
駅前から少し移動したところにあるたこ焼き屋さん。いい加減お腹が空いてヤバかったのと後輩ちゃんのご機嫌取りのために寄ってみたのだが……
「……」(むー!)
さっきからかいすぎたようで、なかなか機嫌を直してくれない。
いつもなら餌付けで何とかなるのだが――
「ほら、そこそこ値段が張って高校生には気軽に手の出せないたこ焼きだよ?食べなくていいの?」
「……いらないです。さっさと一人で食べちゃってください」
今日はさっきからこの様子である。これは相当怒ってらっしゃる。
「ほんとにいらないの?」
「いらないです」
「そう……」
「……」
「……」
「……」
やばい。すっごい気まずい。というか餌付け以外にどうやったら後輩ちゃんのご機嫌とれるか全然分からない。
そしてさっきから後輩ちゃんがたこ焼きをチラチラ見てる。やっぱり欲しかったのか。
具体的な解決案がでないままたこ焼きを半分くらい食べ終えた頃、いい加減耐えられなくなった。
「ごめんなさい後輩ちゃん!さっきは調子に乗りすぎました!」
こうなったらもう平謝りじゃい!
「……本当に反省してるんですか?」
よし、手ごたえあり!このまま押し切れ!
「反省してますから許してください!なんでもしますから!」
「ん?」
アレ?なにか後輩ちゃんの反応がおかしい。
なんか眼光が野獣みたいな。
「今何でもするって言ったよね?」
こちらの肩を掴みながら後輩ちゃんは言う。
指が食い込んで肩が痛いがそれ以上に後輩ちゃんの顔が怖い。
「い、言ったけど……」
「なら私、行きたい所があるんです!」
「あ、ちょっと待ってまだたこ焼き残ってるから!」
上機嫌でこちらの手を引っ張っていく後輩ちゃん。
どこに連れていかれるのか不安だが
「♪」
まあそれで後輩ちゃんの機嫌が直るならいいか。後輩ちゃんのことだしそれほどとんでもないところには行かないだろう――そう考えていた時期が俺にもありました。
――AM11:05
「さあ入りましょうか!」
「いやちょっと待ってほんとに待って後輩ちゃん」
「何ですかさっきは何でもするって言ったのに!」
「ほんとごめんていうか真昼間からここだけはないでしょ」
後輩ちゃんに連れられること十分。何やら怪しい感じの店が立ち並ぶ薄暗い通りを抜け僕たちの目に飛び込んできたのは妙に小奇麗でお城っぽい外見の外泊施設のような建物で――!
つまりはラブホです、はい。
「いやホントにダメだって僕たちまだ高校生なんだよそれがこんなところに」
「何ですか先輩さん!怖気着いたんですか!」
「いや怖気着くも何も」
「そもそも行為自体ならもうしたんだから場所が変わろうとも関係ないすよね⁉」
いやその理屈はおかしい。
なぜか猛烈な勢いで迫ってくる後輩ちゃん。何がここまで後輩ちゃんを駆り立てるのかと現実逃避気味に困惑していると、塾での図書委員長の言葉が思い出された。
『受験終わったら絞りとられるから覚悟しときな!女の性欲甘く見たら痛い目に合うからね!』
……
「後輩ちゃん」
「何ですか⁉」
キレ気味に返事をする後輩ちゃんに一つ尋ねる。
「……もしかして、我慢の限界?」
「当り前じゃないですか!どれだけ私が焦らされてきたと思ってるんですか⁉」
OH……
「だいたい何なんですか先輩さん!あんなことまでしておきながらその後ほったらかしとか!私が先輩さんと会うたびにどんだけ期待したか分かってるんですか⁉」
「で、でもさすがに受験中にそれは……」
「分かってますよそんなことは!でも!もうちょっと迫ってくれてもよかったじゃないですか‼」
若干涙目になりながら鬼気迫る勢いで後輩ちゃんはこちらに詰め寄る。
「ご、ごめんなさい」
「先輩さん受験中でしたし!一目見てすっごい疲れてるのもわかってましたけど!けど!」
一息ついて、後輩ちゃんは言う。
「何もしてくれないと、不安になるじゃないですか……」
絞り出すように出された弱弱しい声。それは確かに後輩ちゃんの本音なんだろう。
――正直、今回はどうしようないと思う。
浪人しないためにも、いち早く後輩ちゃんと向き合うためにも、受験勉強に専念するのは最善で、それをきっと後輩ちゃんも分かっているのだろう。
分かっていてそれでも、気持ちを抑えられなかったのだろう。
その気持ちはわかるし、それを否定することなんてできっこない。
ならば男としてやることは決まっている。
「……後輩ちゃん」
「はい」
「……ごめんなさい」
「……本当に反省してます?」
「うん」
「……信じて、いいんですよね?」
「うん」
「……もっともっと、構ってくれますよね?」
「うん」
「……なら今からにでもホテルに」
「それはダメ」
いくらいい雰囲気でもその一線は超えてはならない(戒め)
「……ふふ、分かってますよ。少し意地悪でしたね」
「……少し?」
絶対に少しどころではなかった気がするが。というか目がガチだったが。
「今回は諦めます。いくら何でも急すぎましたし」
「うん。そうだね」
「それに、次は先輩さんの方から誘ってくれるでしょうしね?」
「……頑張ります」
「はい、頑張ってください」
ほんの少しスッキリした表情で後輩ちゃんは笑う。その笑顔は、やっぱり後輩ちゃんの表情の中でもとびっきりにかわいくて――
――そんな顔を見て、少しイタズラしたくなった。
「それじゃあ駅前に戻りましょうか。そこで少しぶらぶらしてからお昼ご飯でも――」
「後輩ちゃん」
「何ですか先輩さ――」
振り返った後輩ちゃんが無防備な顔を見せたところで――
「んっ」
「!」
後輩ちゃんの唇を奪う。
つまりは接吻した。
「ッ!ッ⁉ッ‼‼」
後輩ちゃんの体に手をまわして体を密着させる。
状況が飲み込めた後輩ちゃんが焦っているのが密着した体を通して伝わってくる。
この反応を見れただけでもイタズラとしては十分だろう。
――だがこの程度では終わらせない。
「ッ‼」
まだ混乱が解けきっていない後輩ちゃんの開いた口に舌を入れ、さらに深くキスをする。
そのまま密着し、後輩ちゃんを全身で感じる。会えなかった数か月分の埋め合わせをするように。
――そんなとろけるような時間は一分にも満たなかっただろうか。
「……ぷはっ」
「……」
いい加減息が苦しいだろうと頃合いを見て唇を離す。
個人的にも満足できたし、後輩ちゃんもこれで少しでも満足してくれたらと思いながら、いまだに密着している後輩ちゃんを見て――
「…………」
「あ、あの、後輩ちゃん?」
どうも後輩ちゃんの様子がおかしいことに気付く。
息も絶え絶えで、顔は真っ赤で、目の焦点があってなくて――
……あれ?これもしかしてやりすぎた?
「こ、後輩ちゃん!ごめんやりすぎた!大丈夫⁉ちゃんと生きてる⁉」
猛烈に反省しながらぴくんぴくんとヤバそうな痙攣をしている後輩ちゃんに声を掛ける。
「……ひ、ひどいですよぉ、しぇんぱいさぁん」
完全にとろけきった声で僕の声に反応する後輩ちゃん。
体には力が入っておらず、相変わらず目の焦点は合っていないが、とりあえずまともに反応が返ってきたことに安堵する。
「こんなのされたらぁ、がまんなんてできないじゃないですかぁ……」
「……うん。本当にごめん」
本気で反省しながら後輩ちゃんに謝っておく。
……今日だけで謝りすぎじゃないだろうか、僕。
その後、ベンチで休んで何とか後輩ちゃんは回復した。
――まだ僕と後輩ちゃんのお出かけは始まったばかりだ。
そういえばCCCコラボは楽しかったですね。
唯一の心残りはリップもメルトもキアラもJKセイバーも来てくれなかったことです。