先輩さんと後輩ちゃん   作:サリチル酸

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……インフルエンザのせいで投稿が遅れました(小学生並みの言い訳)
あ、今更だけど学戦都市アスタリスクって面白いですね。エルネスタかわいい。

それではタグにR15の付いた原因の第七話をどうぞ


第七話 二人の夜

――お風呂場では特に何も起きなかった。

風呂に入る前に、母さんの方から妙に嫌な気配が漂ってきていたので警戒していたのだが……杞憂に終わったようだ。

……決して後輩ちゃんとのハプニングを期待していたわけではない。

……後輩ちゃんのバスタオル姿を見たかったわけでもない。

ないったらないのだ。

 

「……ん?」

 

しかしお風呂から上がってみれば、その後輩ちゃんはリビングにいなかった。

 

「あら~もう上がったの~?」

 

てっきりまだゲームでもしているのかと思っていたので少し驚いていると、キッチンからひょっこりと母さんが現れた。

 

「後輩ちゃんは?」

 

「あの子ならもう寝室に行ったわよ~だいぶん疲れてたみたいだしね~」

 

そうか。自分の事ばかり考えていたが、後輩ちゃんも親と喧嘩したりで疲れていたんだろう。今日はちゃんと休んでほしい。

そして僕もさっさと寝ようと自室に向かう途中――

 

「…………そういえば、後輩ちゃんどこで寝てるの?」

 

ふと気になり聞いてみる。

 

「……」

 

「……母さん?」

 

てっきり普通に母の部屋か妹の部屋で寝るんだろうと思っていると、母さんは微妙に目を躍らせていた。

 

「……母さん?」

 

「大丈夫よ~大丈夫なのよ~」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんが気にするようなことは何も無いのよ~」

 

「う、うん分かった」

 

「だから今日は早く寝ないと~」

 

「アッハイ」

 

一体何が大丈夫なのかは分からないが。

何かごまかすような様子の母さんを後にして自室の前までたどり着き、何のためらいもなくドアを開ける。今日はさっさと寝ないと――

 

ガチャ

 

「せ、先輩さんはこんなものを!こ、これってやっぱり、こういうことをしたいってこ――」

 

バタン!

 

「……」

 

……僕は何も見ていない。

……そうだ僕は何も見ちゃいない……何故か僕のTシャツを着て厳重に保管されているはずの僕のR18本をベッドの上で熱心に読み漁っていた後輩ちゃんの姿なんて見ちゃいないんだ。

……だから次この扉を開けたらシュレッティンガーのネコな理論でなかったことになっているはず。

……というか僕の幻覚であってくださいお願いですなんでもしますから。

 

ガチャ

 

「や、やっぱり先輩さんは黒髪の方が好きなのかな……?なんか黒髪の人のが多いし……」

 

クッソ!やっぱり現実だ!

 

「あ、や、ややっぱり胸でこするのがす……好きっぽい……こ、こんなのがいいんだ……」

 

しかも性癖の分析までされてる。

 

「ま、まだこんなたくさん……!で、でも先輩さんに気持ちよくなってもらうために頑張らないと!」

 

もう頑張らなくていいです後輩ちゃん。というかもうすでに僕に大ダメージが入ってます。

そしていったいナニを気持ちよくするのか。

 

「つ、次の本は……あれ?」

 

次のエロ本を探そうとした後輩ちゃんが何か違和感を感じたのか、この部屋の扉を見る。当然そこには形容しがたい顔をした僕がいるわけで――

 

「…………ふぁ?」

 

「……」

 

まあ、こうなるな。

しばしの沈黙。そしていつも通り――

 

「せせせせ先輩さん⁉いつの間にそこに⁉というか何故みてるんです‼入るならそう言ってくださいよ!」

 

「イヤなんでって言われても」

 

ここ俺の部屋だし。あんな状態の後輩ちゃんに声はかけられないし。というか後輩ちゃんが中にいるとかそんなこと夢にも思わなかったし。

 

「お、女の子のいる部屋にノックなしで入るとかそんなことしちゃいけないんです!」

 

「……そもそも後輩ちゃんが僕の部屋にいるなんて知らなかったんだけど?」

 

「そ、それくらいは扉の前で察してください!」

 

「……」

 

いつも通りに慌てふためきながら無茶苦茶なことを言う後輩ちゃん。その姿はいつまでも見ていたいぐらいにかわいいが、とりあえず僕としては絶対に言わないといけないといけないことがある。

 

「……ところで後輩ちゃん」

 

「は、はい⁉なんでしょ」

 

「そのベッドの上に散らばっている本はどうしたのかな?」

 

「」

 

――そう、僕の珠玉の春画本の話だ。

僕の声に言い知れぬ恐怖を感じたのだろう。後輩ちゃんはめちゃくちゃ目を泳がしながら答える。

 

「こ、この本はですね?そのベッドの下を見たらたまたま見つけましてね?どんなものか気になってその……」

 

「うんうんそうかそうか」

 

確かにそれらの半分はベッドの下に置いていたものだ。

だが――

 

「あれれ?おかしいな?このあたりの本は机の引き出しの底に入れてたはずなんだけど?」

 

「そ、それは……そ、そう!たまたま机の引き出しが開いてて!」

 

「それにこっちのは参考書の間にきっちり置いてたはずなんだけど?」

 

「ぐ、偶然その参考書だけ本棚から飛び出しててて!」

 

「これなんて机に鍵付きでしまってたんだけど?」

 

「そそそれは……た、たまたま偶然不運にも鍵が壊れてまして!」

 

カチャ!

 

「……普通に使えるけど?」

 

「え、えーとえーと!そうだ!その時なぜかその鍵が開いてt――」

 

「こ う は い ち ゃ ん ?」

 

「ひゃい⁉」

 

「い い 加 減 に し よ う か ?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

ぷるぷる震えながらの後輩ちゃんの謝罪。さすがに悪いことをしていたのだという意識はあったらしい。だが今回ばかりはそんな事では許さない。

 

「女の子には分からないかもしれないけどね?こういう本は男子にとって絶対に必要なものなんだよ?」

 

「……はい」

 

「そしてそれを隠すのは自分の心を守るためなんだ。それを無理やり暴くのがどれだけ僕たちの心を傷つけるか後輩ちゃんにわかる?」

 

「……はい」

 

「それを自分の好奇心だけで見るのがどれだけ重罪かわかるかな?」

 

「……はい」

 

「本当に分かった?」

 

「……はい。もうしません。好奇心から部屋を漁ってしまい本当に申し訳ございませんでした」

 

……もう大丈夫かな?

こちらも言いたいことを言えたので少しスッキリした。この心の傷は癒えないが。

そんな風に自分に余裕ができると後輩ちゃんの様子も気になってくる。

後輩ちゃんは、僕の怒りが伝わったのかさっきからずっと体をプルプルさせて唇も青い。しかもなぜか鳥肌が立っていて――

 

「くしゅん!」

 

「――て後輩ちゃん!なんて格好してるの!」

 

今更ながら後輩ちゃんの格好に気付く。後輩ちゃんは僕の半袖Tシャツを着て、それ以外に何も着ていない。

 

「おお母様に、こここの格好なら先輩さんにす好かれれるって。ででででもさ寒いですすねこれ」

 

「そりゃ真冬だからね!」

 

ぶっちゃけ女の子のそういう格好は大好きだけど!そんな寒がってたら萌えるものも萌えないよ!

 

「ほら、僕のジャージ貸してあげるから!早く着て!」

 

「……ふぇ⁉︎せ、先輩さんのジャージ⁉︎」

 

「風邪ひくよりはましだから!僕ので我慢して!」

 

「は、はい!」

 

そう言って後輩ちゃんにできるだけ新しいジャージを渡し、後輩ちゃんの着替えを見ないようにしながら散らばった聖本を迅速に片付ける。

………隠し場所は今度変えるとしよう。

 

「お、終わりました!」

 

僕が全ての聖なるブックス!を収納し終えると同時に後輩ちゃんの着替えも終わった。

 

「……うん。問題は無さそうだね」

 

そこにはちゃんとジャージを着こんだ後輩ちゃんがいた。ただ、僕のジャージなので後輩ちゃんの体格に合ってない。袖がけっこう余ってる。萌え袖かわいいです。

 

「……」(ぽー)

 

「……大丈夫?違和感とかない?」

 

なんともボーとしてる後輩ちゃん。なぜか袖に顔をうずめたりしている。

なにか問題があるなら言ってほしいのだが……

 

「……」(ぽー)

 

「……後輩ちゃん?」

 

……反応が無い。一体どうしたのだろうか?

仕方がないので近くによって後輩ちゃんの名を呼ぼうとすると――

 

「ふへへ……しぇんぱいさんのにおいだぁ……」

 

そんな恍惚とした声が聞こえた。

……今日ガード緩いなぁ後輩ちゃん。そしてそんなこと言われたらこっちも意識を――

 

「……あ」

 

「……」

 

ほらこうなる。

もういい加減後輩ちゃんが暴走するのは目に見えてるので先手を打つ。

 

「しぇ、先輩さ――」

 

「後輩ちゃん!」

 

一拍おいて

 

「……もう今日は寝よ?ね?」

 

「…………はい」

 

赤い顔で目を伏せながら後輩ちゃんも答えてくれる。

……いちいち動作がかわいいんだよなぁこの娘。

……マズイ、けっこう今のでムラムラきた。

 

「それじゃあ僕はもう寝るから――」

 

この感情が後輩ちゃんにばれないために、さっさと後輩ちゃんから離れよう。

そこでふと気づく。さっきリビングで口にした疑問だ。

 

「――ねえ後輩ちゃん、後輩ちゃんは今日どこで寝るの?」

 

「……」(ぴくっ)

 

僕の質問に後輩ちゃんの体が跳ね上がる。この反応でだいたい分かった。

 

「……もしかして、僕の部屋で寝るつもりだった?」

 

「……!」(ぴくっぴくっ)

 

嫌なところで予想的中。この反応を見る限り二人で一緒のベッドで寝るために僕の部屋にやって来たのだろう。そしてそんなことは僕の精神の安寧のためにも絶対にさせない。

 

「はぁ……後輩ちゃん?さすがに一緒に寝るとかそういうのは高1なんだからダメ――

 

「せ、先輩さん!」

 

「うおっ」

 

説得しようとした僕のお腹に後輩ちゃんの頭が突き刺さる。それほど痛くはないが、結構なスピードが出ていたため受け止めきれずにベッドに倒れこむ。

 

「……」

 

「……」

 

それによって後輩ちゃんに押し倒されたような形になり、後輩ちゃんとの視線が絡み合う。

さっきより厚着をしているはずなのに異常なほどに後輩ちゃんのぬくもりや柔らかい体の感触を感じる。そして何より後輩ちゃんの赤みがかった顔がとてもとても妖艶に思えて――

 

「ッ!」

 

襲ってしまいたい気持ちを無理やり抑え込む。

――そうだ、まだそんなことをしちゃいけない。いくら後輩ちゃんがいいとしても、

僕はまだ()()のことを乗り越えてもいないのだから――

 

「……後輩ちゃん。動けないからさ、ちょっと動いてくれる?」

 

「……」

 

この状況を正すために、いつも通りを装って後輩ちゃんに声をかける。

そう、これが正しい。今の僕には、恋愛なんて――

 

「……ッ」

 

「……後輩ちゃん?」

 

――だが、後輩ちゃんは逆に僕に抱き着いた

体を上げようとするも、後輩ちゃんに上から押し付けられ身動きが取れない。

 

「後輩ちゃん、一体どうし――」

 

「……先輩さん、私じゃ、だめなんですか?」

 

涙目の後輩ちゃんの口からこぼれた言葉は、切なさの籠った一言だった。

 

「……先輩さんの中に、忘れられない人がいるのはわかってます。その人に、私がまだ勝ててないことも」

 

……後輩ちゃんの言葉に何の反論も出ない。当然だ。後輩ちゃんがいま放った言葉は、すべて真実なのだから。

後輩ちゃんに恋心を抱かれていることを知っていて

自分が後輩ちゃんに恋心を持っていることも自覚していて

それでも()()から抜け出せていなくて、

 

「……でも、それでも、今だけは私を見てほしいんです、先輩さん」

 

――だから、後輩ちゃんの心に気付かない。

言葉にされてようやく気が付く。

 

「……これって、ダメなことなんでしょうか?」

 

後輩ちゃんがこんなにも勇気を出していて

 

「……ちょっとでも、先輩さんに近づきたくて」

 

僕のせいでこんなにも傷ついてしまって

 

「迷惑かもしれないけど、先輩さんを、少しでも慰めたくって」

 

たぶんずっと前から傷ついてて――

 

「だからお願いです、先輩さん。今だけでも――きゃっ!」

 

後輩ちゃんの言葉を遮って、体をひねり、今度は逆に後輩ちゃんを押し倒す。後輩ちゃんは状況が読み込めていないようだがそんなことは関係ない。

――ようやく分かった。僕のすべきことが。

 

「先輩さん……?」

 

――今までは、ずっと()()のことを理由にしてた。

()()のことを乗り越えてないから。たとえ後輩ちゃんのことが好きでも、僕にはまだ恋愛する資格は無いと。

――でも、そんなことは関係なかった。

 

「……後輩ちゃん」

 

僕のそのエゴのせいで、後輩ちゃんは傷ついていた。

僕に意識してもらえているのか分からない日々。僕は後輩ちゃんからの好意に気付いているのに、それがわからずに僕の返答を待つ日々。そんな時間を、僕は後輩ちゃんに送らせてきたんだ。

 

「……僕は、後輩ちゃんのことが好きだ」

 

――だから、もう終わりにしよう。こんな日々は。

 

「……ふぇ?」

 

「……いつからか分からないけど、後輩ちゃんのことが好きになっていたんだ」

 

後輩ちゃんはいまだに呆然としている。そりゃ急に告白されたら驚くだろう。

――僕の心は少し傷んでいるけれど、後輩ちゃんのために言葉を続ける。

 

「後輩ちゃんの気持ちにも気づいてた。後輩ちゃんと時間を過ごすたびに好きって気持ちが高まった」

 

後輩ちゃんの目に涙が貯まる。

 

「だから、もう心配しなくていい。後輩ちゃんはとっくに僕の最高に大切な人だ」

 

そう言い切って一息つく。多分、これでよかったんだろう。

 

「ッ!で、でも!先輩さんには……!」

 

後輩ちゃんがうれしさと悲しさの合わさった顔で言う。多分、後輩ちゃんが言いたいのは――

 

「……うん。僕はまだ()()のことを乗り越えてない」

 

「そ、それなら!」

 

「でも!」

 

後輩ちゃんの声を遮って僕の意思を伝える。

 

 

()()後輩ちゃんの方が大事だ」

 

 

「……」

 

後輩ちゃんからの反応はない。後輩ちゃんがどんな感情を持っているかは分からない。

だから卑怯かもしれないけれど、あのことについても一気に話す。

 

「……2月29日に、話すよ」

 

「え……?」

 

「……僕の初恋を」

 

――多分その日が、一番話すのにいい日だから。

 

そう言った僕の目を後輩ちゃんは見つめる。僕もそらさずその目を見つめ返し続けた。

 

――どのくらいの時間が過ぎただろうか。何十分にも数十秒にも感じられたこの静止は、涙目の後輩ちゃんの言葉によって破られた。

 

「……ありがとうございます、先輩さん。私を、気遣ってくれたんですよね?」

 

柔らかく微笑んで後輩ちゃんは言う。

……さすがにばれてたか。

 

「……でも私、うれしいんです。やっと先輩さんの気持ちがわかって」

 

「……ごめんなさい」

 

僕の謝罪が面白かったのだろう、後輩ちゃんは唇をほころばせた。

 

「……ふふ、でもそんな先輩さんの気持ちを知っちゃったら、もう先輩さん言う2月29日まで我慢できないかもしれません」

 

「……ええ」

 

さすがにそれは勘弁してほしい。後輩ちゃんはいいかもしれないが、こっちはまだ初恋を乗り越えてないし、そもそもこれから受験だ。あと数か月だけでもいいから待って――

 

「――だから」

 

後輩ちゃんは今まで見たことないような女の顔で――

 

「今夜だけ、私に『好き』って気持ちをぶつけてください」

 

熱を帯びた声でそう言った。

沸騰しそうになる思考を無理やり繋げて答えを出す。

――つまりそれは、その

後輩ちゃんの、初めてをもらうということで――

 

「……いいの?」

 

僕の最後の問いかけに、後輩ちゃんは首をゆっくり縦に振った。

 

――ああもう!

こんなもの、我慢できるわけがない――!

 

 

 

――こうして、僕と後輩ちゃんは初めての夜を過ごした。

 

――そして当然のごとく翌日母さんにバレて、朝ごはんが赤飯になった。




いったい二人でナニをしたんだ……(すっとぼけ)

まあこんな表現は今回だけですので……

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