先輩さんと後輩ちゃん   作:サリチル酸

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祝!キノの旅アニメ化決定!
この調子で学園キノの6巻をですね……

それでは第六話どうぞ


第六話 お母様は優しいです

後輩ちゃんと母さんの会話が終った後。

サイゼリ〇の会計を済ませた僕たちは一緒に帰宅した。

そしてニ十分後。何事もなく家に着き――

 

『は、はじゅめまして!』

 

帰宅途中の電車の中で冷静になり、初めて僕の家族と顔合わせすることになると気付いたためガッチガチに緊張した後輩ちゃんと

 

『あら~あなたが後輩ちゃんね~』

 

いつも通りなニコニコ顔な母さんも顔合わせも終わり

 

『夜ご飯まだ食べてないでしょ~?すぐに温めるからね~』

 

という母親の言葉で後輩ちゃんと一緒に夕飯を食べることになり

 

『どお~?お口に合うかしら~?』

 

『はい!とっても美味しいです!』

 

後輩ちゃんと母さんとの仲も上々で僕としてもホッとして

――そこまではよかったのだが

 

「ほら~これが中学生の頃のお兄ちゃんよ~」

 

「わあ!」

 

――なんで僕のアルバムなんて引っ張り出してきたんですか母さん。よりにもよって食事中に。

そして異常にギラギラした後輩ちゃんの目が怖い。

 

「それでこれが小学生の頃のお兄ちゃんで~」

 

「おお!」

 

遊びに来た友人にアルバムを見られるなんて苦行以外の何物でもない。

本来ならアルバムを持ってこられた時点で自室に逃げるのがいいのだろうが食事中のためそれもできず、できることといえば後輩ちゃんと母さんのはしゃぎ声をなるべく頭にいれないようにしながら羞恥心に耐えつつ箸を進めるだけ――

 

「これが小学生の時に料理で失敗して生クリームで全身がドロドロなお兄ちゃんよ~」

 

「――ねえちょっと待ってなんでそんな写真があるの?しかもなんでA4サイズ?」

 

そして何故それを後輩ちゃんに見せる。

 

「…………ほう生クリームですか、大したものですね」

 

「ねえ後輩ちゃん?その手に持ったスマホでいったい何を撮影しようとしているのかな?」

 

「大丈夫よ~布教用に予備が何枚かあるから~」

 

「お母様!」

 

もうやだこの母親。

というかもう無理。これ以上この場にいたくない。

 

「……ごちそうさま」

 

「あら~そんなに急いで食べなくてもよかったのに~」

 

「誰のせいだと思ってるんですかねぇ……」

 

純真無垢にニコニコしやがって。

しかもこれでも僕をいじめて楽しんでるんじゃなく、純粋にアルバムを見せたいから見せているあたりうちの母親はめんどくさい。

 

「……はあ、それじゃ勉強してくるから」

 

「あ~それなら妹ちゃんにそろそろおやつの時間だって伝えておいて~」

 

「了解」

 

リビングにいないので自室に籠って宿題でもしているのだろう。

 

「え、先輩さん⁉妹さんがいたんですか⁉」

 

階段を上ろうとした僕を後輩ちゃんの声が引き留める。

 

「……言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないですよ!」

 

そういえば言ってなかったか。別に隠すようなことでもないので、言う機会が今までなかったのだろう。

 

「6つ下に小学生の妹がいるんだ」

 

「今は自分の部屋で宿題してるわよ~後で紹介するわね~」

 

「は、はい!」

 

ちょっと緊張しているようだが、今の後輩ちゃんなら妹とでも仲良くなれるだろうと安心して今度こそ二階へ向かう。

 

「そ、それでこの写真は……?」

 

「それは幼稚園の初めてのお使いで道に迷って涙目になってるお兄ちゃんよ~」

 

「やだ……かわいい……!」

 

……やっぱり後輩ちゃんを家に連れてきたのは間違いだっただろうか。

 

 

 

その後、下の階でどんな恥ずかしエピソードが暴露され続けているのかに悶々としながらも無理やり英単語を頭に詰め込み続け、気が付けばもう十一時。いい加減疲れてきていたので、休憩がてら一階のリビングに降りる。

そういえば後輩ちゃんは妹と仲良くできているだろうか?うちの妹は基本的に誰とでも仲良くなれるので、仲違いしているようなことはないと思いたいがはたして――

 

「おりゃー!ぶっころしてやれー!」

 

ずばばばば

 

「そんな言葉を使う必要はないよ妹ちゃん!なぜなら私たちがそんな言葉を頭の中に思い浮かべた時には!実際にぶっ殺しちまってもうすでに終わってるかだッ!だから使ったことがねェーッ!」

 

「すごーい!何かわからないけどすごーい!」

 

べしゃん

 

「やっちゃえー!」

 

「そのスプラシューターの性能を生かせぬまま死んでいけェー!フハハハハハ――あびゃん!」

 

「妹に変な言葉教えないでね後輩ちゃん」

 

後輩ちゃんのことを心配していたら実の妹に変な言葉を吹き込んでいたでござるの巻。

これ以上変なことを言われても困るので頭を新聞でたたいて落ち着かせる。

 

「あ、お兄ちゃんお疲れ様!」

 

「……うんまあ疲れたのは事実かな」

 

反抗期なんて知らんと言わんばかりの無邪気な笑顔をこちらに向けているのが僕のただ一人の妹。現在小学六年生。後輩ちゃんとは真反対の活発少女である。

 

「……なんか失礼なこと考えませんでしたか先輩さん?」

 

「うちの妹はかわいいなって」

 

「……まあそれには全面的に同意しますけど」

 

わかってくれてうれしいよ。

 

「……というか大丈夫だよね?うちの妹に変なこと吹き込んでないよね?」

 

「何言ってるんですか。この私がそんなことするわけないじゃないですか」

 

さっきまでの暗殺チームのようなセリフを覚えてないのかこの子は。

後輩ちゃんに聞いても分からないので、

 

「……本当に大丈夫だった?なにも変なことされてない?」

 

「しつこいですよ先輩さん!」

 

我が愛おしの妹に再確認。後ろで後輩ちゃんが何か言っているようだが気にしない。

そんな俺の質問に、妹は満面の笑顔で言った。

 

「ううん!すっごく優しくしてくれた!さすがお兄ちゃんのお友達だね!」

 

天使かこの娘。

 

「……先輩さん、妹のお持ち帰りってありますか?全財産はたいてもいいので」

 

「そんなものはないし例えあったとしても現在進行形で家出中だったよね後輩ちゃん?」

 

というか誰にもあげない。

 

「あら~勉強は終わり~?」

 

そんな話をしていると、手を拭きながらこの家の最高権力者がやって来た。

 

「……確かに今日はもう終わりでいいかも」

 

色々とありすぎた。だいぶん疲労がたまっている。

 

「それじゃあお風呂入ってきなさ~い。お兄ちゃん以外はもう済ませたから~」

 

「はーい」

 

特に断る理由もないので、さっさと浴場に向かう。

今日一日分の疲れをしっかり癒さなくては――

 

 

 

 

・後輩ちゃん目線

 

――先輩さんはお母様に促されてお風呂場に向かった。

この家に来てまだ数時間だけど、それでもこの家はすごくあったかいことはわかった。

先輩さんのお父さんは単身赴任でなかなか帰ってこれないらしいけど、きっとそのお父さんも優しい人なんだろう、そう思わせるような雰囲気がこの家にはある。

……自分の家を悪く言うつもりはないけれど、それでもこんな『普通の家庭』は羨ましい。私の家は良くも悪くも『特別』だったから。

そう考えながら自分の父親にメールする。……さすがに先輩さんの家に泊まっていると言うのは恥ずかしいので『友達の家に泊まっている』とぼかしながら。

妹ちゃんのゲーム音をバックに、一通り目を通してから送信ボタンを押し一息つく。

 

「連絡はできた~?」

 

そんな私の様子を見てか、先輩さんのお母様に確認された。

 

「はい。……とは言っても、連絡したのは父親にですけど」

 

「別にいいのよ~お母さんとは連絡しずらいでしょうしね~」

 

ほんとにいい人だなぁお母様……

私が最初に挨拶した時も、家出した理由も聞かず、ただ『親にちゃんと生存報告だけはしておきなさ~い』としか言わなかったし。

……本当に、私の母親もこれくらい物わかりのいい人だったらよかったのに。

 

「……」

 

「……えっと、なんでしょうか?」

 

そんな私の思考をよそに、なぜかこちらをじっと見つめるお母様。

なにか失礼なことでもしてしまっただろうか……?

そんな風に不安に思っていると、最初にあいさつした時から変わらないニコニコ顔でお母様は言った。

 

「聞きたいことがあったのだけれども~お兄ちゃんがいないし今がちょうどいいわね~」

 

そう言うとお母様は私の隣に座り、噂話をするような体制で私に密着した。

 

「それで~?どこまで進んでるの~?」

 

「え?どこまでって……」

 

一体何の?

だが私がその答えに到達する前に――

 

「そりゃあもうお兄ちゃんとの関係のことよ~」

 

「……ふぇ?」

 

お母様はとびっきりの爆弾を投下した。

 

「もうあんなことやこんなことはしたの~?ABCDのどこら辺~?」

 

さっきより気持ち輝きを増した笑顔でお母様は言う。

……先輩さんとの関係?あんなことやこんなこと?ABCD?

……それって私と先輩さんが【自主規制】や《ちょめちょめ》をしたかってこと?

……………………………ふぇ?

 

「いいいいやいやいや!そそんな先輩さんとなんてそんな進んででないですよほんとですよそんな!ま、まだキスだってしてなないですしその!」

 

「あら~^もうその反応だけで十分わかるわ~」

 

「ち、違いますほんとに!」

 

「わかってるわよ~わかってる~」

 

「絶対わかってないですよそれ!」

 

だってまだ顔が『私はわかってる』て感じの顔だもん!

そんな私のテンパりぐあいを見て満足したのか、お母様はお茶目な顔で言った。

 

「ふふふ、さすがに冗談よ~ちょっとからかっただけ~」

 

「し、心臓に悪い冗談言わないでください!」

 

本当に心臓に悪い!

 

「でも~お兄ちゃんのことが大好きなんでしょ~?」

 

「うぐ」

 

そ、それは……

何とかごまかしたいけど、ここまでいろいろボロだしちゃったし……

お母様には知ってほしいのもあるし……

 

「どうなの~?」

 

「……は、はい。私は先輩さんが大好き……です」

 

「ふふ、でしょうね~」

 

「うう……」

 

すっごい恥ずかしい……

お母様に言うのにこんなに緊張するのに、先輩さんに告白するときになったらどれだけ緊張するんだろう……

 

「……でもそうなの~まだ付き合ってないのね~」

 

「は、はい……」

 

一見いつも通りなお母様の言葉に同意する。

でも……なぜだろう?なぜかお母様は落胆している?ように感じる。

そんな私の様子に気付いたのか、お母様は切り出した。

――さっきまでとは違う口調で。

 

「……お兄ちゃんから聞いた?あの子の『初恋』のこと」

 

「……え?」

 

先輩さんの『初恋』て……あの文化祭で言ってた?

 

「その様子だとまだ聞いてなかったかしら?」

 

お母様の口調の変化と、それよりなによりその話の内容に衝撃を受ける。

 

「……高1の時、あの子相当大変な経験をしてね……下手したら一生のトラウマになりかねないような経験を」

 

思い出されるのは文化祭。あのときの先輩さんは不安そうで、

 

「そのせいで一時期は大変で……今こそ周りと本人の力で回復したけども」

 

心の底から悲しそうで、

 

「そのせいであの子はもう『恋』をできないんじゃないかって――私も周りの人も、たぶんあの子自身もそう思ってたの」

 

本当に苦しんでて

 

「――でも、あなたはここまで来てくれた」

 

私はそれが悲しかった。

 

「あんなに悲しい思い出を、塗り替えられるかもしれないくらいにあの子と近づいてくれた」

 

一刻も早く救ってあげたいと思った。

 

「だから、あなたさえよければ、話そうと思うの」

 

だから、先輩さんに何があったのかを知れれば

 

「あの子の『初恋』のことを」

 

いますぐにでも先輩さんを助けられるんじゃないかって思った。

 

「……どうかしら?」

 

だから、そんなもの、最初から、答えなんて、当然――

先輩さんに何があったのかを知る。それ以外に選択肢はないと――

 

――そんな中、思い出したのは最初の時。

先輩さんと出逢って恋をしたあの日。

あの日からずっと私は先輩さんに依存して。

先輩さんはずっとそんな私のそばにいてくれて。

きっと自分の方が苦しかったのに、いっつも私の相談を聞いてくれて。

自分はきっとずっとトラウマに苦しんでて

それなのに文化祭で私にトラウマをえぐられて、

それでも声を振り絞って約束をしてくれて――

 

――ああ、そうか。

 

「……文化祭の時にですね?先輩さんが言ってくれたんです」

 

お母様はじっとこちらを見ている。

 

「『まだ今は言えないけど』『いつかきっと話す』て」

 

その目を見返しながら、先輩さんのことを思いながら、はっきりと言い切る。

 

「……私は待ちます。いつか先輩さんが話してくれるまで」

 

――先輩さんを信じていますから

 

「……だから、ごめんなさい。いまはその話を聞けません」

 

意味のないことなのかもしれないけど、

先輩さんとの約束を、私は守っていたいから。

 

 

「……ふふ、そう。それなら大丈夫そうね♪」

 

しばしの間の後、お母様は笑顔でそう言った。

 

「これからもうちの息子をよろしくね~」

 

「……はい」

 

口調の戻ったお母様に、はっきりと答えを返す。

自信なんてないけれど、絶対に先輩さんを幸せにしてみせると誓って。

 

 

 

 

「はい!それじゃあまじめなお話はおしま~い!」

 

そんなシリアスな雰囲気を一変するように、手を一回たたいてからお母様は朗らかに話を切り出した。

 

「ここからもう一つの本題があるの~」

 

「え?」

 

さっきとは違う意味で軽く驚く。

もう一つの本題?それっていったい何?

 

「後輩ちゃんはお兄ちゃんの好感度を上げたいでしょ~?」

 

「は、はい。そりゃ……」

 

もちろんできるものならしたいけど……

 

「そこで相談なんだけど~」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「お兄ちゃんと一気に親密になる作戦があるんだけど~やる~?」

 

「……え、えー」

 

な、なぜだろう、微妙に嫌な予感が……というか一気に親密になるってめちゃくちゃ胡散臭い気が……

私が返答に困っていると、お母様の顔がみるみる暗くなっていく。

 

「そうよね~こんなおばさんの作戦になんて興味ないわよね~よよよ~」

 

そういって泣きまねを始めるお母様。

い、いや!この優しいお母様のことだ!きっといい作戦に違いない!

というかすごい罪悪感あるから受けざるを得ない!

 

「わ、わかりました!その作戦を聞きます!」

 

半ばやけくそになった私はノリノリでお母様の作戦に乗ることにした。

 

「わかったわ~!それじゃあ耳を貸して~」

 

「はい!」

 

―――――――後輩ちゃんはまだ知らない。

 

「え⁉こ、これ着るんですか⁉」

 

「そうよ~これだけよ~」

 

―――――――この作戦によって、案の定黒歴史が増えることに。




第三話を投稿したら雪風が
第四話を投稿したらアラフィフ紳士が
第五話を投稿したらSSR美波さんがやって来ました

じゃあ今回はプロトアーサーが当たるな!(願望)

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