鎮守府に勤めてるんだが、俺はもうダメかもしれない   作:108036

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1話 これまでのプロローグ

ちょっと俺の話を聞いてくれないか?

 

先ず最初に、俺は死んだ。

んで神様に会って、転生した。

 

ここまではテンプレだ、力も貰っててっきりファンタジー世界に飛ばされるもんだと思ってた俺はTUEEEEEEEEしようと意気揚々としてた。

 

 

だが生まれた先は....艦これの世界だったんだ。

 

 

ちょうど中学3年の受験期の頃だった。

なんだ現代に生まれたのか?と思いながらテレビをボケーっと眺めてたらニュースで、政府が謎の敵戦力を「深海棲艦」と命名!なんて大真面目に報道してるんだもん。

 

そん時の衝撃ったら無いね。

 

 

そっからちょっと考えて、どうせならこの世界を楽しもうと思った俺はおかしくないとおもう。

 

深海棲艦の襲撃で軍は人手不足だと散々CMで流してたし、楽に入れるだろう、ゲームやってた限りじゃ提督って指示出す以外やることなさそうだし、楽じゃん。

 

 

そんな気持ちでいた俺が馬鹿だった....

 

前世の記憶があるから勉強なんて楽勝!そんな風にかまけてた俺は実際勉強は他よりも抜けて出来ていた。

 

だがよく考えてみてくれ。

ただ少し勉強が出来る程度で、コネもない俺がホイホイ階級上げて司令官になんてなれるか?

 

無理だ。ありえない。

しかしこの時の俺は自身が提督になると信じて疑わなかった。

 

俺は転生で調子に乗ってたんだ.....

 

さらに言えば俺は根底の部分から間違えていた。

入隊当時は未だ艦娘は「配備されておらず」持ち場が襲撃されたら生還確率数%の絶望まっしぐらな時期だったのだ。

 

もう艦娘がいると勘違いした、前世の記憶があるが故の失態だった...

 

その事実にやっとこさ気付いた時にはもう遅かったがな。

 

勿論そんな時期だから水兵にはなれたよ?

 

 

これまた勿論エリートコースの提督じゃなく一般水兵としてなぁ!!

 

 

最下級二等兵から提督への道なんて遠すぎる......そう落ち込む俺への艦娘未実装のお知らせ。

 

しかも沖に出るとやられるから海軍なのにほとんど海岸沿いで陸軍と共に戦うことになってたしな。

なんだこれ陸軍と変わらねぇよ!

 

人生オワタ...とかなり沈んだけどもそっからが地獄だった、と続くわけじゃあない。

 

 

俺が神様に願った力は身体能力の超強化。

だからインドア派の俺でも体育会系の奴が伸びるほどの訓練でピンピンしてた。

 

まぁそのせいで俺だけ訓練が増えたが。

 

 

騒がしいけどノリのいい仲間、厳しいけど優しい上官、そして理不尽な訓練。

 

 

やっとこさこの世界を現実として見れてきた俺からしてはこの時期が一番輝いていた。

 

 

半年の訓練を終えて配属されてからも、いく先々で気のいい奴が多かったし、力があればこそ深海棲艦との戦闘でも逃げ回ってなんとか生き残れた。

 

 

仲間や友人の死に枕を濡らす夜もあったし、その悲しさを中2的発言で紛らわそうとした痛い時期もあったけど、それも乗り越え、近頃はやっと安定したと言える期間に入ってきた。

 

 

そんな時だ.....俺に地獄への招待状が届いたのは.....

 

 

ちょうど配属から5年経ち、艦娘の実用化が進んで人の身じゃ見回り警戒くらいしかやる事が無くなってきたある日。

数少なくなった同期の殆どが出世して、偉くなっちまいやがって....って思いながらひとり酒をしてた時のことだ。

 

休日だってのにいきなりかかったお呼びだし。

 

何故かいつも敬語な上司から突然の転勤命令。

 

 

「き、君は提督になりたかったんだってね? い、いや、ですよね?」

 

 

「は?」

 

 

何でも、入隊希望の志願所にそう書いてあったらしい(忘れてた)

入れ替わりが激しい現場職に長いこといて、と言ってもたった5年くらいのもんなのだが。

その苦労が報われたかと、俺にもやっと出世の道が開けたのかと思ったが、それはどうやら違うらしい。

 

 

なんでも、提督になるには『妖精さんに好かれやすい』というなんとも抽象的な資格が必要なのだが、検査の結果、俺がそれに引っかかったとのこと。

 

 

最初俺は喜んだ。

前世の画面越しじゃなく既に艦娘は実際に見た事があったし、それは画面で見てた時よりもずっと魅力的に見えたからだ。

 

あんな子たちに囲まれて仕事するのが悪い筈がない。

 

 

ルンルンで未だ残るかつての仲間達に自慢の電話して、事務の仕事を勉強して、キャッキャウフフな展開とは行かぬまでも、むさ苦しい男達の職場よりは花があるであろう生活に期待を膨らませてた。

 

 

だが配属初日から俺の期待は、いやうぬぼれだな...

 

人類の前線を担う艦娘たちを率いる提督職が楽な筈無かったんだ....

 

 

 

先ず、提督は俺だけじゃ無かった。

一つの鎮守府の筈なのにいたのは2人の先輩。

 

入った初日からロクに見学も出来ず、仕事を回された。

 

 

これが力仕事だったならまだ俺は耐えられただろう。

チートがある俺は、幸運が重なった事もあるが身一つであのレ級をボコした事もあるのだ。

 

だが現実は非情だった。

書類系の仕事に慣れていない俺は初日から大幅に勤務時間をはみ出てやっと終わらせ、衝撃の事実を耳にする。

 

この程度でこんなに時間がかかるのか?

明日からはもっと増えるぞ、と。

 

 

そっからの俺の生活習慣は以下の通りである。

 

朝5時起床

深夜2時まで書類仕事

3時まで破損した装備や艦娘の入渠情報のチェック&取り纏め&報告書の提出

4時まで鎮守府内の清掃やその他諸々の自由行動

4時30分時就寝

 

 

驚異の睡眠時間30分

残念な事にこれは冗談じゃない。

そして食事時間が無いのも比喩じゃない。

 

しかもこれ、ほぼタダ働きなのだ。

理由としては以下の通り。

 

 

艦娘達や整備士の妖精達(これだけは原理がサッパリわからん、特秘事項となってた)がそれぞれの現場で見つけた艦娘たちの鎮守府の不満点などまとめて持ってくるのだが、前線で働いてた俺としては戦う彼女達の仕事の過酷さが解るし、出来るだけ叶えてやりたい。

 

だが先輩2人はどうしても資金を節約したい。

これも解る。

深海棲艦の襲撃は定期的な訳じゃない。

立て続けに複数の場所が襲撃される事もあるし、海域解放の為の運用費もバカにならないのだ。

 

いざという時の為に資材用の資金を残しておきたいってのも当然の話だ。

 

そんな無理を承知で掛け合ってみたところ、彼らは言ったのだ。

 

そんなに叶えてやりたいなら自分で出したらどうだね?、と

 

 

正直言って悩んだ。

 

 

いつ死ぬかわからない前線働きだったし、悔いを残さぬ様にと出来るだけ使い切る様にしていたため、貯金はあまり無い。

 

となると、切り崩すべきは提督としての給料。

前世でリーマンしてた頃から見れば目がくらむような額ではあるが、鎮守府の設備の充実などに使うぶんにはちと心許ない。

 

それは無理だ...と言いかけた瞬間、思い出してしまったのだ。

前線働き、仲間達と言い合った上官の不満。

 

いい奴ばかりとは言ったが、悪い奴がいなかったわけでも無い。

 

極限状態の中において未だ保身と守銭に走る上官を見て、こんな奴にはなりたくないなと言い合った。

 

今でも詳細に思い出せる、懐かしき仲間達との記憶。

 

言葉を交わした手前、それは約束とも取れるのでは無いだろうか。

 

そんな事を思い出してしまった俺には、もう身銭を切らないという選択肢は消えてしまった。

 

どうにか生きていく限り最低限の賃金が残されるか計算し、艦娘達の要望を叶えた。

 

 

ドックの拡張、空調設備の充実、装備の開発資材....ets...

 

だがいくら神様から貰った力で俺が頑丈だからと言って、エネルギーが足りなきゃ痩せるし食事ができなきゃその内倒れる。

 

 

生きるために叶えてやれない要望だってある。

その場合の説明を行うのは当然決定を下した俺であり、艦娘達との好感度は現在最悪と言っていい。

 

でも一旦は絶対先輩2人に無理ですかねと確認を取ってるし、そこでダメと言われたら普通は却下な物まで拾ってやってるんだから俺が怒られる筋合いは....

 

いや、これは言い訳だな。

俺も過去に思った事でもあるし、艦娘達の怒りももっともだろう。

 

 

あっちは命をかけているのだ。

せめて鎮守府での扱いは高ければならない。

 

第一身銭切ってるのを艦娘達は知らないのだから。

 

何故か。

それは許可された案件は先輩どちらかの名義で出され、却下したものだけが俺名義で出るからだ。

 

当たり前だ。

最終的に先輩方のどちらかのハンコが無ければ実行そのものが出来ないのだから。

 

 

なんで言わないのかって?

言う暇があると思う?

 

そんな事する暇あったら書類片付けるし、艦娘達の反応から信じて貰えるとは思えない。

 

あくまで俺の過去の思い出への執着という事だ...理由はそれだけじゃない。

憧れ...と言うべきか、俺の過去の上官達も俺らの為に身を削ってくれていた。

 

もちろん俺たちには言わずに。

俺も後で気付いたことだ。

 

あの時から部下を持つようになったら、俺もあのような人で在りたいと本気で思えたいい人達だった。

 

俺は提督になって日が浅い下っ端ではあるが、あの人たちの様な思いやりのある上官でありたい。

たとえ部下にどう思われようとも、だ。

 

 

それに働くようになれば、上司を立てるのは普通だし。

 

部下の手柄は上司の手柄。

元日本の企業戦士としては常識レベルだ。

 

 

....と最初の方は意気込んでいたんだが、近頃はこれらの決意すら揺るぎつつある。

もう既に言わないのは意地を張っているからだと、馬鹿なことだと自分でも言える。

 

だが先輩方の仕事はもっと厳しいんだろう。

 

それとなく聞いてみて帰ってきた返事は全くの予想外。

 

「俺たちはその倍やってるッ!」

 

この倍って...鎮守府の提督は化け物か!?

それで鎮守府内をぶらぶらするだけ時間が余るって、もうあんたら人間の稼働速度軽く超えてんじゃ....

 

 

さすが人類の生命線を担う指令塔なだけはある。

 

だが俺はそうはなれない....

 

 

神様から貰った力があってもこの速度なのだ。

俺の本来の体のスペックからは既にもう逸脱しまくってる。

 

もう限界だ...

だが、自分からは辞められない。

 

仲間達に自慢した手前、どうしても自分からは辞表を出せない。

 

 

だから最近では責任問題になりそうな事があれば全部自分が責任を持ちますので、と言って辞めさせられる口実を自分で作りに言ってる。

 

俺を気に入らないのであろう艦娘達が俺の部屋の書類を漁って何か証拠を掴もうとしてるのも気付かぬふりしてるし。

 

 

不正はした覚えはないけど、俺でも気付かないような不正で俺を追い出してくれるかもしれないっつー期待を込めてる。

 

失敗しそうだなぁ、と思った作戦は途中から自分が指揮を持ちますっつって着々と敗北の実績を積んでる。

 

まぁ艦娘が死なない範囲で。

 

 

これのせいで艦娘からの罵倒は増えたが、正直この仕事を辞めれるならどうだっていい。

 

あんたなんか辞めちゃえば良いのよ!

っていう言葉に

だったらお前が辞めさせろよクソッタレ!

って返しそうになった俺はもう提督としてどうなんだろうか。

 

しかしもう時間がない。

 

ここ一週間はついに仕事中に意識が落ちる事件が発生した。

もう力で誤魔化せる限界を突破したのだろう。

 

 

ろくに飯を取らずにほぼ不眠不休で半年も働けば普通は死ぬ。

 

ブラック企業もビックリだろう。

今の俺ならどこでもやっていける気がする、もちろん鎮守府以外で。

 

毎日やってる鎮守府内の掃除を無くせば些か楽になると思い、2日に一回に減らしたにも関わらず、体の不調は治らない。

 

 

一回病院に行くべきだろうか?

だが休みなんか無いし....

 

いや、待てよ?

この際倒れてしまえば1日病院に行くよりももっと仕事を合理的に休めるんじゃないか?

 

そう思い、近頃はさらに根を詰めて働いている俺である。

 

 

そして今日も俺の視界を埋める書類の山。

ククク、俺の限界は近い....

 

 




生まれる世界を間違えた提督とか、ヤンデレ鎮守府とか、勘違い物とか色々好きな物ををぶっ込んでみようと書き始めました。
終わりが想像できていないので十中八九エタりますが、それまではよろしくお願いします。

暁陸さん誤字報告あざます!

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