百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
終章後の話
決してよこしまな感情で動いた訳ではない。
マシュ・キリエライトは心の中で弁明した。
彼女は藤丸立香の部屋の前に立っていた。時刻は深夜の2時。真面目なマシュが普通の人間ならとっくに寝静まっているはずの時間に出歩くこと自体が一種の異常だった。
部屋のロックを解除する鍵はDr.ロマンから借りていた。その気になればいつでも扉を開けることが出来る。しかし加速する胸の鼓動が頭を麻痺させて動けなかった。
引き返そうか。散々逡巡した挙げ句に逃げの一手を打とうとしたその時、突如扉が開いた。
「うわぁ?!」
驚きの声が二つ上がった。
「びっくりしたぁ。こんな所で何してるの?」
部屋の主、藤丸立香は目をしばたかせながら言った。
「少し先輩とお話したいことがありまして」
マシュはパニックで頭を沸騰させながら、なんとか平静を装って応対した。
「先輩こそどうして?」
「中々眠れなくて。自販機で飲み物買おうと思ったんだ。マシュも行く?」
マシュは立香に着いていくことにした。
立香の部屋から自販機はそれほど離れてはいなかった。数分歩けば薄暗い夜の廊下を照らす光がもう見えていた。
立香は機械にコインを入れてコーラとオレンジジュースのボタンを押した。そして購入したジュースをマシュに渡し、自販機前のベンチに座って尋ねた。
「それで話って?」
マシュもベンチに座って、答えた。
「清姫さんやエリザさんとキスしたって本当ですか?」
マシュが夜遅くに立香を訪ねたのはこれが主な理由だった。昼間に清姫とエリザベートが、夜な夜な立香と行為をしているという自慢をし合っているのを聞いて、真偽をその目で確かめようとしていたのだった。
「うーん。まぁチューはされたかな」
「先輩は!」
マシュは無意識の内に声を荒げていた。
「先輩は平気なんですか……」
マシュの必死さが予想外だったのか、立香は暫くきょとんとしていた。
しかしそれに気分を良くしたのか、マシュの肩に手を置き顔を近づけながら意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「もしかして嫉妬してくれた?」
マシュは俯いた。
「ふふっ、それはちょっと嬉しいかも」
そして赤くなった頬を突きながら立香は言った。
「マシュったら可愛い」
その一言で、マシュの心に火がついた。
「先輩、こっちむいてもらえますか?」
「え、むぐぅ!?」
マシュは立香の唇をそのまま奪った。
立香は急いで離れようとしたが、か細い腕からは信じられない程の力で抱きしめられていた為そうすることが出来なかった。
マシュは立香の後ろに回り、その胸に手を伸ばした。
形の良い二つの双球は僅かな抵抗を示しただけで、指の侵入を許した。
「んっ…駄目、こんな所で……」
マシュは胸のベルトを外した。そしてホッグを少しだけ降ろして今度は直に右手で胸を触った。
「あっ、んっ…あん……」
立香は最早自分が感じているのを隠そうともしなかった。
特に抵抗するわけでもなくただ甘い快感に身をゆだねていた。
「いけない子ですね、先輩」
「マシュが、あんっ、感じやすい所を触るから……」
「そうやって清姫さん達ともやったんですか?」
マシュが胸の先端を軽くつねった。
立香は背中を仰け反らせ、短く悲鳴を上げた。
「変態」
マシュは立香を罵倒した。
そのことにマシュも立香も驚いたが、二人にとってそんなことはどうでもいいことだった。
「もっと…もっと……」
立香に応えるようにマシュはベンチの上に押し倒した。
「こんな所で感じるなんて情けないですね、恥知らず」
「あん、言わないで♡」
「言葉だけで感じてるんですか?幻滅です」
この場において、主従関係は完全に逆転していた。
「はぁ、なんか萎えました」
嘘である。無様な雌顔を晒している立香を見て、マシュも昂ぶっていた。
「え?」
しかし立香の表情には困惑が広がる。
「ま、待って!!」
ベンチから立ち上がろうとするマシュを慌てて引き止めた。
「続き、してくれないの?」
マシュが蔑みの視線を立香に向ける。
「先輩がこんな人だと思いませんでした。もう二度と近寄らないで下さい」
立香を乱暴に押し退けると、マシュはその場を去った。
「お願い、待って!!置いてかないで!!」
泣きそうになりながら立香はマシュを追いかけた。
「何でもするから私を見捨てないで」
立香はマシュの足元に縋り付いて声を震わせ求めた。
「それじゃあお願いして下さい」
「え?」
「私の気が変わるようにお願いしてください」
立香はなにふりかまわず懇願した。
「私を可愛がって、マシュ」
「誠意が足りませんね」
「可愛がって下さい、マシュ様」
「それで私の気が変わるとでも?」
ついに立香は四つん這いになって言った。
「私藤丸立香こと雌豚は一生
をご主人様に捧げます。だからどうか私を飼い慣らして下さい」
「豚にしては上出来ですね。でも……」
マシュは冷たく立香を見下していた。
「豚が人間の言葉を喋るなんておかしいです。ちゃんと豚語を使ってください」
その言葉に、立香は鳴いた。
「ブヒッ、ブヒッ。ブフォ」
こうしてマシュは一匹の雌を手に入れたのだった。
「それじゃあ豚小屋に行きましょうか。勿論せんぱ、豚は四つん這いのままですよ」
立香の部屋でマシュは苛烈な愛を叩きつけた。立香はその愛で年ごろの少女とは思えない豚声をあげた。明け方になって二人とも疲れ果てて眠った。
起きたとき、二人は死ぬほど後悔した。
そして立香が恥ずかしさでふらつきながら廊下を歩いていたとき、ガウェインと黒髭が近づいてきて言った。
「結構なお点前でした」
「ブヒッ、ブヒッ。ブフォwww」
その日からマシュと立香は1ヶ月間、自室から一歩も出ることはなかった。
なんかごめん