百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
「お帰りなさいませ、ご主人様❤」
カーミラが自室に戻ると、そこにはメイド服を着用した立香がいた。
「結構似合ってるでしょ?」
フリルのついた紺色のロングスカートを揺らしながら立香は己の姿を見せ付ける。エプロンの前飾りは肩からストラップを回し、細いウエストを締め付けていた。黒い花のような妖しい可愛らしさと折れてしまいそうな細さにカーミラは面食らう。
「今日は私があなたのサーヴァントだよ、カーミラ様」
立香がウィンクした。
そんな彼女にカーミラはあくまで冷たく言い放つ。
「気でも触れたのかしら」
彼女は立香を無視してズカズカと部屋に入ると、自分で調達したアンティーク調の椅子に座り、禍々しい厚表紙の──恐らく黒魔術系統──を読み始めた。
それは身体を拘束するかのように編まれた黒服と素顔を隠す仮面、誘惑的な香り放つ銀髪とマッチングし、心掻き立てながら触れてはならないような気高さと、夜の魔物としての恐ろしさを醸し出している。
しかし、藤丸立香はそんなことでは怯まない。
「もっと構ってほしいなー」
立香は後ろから抱きついた。
イタズラっぽい笑みを浮かべながら頬ずりして甘える仕草はある意味悪魔的だった。
「ふぅー」
「!?」
あくまで見えてない振りを貫こうとするカーミラの耳に、立香は息を優しく吹きかける。驚きとこそばゆさで身体を反応させたカーミラを見て、彼女は気をよくした。
「無視なんてさせませんよ」
わざとらしい猫撫で声で吸血婦人に媚びて見せる。まるで、食べられるのを待ち望んでいるかのように。
「しつこいわよ!!」
カーミラは声を荒げて振りほどいた。
しかし立香は全く意に介していなかった。
「指から血が」
立香が指さす。
本の紙で指を切ったようだった。
「手、貸して下さい」
了承を受け取る前に半ば強引に手を取る。
そして床に両足をつけ──
「あむっ」
カーミラの二つの指を勢いよくしゃぶった。
「なっ!?」
咄嗟に手を引っ込めようとするも立香の力が思いの外強く、動かすことが出来ない。
いや、それだけではないか。
指を舐められる。それが心地良くて仕方なかった。
口の中では立香の舌が指の隙間を縦横無尽に這い回り、頭を上下に運動させ、わざと水っぽい音を立てて二つの棒を吸い上げた。
「ぐっ、はぁ……」
カーミラの息が荒くなる。
快楽に抗うためであったが、それは立香によってもたらされたものではない。加虐的で、暴力に充ち満ちた衝動を必死で抑えているからだ。
子リスのような召使いは上目で見つめている。理由はよく分からないが信頼を寄せているようだった。
カーミラは胸を押さえた。
目の前の少女を壊したい。その欲求が爆発しかけている。
例えば、口に含まれている細く長いそれを咽奥に突っ込んだらどのような表情をするだろうか?
か細い首筋に牙を突き立てて生き血を啜ったら?
四肢を切り落として弄ばれるだけの肉奴隷にするのは?
────それとも、今すぐに殺してしまおうか?
魔の手が立香の首に伸びる。
カーミラ様はアサシンにて最高……覚えておけ