百合ぐだ子   作:百合と百合と百合と

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大幅な設定捏造あり


モードレッド編⑧

アスモダイは目の前の少女が不思議でならなかった。

魔術師として突出している訳でなければ、超越的な肉体を持っている訳でも、悪魔的な頭脳を持っている訳でもない。

それなのに、有史以来何人もの英雄を地獄に落とした快楽がたかが小娘の精神性を突破出来ない。

立香の身体は肉の触手に絡め取られていた。そこから電気的な刺激が流れ、行き過ぎた喜びを与え続ける。

享楽で涙を流しながら髪を振り乱しているところを見ると感じていない訳ではないらしい。人類最後のマスターを屈服させる為の術式は正常に働いている。

だが、立香はアスモダイに負けていなかった。

「もーどれっどぉ♡

だめぇ、はげしすぎるのぉ」

アスモダイと立香しか存在しない虚数空間は絶望的に他の時間軸と断絶している。モードレッドなど来る筈がない。だからこれは立香の妄想だった。

「あん、ちくびいじめちゃだめぇ~~。エッチしゅぎるよぉ」

触手が胸を刺激すると、立香はそこを触られている想像をする。

口も、性器も、全身が愛しの彼女で満たされているかのごとく立香は振る舞った。送られた快感の場所、強度、淫らな空想の中でのモードレッドに合わせて。

「ゆびちんぽだめぇ!?ゆびちんぽだめなのにぃぃぃ!?!?!?

りちゅかのいんらんめしゅぶたまんこにそそりたつにくぼうがつきたてられてるのおおおおおお!?!?!?!?!?」

聞くに堪えない野獣の猛りが静寂の世界に轟き叫ぶ。

「おほっ☆

いまイッた、イッっちゃったぁ~~~//」

筋肉の弛緩した情けない顔を晒してなお、立香は強大な悪魔に敗北していない。

吹き出す汗も、涙も、鼻水も、よだれも、生暖かい潮水と黄金水も。穴という穴から吹き出るその全てがモードレッドの為だけに流された物なのだから。

「どういうことだ。

何故精神が壊れない?」

アスモダイは困惑していた。彼女を捕らえてから数日間責め続けていた触手を消して立香に尋ねる。

その力の根源がどこにあるのかが知りたかったからだ。

「……好きだから」

絞り粕のような小声で立香は答えた。

「また一緒に、笑いたいから」

アスモダイは倒れ込む立香を見下ろす。

「あの女が今の貴様の醜態を見たら何と言うだろうな」

「……馬鹿、ね。

あんなの、あなたへの……当てつけに、決まってる…でしょ」

「よがり狂う貴様の姿は滑稽だったぞ。

あのように不様な姿を見ては千年の恋も冷めるというものだ」

無数の瞳が不愉快にゆがみ、立香を嘲笑する。

だが立香はアスモダイを不敵に笑い返した。

「滑稽なのはあなた。

女の子一人落とせないなんて情けないんじゃない」

全身に力が入り始める。食事も睡眠もなしに犯されたボロボロの体だが、立ち向かう勇気とモードレッドへの愛おしさだけは最初から変わらない。

だから立香は立ち上がる。

「私は、あなたなんかに絶対負けない!!」

アスモダイは嗤いを止める。こんなにも苛立つのは数千年ぶりだった。

理解不能。それが彼の下した結論だ。己の愉しみの為に散らせずにおいた命だったが、面白味の欠片もない下らない玩具だと記憶して、矮小だと蔑む人間にとどめを刺すことを決定する。

運命づけられた冷酷な死。

しかしそれは訪れなかった。

「やっと、見つけた」

暗黒の世界に亀裂が入り、ひび割れた硝子のように崩壊していく。射し込む真白の光の向こう側から、待ち望んだその人はやって来た。

「馬鹿な。

どうしてここが?」

アスモダイが驚愕する。

その問いにモードレッドは答えない。

真っ直ぐ立香の下に駆け寄り、倒れそうなその体を支えた。

「俺から離れるな」

立香はこくりと頷く。

モードレッドは小さく微笑んで、すぐに剣をアスモダイに向けた。

「我と片手で戦うつもりか」

「お前なんか片手で十分だ」

「まさか、あの時の戦いで我が本気を出していたとでも思っているのか?

まだ我は力の半分も使っていないのだぞ」

「それがどうした。

幻影達はカルデアに侵攻していて使えない。単体なら俺はお前に必ず勝てる」

慧眼が挑戦的に燃える。

「叛逆の騎士風情が偉そうに!!」

「叛逆の騎士?

違うな。今の俺は──」

立香を強く抱きしめて、モードレッドは烈風よりも速く疾走する。

馬鹿女(立香)の守護騎士様だ───!!」

アスモダイの放つ魔力瘴気を避けることすらせず最短距離で突っ切っていく。剣と鎧で立香には当たらないよう弾きながら、アスモダイを切り刻む。

青黒い血液を噴出させながら、なりふり構わずモードレッド達を殺そうとするが、幻影を生み出した影響で疲弊した攻撃ではまるで通用しなかった。

たがそれだけでは理由として弱い。アスモダイは考え、そして答えは簡単に見つかった。

クラレントだ。

カリバーンと同格の剣とされたこの王剣には持ち主の能力をワンランク上昇させる特性があった。モードレッドは気付いていなかったが、失われて久しいその機能が復活していたのである。

故に、紅の暴風と化したモードレッドにとってたかが弱体化した攻撃など攻撃に入らない。

「ぎゃあっ!?」

アスモダイの悲鳴が崩れていく闇にこだまする。

モードレッドの剣技が貫通したからだ。霊基に致命傷を負い、構成因子の魔力が解けていく。

気が付くと暗闇は全潰し、見覚えのある風景が広がっていた。

「ここって魔術王が顕現した……?」

立香が呟く。

「無駄口は後だ。

あいつ、まだやるらしいぞ」

消滅しかけた体を繋ぎ止めながら、アスモダイは怒りで身震いした。

「現れ出でよ!!

我が幻影達よ!!」

するとカルデアに送り込んでいた手駒達が次々と出現し、最終的に九体の魔神柱が屹立した。

「幻影を戻すことは出来たのか」

モードレッドは舌打ちする。アスモダイはいくらか余裕を取り戻し、哄笑した。

「これだけの我を相手に抵抗することなど──」

その優勢は長く続かない。

魔神柱の言葉は突如として降り注ぐ閃光にかき消された。

星よりも尊いその光は人類の理想そのもの。最強の聖剣の一振りはあらゆる不浄を刹那の内に浄化する。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

モードレッドが呟く。

「調子に乗って敵の実力を測り間違えるとは。まだまだ未熟ですね」

天井にぽっかりと空いた大穴からアルトリア・ペンドラゴンが降り立つ。

「わざわざ加勢しに来たのか?」

「まさか。

手が空いたのでマーリンに言われて残った第四を見に来ただけです」

見上げるとマーリンが「僕もいるよー」とニコニコ手を振っていた。

「さあ、本体をさっさと片付けなさい」

モードレッドが剣を振り上げる。そんな彼女を立香は後ろから抱きしめた。

「頑張って」

令呪を三画全て使用し、モードレッドの力に変える。

クラレントはいつもの禍々しい雷ではなく、どんな宝石よりも眩い白銀に輝いた。それこそ、星の聖剣に劣らぬ程に。

我が麗しき(クラレント)、いや──」

怯えて逃げようとするアスモダイに、それは容赦なく解き放たれる。

我が愛しの永遠誓条(アリジエンス・クラレント)──!!」

かくして、全ての闇は打ち払われた。




本文では状況を説明しきれなかったことを少々。
・虚数空間はアスモダイが広げた訳ではない。
第四特異点に魔術王が降臨する際に使用された、神殿から特異点を結ぶ一本道のような物。だからモードレッドは第四特異点から空間に入ることが出来た。
魔術王の力は強大なので移動するのにも専用のルートが必要なのです。

・アスモダイが感情豊かなのは高い神性を持つ神霊と似た原理。個体能力は他の魔神柱と変わらないものの、ソロモン王の指輪を奪った逸話から悪魔としての格が他の個体よりも高いイメージ。

・アスモダイが口語バリバリなのは俺の古文の点数が赤点ギリギリchopだから。

・クラレントの特性が使えるようになったのはアルトリアがモードレッドを認めた為。
ただし本人は意地っぱりなので王として認めた訳ではないと言い張っている。

次回でモードレッド編は最終回

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