百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
モードレッドと付き合う前まで、三人は深夜の時間帯を狙って立香の部屋に忍び込むことが多々あった。布団の中に潜り込まれるのは少し窮屈だったが、特に何をする訳でもないので黙って見過ごしていた。
異変が起こったのはつい二週間ほど前のことだ。暫くぶりに三人が、三人同時に部屋に入り込んで来たのだ。異様な雰囲気の中、頼光が毛布を奪い去ると、清姫と静謐のハサンが立香の左右に横たえて身体を撫で回した。何かの間違いかと思った。しかし背筋に走る悪寒が、これが現実であることを強く主張する。
足裏、内股、胸、脇、首筋、唇と三人は立香を朝方まで貪り尽くした。
モードレッドには言わなかった。自分の身体が穢れているなどとはとても。
立香は何も出来なかった。
得体の知れない恐怖感に目と口をひたすら閉ざす事でしか耐えられなかった。しかし三日前から、その行為が別の意味に変わっていることに気付いた。
三人によって責められ続けた部分を触られると、立香の意思に関係なく感じられるようになっていたのだ。服を着替えるだけで疼く切なさに立香は焦った。それでも三人の責め苦は止まらない。それどころかさらに激しさを増していっているようだった。
そして一昨日のことだ。
「ひっ!?」
立香はついに声を上げてしまった。
「そんなに気持ち良かったんですか」
清姫の声が耳のすぐそばで聞こえた。
「それじゃあ、もう。
そろそろ食べ頃ですね」
「必死に我慢してるマスターも可愛いかったですよ。でも……」
三人の引き裂くような笑みが闇に浮かぶ。
「あなたのよがり狂う姿を私は見たい」
全く同時に言うと、頼光が黒のストッキング破り捨てた。
「中身は桃色ですか」
静謐のハサンが言った。
「今に肌色になりますよ」
清姫のその言葉を聞いて、立香の止まっていた頭が正常に働き出した。しかし、もう遅い。逃げ出そうともがく立香を静謐のハサンは無理矢理うつ伏せにしその背中に馬乗りになると、両腕を片手で拘束した。
清姫か、頼光か。両足も足首の辺りを持たれて閉じることが出来なかった。
最後の布地が破れる音がした。立香は泣きながら懇願した。だがそれは三人を余計に駆りたてて昂ぶらせるばかりだった。その日、立香は後ろの穢れを暴かれた。
「お願い。私の所に来て」
立香がモードレッドを誘ったのはこういった背景があったからだ。
時刻は消灯少し前。三人が侵入してくるのにはまだ数時間あった。立香はその間に、まだ健在だった少女の証をモードレッドに捧げてしまいたかった。
モードレッドは顔を真っ赤にしていたが、短く分かったと呟いて、立香の後に付いていった。
部屋に入るとドアに施錠し、白色の電気をオレンジに変えて立香はモードレッドに抱き着いた。
「今は鎧を脱いで」
魔力で出来た甲冑が解かれ、モードレッドの素肌が現れる。立香はその温かさを感じながら言った。
「今日は、私をすきにしていい日。だから」
言い終わる前に、モードレッドは立香の両足と両肩を抱きかかえて言った。
「言わなくてもいい。全部分かってる」
モードレッドはそのまま立香をベッドまで運び、そっと降ろした。モードレッド自身は立香の上に乗った。
モードレッドの両腕は立香の顔の左右に置かれ、お互いがどんな表情をしているかよく見えた。
恥じらいで顔を赤らめながら、少しの不安を瞳に宿しているモードレッドを見て、立香は罪悪感を覚えた。
「こんなことしていいのかな……」
「い、今更引けるか」
モードレッドを焚き付けることになると分かっていながら、立香は自分を止めることが出来なかった。
「……モードレッドのエッチ」
自分から処女を押し付けるのでは意味が無い。彼女の方から求められたかった。
「お前が誘ったんだろ!」
「誘ってなんか、ひゃうっ!?」
胸の先端をつままれる。
今までで一番心地良い快感だった。
「だ、ダメ。つまむの止めて!!」
「うるせえ!!始めてからヘタレやがって。絶対やめないからな!!」
モードレッドの責めが本格化する。
「あん、あ、んっ…ああっ!?」
「そんな声出すな!!
自分を抑えられなくなっちまう!!」
「そんなこと言われても、んっ、がま、あん。我慢出来ないよぉ」
快楽の拷問とは違う。
いつまでも浸っていたいような甘さだった。
「いいっ!?」
今まで我慢してきた物が吹き出した。
「お、おっ……」
今の自分は随分だらしない姿をしているだろうな、などと自嘲しながら立香はモードレッドだけを見つめた。
「すまん。ちょっとやり過ぎた……」
あなたのせいじゃないと立香は言いたかった。
「次からはちゃんと優しくする」
モードレッドの口づけが立香の身に染みた。
「……もっと乱暴にされるかと思った」
「そんな道具みたいにお前を扱うかよ」
「モードレッドなら良いよ」
「馬鹿言え。泣くほど優しくしてやる」
立香は笑った。
「モードレッドってさ」
「何だ?」
「たまに凄く男前だよね」
モードレッドは顔をしかめた。
「普段は違うのかよ」
「いつもは可愛いかな」
「お前……。
会ったばっかの頃なら叩き切ってるぞ」
「今は違うでしょ?」
モードレッドの首に手を回し、今度は立香の方から唇を交わす。
いつのまにか態勢は変わり、一人用のベッドの上、二人は横向きになって手をつないでいた。
「ごめん。私、甘えてた」
立香は言った。
「モードレッドはいつも私のために頑張ってくれるから……」
立香は自分から処女を押し付けるのでは意味が無いと思っていた。しかし、今晩の自分の行為はどうだろうか。モードレッドの気持ちを利用することは押し付けることに他ならないのではないか。結局、立香は自分しか見えてなかったのだと気付いた。立香は逃げていた。全てを知ったモードレッドが自分を拒絶することを怖れる余り。
立香は打ち明ける決心をした。
「モードレッドはさ、私が汚れててもいい?」
「お前ヤリマンか?」
「違うけど」
モードレッドの表情は神妙だった。少しの沈黙の後、彼女は答えた。
「別に良いんじゃないか?
俺はお前が、例え魔神柱みたいな姿をしてようが愛してやる」
「そんなの無理に決まってる」
立香は茶化した。
しかし、モードレッドの眼差しは真剣そのもので。
「本当だ」
その強さに圧倒され、立香は何も言えなかった。
「それに、さ。
甘えたって良いじゃないか。俺はお前の騎士だぞ。多少の無理難題は聞いてやるさ」
モードレッドは立香を自分の方にそっと寄せた。
立香の中で、重荷が外れた。
「言いたいことあるんだろ?」
その優しさに本当に泣いてしまいそうだった。
表情を悟られないように目線を下に逸らしながら、立香は全てを話した。
その間モードレッドは一言も言葉を発さなかったが、全身から漲る怒りで空気がピンと張り詰めていた。
「……この部屋を出るぞ」
モードレッドは立香を抱きかかえ、部屋を出た。その身には重厚な鎧が既に装着されていた。そして自室のベッドに立香を置くと、額にキスした。
「そこで見張ってる」
一晩中、モードレッドは立香の安全を見守っていた。
「昨日は……ありがとね」
食堂からの帰り道、立香は言った。
「別に。
感謝されるようなことはしてない」
「ううん。凄く救われた」
立香の頬は仄かに赤かった。
「まだ何も解決してねえよ。……でもまぁ今日は元気そうで良かった。ここ最近ずっと暗かったからな」
「そんな暗かったかな?」
「ここ数日は思い詰めた表情でコソコソしてたぞ」
「あ、それは……」
立香の表情が真っ赤になる。
「会う前にモードレッドをおかずにオナ」
「ワー!?ワー!?何とんでもないこと言ってんだ!?」
「身体を開発されすぎてどうにも我慢出来なくて」
立香は両手で顔を覆った。
「前半私責めモードレッド受けからの後半攻守逆転の妄想が一番捗りました」
「エッチなのどっち!?
つか聞いてねえよ!?
つーか全然元気じゃねえか!?」
「私、モードレッドといる時はいつも元気だよ?」
立香は笑った。
憮然とした態度を取っていたが、心なしかモードレッドは少し嬉しそうだった。
「ちっ。まぁいい。
……今回のことは不可解なことが多すぎる。ここからは気、引き締めていくぞ」
「うん」
立香とモードレッドの戦いが今、始まった。
次は多分戦闘という名の茶番