百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
深夜テンションMaxでヒャッハー
気に入らねぇ。
モードレッドは心の中でそう呟いた。
彼女を苛つかせている原因は主の藤丸立香にあった。
立香は度々モードレッドにちょっかいを掛けていた。内容は彼女のポニーテールを引っ張ったり、頬を突くというような子供染みたものだったが、そのことにモードレッドは不満を募らせていた。
立香は、例えばブーディカには臀部を撫で回したり、マタ・ハリの胸を後ろから弄んだりしていた。
それで、モードレッドの方はというと完全にガキ扱いである。モードレッド自身何故こんなことで苛立っているのかよく分かっていなかったが、とにかくイライラしてしょうがないのである。
彼女が分厚い甲冑を外したのはその為だった。
厳つい鎧の下の姿は驚く程簡素で、上半身にいたっては胸を隠すさらしが一枚巻かれているだけという有様だった。
円卓の騎士だった頃はまともに素顔すら見せなかった彼女が自分の素肌を立香に見せるのは中々勇気が必要だったが、それでも覚悟を決めて立香の前に出たのだった。
その時の立香の反応はというと……。
無視。
無視である。
会うなり、彼女は何も言わずにモードレッドの横を走り去ったのだった。
モードレッドから立香に話し掛けた訳ではなかったが、ここまで姿が変わったら普通はあちらから話し掛けてくるものだろうと彼女は思っていた。まさか露骨に視線を逸らされるなどとは予想だにしていなかった。
馬鹿にされたと思った。
そして、気のせいだろうか。何だか目頭の辺りが熱くなっていた。
結局誰にも見られぬよう足早に、暗い表情のままモードレッドは自室に戻ったのだった。
それから深夜までモードレッドは一歩も部屋から外に出なかった。しかし長時間ベッドの上で寝転がっていたことで冷静になったのか、不思議と外を出歩きたくなった。
夜の二時のカルデアの廊下には、誰一人出歩く者はいなかった。
ブーツの音だけが静寂の中響き渡る。
今のモードレッドの心に苛立ちはない。彼女にとって立香は父以外に忠誠を誓ったただ一人の主であったが、立香にとってモードレッドは数ある英霊の一人でしかない。そのことが少しだけ悲しいだけだ。
「モードレッド……?」
前から投げ掛けられた呼び声に、モードレッドははっとした。
彼女の数メートル先に立香がいた。
「ッ!!」
何も言わずに立香が背を向けて走り出した。
「待てよ!!」
逃げ出す立香の腕を、モードレッドはいつの間にか強く握っていた。
「待てって……」
逃げ出さないよう、モードレッドは立香を壁際に追い込んで、顔のすぐ横に右手を置いた。
それでもなお、立香の目線は下を向いてモードレッドを見ようとはしなかった。
「……何よ。顔近すぎ。キスでもするつもりなの」
「してやろうか」
「馬鹿じゃないの。女同士じゃん」
「うるせえ。今更女扱いすんな」
意地でも自分を見ようとしない立香に対してモードレッドの苛立ちはだんだん甦ってきていた。
暫く沈黙を保ち続けていたが、それに飽きると立香の顎を左手の指で無理矢理持ち上げた。
「俺を見ろ」
二人の視線がぶつかる。
心なしか、焦りで立香の瞳が揺れているように見えた。
笑いでも堪えていたのだろうか。モードレッドはそう思った。
「俺、おかしいか」
「え?」
「どうせ馬鹿が馬鹿みたいな恰好してるなんて思ったんだろ」
言葉を紡ぐ度、モードレッドの頭は熱くなっていった。
「馬鹿にするなら目の前でやってくれ。こそこそするんじゃねえよ」
モードレッドは涙を堪えるので必死だったが、対する立香は呆気に取られているようだった。
そして訳が分からないというように首を横に振ると、少し照れながら話し始めた。
「馬鹿になんかしてないよ。ただその恰好で……」
立香の頬はほんのりと赤くなっていた。
「あんまり出歩いて欲しくない」
立香は目を硬くつぶった。
その様子に、モードレッドは動揺した。
「いやいやいや!!
カルデアにゃもっと際どいの着てる奴いるし、お前さんいつもセクハラしてる癖に何恥ずかしがってんだ!?」
モードレッドが怒鳴ると、立香も負けじと怒鳴り返した。
「あんたが痴女みたいな恰好してるからって言ってるでしょ!?
大体何よ!!
それじゃあモードレッドは私にセクハラして欲しくてそんな服着てるわけ!?」
「何でそうなる!?
お前は馬鹿だ!!」
「馬鹿って言った方が馬鹿よ!!」
「うるせえ!!馬鹿はお前だ!!
俺が何着ようが俺の勝手だろうが!!」
激しい罵倒の応酬。
最後のモードレッドの言葉を聞いて立香は──。
モードレッドの身体を強く抱き締めた。
「え?」
予想外の反応にモードレッドの口から驚きが漏れる。
そんな彼女なんてお構いなしに立香は怒鳴り散らした。
「私以外の他の人に見せたくないの!!
言わなくても分かりなさいよ。この、馬鹿……!!」
その言葉にモードレッドはたじたじだった。
「あ、いや。
馬鹿。こんなの他の奴らに聞かれたらどうすんだ」
「知らない。モードレッドのせいだもん」
結局最終的に根負けしたのはモードレッドの方だった。
「……分かった。分かったから引っ付くな。流石に苦しい」
「……ごめん」
言いたいことを言い合って、二人の頭はいつも通りの平静に戻っていた。
「なんか、怒鳴ったりして悪かったな。
でもお前も悪いんだぞ。何も言わずに逃げられたら俺だって傷付く」
「……逃げなかったら許してくれる?」
「ああ」
「それじゃあキスしても良い?」
モードレッドは噴き出しそうになった。
「ふざけてんのか?
というか本気でもこの雰囲気で言うか?」
「逃げなければ許してくれるんでしょ?
だったら私は自分の気持ちから逃げない」
立香は真っ直ぐモードレッドを見つめた。
「私はモードレッドのことが大好き」
そう言うと立香は下を向いた。
「……気持ち悪いかな」
「そんなことない」
モードレッドが言った。
「けど色々順番が滅茶苦茶なんだよ」
立香をそっと自分の方へ寄せて、耳元で優しく囁いた。
「マスターが、いや。
立香のことが好きだ」
「うん。私も」
モードレッドが立香に額を近付ける。
「キスせがんでたよな。
……どうする?やめるなら今のうちだぞ」
「やめない」
「俺なんかで本当にいいのか?」
「モードレッドじゃなきゃ嫌だ」
最後の確認を済ませ、モードレッドは立香の唇を奪った。
二人が口を付けていた時間はほんの数秒にも満たなかった。しかしそれは、親愛よりも深い情を確かめるのには十分だった。
見つめ合いながら、立香とモードレッドは幸せいっぱいに微笑んだ。
モーさん関連はどういう訳か筆が進むなぁと思って、よくよく思い出してみたら一番最初に手に入れた星5だった。
つまり、それだけ他の鯖よりも長く妄想してきたという訳で