「よし…いける!!」
エドモントンで、勇太のバルバトスがCPUが操作するグレイズ・アインの片腕をたちで切り飛ばす。
両腕、両足、バックパックがバルバトスルプスのものに変わっており、第3形態でのバランスの悪さがなくなっている。
だが、それよりも大きな変化は両腕・両足に装備されたワイヤークローと両足に取り付けられた小型ビームガトリングガン、そして頭部のバルカン・ポッドだ。
これらはカドマツによって改造されたアセンブルシステムのおかげで装備できるようになったもので、これにより攻撃のバリエーションを増やしたり、性能の向上につなげることができている。
なお、ワイヤークローはとあるロボットアニメで登場する武器を元に改良したもので、シュヴァルベグレイズのものと比較すると小型化したうえ、ワイヤー部分が若干太くなっている。
(見てよ、この新装備!!やっぱりエンジニアがいるのといないのとでは違うよねー。カマセ君が環境にこだわる理由、少しわかった気がするよ…)
両足にミサイルポッドをつけたアザレアが郊外でキマリストルーパーをビームサーベルで胸部を貫く形で撃破する。
カマセに関しては環境に頼りすぎる面があるため、一概には言えない。
とはいうものの、ミサも自身のガンプラの性能の向上を肌で感じ、環境の大切さを改めて実感している。
「こうなったら、ますます負けられなくなる…よ!!」
肩部格納式40mm機関銃の弾幕を後ろに飛びながらかわし、サブアームで破砕砲を展開する。
ピッピッピッと音が鳴りながら、照準がグレイズ・アインの胸部にロックされる。
「当たれぇ!!」
バスンと大きな音を立てながら、破砕砲から弾丸が発射される。
足場を固定しない状態での発射のため、反動で一気に吹き飛んでいくが、放たれた弾丸
はグレイズ・アインの胴体を粉々に吹き飛ばしていた。
(おーい、2人とも。テストはOKだ。そろそろ戻ってきてくれ)
2人のコックピットにカドマツからの通信が届く。
「エース了解!」
(まだ言ってんのかよ…)
まるで自分がエースであることを強調したいように言うミサにカドマツはあきれている。
カドマツの見立てでは、勇太がエースでミサはリーダーとのこと。
エースではないからといって、ミサもなかなかの実力があることを認めてはいるのだが、ミサ自身はエースではないことに納得できていない模様。
「…」
(おい、勇太。どうした??)
「あ…いえ、了解です」
グレイズ・アインが消滅するのを見ながら、勇太は決勝戦の時のことを思い出していた。
あの時、確かに自分は覚醒をした。
だが、今回のバトルでは覚醒の兆しが見られなかった。
覚醒できるとは言うものの、そのやり方がわからないというのでは宝の持ち腐れだ。
(兄さんはどうやって覚醒したんだろう…?)
「よし、じゃあ約束通り報酬を払ってもらおうか」
ミサの家へ戻った2人はさっそくカドマツから例の話が持ち出される。
「今日までありがとう。私、カドマツさんのこと忘れない」
「ちょっとミサちゃん、それ棒読み…」
「別に金払えって言ってるわけじゃねえよ。お前らに仕事を頼みたいだけさ」
「でも、僕たちにはプログラミングや機械の組み立てはできませんよ?」
「んなのわかってる。こいつを見てくれりゃあわかる」
そういってカドマツは前もって家に届けられ、出入り口のそばに置かれていた段ボール箱を開ける。
その中には騎士ガンダムを模したロボットが入っていた。
「わぁ、騎士ガンダムだ!!これ、ロボット!?」
初めて見るロボットにミサは興奮する。
「こいつはウチで開発しているトイボットだ。こいつの運用テストに協力してほしい」
「玩具用ロボットかぁ…ハロもそうだけど、こういうのが買える時代になったんだねえ…」
昭和の時代、空飛ぶ車やロボット、そしてAIといったものはすべて漫画の中の産物
で、こういうものが21世紀にできればいいなという願いがあった。
玩具用ロボットもそれに含まれており、彼らの願いの結晶を、今こうして自分たちが当たり前のように享受している。
それをしみじみと感じながら、勇太はミサと一緒にトイボットを見つめる。
「実際に売り出すにはまだまだ時間がかかるけどな。テストに合格できなきゃ、商品化は無理だ」
「それで、どのように運用テストをすればいいんですか?」
「こいつは子供と一緒に遊べるっていうのが売りなんだ」
「ふむふむ…あ、これが取説」
「ガンプラバトルも一緒にできる」
「ガンプラバトルも!?じゃあ、運用テストって…」
「そうだ。こいつと一緒にガンプラバトルをしたり、遊んだりしてやってくれ。いわば、彩渡商店街ガンプラチーム、3人目のメンバーってことだ」
「あ、これがメインスイッチ」
トイボットの後ろにスイッチがあることを知ったミサの手でそれが押される。
キュイイインと起動音が店内に鳴り響く。
「この音…ミサちゃん!勝手に起動させちゃダメだよ!」
「もうしちゃった」
「しちゃった!しちゃった!」
起動したトイボットがゆっくりと起き上がり、段ボール箱の外に出る。
そして、両目のカメラが光った。
まるで、初めてガンダムが大地に立った時のような動きだった。
「わああ、初めましてロボ太!」
「勝手に変な名前を付けるなよ!?」
「いいじゃんロボ太、かわいいじゃん!ねー、ロボ太!」
同意を求めるように、ミサがトイボットに聞くものの、いつまで待っても返事が返ってこない。
勇太のハロは簡単な受け答えができるため、同じようにできるものと考えていたようだが、結果は違った。
「ああ…こいつ、言語は理解できるんだが、発声機能はつけていないんだよ」
「声がつくことに、何か問題があるんですか?」
「人の近くにいるロボットの開発ってのはデリケートだからな、特にトイボットに関しては子供の成長にどんな影響を与えるかまだ分からないからな」
実際、初めてトイボットが生まれてから、それの子供の成長に与える影響について研究者の間で議論が何度も行われている。
友人を作る必要性が相対的に失われ、コミュニケーションの機会が失われる、小さいころから機会に興味を持つことができるなど、否定的な意見と肯定的な意見がぶつかり合い、時には学生論文のテーマになることもある。
「…なんか、大人っぽいこと言ってる!」
「大人だからな」
「いらっしゃいませ」
今度はロボ太のテストのため、3人はゲームセンターに立ち寄る。
いつも通り、インフォが来店する客に挨拶をし、ロボ太に目を向ける。
「初めまして、ロボ太さん。記憶します」
「なんで、ロボ太の名前知ってるの!?」
「今聞きました。光デジタル信号で、ですが」
インフォはすぐにミサの疑問に答える。
人間同士とは違い、ロボット同士の会話はこの信号のおかげで一瞬で完了させることができるのだ。
現にインフォはロボ太はカドマツが作った試作型トイボットであること、そしてこれから勇太達と一緒にガンプラバトルをすることも知っている。
「なんかロボットっぽいこと言ってる!」
「ロボットですが」
「ああ、それよりもロボ太のガンプラですが、どんなガンプラを…」
「ロボ太はSDガンダムを使う。ガンプラバトルって言っても、ビルダーズパーツやHG、RG、PGといった期待は複雑だからな。それよりは操作がシンプルなSDガンダムがこいつにとっていいのさ」
そういって、カドマツはロボ太に騎士ガンダムを渡す。
受け取ったロボ太はそのままシミュレーターへ向かった。
和式の家の玄関を模したフィールドに勇太達のガンプラが登場する。
(よーし、じゃあテストを開始するぞ。っといっても、これからやるのは通常のバトルだ。何かロボ太に変なことが起こったら、すぐに連絡してくれ)
(了解!じゃあ、行こうか)
(心得た)
「ん…??」
急にだれか知らない男性の声がコックピット内に聞こえ、勇太は首をかしげる。
(あれ?勇太君が何か言った?)
「いや、っていうより、僕が心得たっていうわけないじゃんか」
(どうした、2人とも。言ったのは私だぞ)
声の正体がわからず、首をかしげる2人のガンプラの前に立った騎士ガンダムが自分自身に指をさす。
「しゃ…」
「「しゃべったぁ!?」」
思わず、2人仲良く素っ頓狂な声をあげてしまう。
驚くのも無理もないと思ったロボ太はすぐに解説を始める。
(シミュレーターに合成した音声データを入力し、スピーカーで出力している)
(で、でも…カドマツさんはしゃべれないって)
(カドマツは発声機能がついていないといっただけだ。私のボディにはスピーカーがないからな。シミュレーターのスピーカーでそれを代用すれば済む話。それに、ガンプラバトルはチームで行動するもの。コミュニケーション手段は必要不可欠だ)
(そ、そう…ですね…)
あまりにも紳士的な声な上に語られる正論。
口をはさむことができないミサはそう答えるしかなかった。
(さあミサ、そして主殿!ともに進もう!)
(ちょっと!なんで私は呼び捨てで、勇太君は主殿なの!?)
(私はカドマツがインプットしたデータに従っているだけだ)
(カドマツゥ!!)
「2人とも!!敵、敵!!」
2人がしゃべっている間に2機のドートレスが出現し、発砲してくる。
背中を向けていたロボ太をかばう形で前に出た勇太はソードメイスを盾に受け止める。
(む…!背後から攻撃とは卑怯な!!)
ロボ太はバルバトスの肩を踏み台にして大きく跳躍し、右手に持っているナイトソードでそのまま落下しながらドートレスを真っ二つに切り裂く。
残り2機についてはアザレア改め、アザレアカスタムが両足のミサイルポッドのミサイルで破壊した。
3機の撃破が確認されると、今度は上空にグゥルに乗ったジンが10機近く出現する。
「ここは…!!」
上空へ飛びあがった勇太は左腕のワイヤークローを射出し、グゥルに突き刺す。
そして、上空へ飛びあがって立体機動を行いつつ、両足のビームガトリングガンを発射する。
(すっごーい…)
まるで第08MS小隊で登場したグフ・カスタムのジェット・コア・ブースターとの空中戦を見ているような感じがし、驚きながらもミサはバズーカで攻撃を始めた。
「シミュレーターのスピーカーを使ってしゃべれるとは、想定外だったなぁ」
ガンプラバトルを終え、勇太が自販機で購入した飲み物をみんなで飲みながら、カドマツはロボ太を見る。
勇太が飲んでいるのはコーラでミサはメロンソーダ、カドマツはジンジャーエールだ。
炭酸飲料ばかりだが、それは勇太自身がコーラのような炭酸が好きだからだ。
前に叔母が料理を作りに家へ来た時には冷蔵庫の中が炭酸ばかりで呆れられ、炭酸以外の飲料も飲むようにと説教されたのだが、いまだに直っていない。
「ヒアリング用の言語データベースを利用して音声データを合成するとは…」
「勝手にやってたってこと?」
「ここまでできるAIを作るなんて、さすが俺。でもこれはダメだ。AIに禁止させるかなぁ」
残念に思いながらも、カドマツはそう告げる。
「なんで!?しゃべれなくするなんてかわいそうだよ!!」
急な宣告に驚き、納得のいかないミサが立ち上がって抗議する。
「ハロはしゃべれるのに、なんでロボ太はダメなの!?」
「ロボ太のAIはハロ以上で、ハロは簡単な受け答えしかできないからな。だが、ロボ太の場合は言語データベースが膨大だ。何をしゃべっても不思議じゃない」
「それはそうだけど…」
「だがな、しゃべれるようになることで、必要以上に感情移入しちゃうだろ?例えが悪いが、こいつが車に引かれそうになったとき、持ち主が助けようとすると困るんだ」
「言いたいことは分かるけど…でも…」
カドマツのいうことは頭の中では理解できるものの、どうしても納得できないミサ。
一度一緒にガンプラバトルをし、話したがためにカドマツが言う『必要以上な感情移入』をしてしまっているのだろう。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?どうした、勇太」
「ロボ太は彩渡商店街ガンプラチームのメンバーで、今後は僕たちと一緒にバトルをします。けど、コミュニケーションが取れないとロボ太との連携に支障をきたしてしまいます」
「まぁ、それはそうだが…」
カドマツもロボ太のテストを任せる点で、彼にガンプラバトルをさせるかについては正直悩んでいた。
ガンプラバトルになると、何らかのコミュニケーション手段が必要になってしまうからだ。
だが、ガンプラバトルは今や世界中で行われる有名なゲーム。
どのような世代の人間もやる可能性がある。
仮にそれができるトイボットがあれば、それは大きなビジネスチャンスになるし、子供たちだけでなく、大人との関係も構築できるものとなる。
そう説得したから、ロボ太の開発チームはハイムロボティクスから開発予算をもらうことができた。
「それに、ロボットとの会話ならインフォちゃんともやっています。これからも、そういう会話できるロボットとかかわる機体がどんどん増えると思いますし、それに…」
「それに?」
「カドマツさんも…してしまってるんじゃないですか?『必要以上な感情移入』」
「俺が…んん??」
勇太とカドマツの会話を遮るように、ロボ太がカドマツの白衣を引っ張る。
ロボ太の手にはカドマツが持参したモニターが握られていて、そこにはロボ太自身が出力した文字データが記入されていた。
「お前ってやつは…!!」
「どうしたの?」
「このモニターを見ろ!今、こいつが出力したテキストだ!」
興奮したカドマツが2人にモニターを見せる。
「ええっと、『私は自分の主やその仲間に危害を加えることは望まない。その可能性を生む要素は排すべき』…」
「バッキャロー、お前!!こんなことを言われてできるわけないだろ!!」
ロボ太のまるで騎士の忠誠心に似た言葉に感動したカドマツが声を震わせてその場を後にする。
「…感情移入し過ぎ」
『必要以上な感情移入』を大人であるカドマツがしてどうする、と突っ込みたくなったミサだが、これでロボ太がしゃべれなくなるという事態は避けられた。
「まぁ…これからよろしくね。ロボ太」
勇太はロボ太に右手を差し出す。
すぐに握手だと判断したロボ太は勇太の右手を握り、ゆっくりと振った。
「じゃあ、私は帰るね」
「うん。明日また学校で」
イラトゲームセンターを出たころにはもう5時半を超えており、ミサは今晩の料理当番を任されていることから、すぐに帰らなければならなかった。
なお、カドマツは20分前にロボ太と共に帰っており、リージョンカップまでに可能な限りの調整を行うとのことだ。
「あのさ…勇太君」
「何?」
「勇太君って、意外におしゃべりなんだね。今日のカドマツとの話を聞いてて、びっくりしちゃった」
「ああ、あの時はロボ太ともっと話したかったし、ミサちゃんが必死だったから…」
「え、もしかして…私のため…?」
「そういうことに…なる、かな…?」
照れながら頭をかき、ミサにそう答える。
意外な答えを聞いたミサは驚きながらも、とてもうれしくなってくる。
「ありがと!勇太君、かっこよかったよ!」
「え…!?か、かっこいい!?」
「じゃあね!また明日!」
ニコニコ笑って、勇太に手を振りながらミサは自宅へ走っていく。
級にかっこよかったと言われた勇太は顔を真っ赤にしながら彼女を見送った。
「かっこよかった、か…。初めていわれたな」
「おお、女の子に褒められて鼻伸ばしてるな。勇太」
背後から声が聞こえ、勇太はすぐに後ろを向く。
そこには予選で勇太をコテンパンにしたタケルの姿があった。
「タケルさん…」
「決勝戦、見たぞ。覚醒はしたみたいだが…まだまだじゃな。どうやら、あの試合の後、一度も覚醒できてないように見える」
「…」
タケルの言葉に勇太は沈黙する。
決勝戦の後も、勇太はミサと一緒に何度もガンプラバトルの練習を続けてきた。
しかし、いつまでたっても決勝の時のような覚醒をすることがなかった。
「勇太、これから少し付き合えるか」
「付き合うって…何を?」
「当然、ガンプラバトル。お前の特訓じゃ」
機体名:バルバトス(第4形態)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:500mm破砕砲
格闘武器:ソードメイス
頭部:ガンダムバルバトス(頭部左側にバルカン・ポッド装備)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトスルプス(太刀をマウント)
腕:ガンダムバルバトスルプス(両腕にワイヤークロー装備)
足:ガンダムバルバトスルプス(両足にワイヤークロー及びビームガトリングガン装備)
盾:なし
カドマツの手によってアセンブルシステムが改造され、ビルダーズパーツの取り付けが可能となったことを機に、バルバトスを改造したもの。
バックパックや腕、足をガンダムバルバトスルプスの物と交換したことでバランスが回復し、同時に主力武器を威力がメイスと同じでかつ軽量なソードメイスに換装している。
また、両足にはビーム兵器である小型のビームガトリングガンが装備されており、破壊力はユニコーンガンダムのものと変わりないものの、小型にした代償として弾数が少ないため、弾切れになるとすぐにパージされる。
特徴的なのは両腕両足にあるワイヤークローで、破砕砲発射の際の機体固定や立体軌道、敵の捕縛など応用性が高いうえ、射出しなくてもそのまま肉弾戦での補助武器としても使用できる。
このように、ガンプラ全体の動きを中心に強化した結果、シールドを持つ余裕がなくなり、対ビームコーティングマントも装備できなくなった。