「うおりゃあああ!!なんのこれしきぃ!」
準決勝の舞台である、宇宙要塞ソロモンの地表で、追いかけてきたプルーマ3機をアザレアが2丁のザクマシンガンで撃墜する。
相手が使っているガンプラはハシュマルで、先ほどのようなプルーマの製造プラントがあるということから、時間さえあればいくらでもプルーマを生み出して攻撃を仕掛けてくる。
おまけにハシュマル自身は超硬ワイヤーブレードやエネルギー弾発射装置付大型クロー、ビーム砲が武装としてあり、おまけにナノラミネートアーマーで防御力を高めている厄介な相手だ。
「よし、プルーマの対処はこれでいい。少なくとも、3分はそれの心配はしなくてもいいはずだよ」
メイスで叩き潰したプルーマの残骸を見て、ハシュマルから発射されたビームを上空にジャンプしてかわしながら勇太は言う。
戦闘開始から7分が経過し、開始3分後に3機、6分後にもう3機のプルーマと遭遇した。
製造し、出撃するまでのライムラグが3分であることがわかる。
原作ではバルバトスルプスが阿頼耶識のリミッターを解除することで決着をつけ、その代償としてパイロットの三日月は右半身の感覚を失っている。
「勇太君、三日月みたいにならないよね…?」
原作を見たことのあるミサは冗談半分でそんな疑問を投げかける。
阿頼耶識のリミッター解除は現在のガンプラバトルシミュレーターでは再現されていないため、そのようなことはできないし、やったからといって、三日月のようになるわけではない。
「その必要はないよ!!」
上空でバックパックのサブアームを展開し、破砕砲の発射準備を整える。
これまでの試合を観戦し、破砕砲の破壊力を知っている相手は発射される前にその武器を破壊しようと、ワイヤーブレードでバルバトスを襲う。
阿頼耶識システムの反応速度に追随出来る速度で攻撃できるそれでなら、発射される前に破砕砲を破壊できるし、たとえそれができなくとも、銃身をそらすことができる。
だが、その時相手はアザレアの動きを見ていなかった。
「隙ありぃ!!」
バズーカを持ったアザレアがハシュマルの頭部を両手でつかみ、強引に向きを変える。
ビーム砲だけでなく、メインカメラの機能もそれについているために、これでバルバトスの場所がわからなくなってしまう。
急いでアザレアをどかせようと、大型クローのエネルギー弾と頭部のビーム砲を発射しようとする。
「下がって、ミサちゃん!!」
言い終わらぬうちに破砕砲が発射される。
上空で撃ったせいで、その反動により大きく後ろに交代で、地表にあおむけで倒れてしまう。
だが、ナノラミネートアーマーやフェイズシフト装甲を破砕するその弾丸はアザレアが離脱した後、ハシュマルの頭部を貫いた。
頭部ユニットがダメージを受け、おまけにビーム砲のエネルギーが逆流して大爆発する。
それにより、頭部以外のパーツにも大きなダメージが発生し、ハシュマルはその場で倒れる。
ワイヤーブレードも爆発のせいでワイヤーが切れてしまった。
「ミサちゃん、とどめを!!」
「うん!これでとどめぇぇぇ!」
下がっていたアザレアが2丁のバズーカを弾切れになるまで撃ちまくる。
ナノラミネートアーマーがボロボロになり、内部のパーツがむき出しになったハシュマルにそれをしのぐ力はなく、大量の弾丸の爆発の中に消えていった。
「やったーー!!決勝進出ー!!」
試合終了後、会場の外でミサは嬉しそうに飛び跳ねる。
これまで予選敗退ばかりなのに、こうして決勝への切符を手にしたため、喜びが大きいのだろう。
「ま、まさか…本当に決勝に進出してくるなんてな…」
同じように、外へ出ていたカマセが驚きを隠せずに勇太とミサを見る。
そんな彼を見ただけでも、勝ち進んだ甲斐があったと思ったのか、ミサは勝ち誇る。
「どう?自分が捨てたチームがここまで勝ち進んだ感想は?」
「俺はプロのガンプラファイターを目指してるんだ。より良い環境を選ぶのは当然だろ。商店街のドノーマルなアセンブルシステムで上を目指せるかよ」
カマセの言うことにも一理ある。
環境は個人の能力を大きく成長させる一因にもなり、それが悪いために開花するはずの才能が開花しないというのもよくある話だ。
現に勇太のバルバトスの第3形態があのような形になったのも、アセンブルシステムがほとんど改造されていないことから、補助ブースターや追加装備を搭載するのが難しかったためだ。
「それは今ある環境の中でベストを尽くしたという前提の話かな?」
「何?」
「僕たちはそのドノーマルのアセンブルシステムでここまで勝ち進んだんだ。ということは、君も移籍しなくても決勝まで進めた可能性があったということだよね?だったら、君よりもミサちゃんのほうがプロへ行ける可能性があると僕は思うよ」
「てんめえ…」
自分がミサ以下だといわれたことに、怒りを覚えるカマセ。
「だったら…環境、つまり金と技術力が可能にするものを見せてやるよ!」
そう言い残して、再び会場へ戻っていった。
会場からはまだカドマツが出てきていないため、おそらく彼と決勝戦のミーティングをするのだろう。
「勇太君…ありがとう」
「僕が思ったことをそのまま言っただけだよ。じゃあ、こっちも準備を始めようか」
「うん!」
会場に戻り、勇太はできたばかりのムーア同胞団仕様のフルアーマーガンダムの両腕とバルバトスの腕を交換し、ミサのアザレアにメイスを持たせる。
「うわぁ…サイコ・ザクのバックパックにフルアーマーガンダムの腕。まさにサンダーボルト装備、と言ったところだね」
「ここまで2回カマセ君とあったけど、チームメイトが見当たらなかったでしょ?それに、あの自信…可能な限り準備をしたほうがいいよ」
「けど、その装備だと重たくならない??」
ミサが考えるように、フルアーマーガンダムの腕は2枚のシールドと2連ビームライフルがついていることから、バルバトスよりも重たいうえ、サイコ・ザクのバックパックがそのままであるためにさらにバランスが悪化している。
少なくとも、これを使えと言われたら、ミサは絶対に無理だというだろう。
「問題ないよ。装備の都合上、このビームライフルのエネルギーパックは予備を持たせることができないから、不要になればパージするだけ。さすがに両腕はナノラミネートアーマーにすることができなかったけど、実弾以外の攻撃の選択肢ができる」
「…ごめんね、勇太君。ウチのアセンブルシステムが…」
「ストップ。今ある環境でベストを尽くすのもファイターの才能だよ。それに…日本一になるんだよね?そんな弱気なことを言ったら駄目だ」
「うん…ありがとう」
「さあ…あと20分。再調整を始めよう」
「了解!」
カマセの言葉のせいか、ミサは若干元気をなくしていたが、勇太と話したおかげか、いつもの元気を取り戻していた。
2人は時間ぎりぎりまで互いのガンプラの最終調整を続けた。
(会場にお集まりの皆さま、お待たせしました!彩渡町タウンカップ決勝戦、いよいよ始まります!!前回優勝チームのハイムロボティクスがこのまま2連覇を成し遂げるのか、それとも今回、大躍進を見せる彩渡商店街ガンプラチームがその勢いのまま押し切るのかーーー!?)
「よし…準備OKだ。ミサちゃん…勝とうね」
(うん!)
通信越しに彼女と勝利の約束をした勇太のバルバトスの前にあるハッチが開く。
今回のステージはガンダムAGEに登場するコロニー、ノーラの残骸が浮かぶ宙域だ。
(それでは両チーム、発進どうぞ!!)
「じゃあ、沢村勇太…バルバトス、出るよ」
カタパルトが起動し、バルバトスが宇宙へ飛び出していく。
なお、発進時のセリフはミサの意見が入っていて、バルバトスのパイロットである三日月に真似ることとなった。
宙域にはノーラに残っていた車や自転車、乳母車などが漂っていて、ほかにもジェノアスやガンダムAGE-1が撃破したガフランの残骸もある。
まさにガンダムAGEシリーズにおけるガンダム最初の戦いの後の光景といってもいい。
「熱源…!?とても大きい!!」
「散開だ!!」
合流した勇太とミサに向けて、大出力のビームが襲い掛かる。
センサー部分が強化されていたアザレアが見つけてくれたおかげで、早めに反応をすることができた。
「戦艦クラスの火力…まさか!!」
ビームの方向から逆探知した勇太はこのビームの犯人を見る。
それはダブルオーライザーをベースと、色彩が白・赤・緑のトリコロールとなっているガンプラだった。
しかも、それはPGガンプラで、出力や防御はこれまでのガンプラとは段違いなものとなっている。
(どうだ!?俺のガンプラは!!)
オープンチャンネルでカマセが2人に自分のガンプラを自慢する。
(PG機体!?そんなガンプラをタウンカップで出すなんて、聞いたことないよ!?)
PG機体は強力なガンプラだが、アセンブルシステムにかなり手を加えないと使用できない、まさに金と技術力なしでは使えない代物だ。
(カドマツさんに頼み込んで使ってんだ!お前らに現実を教えてやりたくてよぉ!)
そういいながら、オーライザーのミサイルポッドからGNミサイルを斉射する。
PG機体となっているため、ミサイルの大きさも破壊力もけた違いに上がっている。
勇太は2連ビームライフルでミサイルを打ち落としていく。
ビームはそのままカマセのダブルオーライザーにも及ぶが、GNフィールドによって阻まれる。
(そんなチンケな火力で、PGを倒せるもんかよ!)
「そんなの、やってみなきゃわかんないよ!」
そう言いながら、ミサはバズーカで攻撃をする。
GNフィールドを解除したダブルオーライザーに命中したものの、あまりダメージを与えられていない。
(そんなもんでぇ!!)
直進したダブルオーライザーがアザレアに体当たりをする。
スピードのある重い一撃がアザレアを襲い、真後ろにある隕石まで吹き飛ばされる。
「キャアアア!」
コックピットに強い振動が襲うと同時に、警報音が響き渡る。
たった一回の体当たりを受けただけで、アザレアのフレーム各部が悲鳴を上げ始めており、おまけに出力低下を起こしていた。
「うう、パワーダウンだとぉ!?」
「ミサちゃん!!」
彼女を助けるべき、勇太は2連ビームライフルを発射しながらダブルオーライザーに接近する。
「(彼はパワーを制御しきれていない。剛速球が投げられるけど、変化球が投げれない投手と同じだ!)ここはバックパックを!!)」
ミサイルによる攻撃を止めるため、2連ビームライフルと2つのサブアームに持たせたグレイズのバズーカをオーライザーに向けて連射する。
だが、堅牢な装甲と化したオーライザーにはアザレアのバズーカと同じく、有効打にはならない。
(は…そんな攻撃、痛くもかゆくもねえんだよぉ!!)
GNミサイルが再び発射され、勇太は回避しきれない分をビームで薙ぎ払う。
しかし、急に後ろから衝撃が発した。
「何!?まさか、ミサイルが反転して!!」
ナノラミネートアーマーのおかげで、傷がついた程度で済んだものの、反転するミサイルがあることに勇太は驚いた。
(サウザンド・カスタムのバンゾって機体のミサイルからヒントを得たんだよぉ!!)
そう言いながら、カマセはミサを左手でつかみつつ、再びGNミサイルを発射する。
「くぅ…!」
反転して後ろから襲ってくるミサイルにも対処しなければならず、それを防ぐためにはミサイルをすべて落とす必要が出てきた。
最大出力で2連奏ビームライフルを照射し、そのまま薙ぎ払う。
多くのミサイルをそれで破壊することができたが、それでも撃ち漏らしたミサイルもあり、それが反転して勇太を襲う。
(ほら…プレゼントだぁ!)
ダブルオーライザーがつかんだアザレアを思いきりバルバトスに向けて投げつける。
「ぐああああ!!」
「キャアア!!」
アザレアとバルバトスがぶつかり合う。
ダメージのせいでアザレアの片腕と片足がばらばらに吹き飛び、バルバトスはコロニー外壁まで吹き飛ばされて内部フレームにもひびが入る。
内部フレームのダメージのせいで、破砕砲の仕様が不可能となった。
それだけでなく、カメラも損傷しており、一部のモニターがブラックアウトした。
「く…ミサちゃん!!」
(つぶれろよぉ!!)
ダブルオーライザーがGNソードⅢを大きく上へ上げ、そのまま動けなくなって漂っているアザレアを切り裂こうとする。
ダメージと距離の関係で、今のバルバトスでは攻撃を防ぐことができない。
(駄目…このままじゃあ!!)
「ミサちゃん!!!うおおおおーーーー!」
勇太の叫びが響く中、ミサは思わず目を閉じる。
このまま機体を両断され、撃墜されてしまうのかと思われた。
だが、いくら待ってもいずれ来るであろう衝撃が襲ってこない。
ゆっくりと目を開くと、目の前にはウェポンラックとシールド、そして2連ビームライフルをパージしたバルバトスが前に立っていて、GNソードⅢを白刃どりしていた。
しかも、それの各部からは青い光が発せられている。
(白刃どり…!?ふざけやがって!!)
さらに出力を上げて、そのまま押しつぶそうとする。
しかし、いくら出力を上げてもバルバトスはびくともしない。
(PGと互角だと!?)
「まだだ…まだいけるよね…。ミサちゃん、バルバトス!!」
勇太の叫びと同時に、バルバトスが青いオーラをまとう。
そして、GNソードⅢを右こぶしで殴り、刀身を破壊した。
(バルバトスが…青く…)
青く光るバルバトスを見て、ミサは過去に見たガンプラバトルを思い出す。
そのバトルに出ていたブルーフレームもまた、絶体絶命となったときに青いオーラを放ち、爆発的な性能を見せつけた。
「うおおおおお!!!」
武器を持たないバルバトスがそのままダブルオーライザーめがけて突撃する。
(正面だと!?ふざけやがってぇ!!)
オーライザーのGNビームバルカンとGNミサイル、ライフルモードに変化したGNソードⅢを一斉発射する。
しかし、急にバルバトスがアザレアとともに姿を消し、すべてのビームとミサイルが回避される。
(消えた!?いったいどうなってんだよ!?アセンブルシステムに細工でもしたのかよ!?)
慌てるカマセは必死に2人を探す。
だが、急に背後に現れたバルバトスがオーライザーの右側パーツを両腕でつかみ、そのままバキバキと音を鳴らせながら引きちぎった。
(なにぃ!?)
おまけに引きちぎったパーツを残ったオーライザーパーツに向けて投げつけられ、オーライザーが完全に破壊されてしまう。
そのせいで、ツインドライブシステムに不具合が生じ、最大出力が出せなくなった。
(くっそぉ!どうなってんだよ、これはぁぁ!!)
半泣きになったカマセはオープンチャンネルのままであることを気にすることなく、わめき散らしながら折れたGNソードⅢを振り回す。
だが、ガンダムUCでデストロイモードとなったユニコーンガンダムが見せた瞬間移動のような高い機動力を見せたバルバトスに一度も当たらない。
そして、パージしたウェポンラックにたどり着いたバルバトスは破砕砲を手にする。
バルバトスが手にしたせいか、破砕砲のカードリッジも青い光を放ち始める。
それだけでなく、破砕砲全体が青いスパークを発した。
「いけぇぇぇ!!!」
倍返しと言わんばかりに、いきなり破砕砲を5連発し、それによって生じる負荷のせいか、砲身が真っ赤に染まる。
5発の破砕砲も青く光り、次々とダブルオーライザーに着弾し、爆発とともにフレームや装甲、GNソードⅢを吹き飛ばしていく。
(うわああああ!!!)
「これで、終わりだぁぁぁ!!」
最後に腰の太刀を手にしたバルバトスが一気に接近し、ダブルオーライザーを横に一閃する。
ダブルオーライザーは真っ二つとなり、カマセの叫びと共に爆散した。
「やったーーー!!やったね!!」
タウンカップ決勝が終わり、優勝トロフィーを手にしたミサが嬉しそうに飛び跳ねる。
昨年優勝チームのハイムロボティクスを破って、更にカマセを倒してでの優勝であるため、喜びは格別なものとなっている。
「どうなってんだ!?どうなってんだよあれ!インチキだ!インチキをやったんだ、あれはぁ!!」
「やめてよ!人聞きの悪い!!」
「じゃあ、なんなのか説明しろよ!!」
一方、納得のいかないカマセは地団太を踏み、必死に抗議をする。
圧倒的に有利のはずで、勝利が目の前のはずだったのに、青いオーラを纏ったバルバトスにすべてを台無しにされた。
そのことですっかり怒り心頭なのだろう。
そんな彼を見かねたのか、カドマツが彼の質問に答える。
「騒ぐな、みっともない。あれは覚醒だよ」
「覚醒…そっか、あれが…」
「ノーマルのシステムに最初っから入ってるけど、使用条件がわからないのさ。なんでも、時間制限があるが、爆発的に性能が上がったり、サイコフレームやバイオセンサーがついたモビルスーツが見せたような想定外の現象を引き起こすことができるらしい。昔は沢村勇武が使ってたが、俺も実際に見るのは初めてだ。いやぁ、いいもんが見れたわ」
カドマツの言葉を聞き、ミサはあの勇武のブルーフレームが見せた光の正体を知ることができた。
一方、勇太も自分が覚醒を使うことができたという事実に驚きつつも、喜んでいた。
これを完全にものにすることができれば、まだまだ戦える。
あのタケルのロードアストレイ・グレースカルに近づけると。
だが、1人だけ納得のいかない人物がいた。
「条件がわからないし、サイコフレームやバイオセンサーと同じ力の発揮だと…。やっぱりインチキじゃあねえか!!」
「アホか、PG使って圧倒的有利な試合をしておいて、負けたらインチキとかアホか。そんなんだから負けるんだよ、アホ」
メカニックとして、カマセをバックアップしたカドマツは彼の人となりをある程度理解していた。
負けたことに納得がいかず、見苦しくインチキだと主張する彼にすっかりうんざりしたようだ。
「3回もアホって言われてやんの」
「ちっくしょーーー!!俺はこんなところで負ける男じゃないのにーーー!!」
泣きながらカマセはその場を走り去っていった。
1人残されたカドマツはやれやれと思いつつ、ため息をつく。
「今年はファイターに恵まれなかったな」
「でも、PGを動かせるなんて、アセンブルシステムの改造はすごかったです」
「いや、突貫作業でPGの性能を完全には生かし切れていなかったけどな。それに、パイロットがあれじゃあな…。上の大会へ行ったら、もっと強いPGと戦うことになるぞ。そいつらと対等に渡り合えるよう、しっかりガンプラの改造と腕磨きをしとけよ」
そういうと、カドマツは会場を後にする。
彼の後姿を見ながら、ミサは小さくつぶやいた。
「次…」
「うん?」
「そっか、私たち…次があるんだね!!」
目を輝かせ、嬉しそうに笑いながら勇太を見る。
夕日がバックにあるせいか、彼女の笑顔が輝いて見えた勇太の顔が赤くなる。
「う、うん…。そうだね…」
そして、その日の夜…。
商店街の中の唯一の繁盛店である小料理屋『みやこ』の店内には5人の男女が集まっていた。
ミサや勇太、ユウイチに店の店主であるミヤコ、そして商店街内で肉屋を経営しているマチオがいて、全員が飲み物の入ったコップを持っている。
「それでは…彩渡商店街ガンプラチーム、タウンカップ優勝を祝して、乾杯!」
「カンパーイ!!」
ユウイチのあいさつの後、全員が乾杯をし、ミヤコが用意した料理に舌鼓を打つ。
「ミヤコさん、お店貸してくれてありがとう!」
「いいのよ、ウチは一日くらい休んでも問題ないから」
ミヤコが経営する小料理屋は彼女自身、芸能人顔負けの美貌があるだけでなく、国産の食材を使ったおいしい料理が評判となっており、特に会社帰りのサラリーマンがよく訪れている。
この店にはマチオも食材である肉を売っていることもあり、仮にこの店がなくなると、本当に彩渡商店街はつぶれることになってしまう。
「ミヤちゃん、うちの商品も扱ってくれないかな?」
「ガンプラって食べられるの?衣をつけてカラっと揚げてみる?」
「ミヤコぉ!ビールのお代わり頼むぜー!」
ユウイチたちが楽しそうに大人同士の会話を楽しんでいる。
そんな3人の姿を見た勇太はこのにぎやかさになじめないのか、少しだけ離れてコーラを飲む。
「勇太君、もっと近くへ行ってもいいんだよ?」
焼き鳥をもって隣に座ったミサはニコリと笑いながら、もう1本の焼き鳥を差し出す。
「ミサちゃん、ユウイチさんたちって…」
「うん、小学生のころからの幼馴染。小さいころはマチオおじさんとミヤコさんと一緒に遊んだんだぁ!」
「へえ…。じゃあ、これが…」
「うん。彩渡商店街を守りたい理由。バラバラになりたくないし、このにぎやかさをもっと広げたくて…」
焼き鳥を小皿に置き、じっと大人たちを見るミサ。
底抜けに明るく、若干抜けたところのある彼女だが、しっかりと自分のやるべきことを見出しているようだった。
「ミサちゃんには、かなわないな…」
「ん??」
「いや、なんでもないよ。じゃあ…ちょっとだけ近くへ行こうかな?」
そういって立ち上がると同時に、店の横開きの扉が開く。
「邪魔するよ」
「あなたは…」
「カドマツさん!?」
まさかの敵チームのエンジニアが入ってきたことに、勇太たちは驚いた。
そんな彼らを気にすることなく、カドマツは勇太たちが使っている座席の空いている場所に座る。
「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、現在貸し切りで…」
「ああ…女将さん。今回はこの嬢ちゃんと坊やに話があってきたんです。すぐに引き上げるので、ご安心ください」
「話…ですか?」
「ああ。俺をチームに入れてほしくてな」
「え…?でも…あなたはハイムロボティクスの…」
「お前らに負けて、今シーズンはやることなくなったんだよ」
苦笑しつつ、ミヤコが持ってきてくれた水を飲みながら言う。
次のタウンカップは来年の5月であるため、それまでの間は来年に備えてメンバー集めやガンプラのセッティング、アセンブルシステムの調整などをすることになる。
だが、大きな大会に出られない以上はほとんどやることがないに等しい。
「あーごめん。失業させちゃって」
「別に会社をクビになったわけじゃねえよ…!同じ地元同士で力添えしようって思っただけだ。それに、お前らのチームにはエンジニアがいないだろ?それを俺がやるさ」
「エンジニアか…。アセンブルシステムを少しだけでも改造できれば、PGを出せないとしても、やりようがあるはず…」
カマセのダブルオーライザーには覚醒があったおかげで勝つことができた。
しかし、覚醒の発動条件はいまだに自分でもわかっておらず、またPGと戦うことになったとしても、勝てるかどうかわからない。
これからの大会でPGと再び遭遇することを考えると、エンジニアの存在が必要不可欠だ。
だが、問題があった。
「でも、ウチにはエンジニアを雇う余裕は…」
エンジニアの給料をこのチームで払う余裕がない。
活動費はユウイチ達から出してもらったり、ミサがこれまでためたお年玉や小遣いをねん出することで賄っている。
その程度の財源では払うことができない。
「それはウチの社長と話は通してあります。ちょっとした仕事に協力してもらうってことで。それに…個人的にこのチームのエースに興味があってね…」
「え…エース!もしかして私!?いやー、でも私とカドマツさんとは年の差が…」
「ぶーっ!?!?ミ、ミサちゃん!?」
思わずお代わりのコーラを拭いてしまった勇太はミサを見る。
一方、カドマツも別の意味でびっくりしていた。
「もしかして…嬢ちゃんがこのチームのエースなの??」
「え…?」
「…え??」
「あ、あの…カドマツさん。言いにくいんですけど、それ…僕のことじゃ…」
テーブルにひっかけてしまったコーラをふきんでふき取りながら、勇太はつぶやいた。
機体名:バルバトス(第3形態-重装遠距離戦闘型)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:500mm破砕砲
格闘武器:なし
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:サイコ・ザク(ライフル(グレイズ)×4、バズーカ(グレイズ)×2、滑腔砲×2、及び各武装のマガジン搭載)
腕:フルアーマーガンダム(サンダーボルト)
足:ガンダムバルバトス(腰部に太刀をマウント)
盾:なし
タウンカップ決勝のため、腕パーツをフルアーマーガンダムのものと交換したもの。
バルバトスにはなかったビーム兵器を使えるようにするための物であり、ナノラミネートアーマーがない分の防御力は両腕に装備されているシールドで補っている。
ただし、装備されている2連ビームライフルがEパック方式となっており、装備の関係上、予備のEパックの所持に限界があることから、弾切れになったら即時にパージすることになっている。
なお、装備されておりメイスはアザレアに渡しており、2連ビームライフルとシールドがなくなったら受け取って使用することになっている。
決勝ではPG機体のダブルオーライザーと交戦し、GNミサイルの破壊に関しては一定の戦果を挙げたものの、決定だとはならなかった。
また、覚醒した際に破砕砲の連続発射をフレームがボロボロの状態で行うことができたものの、本来はそのようなことができず、覚醒なしで1発撃った場合、機体が反動で粉々になっていたものと思われる。