「破砕砲の弾丸を受け止めるなんて…」
「あんな大きなガンプラ、どうやって倒せば…キャア!!」
グランドマスターガンダムについている翼から次々と発射される羽根がディビニダドのフェザーファンネルのように3人に襲い掛かる。
ビームを撃ってくるわけではないことから、GNフィールドで防ぐには限界があるうえ、ナノラミネート装甲を貫かれる可能性が高い。
「となると、これは持っていても…!!」
宇宙空間でない以上、軸としての役割を見込めない超大型メイスをダメ元でグランドマスターガンダムに向けて投げつける。
グランドマスターガンダムのコアとなっているマスターガンダムが破壊できれば御の字だが、そううまくいくはずもなく、両手で受け止めた後でダークネスフィンガーを発動し、粉々に砕いた。
「あの手を受けたら、超硬度レアアロイでも駄目か…!うう…!!」
羽根が当たると同時にコックピットに衝撃が襲う。
技量の有るファイターである勇太でも、ニュータイプですら回避が難しいオールレンジ攻撃を回避しきるのは難しく、既に背中や足に2枚ずつ羽根が命中している。
阿頼耶識システムのサポートがなかったら、コックピットをやられていた可能性も否定できない。
「まだ…首を取られるわけにはいかない!!」
ガンダム・バルバトスルプスレクスのラストシーンを思い浮かべながら、勇太はビームショットガンを散弾モードで発射し、弾幕を張る。
ガンダムUC第1話の名もなきスターク・ジェガンのパイロットがやっていたのを真似ているような形だが、やはり対ファンネル戦術としての効果があり、羽根の攻撃を弱めることができた。
しかし、グランドマスターガンダムは4機のデビルガンダム四天王が融合したような形をしたモビルファイターであるため、それだけが武器ではない。
今度はグランドサンダーを発動し、網のような形をした電撃を起こしつつ、破砕砲を超える口径と火力を誇るグランドキャノンを連射し始める。
グランドキャノンそのものは直線、もしくは山なりに発射されるだけで追尾性はないものの、それでもそばを通るだけで機体に振動が襲ってくる。
「当たったらどうにかなっちゃうって言ってたモチヅキさんの言葉、正しく聞こえちゃう…」
グランドキャノンの弾丸に気を取られたアザレアの前に網のようなグランドサンダーが飛んでくる。
「直撃コース…!?」
「集中しろ、ミサ!!」
割って入ったフルアーマー騎士ガンダムがアザレアが受けるはずだっがグランドサンダーを受けてしまう。
激しい電撃が機体を襲いかかり、機体内部にダメージを与えていく。
「ロボ太!!」
「くうう…なんの、これしきぃ!!インフォ殿が受けている苦しみに比べればぁ!!」
炎の剣を振るい、グランドサンダーをかき消したものの、電撃によって左腕の回路にダメージが発生したせいで、ロボ太が操縦桿を動かしてもその腕が動かなくなっていた。
「く…このままだと、じり貧に!!」
どうにかグランドマスターガンダムを破壊できるか力を得るために覚醒しようと集中したいが、次々と襲い掛かる攻撃をかわすのに精いっぱいで、覚醒へもっていくことができない。
(2,3秒だけでも、集中できる時間ができれば…!)
「くうう!!いい加減ダメージを受けてよぉ!!」
ビームやミサイルで攻撃しても堅牢な装甲に受け止められ、傷つけたとしてもDG細胞によって再生されてしまう。
それだけでなく、DG細胞はエネルギーや弾薬も再生可能であるため、時間さえあればグランドマスターガンダムのエネルギーも弾薬も実質無限ということになる。
「ミサちゃん、ありったけのフラッシュバンとミサイルで奴の眼を封じるんだ!!」
「もしかして、覚醒をやるの!?」
「うん…相手はDG細胞の塊。一撃で倒さないといけない。だったら…」
「分かった!!お願い、勇太君!!」
「私は奴を引き付ける!!」
ミサは急いでミサイルとフラッシュバンの残弾を確認する。
ミサイルはまだ10数発は残っており、フラッシュバンはあと1つだけ使うことができる。
「全部まとめて、いっけぇーーー!!」
アザレアから次々とミサイルとフラッシュバンが発射され、ミサイルの1発をビームライフルを撃ちぬく。
撃ち抜かれたミサイルが爆発し、それに巻き込まれるように次々とミサイルが誘爆していく。
フラッシュバンと共に生み出された爆発の光がグランドマスターガンダムを包み込み、わずかに敵が動きを止める。
「…いまだ!!」
深呼吸をし、集中力が高まった勇太と連動するように、バルバトスが青いオーラに包まれ、覚醒する。
光が収まると、破砕砲を手にし、照準を合わせるバルバトスにグランドマスターガンダムが目を向け、尻尾のウォルターガンダムがビームを発射しようとするが、その尻尾をフルアーマー騎士ガンダムの炎の剣が切り裂いた。
「私を見逃すとは、不用心だな!さあ、どこからでもかかって来い!!」
切り裂かれ、地面に落ちた尻尾の上に立ったロボ太が剣を向け、挑発するように叫ぶ。
その挑発が効いたのか、再生途中の尻尾をハイパーハンマーのように振り回し始めた。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
グランドマスターガンダムの視界から外れ、破砕砲の照準をセットした勇太は叫びながらトリガーを引く。
覚醒によって発生したエネルギーが凝縮された一発が激しい銃声を起こしながら発射され、その反動によってバルバトスが吹き飛び、破砕砲も粉々になる。
「勇太君!」
吹き飛んだバルバトスを見たミサは叫ぶが、フェザーファンネルがスラスターに刺さってしまったうえに両足も破壊されていることから、その場を動くことができなくなっていた。
「くうう…どうだ!!」
背後にあるブロックに激突し、激しい振動で胃の中にも衝撃を感じながら勇太は叫ぶ。
覚醒によって破壊力の高まった破砕砲の弾丸がグランドマスターガンダムの頭部に着弾すると同時に大爆発でグランドホーンやグランドキャノンの上半分がバラバラに吹き飛んでいく。
しかし、残った下半分のグランドキャノンから弾丸が発射され、とっさにバルバトスは左手をかざし、覚醒エネルギーのバリアで受け止めようとするが、連続で発射される弾丸によってバリアを突破され、左腕そのものに直撃する。
ナノラミネートアーマーも限界に達し、左腕がボロボロになり、フレームにもガタが来てしまう。
「まだ…動けるの!?」
カメラの倍率を高め、グランドマスターガンダムを見ると、確かに破砕砲によって頭部から上を一気に破壊すること自体は成功していた。
しかし、コックピットが無傷であるため、まだ動くことができる上にDG細胞によって再生を始めている。
「コックピットを狙うしかない…そういうことか!」
ガンダムローズとガンダムマックスターがグランドガンダムを倒した時のシーンを思い出しながら、どうにか機体を起こそうとするが、2門に減ったとはいえ、火力は健在のグランドキャノンの弾幕では起きることさえ難しい。
しかし、2機の間を通るように飛んでくる大出力のビームがグランドキャノンの弾丸を消滅させていく。
「勇太君、行っけぇーー!!」
「ミサちゃん!!くうう…!」
ビームの照射を続けてくれたことで、弾幕から解放されたバルバトスが立ち上がる。
しかし、長時間の照射でGNバズーカに過度な負担を与えてしまったため、砲身が焼けてしまい、粒子残量も機体の四肢を動かせるくらいしか残っていない。
起き上がるのに成功すると同時にビームが消えるが、弾の再生が追い付かないのか、グランドキャノンの動きが止まり、再び尻尾のウォルターガンダムのビームの雨が襲ってくる。
「さっきのに比べれば!!」
飛んでくる弾数は上回っているものの、ビームの威力は先ほどのグランドキャノンの半分以下で、感覚がマヒしてくれたおかげなのか、今の勇太には脅威と感じられない。
左腕を強制排除し、超大型メイスや破砕砲といった重量のある武装もないことからわずかに機動性が上がっており、富んでくるビームを回避し続けながらグランドマスターガンダムに接近していく。
(さっきの破砕砲でだいぶ力を使った。けど…!!)
回避を続けているはずだが、なぜか頭が冷えた感じがした勇太は右拳をイメージする。
バルバトスを包んでいた青いオーラが右拳に集中し、拳が強い光を放ち始めていた。
ビームによる破壊をあきらめたグランドマスターガンダムはグランドキャノンからワイヤー付きのマニピュレーターを発射し、バルバトスを捕まえようとする。
マニピュレーター1本1本がモビルスーツの利き腕レベルの力を持っており、両手であれば並みのガンプラでは握りつぶされてしまう。
「主殿!!」
フルアーマー騎士ガンダムが電磁スピアを突き刺す、もしくはビームガンを連射してワイヤーを破壊していく。
勇太が破砕砲で攻撃し、ここまでくる間に激しい攻撃を受けたせいか、炎の剣は失われており、鎧と盾、電磁スピアにはいくつもの傷ができている。
しかし、ワイヤー付きマニピュレーターはファンネルと同じく、縦横無尽なオールレンジ攻撃で襲ってくる。
前に現れた2本に気を取られたフルアーマー騎士ガンダムが背後から飛んでくる1本につかまれてしまう。
「うおおお!?」
「ロボ太!!」
「行かれよ、主殿!急ぎ、インフォ殿を!!」
「わ…わかった!!」
ロボ太のことを頭から消し、勇太は目の前のグランドマスターガンダムのコックピットを見る。
それを破壊しさえすれば、グランドマスターガンダムを破壊することができる。
拳に宿る光が不安定になっており、維持できる時間は残りわずか。
「吹き飛べぇぇぇ!!」
肉薄したバルバトスが勇太の叫びと共に光の拳でコックピットを貫く。
貫くと同時に光が消え、同時に電撃のようなエフェクトのついた光がグランドマスターガンダムを襲う。
残った覚醒エネルギーすべてを注ぎ込んだ一撃だったのか、それともコックピットが破壊されたこともあるのか、光に包まれたグランドマスターガンダムが消滅していった。
「ふぅぅ…こいつでOKだ!!」
ウイルスの除去を確認し、ようやくノートパソコンから離れることができたカドマツはソファーに座り込み、両手で顔を覆う。
眼がすっかり疲れており、目薬がほしくなる。
「カドマツ。インフォはもう大丈夫ってことかい?」
「ああ、婆さん。再起動シークエンスに入ってる。もう大丈夫だ」
「インフォちゃん!!」
シミュレーターから出てきたミサとロボ太がインフォに駆け寄る。
ミサが両肩に手を置き、じっとインフォを見つめていると、ブラックアウトしていたインフォの眼が緑色に光る。
「ミサさん…?」
「インフォちゃん…よかったぁーーー!!」
涙目になったミサがぎゅっとインフォに抱き着く。
抱き着かれたインフォは彼女の背後に立っているロボ太に目を向けた。
「そうですか、あなた方が私からウイルスを…。ご迷惑をおかけしました。…その、ミサさん…」
「ああ、ごめんね!今、どくから!!」
涙を拭いたミサがどくと、インフォは自分の手で後頭部についているケーブルを外し、イラトに目を向ける。
ぐちゃぐちゃになったゲームセンターを見て、インフォは自分がしてしまったことを認識している。
「まったく、この店の有様、どうしてくれるんだい」
インフォから目をそらし、店の惨状を見ながらイラトがぼやく。
シミュレーターが無事とはいえ、ゲーム機がいくつも壊れており、壁にも大きな穴が開いている。
シミュレーター限定で営業できるかもしれないが、完全に直るまでにはかなり時間がかかる。
「マスター、申し訳ありません。私を廃棄なされますか?」
ワークボットであるインフォは己の立場を理解しつつ、イラトに尋ねる。
ウイルスに入られたとはいえ、これほどの損害を店に与えたのだから、一般の企業であれば廃棄されるのは明白だ。
しかも、相手は銭ゲバなイラトだ。
そういう選択をするかもしれないということを、記録したこれまでのイラトの言動から導き出していた。
イラトはため息をつくと、まずは壊れたごみ箱から飛び出したゴミを箒で集め始めた。
「馬鹿言ってないでさっさと片づけな!アンタは壊れたゲーム機をあっちに集めておきな!あとで修理屋に電話するからね!」
インフォに顔を見せないよう、後ろを向いて答える。
イラトの後姿を見たインフォは頭を下げると、すぐに一番近くにある壊れたゲーム機を運び始めた。
「じゃあ、私たちも手伝うよ!」
「おい、勇太はどうしたんだ?」
手をどかし、ミサ達を見たカドマツが尋ねる。
イラトやインフォ、ロボ太にミサの姿は見えるが、肝心の勇太の姿がない。
「勇太君なら、寝ちゃった。無理し過ぎちゃったから…」
「ああ。にしても、すげえな。覚醒の力は。グランドマスターガンダムを倒しちまった」
「うん…。私も、勇太君みたいに強くなりたい」
ロボ太が置いた塵取りにごみを入れたミサは勇太が眠っているシミュレーターに目を向ける。
「覚醒のエネルギーを一点集中できた…覚醒をコントロールできるようになってきた、ってことか…。にしても、誰なんだ?こんなとんでもねーウイルスを作ったのは…」
覚醒のほかに気になったのはそれだった。
ノートパソコンやスパコン、製造機械などではなく、ピンポイントに自立型ロボットを狙ったウイルスで、そんな代物を素人が作れるわけがない。
今は警視庁のサイバー犯罪対策課のホワイトハッカー達が犯人を捜しており、班員が日本国内で有れば、特定するまで時間はかからないだろう。
「そういやぁ…日本以外でもおんなじことは起きてねーのか?」
休み終えたら、海外のニュースを一通り見ておこうと思い、カドマツは眠りについた。