ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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第22話 初デート?

「うーん、うーん…」

「サクラ、どうしちゃったの?昨日はあんなに元気で、温泉にも入ったのに、こんなに苦しんで」

ユハラから持ってきてもらったタオルを水で冷やし、布団の中のサクラの額の上に乗せる。

今朝から彼女はずっとこの調子で、熱が出ているわけではないにもかかわらず、真っ青になっていて、かなり苦しそうにしている。

近くに住んでいる医者にお願いして、見てもらった結果は軽度の神経衰弱で、一日寝れば治るらしい。

ミサはその病気の原因が心労であると聞いた時は首をかしげていた。

「にしても、ついてねえなぁ。温泉に入った翌日に寝込むってのは…」

「サクラちゃんは僕とカドマツさんとロボ太で見ておくから、勇太君とミサは遊びに行ったらどうだい?」

「え、ええ!?」

「待って待って、お父さん!?どうして2人っきりで!?」

ユウイチの提案を聞き、2人は一斉に顔を赤くする。

同じ年頃の男と女が2人っきりでの外出、つまりはデート。

分かりやすい2人の反応をユウイチは面白そうに眺めている。

「いや…チームメイトなんだし、これくらい当然だと思うけど…違うのかい?」

「そ、それは…そうだけど…ああ、もう!!行こう、勇太君!」

「ミサちゃん!そんなに強く引っ張らないで!!」

勇太の腕をつかんだミサは彼を強引に引っ張りながら部屋を出ていく。

手まで真っ赤になっているミサのわかりやすい行動をカドマツはニヤニヤ笑いながら見物していた。

「にしても、いいんですか?お宅の娘さん、あの優男に任せて」

ガンプラバトルでは強い勇太だが、本来の彼はケンカもしたことがないような、よく言えば優しい、悪く言えば弱弱しいごく普通の少年だ。

明るいミサとはお似合いだとは思うが、父親であるユウイチがどう思っているのか、素朴な疑問を浮かべていた。

「うーん、任せる任せないというよりは…ちょっとうれしいっていうのが正しいかもしれませんね」

「うん…?まぁ、確かにあいつは…まぁ…」

「女の子らしくない、ですよね」

ユウイチを怒らせないように気を付けて言葉を選ぼうとしたユウイチがニコリと笑いながら、彼の言いたいことを当てる。

努力と根性がモットーで、いまだに男性の人口の方が多いガンプラバトルに熱中している彼女はほかの同年代の少女と比較すると子供っぽい。

人当たりがいいため、同性の友人を作ることは多いものの、異性の友人については勇太が初めてのことだ。

そのため、親として恋人、強いて言えば将来の結婚相手ができないのではないかと心配していた。

退屈にならないように、テレビをつけたユウイチはそれを見ながら答える。

「もしかしたら、見てみたいのかもしれませんね。ミサが信じられる仲間である勇太君とどこまで進むことができるのかを…。カドマツさんも、そのつもりでメカニックを買って出たんでしょう?」

「まぁ、そうですね…」

彼が彩渡商店街にレンタル移籍した理由の大部分は覚醒を使うことができる勇太だが、かかわるにつれてミサの存在も気になるようになった。

覚醒をうまくコントロールできず、悩む勇太を支え、一緒に戦ってきた彼女の存在も、もしかしたら勇太の強さにつながっているのではないか。

そう思うと、彼もまた2人から目が離せなくなっていった。

研究の一環として、定期的にロボ太を家に持って帰り、彼の話を聞くことがある。

彼はトイボットとして一緒に遊ぶという役割以上の意味で、2人と共にガンプラバトルをしたりして過ごすのを楽しんでいる。

そういう、ひきつける何かに2人と1機は引かれたのかもしれない。

もちろん、今ここでぐったりとしているサクラも。

 

「…」

「…」

街へ出た2人だが、どこへ行けばいいのか、そして何をしゃべればいいのかわからず、互いに目線を合わせることなく沈黙している。

「…ね、ねえ」

「…」

「んもう!!何かしゃべってよ!こういう時は勇太君がグイグイ引っ張ってよぉ!!」

沈黙が耐えられなくなったミサが八つ当たりするように勇太に要求する。

そんな無茶な、と言いたげに勇太は困惑する。

勇太には同年代の異性と2人っきりと出かけた経験が一度もなく、おまけに勇太自身は彼女が自分のことを好いているのかがわからない。

勇太自身も、ミサに抱いている想いがチームメイトとしてのものなのか、それとも好きな相手に対しての者なのかはっきりとわかっていない。

ただ、この空気を変えなければならないということについてはお互いに一致している。

「あ、ゲームセンターだ」

「え!?どこどこ!?」

ゲームセンターという言葉に反応したミサはキョロキョロと見渡す。

ちょうど、大判焼きを売っているお店の目の前に小さなゲームセンターがあり、インベーダーゲームやピンボールなどの昭和の古いゲームが置かれている。

2台あるピンボールのイラストは初代のガンダムとTV版Zガンダムのアニメの一場面となっており、初代の方はテキサスコロニーでビームサーベル二刀流となってマ・クベのギャンと戦うガンダムが描かれている。

一方、TV版Zガンダムについては炎上する香港の街で対峙するサイコ・ガンダムとガンダムMk-Ⅱが描かれている。

このような版籍作品とタイアップした台は末期のものであり、操作ミスをしない限りは半永久的にプレイ可能なうえにメンテナンスのコストの都合もあり、現在はほとんどのゲームセンターで姿を見せることがなくなった。

ゲームセンターの出入り口にはドアがなく、入り口の前に立つと、奥で煙草をふかし、パイプ椅子に座って新聞を読んでいる、ゲームセンターの管理人と思われる老人の姿を見つけた。

やはりというべきか、屋内にはいくつかゲーム機が置いてあるだけで、ワークボットの姿もベンチやテーブルもない。

100円玉を入れると、ピンボール台の各種ライトが光りはじめ、アニメで流れたBGMがそこから流れ始める。

「10万点以上で景品か…。頑張るぞー!」

真っ先にゲームを始めたミサは出てくる白いボールをフリッパーで打ち返し、ザクやグフ、ドムが置かれているヒットターゲットに当てていく。

遠距離支援型のアザレアを使っているだけあって、正確にヒットターゲットに当てている。

「僕も、負けていられないな!」

隣の台で勇太もゲームを始める。

バンパーに当たるたびにけたたましく音が鳴り、点が増えるたびに興奮が増していく。

自分たちの親が生まれる前にはやったゲームであるにもかかわらず、2人にはとても新鮮に感じられた。

「よーし、あとちょっと…そこだぁ!!」

トリプルドムが出現し、動くヒットターゲットに狙いを定めてボールを打つ。

一方、勇太が遊んでいる台には3機のハンブラビが現れた。

「僕も、負けていられないな」

このボーナスのヒットターゲットをすべて落として、次に現れるジ・Oを倒せば、目標点にぐっと近づく。

しかし、可変モビルスーツであるからか、トリプルドムと同じく動いているため、当てるのが難しい。

「ここだ!!」

狙いを定めて打つが、ヒットターゲットに当たらずにバンパーを介して何度も壁に当たりながら降りてくる。

しかし、最後に当たった場所が悪かったのか、ちょうどフリッパーとフリッパーの間をそのまま通るように落ちて行ってしまう。

「あーあ、ついてないね」

「まだあと1球残ってる。今度こそ…!」

最後の1球を出し、再びそれをハンムラビに向けて打つ。

ミサもエクストラボールを手に入れたものの、2球落としてしまい、そちらも最後の1球になっている。

プレイしている2人を見た管理人の老人が口を開く。

「2人とも、見ない顔じゃなぁ…。もしかして、恋人同士の旅行か?」

「「こ、恋人!?」」

二人仲良く顔を赤く染め、台に手を放して大げさなリアクションをしていると、両方の台のボールが落ちてしまった。

10万店まであと一歩といったところでのまさかの横やりにミサは激怒する。

「ちょっとおじいちゃん!?なんでここで邪魔をするのーーー!?」

「何を言うておる?社会というのは理不尽なことで満ち溢れておる。それを子供たちに教えるのが延長者の役割じゃろうて」

まるでイラトのような変な理屈で言いくるめてくる。

もしかしたら、ゲームセンターの管理者はみんなこういう性格で、金の亡者なのかと一瞬思ってしまった。

 

「まったくもぉー!なんであんなところで邪魔なんかぁー」

プリプリ怒りながら、勇太のおごりで買った大判焼きの2個目に手を伸ばし、歩きながら口に入れる。

「まあまあ、もう忘れようよ」

「勇太君もちゃんと文句言わないとダメだよ!!もう!あとちょっとだったのにー!」

理不尽なことをされたのに、怒らない勇太に腹を立てたのか、今度は勇太の分の大判焼きまで食べてしまう。

しかし、広場まで出ると見えたきた人混みが気になったミサは食べ差しの大判焼きを紙袋に入れた。

人混みの中心には地球連邦軍尉官の制服を着た青年がメガホンを使って周囲に声をかけている。

「えー、ここでは観光客限定特別ステージによるガンプラレースが行われていまーす!参加したい方はここに集まってくださーい!ただし、使えるガンプラはこちらが用意したパーツで作ったもののみとなりますので、ご了承くださーい!」

「ガンプラレース…」

観光地にはなじまない、メカニカルなシミュレーターと大型のモニターがそこにはおかれており、モニターには群馬の温泉の通りをベースにしたステージを疾走するバクゥやGファイターなどのガンプラの姿があった。

レースと称されているものの、やはりバトルの要素も加わっており、前を行くガンプラに対してライフルやグレネードで攻撃を加える、地雷を設置して後続を断つといった動きもみられる。

「うわぁーー!!こんなところでもガンプラが楽しめるんだー!勇太君!!やろ!!」

「う、うん…」

別にやりたくないわけではないが、ここまでガンプラの波が来ていることに驚きを感じながら、ミサに引っ張られる形でエントリーをする。

次のレースまではあと1時間以上時間があり、その間に参加者はガンプラを作る。

「1時間で作って、レースに参加か…」

「勇太君は20分くらいでバルバトスを作ったんでしょ?もしかしたら、1時間あれば2つは楽勝なんじゃない?」

「あれはただ動かせればいいってレベルででっち上げただけだよ。本当にいい機体を作ろうって思ったら、1時間じゃ足りないよ」

「じゃあ、2人で力を合わせて作る。これで、2時間分!!」

そういいながら、ミサはラゴゥのガンプラパーツが入った箱をニコリと笑いながら見せる。

「複座型か…。じゃあ、やろうか」

「うん!」

道具を借りて、場所を確保した2人はラゴゥの箱を開け、組み立てを始める。

しかし、ただラゴゥを作るだけでは飽き足らず、同じタイプのガンプラパーツを複数調達し、それらを利用した改造が行われた。

 

「それでは!!ガンプラレースの開幕です!!観戦したい皆さんはモニターにご注目ください!!」

1時間が経過し、観客は皆、モニターに映るスタート地点の光景を見る。

ガンダムエピオンやZガンダム、クラウダにジンハイマニューバなど、高機動型モビルスーツやモビルアーマーを中心にガンプラが並ぶ。

その中でマゼンタを基調とした、大型のバーニアを搭載しているラゴゥの姿もあった。

「よし…設定はこれでいいっと。ミサちゃん、準備はいい?」

「バッチリOK!」

後ろにあるサブパイロットシートに座るミサはニコリと笑いながらサムズアップを見せる。

「でも、いいの?君も自分で作ったガンプラで…」

「ううん。今回はこういう形の方がいいの!それに…勇太君も初めてでしょ?こういう形のは」

「まぁ、それはそうだけど…」

初心者の頃は、アドバイスを受けるためにサブパイロットシートに勇武かサクラが座って出撃するということが何度かあった。

あくまでアドバイスを受けるためであるため、機体の操縦はすべて自分でやっている。

そのことを踏まえると、一緒にガンプラを動かすということでの2人乗りは今回が初めてだ。

なお、今の勇太のノーマルスーツはSEED Destiny時代のキラのものになっている。

いつもの耐圧服姿ではかなりギャップが生じてしまうから、というミサの主張により、今回だけこのような服装となった。

かなりサイズに余裕をもって作られた耐圧服にすっかり慣れてしまっていたため、どうしてもノーマルスーツを着ていると違和感を覚えてしまう。

「そういえば、勇太君はどうしていつも耐圧服でバトルをしてるの?」

ミサはずっと気になっていた質問を勇太にぶつける。

耐圧服姿で出撃するファイターはかなり珍しく、タウンカップやリージョンカップでは勇太しかそれを着ているファイターがいない。

そのため。耐圧服のファイターと言えばだいたい勇太だということで意味が通ってしまう。

「うーん…最初に選んだから、じゃあ…駄目かな?」

少し考えた後で、勇太はその質問に答える。

しかし、勇太自身もどうしてこのスーツでバトルをしているのか疑問に思っていた。

ノーマルスーツと比較すると、サイズに余裕があるのは確かだが、それを比較すると重量があり、暑苦しい。

エアコンの機能がそれについていなかったら、もしかしたらミサ達と同じようにノーマルスーツを着用していたかもしれない。

「あ…そろそろ、レースが始まる。準備をして」

「…了解」

先ほどの答えは不満だったのか、少し不機嫌な表情を浮かべながら出力調整を始める。

目の前に信号が現れ、ゆっくりと色が赤から変化していく。

青になった瞬間、出場しているガンプラたちはスタートした。

「うわあああああ!?!?」

「スタートからしばらくは直線だ!!ここで差をつける…!!」

バックパックに搭載されているスーパーバーニアが生み出す爆発的な加速力に耐えながら、2人は突き進む。

4本脚に搭載されているキャタピラとかかとのあたりに補助用に装備された小型の車輪であるランドスピナーが激しく回転し、路上を滑るように走るラゴゥを支える。

「なんだ、こいつ!?めちゃくちゃ早いぞ!?」

「トールギスのスーパーバーニアだって!?だけど…このレースはバトルでもあるんだぜ!?」

ラゴゥのスピードに最初は驚いたGファイターのパイロットだが、このような出る杭は打つべきだと判断し、搭載されているビームキャノンとミサイルポッドで攻撃を始める。

「うわわ!?攻撃してきたよ!?」

「やっぱり、攻撃してくる…。ミサちゃん、ビームキャノンで後ろのガンプラを攻撃して!!」

そういいながら、勇太はラゴゥをわずかに左右にそらせたりして、ビームを回避する。

「りょ、了解!!」

ミサはビームキャノンを180度回頭させ、照準を合わせ、発射する。

ヴェスバーレベルの高出力ビームがGファイターの両翼をかすめる。

「な、なんだってぇーーー!?」

手痛い反撃を受けたファイターは涙目になっており、両翼を失って操縦不能となったGファイターがコース上に転落する。

「よし、今度はビーム撹乱膜を!!」

ミサイルによる攻撃の心配がある程度軽減されたラゴゥの肩部から筒状の物体が複数発射され、2秒後にそれらの物体が破裂して煙幕が出現する。

別のガンプラが発射したビームが黒い煙幕に触れると同時に減衰し、消滅する。

「勇太君!もうすぐ右へカーブ!!」

「うごぉ…ううう!!!」

カーブに差し掛かり、一気に減速させ、向きを変えていく。

スーパーバーニアによって一気に上げたスピードを落としていったことで、2人の体に衝撃が襲う。

「ぐうう…ミサちゃん、大丈夫…!?」

「私の方は大丈夫…だから、思いっきりやって!!」

「了解…!」

再びスーパーバーニアに火が付き、再び加速を始める。

ここからのコースは直線コースが少なくなるため、先ほどと比較すると若干スピードを落として進んでいく。

煙幕を突破したほかのガンプラたちもカーブに差し掛かり、次々と曲がっていく。

その中には曲がり切れずにコースや別のガンプラに接触し、爆発したものもあった。


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