ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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第21話 温泉へGo!

青々とした木々であふれる群馬の山中を一台の白いワゴン車が走っている。

トランクではロボ太が窓から外の景色を眺めていて、カドマツが運転している。

「うわー、きれーーー!!ねえねえ、勇太君も見てよ!この景色ぃ!」

ワクワクしながら外の景色を後部座席から眺めるミサが前の助手席に座っている勇太に声をかける。

しかし、今の彼はそんなことができる状態ではなかった。

「ううう…ミサちゃん、静かにしてぇ…」

顔を青くした勇太が背もたれに身を任せており、起き上がることができなくなっている。

「にしても、意外だぜ。バトルではあんなに激しい動きをしてるコイツがまさか車に弱いなんてなぁ」

「短い距離なら…いいですけど…こんな、長距離はちょっと…」

東京から群馬へ高速道路で移動していた際、気分が悪くなった勇太は何度もサービスエリアに止めてもらい、トイレに数分間籠ったことを思い出す。

まさか、ここまで車に弱かったとは思いもよらず、山の中でも嘔吐していたこともあり、サービスエリアでエチケット袋や酔い止めの薬を買っておいてよかったと心から思っていた。

最も、酔い止め薬については慰め程度の効果しかなかったようだが。

「ありがとうございます、カドマツさん。わざわざ車を用意してもらったばかりか、運転までしてもらって…」

「構いませんよ、これくらいはお安い御用です」

「それにしても、まさかリージョンカップ優勝特典が群馬での温泉旅館1泊2日だなんて…」

「温泉自体は毎年恒例のことみたいですけどね」

「あの…私も来てよかったんですか?」

後部座席にはミサとユウイチ以外にも、もう1人乗っている人がいた。

本来は別チームに所属するサクラだ。

自分が彼らと一緒に行くのは何かの間違いではないかと思い、少し申し訳なさげにミサ達に言う。

「温泉旅行の定員は5人だからね。それに、サクラちゃんはミサのコーチなんだから」

「そうそう!私にバトルを教えてくれたお礼くらいさせてよ!」

「お礼だなんて…それは泊めてもらえただけでもう…」

「まーまー、そんなこと言わないでー…」

「うーん、そろそろのはずなんだが…ユウイチさん。どうですか?」

カーナビの時計を確認したカドマツは後部座席のユウイチに質問する。

本当は助手席の勇太に地図を見てもらい、彼に聞くつもりでいたが、今の彼がこのような状態であるため、ユウイチに頼むほかなかった。

「道はあってます。となると…あと10分くらいでしょうか」

「あと10分!?もうすぐじゃん!」

「10分…長い…」

車酔いですっかりボロボロな勇太にはミサとは違い、その10分がとてつもなく長く感じられ、余計に気力が落ちてしまう。

こんな弱った彼を見たサクラは不謹慎ではあるが、クスリと笑ってしまう。

「そんなにつらいのなら、ミサに膝枕してもらったらどうかしら?」

「ひ…膝枕ぁ!?!?」

サクラの発言を一番近くで聞いたミサが耳まで顔を真っ赤に染め上げ、大声をあげてしまう。

頭の中では、勇太を膝枕する自分の姿を思い浮かべてしまっており、余計に恥ずかしさが倍増していく。

「て、て、て…ていうか、そそそそ…そんな、そんな余裕は…」

すっかり慌ててしまったミサは何度も噛んでしまう。

あまりにもわかりやすい反応にカドマツはため息をつき、サクラは面白そうに笑う。

「そうだな。じゃあ、旅館で部屋についたら、そうしてあげたらどうだい?」

「お父さん!?」

本来ならそんなことを一番に反対しなければならない父親のユウイチの明後日の方向な発言にびっくりしてしまう。

「うう、静かに…静かにぃ…」

一連の会話をまるで聞き取れず、騒音のように響いた勇太はグッタリとしていた。

 

「ついたぁーーー!!」

山肌にある旅館前の駐車場に車が止まり、真っ先に飛び降りたミサが背伸びをする。

遅れてサクラが下りてきて、カドマツはトランクを開けると、そこからロボ太が下りてくる。

一方、勇太についてはユウイチに肩を貸してもらう形で降りることになった。

「す…すみません…」

「構わないさ」

勇太の意外な一面を見ることができたユウイチはニコニコ笑いながら彼を旅館入り口まで連れていく。

入口には紫色の着物を着た、白髪の老婆が待っていた。

「ご予約されていた彩渡商店街ガンプラチームの皆さまですね。虎の門屋の女将のユハラです。お待ちしておりました」

「代表のカドマツです。ああ、ちょっと連れの1人が車酔いしてしまって、部屋の案内お願いできますか?」

「ええ。どうぞ、こちらへ…」

ユハラに案内され、カドマツらは部屋へ案内される。

3階建ての広い虎の門屋には多くの客が入っており、勇太たちが泊まることになるのは2階の3人部屋と2人部屋が1つずつだ。

3人部屋には男性陣が、2人部屋には女性陣が入ることになっている。

なお、それを知った際にカドマツに勇太とミサが2人部屋に泊まったらどうかと冗談交じりに提案した際、2人とも顔を真っ赤にしていたが、それはまた別の話だ。

「温泉は6時から24時まで開いております。ご自由にご利用くださいませ」

ユハラがお辞儀をすると、部屋を後にする。

「それじゃあ、私たちは…」

「温泉へ出発ーー!!」

荷物を部屋に置き、サクラとミサは先に温泉へ向かう。

「あいつら…俺らに勇太のことを押し付けやがって…」

「す、すみません…」

「大丈夫だよ。吐き気のほうは大丈夫?」

勇太が乗り物酔いから回復するまで、それから20数分かかることになった。

 

「うーーん!!気持ちいーーー!!」

体を洗い終え、温泉につかるミサは思いっきり背伸びをする。

家のお風呂とは違い、ミネラルたっぷりの湯がミサの体を潤している。

ここの温泉は露天風呂になっており、男湯と女湯は分かれている。

「それにしても、サクラ遅いなー。もう温泉に入っちゃったのに…」

「お待たせ」

戸が開き、タオルを巻いたサクラが入ってくる。

彼女を見た瞬間、ミサの目線は一気に冷たくなっていく。

「…どうしたの?」

なぜそんな目をするのかわからないサクラは首をかしげる。

自分の不満に全く気付かない彼女の態度にミサはさらに機嫌を悪くし、あろうことか舌打ちまでする。

(なに…?ミサが…怖い…)

バトルでも感じたことのないプレッシャーにブルッと震え、サクラは体を洗い始めた。

「…うわあああああ!!!」

かと思えば、急にミサは立ち上がり、思いっきり声を上げる。

突然なんだと思ったサクラはミサに目を向け、さらに岩でできた壁の上に目を向ける。

この壁の先に男湯があり、とある猛者が必死によじ登って女湯をのぞいたことがあるという。

しかし、彼はそのあと見られた女性から投げつけられた風呂桶が顔面に直撃し、それによって足を滑らせて転落し、全治1週間のけがを負って入院したとのこと。

(まさか、カドマツが…?)

念のために壁の上を見るが、そこには誰もおらず、男湯からは声が聞こえないため、のぞきの可能性が頭の中から消えた。

 

「ヘックショイ!!」

「カドマツさん、風邪ですか?」

くしゃみをし、鼻水を出したカドマツにユウイチはポケットティッシュを渡す。

勇太はようやく起き上がることができるようになり、今はせめてものお礼として彼らのお茶の用意をしている。

「いや…大丈夫ですよ。まさか、ミサかモチヅキの奴が俺の悪口でも言ってんのかぁ…?」

受け取ったポケットティッシュで鼻をかみつつ、自分のうわさや悪口をいうような人物を脳内でリストアップする。

ミサは年上である彼に敬語を使わず、あろうことか呼び捨てで読んでおり、モチヅキについては何かと理由をつけてこちらに突っかかってくる。

どうして自分の周りにはおしとやかな同年代の女性がいないのかとさえ思ってしまう。

そういう女性といきなり同僚や後輩でできたりしたら、カドマツにはすぐに告白しに行く自信があった。

「カドマツさん、ユウイチさん。濃さ、どれくらいにしますか?」

味の好みを聞くのを忘れていた勇太が戸棚から湯呑を探しながら尋ねる。

「ええっと、じゃあ俺は…」

 

「なんで…なんでサクラはスタイル抜群で、私はペチャパイなんだよーーーーー!?!?」

「ミサ、落ち着いて!!」

我を忘れ、叫び続けるミサをサクラは必死に抑える。

ジャンバーを着ていることからあまりわからないが、サクラはモデルのようなスタイルの持ち主であり、胸も誰が見てもわかるくらい大きい。

ZZで登場したキャラ・スーンほどではないが、Gガンダムのアレンビーくらいはある。

しかし、ミサの場合は悲しいことに、文字通りの貧乳だ。

確かに出っ張っているのは出っ張っているが、あまり目立たないつつましさで、そのためにサクラに強い劣等感を感じてしまう。

「うがーーーー!!あんたにはわかんないんだよー!!ペチャパイの悲哀ってやつをさーーー!!」

「わかった、わかったから、そんなことを大声で言っちゃダメーーーー!!」

まるで泥酔して泣き上戸になった人のように、今度は泣きながら大声で語り始める。

サクラ自身、もうすればこの事態を収束することができるのか、解決策を見出すことができずにいた。

 

「あの…ユウイチさん?どうもあの娘、とんでもない状態になってますが…大丈夫ですか?」

「うーん…これはちょっとかかるかなぁ…」

温泉につかるユウイチは体を洗うカドマツの質問に苦笑しながら答える。

去年はプールの授業で、胸のことをいじられた結果、今みたいな状態になってしまったことを二者面談の時に担任に教えられたことがある。

彼や現在は仕事で不在のミサの母親はどうにか、自分たちの愛娘の胸をどうにかできないか考え、食事などでいろいろ試みているが、なかなか成果が出てこないらしい。

なお、勇太はあったことがないためわからないのだが、ミサの母親も貧乳で、どうやら遺伝が関係しているものと思われる。

「そういやぁ、勇太はどっちが好きなんだ?」

「へ…?」

質問の意味が分からない勇太は首をかしげる。

というよりも、意味を理解したくなかったというほうが正しいかもしれない。

ここから始めるだろう、卑猥なトークに付き合いたくなかった。

ここまでの展開でそれくらいわかるだろうと思い、ため息をつきながら湯で体を流したカドマツはじっと勇太を見る。

「胸だよ。お前は…貧乳と巨乳のどっちが好きなんだ?」

「そ、そ、そんな大真面目に何とんでもないことを…!?」

真っ赤になった勇太は男の悲しい習性か、ミサとサクラの胸を妄想してしまう。

2度にわたって、ミサに抱き着かれたことがある勇太は彼女がちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが柔らかいものがあることを理解している。

元チームメイトであるサクラについては言わずもがなだが。

なお、日本では1970年代くらいになるまでは逆に巨乳の方がコンプレックスの対象となっており、Aカップの女性の方が1980年代まで半数以上を占めていたらしい。

また、バランスのとれた生活をすれば、17歳でまだまだこれからのミサには成長の余地があることを忘れてはならない。

「ほら、さっさと答えろよ、勇太」

「ハハ…僕もちょっと興味があるかな」

なぜかユウイチがカドマツの加勢に入り、2人がかりで勇太を追い詰めていく。

ミサとサクラのどっちが好きなんだ、というのと同じ意味合いの質問をカドマツがしているにもかかわらず、だ。

「そ、そ…それは…それはーーー…」

心臓が激しく動き、ブルブルと体を震わせながらどういう答えを出せばいいか迷う。

この状態が3分続き、急に彼の視界がゆがみ始めた。

「お、おい!?大丈夫かよ!?」

「急いで部屋へ運ぼう!カドマツさん、運んだら冷たいタオルを持ってきてください!!」

(え…?何?僕…どうなっちゃったの…??)

のぼせて考える力を失った勇太は2人の会話がだんだん聞こえなくなってきた。

そして、状況を理解できないまま意識を失ってしまった。

 

「うう、うーん…」

ゆっくりと目を開けた勇太は木でできた天井を見る。

体は熱くなっているままで、頭も変な感じがする。

額からは冷たい感触があり、触れるとそれがタオルだということがわかる。

背中にはいつもより若干柔らかめの敷布団の感触がし、カドマツとユウイチがやったのか、下着と浴衣は既に着ている。

「ここは…?」

「あ、勇太君起きた?」

部屋の戸が開き、浴衣姿のミサが入ってくる。

手にはレトロな雰囲気のあるガラス製の2本の牛乳瓶が握られている。

「ミサ…ちゃん…?ということは…」

「そう!ここは私とサクラの部屋。ほら、飲んで!」

「あ、ありがとう…。でも、部屋だったら隣に…」

「べ、別にいいじゃん!」

押し付けるように牛乳を渡したミサは勇太の隣に座り、一緒に牛乳を飲み始める。

のぼせたとはいえ、やはり湯につかったばかりであるためか、発汗機能アップや貧血防止、リラックス効果のおかげか、いつも飲む牛乳よりもおいしく感じられた。

先日見た、昭和の人々の生活を描いた映画の中でも、ある親子が銭湯から出て牛乳を飲むシーンがあった。

風呂上がりに牛乳を飲んだことのない勇太はその意味がよくわからなかったが、今になってようやくわかったような気がした。

「それにしても、うれしいなぁ…。リージョンカップで優勝して、こんな副賞がもらえるなんて…」

「となると、ジャパンカップ優勝の時の副賞が楽しみだね。もしかしたら、海外旅行なんてのがあるかも」

「海外かぁ…。勇太君はどこへ行きたいの?」

「そうだな…僕は台湾かな?あんまり遠くへ行きたくないし」

「そんな理由で選ぶなよぉ!?」

つっこまれた勇太は牛乳を飲み終え、空っぽになった瓶を部屋の出入り口にある瓶入れに入れる。

ここに入れておけば、従業員が持って行ってくれる。

まだ頭痛がするとはいえ、ちゃんと歩けるようになったことから、治ってきていることがわかる。

「あれ…?そういえば、サ…」

「勇太君!一緒にテレビ見ない!?」

「え?どうしたの、急に…」

「いいから!!」

サクラが戻っていないことに気付き、探そうと思った勇太の腕を引っ張り、部屋にとどまらせたミサは机の上にあるリモコンを手に取り、備え付けのテレビをつける。

時代の変化のためか、置かれているテレビはブラウン管ではなく、薄型の物へと変わっており、インターネットにもつながっている。

ミサに手を握られ、出られなくなった勇太は観念して、彼女の隣に座ってテレビを見ることにした。

温泉から出たばかりなのか、彼女からシャンプーの匂いを感じてしまい、おまけに肌もきれいになっているようにみえ、心臓の高鳴りを感じた。

(さーって、7月末に行われるジャパンカップ注目チーム紹介の時間でーす!!)

インターネットで放送されている番組の1つであるガンプラ専門番組『ガンダム万歳』が流れ、ジャパンカップという言葉を聞いたミサの勇太を握る手の力が強くなる。

この番組が毎週水曜日の午後7時に更新されており、ガンダムファンがよく見ていることから、視聴率は下手な報道番組よりも高い。

(今回注目するチームは…彩渡商店街ガンプラチームです!!)

「えっ!?わ、私たち!?私たちのチームが注目チーム!?)

映像には勇太達のバトルの光景が映し出され、それらを見るたびにミサは目を輝かせていた。

(SDガンダムもチームに入っているという変わり種ですが、彼らの最大の武器は何だと思います?)

(それはやはり、粘り強さでしょう。最後の最後まであきらめず、ただひたすらに勝利を目指すところ!うらやましいですねぇー)

(さらには覚醒が使えるファイターもいる、というところも大きいですよね?)

(はい。覚醒が使えるファイターはごく一部ですし、それが与えるアドバンテージが大きいのは確かです。ジャパンカップで覚醒を使うファイター同士がぶつかり合う試合、期待できそうです!)

「期待できるって…。よかったね、勇太…君…?」

嬉しそうに勇太を見つめるミサは彼の顔を見て、動きが止まる。

放送を見ていた勇太の目から一筋の涙がこぼれていた。

「泣いてるの…?」

「え…?」

ミサの質問にびっくりした勇太は違和感を感じる頬に指をあてる。

そこにはミサの言う通り、涙のしずくがあった。

勇太自身も、自分が涙を流していたことに全く気付いていなかった。

だが、泣く理由が思いつくとしたら、1つしかない。

「兄さんのことが…話題にならなかったから、かな…?」

「勇武さんの…?」

「うん。死ぬ前までは、リージョンカップで優勝したりしたから、日本最強のファイターになる可能性のある若きホープって、持ち上げられていたから、僕がチームに入っているってことから、話題になるかなって思ってたけど…」

彼が事故死した後、週刊誌や新聞などのメディアでは若きホープの悲劇として、連日彼のことを話題にしていた。

一部では、この事故が彼の才能をねたんだ人々による陰謀ではないかとささやかれたこともある。

しかし、そのような報道は長続きせず、いつの間にか勇武のことは話題にすらならなくなり、一部のファイターがその名前を憶えているだけで、ほとんどの人から彼の存在が忘れ去られていた。

そうなると、彼の弟である勇太は彼と比較されることがないため、コンプレックスを煽られることはない。

しかし、自分があこがれていた兄が忘れ去られているという事実に悲しみも覚えた。

「勇太君、必ず優勝トロフィーを勇武さんに見せてあげよう」

「ミサちゃん…」

勇太の正面に座ったミサはじっと彼の眼を見る。

サクラとの特訓のおかげか、彼女の眼には強い自信が宿っていた。

必ず、ジャパンカップで優勝するという強い自信が。

「うん…君と一緒なら、できる…」

笑みを浮かべた勇太は優しく答える。

数か月前に会い、一緒に戦った日々が彼のミサへの信頼を構築していた。

一緒なら、どこまでも進むことができる、進化できると。

「「あ…」」

見つめあった勇太とミサは同時に顔を赤く染めていく。

しかし、どちらも相手の顔を見ているだけで、目をそらそうとしない、というよりもできない。

「…」

「ミ、ミサちゃん…??」

おもむろに目を閉じたミサを見た勇太の心臓が激しく動き始める。

温泉でカドマツに卑猥な質問をされた時以上の高鳴りを、今の勇太は感じている。

ミサの顔がゆっくりと近づいていき、それにつられるように、勇太も目を閉じて彼女に顔を近づける。

「ミサー、そろそろピンポンをし…に…」

ガラッとふすまが空き、浴衣姿のサクラの声が聞こえたことでびっくりした2人はゴチンと鈍い音を響かせる。

互いの歯がぶつかり合い、痛みで2人とも口を手でふさいでいる。

(あ…これは、もしかして…)

どういう状況か理解したサクラだが、時すでに遅し。

今のミサから、温泉の時以上にすさまじいプレッシャーが発せられていることを感じた。

「サクラ、この野郎ーーーーー!!!!!ボンキュッボンな体を見せつけるだけでは飽き足らないってのかーーーー!?!?」

「ミ、ミサぁ!?」

「ミサちゃん、落ち着いて!!」

「邪魔を…するなぁーーーー!!」

すっかり暴走してしまったミサを止めようと後ろから抑える勇太にみぞおちにミサの肘が直撃する。

鈍い一撃を受けた勇太は一撃で目を回し、あおむけに倒れてしまった。

勇太から解放されたミサは目をキラーンと光らせ、怪しげな笑みを浮かべ始める。

(ま、まずいわ…。ミサが、ミサが悪魔に…!)

「へへへへ…サークラさーん…。付き合ってあげるよ…ピンポン。泣いて許しを請うくらいに…」

「い…いや…」

ここからどうなってしまうのか、理解できたサクラは2人の邪魔をしたのを心の底から後悔した。

 

「あーあー、またこんなんなっちまって…」

ミサとサクラがいなくなった十数分後、部屋にやってきたカドマツは気絶した勇太をユウイチと一緒に男部屋へ運ぶ。

ロボ太が用意した布団で、勇太は横になった。

「にしても、いったい何があったんだ?急に、ミサの大声が聞こえたみたいですけど…」

「さぁ…?」

ユウイチも何が起こったのか予想できないようで、肩をすくめる。

答えを知っているであろう勇太がこの状態であるため、状況を知ることができなかった。

 

その日、2階のピンポン場が閉まる午前2時に従業員が掃除にやってきた際、床で横になっているミサと壁にもたれて座っているサクラの姿が目撃されたという。

ミサはぐっすり眠っていたのに対し、サクラは顔を青く染めてブツブツと何かをつぶやいていたという。

台の周辺にはつぶれたピンポン玉がいくつも転がっていた。


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