ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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第20話 勇太VSホウスケ

「ハハハ!まさかミサがガンプラバトルでここまで強くなっとるっては、びっくりやで」

ゲームセンターの大きなテーブルで、大笑いしながらホウスケは自販機で買ったジュースを飲む。

サクラと勇太は状況を飲み込めておらず、ミサに限ってはホウスケをじろじろ見ている。

「なんや、俺が何ぞおかしいでっか?」

「いや…どう見ても、小学校の頃のホウスケ君と重ならなくて、混乱してる…」

ミサの脳裏に浮かぶホウスケは今の勇太以上に人見知りで、目立つのを苦手としている内気な少年だ。

しかし、今の彼は黒かった髪を黄色く染めた上に、周りを顧みることないで好きなジャズ音楽を流す上にかなり明るくなっている。

とても当時の彼とイメージが重ならない。

「そういやぁ、ワレはミサのチームメイトみたいやけど…どうも頼りひんのぉ。気迫が感じられん」

「アハハハ…」

ジロジロと顔を見られ、そう指摘された勇太は苦笑いするしかなかった。

反論しようにも、基本的にシャイである彼にはその材料がなく、したとしても返り討ちにされるのがおちだ。

しかし、ミサはその言葉が気に入らないのか、不機嫌な表情を見せる。

「まったく、来るってんなら、連絡してこい!」

お茶を持ってきたイラトは少し怒った表情を見せながら、ホウスケ達にお茶菓子を出す。

金の亡者であるイラトがそのようなことをするのは普段ではありえない話だ。

表情には見せないが、孫である彼が来てくれたことがうれしいのかもしれない。

「ところで、ホウスケさんはいつまでこちらにいるんですか?」

「明後日までやな。そのあとは大阪に帰って、合同練習せにゃあ…」

「合同練習!?ってことは…」

「せや!大阪代表として、ジャパンカップに出場や!」

テーブルの上に片足を置き、天井に向けて右手人差し指を突き立てながら高らかに宣言する。

そして、そのまま人差し指を今度は勇太に向ける。

「そこでだ。沢村勇太!ワレと1対1で対決する!!」

「え、ええ!?」

急に指を刺され、宣戦布告された勇太は突然のことに驚き、目をきょろきょろさせる。

特訓のため、勇太の自分のガンプラを持ってきているため、勝負については応じることができる。

だが、なぜこのタイミングで受けなければならないのかがわからなかった。

「ファイター同士、出会ったらバトルするもんやろう?それとも、ミサの力になれん腰抜けと認めるんか!?」

「ちょっとホウスケ君、言い過ぎ!!」

「そんなんやったら、ジャパンカップで勝ち進むなんて、夢のまた夢や!!」

「ハァ…わかった。わかったよ!」

ため息をついた勇太はお茶を飲み干すと、彼のバトルの申し出を受ける。

そして、テーブルに置いてあるバルバトスを手に取る。

「ほぉ、それがワレのガンプラか。頼りひんくせに、無駄に赤いのぉ」

「頼りないは余計だよ。ふぅ…だったら、そんなことを2度と言えないようにしてやる…!」

さすがに頭に来たのか、勇太は怒りを見せながらホウスケに宣言する。

オオーッと興味津々に見つけるミサに対して、サクラは本当に勇太は彼に勝てるのかどうか疑問に思った。

彼のガンプラ、ケストレル・フィルインに対して、サクラは修行のせいで消耗していたとはいえ、ミサの助けがなければ攻撃を当てることさえできなかった。

また、彼は何も考えていなさそうに見えるが、実際にバトルをしたことで、その中でも自分なりに戦略を立てて、暴れまわることができていることに気付いた。

推薦枠から出場する彼女から見ても、彼は手ごわい。

 

5thルナ宙域のステージに、バルバトスとケストレルが現れ、2機は互いに対峙する。

『逆襲のシャア』序盤の場面を再現しているためか、5thルナは現在進行形で地球に向けて落下している。

「さてっと…この宙域で戦ったアムロとシャアのような、互角な戦いをしてくれることを期待するで?」

「満足してくれるかどうかは分からないけど…!」

そういうと、バルバトスが青いオーラに包まれていく。

ホウスケはホゥと興味深げではあるものの、あまり驚かずにその姿を見ていた。

「これが巷で話題の覚醒…。システムでは確かに存在するんやけど、使える人間が限られとるっちゅう…」

「ミサちゃんとサクラさんと戦っているところを見たからわかる。手加減しちゃいけないってことくらいは」

「だったら、俺も手加減なしでええっちゅうことやな」

ケストレルはメガビームランチャーを捨て、ビームブレイドを展開する。

そして、バルバトスは超大型メイスを握り、互いににらみ合う。

5thルナが地球へ落ちていく音だけが聞こえ、数秒間の静寂ののち、まずはバルバトスが前へ出る。

ケストレルは両肘のビームブレイドを大型化し、それからビームを連射する。

1発1発がビームライフルと同じ威力のそれをバルバトスは超大型メイスでコックピットを守りつつ、不規則に動き回りながら進んでいく。

その攻撃では無駄だと判断したケストレルはビームブレイドの発射を辞め、刃を出したままバルバトスに突撃し、つばぜり合いを演じる。

2本のビームブレイドで超大型メイスを受け止めているケストレルをモニターで見た勇太は驚きを隠せない。

「すごいパワー…これが、ケストレルの…」

「レーザーロケット推進器…。デラーズ紛争でアルビオンに搭載されていたレーザーロケットの改良品や!!」

惑星間航行を目的として開発されたその推進器が生み出すパワーは覚醒したバルバトスを上回っていて、バルバトスが押されていく。

そして、近くに浮かんでいる5thルナの破片に背中が激突する。

「くう、うう…!!」

覚醒したバルバトスがまさかの力負けをしていることに驚きつつ、危機を脱することを最優先に考え、ケストレルの横っ腹に蹴りを入れる。

異なる方向から突然の攻撃を受けたことで体勢が揺らいだ隙をついて、バルバトスはケストレルから離れる。

超大型メイスを投げ捨て、バックパックにマウントされているビームショットガンを手に取り、ケストレルに向けて発射するが、ビームシールドに変形させたビームブレイドで受け止められる。

破砕砲を使うという選択肢があったが、高い反応速度と機動力を誇るケストレルの前でそれを使用するのは自殺行為だ。

だが、結局接近を許してしまい、ビームブレイドでビームショットガンを切り裂かれる。

腰にマウントされているガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスの2本の日本刀を引き抜き、ビームブレイドやビームマドゥによる変則的な連続近接攻撃をさばいていく。

覚醒と阿頼耶識システムによって反応速度が向上しているおかげで、今はさばくことができているものの、覚醒には時間制限があり、それが切れた場合に今のように守り切れるか自信がない。

合計6本のビームサーベルを持っていることになるケストレルの方が手数ではバルバトスを上回っているからだ。

「あの勇太君でもここまで一方的に…!?」

勇太の実力をよく知っているミサも映像で流れている現実を受け入れるのが難しかった。

そして、なぜホウスケがここまで実力を持ったのか疑問を感じ始める。

(ホウスケ君はガンプラバトルを小学校に入ってから始めてる…。勇太君にはブランクがあるから、バトルの経験では上回ってるかもしれないけど…)

技量についてもだが、覚醒したバルバトスを上回るパワーを発揮している理由がわからない。

秘密はケストレル自体にあるのかもしれないが…。

ビームブレイドとビームマドゥの連続攻撃をさばきながら、勇太はどうやって攻略すべきか考える。

考える中、タウンカップ決勝でカドマツが言っていたことを思い出す。

(ノーマルのシステムに最初っから入ってるけど、使用条件がわからないのさ。なんでも、時間制限があるが、爆発的に性能が上がったり、サイコフレームやバイオセンサーがついたモビルスーツが見せたような想定外の現象を引き起こすことができるらしい)

そして、リージョンカップ決勝でアトミックバズーカからミサやロボ太を守り抜いた時のことを思い出した。

「もっと…もっとできるはずだ…。覚醒の力は、こんなものじゃない!バルバトスだって…そうだろう!?」

答えが返ってくるわけではないことは分かっているのに、勇太はバルバトスに問いかける。

それに対して返事をするかのように、バルバトスのツインアイが一度点滅した。

同時に、阿頼耶識でつながっているせいなのか、なぜか意識が一瞬だがクリアになったように感じられた。

「こいつで…どうだ!!」

短期決戦型のケストレルも決着まで時間をかけるわけにはいかない。

バルバトスから距離を置き、両手を繋いで超大型のビームブレイドを発生させ、その刃がバルバトスに襲い掛かる。

覚醒したとはいえ、ガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスはあくまでもサブ武装であり、強度はそれほど高いものではない。

ひび割れが目立っており、後何回耐えられるかくらいだ。

「なら…!!」

2本の刀を鞘に納め、両手を前に出して大出力のビームブレイドを正面から受け止める。

「避けずに素手で受け止める…ハハッ、おもろいでぇ!!」

ナノラミネートアーマーとはいえ、長時間ビームを受け止めているとコックピットに蓄積する熱量が限界を超え、それが原因で撃墜判定が出てしまう。

実際、熱は確かに伝わっており、耐圧服の中に汗臭さを感じる。

「まだだ…まだだぁ!!」

「見て!?バルバトスを包んでるオーラが…!!」

受け止める中、バルバトスのオーラの色が両手に集中していく。

そして、ビームブレイドをまるで紙を破るかのように両手でバリバリを分断していく。

「何やてぇ!?」

「ハァァァァ!!」

左手の青いオーラがバリアとなってビームを弾きながら中央に向けて突進していく。

「せやったら、こっちもぉぉぉ!!」

熱くなったホウスケは何かシステムを起動しようとしたが、次の瞬間、別方向から真上からバルバトスとケストレルに向けてビームが飛んでくる。

直線的なビームだったため、ケストレルは難なく回避し、バルバトスは右手で受け止める。

「乱入!?」

見上げると、そこには勇太にとって見覚えのあるガンプラが浮かんでいる。

緑を基調とし、ヒョウ柄の模様があるガーベラ・テトラ改がいて、そのガンプラのファイターが誰だか、すぐに気づいた。

「くそ…!闇討ち失敗かよ!?」

コックピット内で、タイガーは舌打ちする。

彼は2度にわたって勇太に、しかもろくな完成度ではないガンプラで倒されたという屈辱を受けたことで、元々初心者狩りをしていて悪かった評判がさらに悪化した。

ファイター達からは馬鹿にされ、タウンカップでも1分足らずで敗れたこともあって嘲笑の対象になるまで落ちぶれてしまった。

こうなったのは全部勇太のせいだと思ったタイガーはこうして彼に復讐する機会をうかがっていた。

暴力に訴えるのではなく、曲がりなりにもガンプラバトルで復讐しようとしている点はある程度評価できるが、そこまでだった。

「邪魔(だ)(や)!!」

2人の猛者のバトルに水を差してしまったことの意味をタイガーは理解していなかった。

飛んできたビームブレイドの刃が両足とビームマシンガンを貫いていく。

そして、バルバトスは右手にオーラを集中させた状態でそのまま正面に向けて接近していく。

「う、うわああ!?し、姿勢制御が!!」

両足を切られ、姿勢が狂ったタイガーのガンプラの胸部に容赦なくバルバトスの右拳がぶつけられる。

同時に拳から発生する青いオーラが衝撃波となって前方にさく裂し、タイガーのガンプラがバラバラになって吹き飛んでいく。

「うぎゃああああ!?何が、何が起きてるんだーーーー!?」

何が起こったのか理解できないままタイガーは青い光に包まれていく。

光りが消えると、そこにはタイガーのガンプラだったものの残骸が宙域を漂い、撃墜判定と共に消滅した。

これで覚醒が限界を迎えたのか、バルバトスの両手に集中していたオーラも消滅した。

「ハアハア…」

厚さに耐えられず、バルバトスの酸素供給システムを起動させてからヘルメットを取る。

冷たく心地いい空気がコックピット内に漂い、勇太は深呼吸してその空気を体内に取り込んでいく。

「続き…どうする?」

ケストレルに目を向け、問いかける。

覚醒はしばらく使えないが、バトルの継続自体には問題がない。

しかし、ケストレルはビームブレイドを止め、同時にジャズを流していた音楽プレイヤーも止めた。

「いいや、このまま決着をつけてもおもろない。どうせ決着をつけるなら、ジャパンカップでつけるんがええやろ?」

「…そうだね」

「楽しみにしとるで、ワレとのバトルを」

「うん…。僕も楽しみだよ、ホウスケ君…」

 

「勇太君、熟睡しちゃってる…」

「無理もないわ。覚醒をああいう形で使ったんだから…」

ミサとサクラはソファーに座ったまま眠ってしまった勇太を見ている。

バトルを終え、シミュレーターから出てきた勇太はソファーに腰掛けると同時にそのまま眠ってしまった。

リージョンカップ決勝戦でアトミックバズーカからミサ達を守り、優勝を決めた帰りの車の中でも勇太はパーティーが始まるまで眠っていた。

「覚醒はファイターにも負担がかかるわ。おまけにあんな形で制御した分、体力を余計使ってしまったのかも…」

「サクラもそれで疲れることがあるの?」

「そうね。力を増幅させるだけなら疲れにくいけど…私の場合はあの時見せたように、分身を使うこともあるから…」

おそらく、サクラの言う分身も覚醒によって発生するエネルギーを制御して発動しているのだろう。

勇太のように疲れを見せることはなかったが、もしかしたら実際は勇太以上につかれていたのかもしれない。

「それにしても、ホウスケ君、もう帰っちゃったなんて…」

シミュレーターから出てきて、勇太がこうして眠ってしまった後で、ホウスケは大阪に帰ってしまった。

イラトには埋め合わせをすることを約束したうえで。

おそらく、勇太とのバトルによって何か触発されたものがあったのだろう。

「さ…私たちも特訓を再開しましょう、ミサ。あの2人に置いていかれるわけにはいかないわ」

「うん!私も…勇太君と一緒に戦い続けたいから!ロボ太もどう?」

ミサの誘いに首を縦に振ったロボ太の手にはフルアーマー騎士ガンダムが握られている。

あのバトルを見たせいか、彼もバトルがしたくて仕方がないのだろう。

「じゃあ、3人一緒に特訓ね」

「了解!じゃあ、行ってくるね、勇太君」

耳元でつぶやいたミサは2人と一緒にシミュレーターに入っていく。

1人になり、インフォが機械の手入れをしている中で、勇太は静かに眠り続けていた。

疲れているにもかかわらず、どこかうれしそうな顔で。




機体名:アザレア・パワード
形式番号:ASGT-01AP
使用プレイヤー:井川美沙
使用パーツ
射撃武器:ビームマシンガン(ゲルググJ)
格闘武器:ビームサーベル
頭部:アカツキ
胴体:シェンロンガンダム(EW)
バックパック:ガンダムヴァーチェ(マイクロミサイルランチャー×2、フラッシュバン×2装備)
腕:インパルスガンダム
足:ローゼン・ズール(ミサイルポッド×2装備)
盾:シールド(Ez8)

アザレア・カスタムをジャパンカップに向けて改造したもの。
機動力よりも火力を重視した設計となっており、ミサイルや大出力のGNバズーカ、更に取り回しを重視したビームマシンガンと多彩な後方支援用の装備がそろっている。
また、動力源が太陽炉に変更されたことで推進剤を気にする必要がなくなった。
ただし、近接戦闘能力に関しては上昇しておらず、あくまでバルバトス・レーヴァテインとフルアーマー騎士ガンダムとの連携を前提としたコンセプトについては変更されていない。

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