(そ、れ、で、はーーー!!リージョンカップin東京、予選を開始するぜぇ!)
実況席で、黒いリーゼントと土壌髭が特徴的な細身の男性がマイクをもって実況する。
会場は予選であるにもかかわらず満席で、立って観戦している人も少なくない。
(タウンカップを制し、このリージョンカップに集まった諸君!その実力をプルーマハントで示してくれーーー!!)
プルーマハントとは、各チームがそれぞれ独立したフィールドに配置され、次々と現れるプルーマを文字通り撃破していって、その数を争う形式のバトルだ。
30分経過する、チームが全滅する、10機以上のプルーマがそれぞれのステージに設定されている最終防衛ライン(最初に自チームが配置される場所から後ろに少し離れたところがスタンダード)を突破されると終了となり、この時点で撃破したプルーマの数が記録となる。
なお、プルーマは第一波、第二波というように大量の軍勢を率いて何度もやってきて、ランダムでハシュマルが混ざる。
ハシュマルは最終防衛ラインを突破することがないものの、圧倒的な性能でチームを壊滅させようと動いてくる。
ハシュマルは出てきてから3分経過すると消えるが、その間に撃破に成功した場合はプルーマ20機撃破と同じ価値がある。
また、5の倍数目の軍団が全滅した際には3分程度のインターバルがあり、近くに2機設置されている補給装置に触れることで弾薬やバッテリー、推進剤などを回復させることができ、更にはガンプラの応急修理や装備の換装も可能となっていて、そのインターバルの間は制限時間が減らない。
だが、ハシュマルやプルーマに補給装置が破壊された場合はもう補給を受けることができなくなる。
補給装置の形は地上では『コロニーが落ちた地で…』で登場するホバートラックのオアシス、宇宙では鉄華団の宇宙用モビルワーカーとなっている。
それぞれ見た目はもろそうだが、耐久性は高めに設定されている。
最も、それでもプルーマの大軍の前では雀の涙程度かもしれないが…。
「よーし、頑張ろう!勇太君、ロボ太!」
「うん。後方支援は任せるよ」
ミサにそう答えた勇太に対し、ロボ太は彼女にサムズアップをする。
シミュレーターに入っていないため、声を聞くことができないものの、それでもミサにはロボ太の言いたいことが分かった。
「いっぱい、集まってる…」
観客席に入ってきた、黒い帽子と灰色のトレンチコート姿で、おまけに黒いサングラスと白いマスクをつけたいかにも怪しい人物が予想以上の人の数に驚きながらも、出入り口付近から出場者たちの姿を見ていた。
「あれは…!!」
出場者たちを見る目が、勇太たちのところで止まる。
「まさか…勇太君??」
「よし…バルバトス、出撃準備OK!」
(いいか?プルーマは50機で一軍だ。後ろを取られるんじゃねーぞ?)
「了解。沢村勇太、バルバトス、出るよ」
カタパルトからバルバトスが初出され、同時に出撃した騎士ガンダムとアザレアと共に東南アジアのジャングル地帯に放り出される。
ジャングルの中には撃破されたザクやグフ、ジェット・コア・ブースターといった一年戦争時代のモビルスーツや航空機の残骸が残っている。
このフィールドの元ネタは機動戦士ガンダム戦記Battlefield record U.C.0081で、ここでユーグのジーライン・ライトアーマーとエリクのイフリート・ナハトが初対決をした。
そんなジャングルに、ここで倒れた戦士たちの魂の眠りを邪魔するかのようにプルーマとハシュマルがやってくるのだ。
「ロボ太、電磁スピアにビームガンを2門外付けしたけど、使えるかい?」
「問題ない。だが、パイルバンカーまでつける必要があったのかは疑問だ」
電磁スピアを手にしたロボ太はずっとそのことについて違和感を感じ続けていた。
確かに、騎士ガンダムは遠距離攻撃用の装備がないため、必然的に接近戦を仕掛けなければならなくなる。
その際に邪魔になるのは誘導兵器で、それの対処とけん制のためにビームガンをつけたのはまだわかる。
しかし、パイルバンカーについては有効なのはナノラミネートアーマーやフェイズシフト装甲といった実弾射撃に高い耐性を持ったもののみ。
パイルバンカー自体、ロマン武器という面が強いため、ロボ太にとってはあまり合理的には思えなかった。
「メイスはなぜかこのシミュレーターでは槍の扱いだからね。それに、杭に少し仕掛けを施してるから、気に入ってもらえると思うよ」
「むう…まぁ、主殿がそういうのであれば…」
「熱源反応…!来るよ!!」
ミサから贈られた熱源反応が出た座標データを2人は確認する。
「よし、各機Vフォーメーション!僕とロボ太が前に出る!」
勇太の言葉を聞き、ミサを中心にVフォーメーションとなると同時に、ミサは新しくなったバックパックからレールガンを手にする。
「来るなら来ーい!このアザレア・カスタムのレールガンは痛いぞー!」
例の座標の位置の木々がなぎ倒されていき、そこから数十機のプルーマが飛び出してくる。
おまけに、オリジナル設定として各機体にはビーム砲やレールガン、ガトリング・スマッシャーやミサイルランチャーといった多種多様な装備が施されており、圧倒的に数が上な分、かなり厄介な相手になっている。
「ここはソードメイスより!」
大ぶりになりがちなソードメイスの使用を断念した勇太はマニピュレーターに装着されているクローで近づいてくるプルーマを片っ端から引き裂いていく。
クローそのものの威力は破砕砲やソードメイスよりも低いものの、小回りが利く上に勇太がグリムゲルデのヴァルキュリアブレードに採用されている特殊希少金属製のものに作り替えたことで、切れ味がよくなっている。
といっても、高硬度レアアロイ製のフレームを切断するほどのものではないため、それだけの切れ味を求めるのであれば、太刀の方がよいという一面もある。
懐まで近づいてきたプルーマを切り裂いていき、少し距離のある相手に対してはワイヤー・クローで捕獲し、別のプルーマにぶつけて撃破していく。
「(密林の中でもワイヤー・クローを使いこなすとは…さすがは主殿だ!)殺りく兵器の人形め、勇者の剣のサビとしてくれる!!」
プルーマからのマシンガンによる攻撃を盾で防ぎつつ、接近して電磁スピアで貫き、遠くにいるプルーマをビームガンでけん制していく。
威力は小さいが、連射性能の高いビームガンによる攻撃を回避するプルーマ達だが、そこに高速で質量弾が襲い掛かり、バラバラに吹き飛んでいった。
「いい攻撃だ、ミサ!」
「まだまだいくよーー!」
無人兵器ゆえか、レールガンのまさかの破壊力に動揺を見せずに集団で動くプルーマたちにむけて、再びそれを発射する。
給電レールがスパークし、破砕砲に匹敵するスピードで発射されるT字型の質量弾が着弾すると同時に再びプルーマがバラバラな残骸と化し、周囲のそれも吹き飛んでいく。
「電気の残量と弾数…うん、大丈夫!」
アザレアのバックパックとして新たに採用されたアトラスガンダムのサブレッグと共に追加された兵装であるレールガンは改造されたことで水中でなくてもプラネイト・ディフェンサーのような電磁バリアを展開することが可能となっている。
しかし、残弾だけでなく電気残量も確認しなければならないという欠点がある。
だが、この破壊力はその欠点を埋め合わせるだけのものがある。
(ミサー、味方にあてんなよ?)
「そんなヘマしないって!」
あっという間に第一波のプルーマが全滅し、間髪入れずに次の軍団が現れる。
「勇太君、ロボ太!充電してるから、レールガンの援護は待って!」
「了解!!」
「心得た!」
破砕砲を手にし、接近してくる軍団の中央に向け、両足をワイヤークローを地面に突き刺して固定した状態で発射する。
着弾した地点から大きな爆発が発生し、生まれた火の玉の中にプルーマ達が消えていく。
「でっかい火の玉(グレートボールオブファイア)、ですな。主殿」
「ロボ太、それ、どこから…?」
どこかで聞いたことのあるセリフをロボ太が口にし、苦笑いした。
「…!大きな熱源、ハシュマルが来るよ!!」
「このタイミングで…!」
上空を見ると、そこにはミノフスキー・クラフトを搭載したハシュマルが浮かんでおり、地表に向けて高濃度圧縮ビームを発射する。
「空中からビームって、そんなの聞いたことないよ!?」
「ハシュマルも改造済みってことか!」
発射されているビームの出力はタウンカップで戦ったハシュマルのそれを大きく上回っており、タウンカップとリージョンカップの大きな差を感じざるを得ない。
空中へ飛んで回避したことで、ダメージを負わずに済んだものの、着弾地点には大きなクレーターが出来上がり、木々も炎上している。
「勇太君!!」
「主殿!」
「ん…やってみるよ。うおおおおおお!!!!」
勇太の叫びと共に、バルバトスが覚醒し、青いオーラを纏う。
そんなバルバトスを見たハシュマルはそのモビルスーツが一番の脅威だと判断し、内部で製造していたプルーマを次々と出撃され、更に強制冷却材によってビーム砲を一気に冷却していく。
「プルーマ…好都合だ!!」
上昇を続けるバルバトスに向けて、出撃したプルーマはビームやミサイル、マシンガンなどで弾幕を張るが、青いオーラによってそれらが阻まれ、バルバトス本体に一切ダメージを与えることができていない。
更に、あろうことかバルバトスは質量の小さいプルーマを足場代わりにしてさらに上へ飛んでいき、踏まれたプルーマはバルバトスが離れたと同時につぶれて爆発する。
「これで…真っ二つだ!!」
太刀を手にしたバルバトスに向けて、ハシュマルはテイルブレードを放つが、正面から刀身が真っ二つに切り裂かれる。
更に、赤いオーラを纏った太刀からガンダムエピオンのハイパービームソードのような大出力ビームの刀身が出現し、今度はそれでハシュマルが縦に両断された。
テイルブレードと同じように真っ二つとなったハシュマルは地表に墜落し、機能を停止させ、その残骸の前に着地したバルバトスも青いオーラが消え、両肩パーツから白い煙がたっぷりと放出される。
「ふうう…自力で発動できたけど、まだまだっていったところかな…?」
特訓の成果か、大物の前で初めて任意の覚醒に成功したことに喜ぶ勇太だが、それもつかの間。
プルーマの大軍が姿を現し、ハシュマルを撃破したバルバトスに攻撃を集中させる。
「く…反応が…!!」
操縦桿を握りしめる勇太は覚醒の別の弱点を感じた。
覚醒してから解除されるまでの時間が1分足らずで、おまけに排熱の都合で反応が鈍くなるところだ。
現に次に現れたプルーマのマシンガンによる攻撃を回避しきれず、腕や足、頭をかすめている。
おそらく、排熱が終わればまた覚醒できるようになるかもしれないが、今のところは短時間に2度も覚醒できる自信はない。
「主殿!!」
ドリルを搭載して突っ込んでくるプルーマからバルバトスをかばう形で、騎士ガンダムが前に立ち、盾でドリルを側面からたたき折る。
「助かったよ、ロボ太」
「勇太君、排熱が終わるまでどれくらいかかるの?!」
勇太のカバーに入ったミサがアサルトライフルとミサイルポッドでプルーマを攻撃しながら訪ねる。
「あと5…いや、4分。通常の反応速度に戻るまでならあと2分!その間は頼むよ…!」
「御意!!」
「了解!私に任せて!」
2人のカバーを受けながら、勇太は破砕砲の砲身パーツを取り外す。
そして、プルーマ達に向けて銃弾を発射した。
「…勇太君」
観戦するトレンチコートの人物はじっとバルバトスの動きを見ていた。
特に印象に残っているのは、やはりハシュマルを撃破したときのあの赤いオーラを纏った姿だ。
重量の軽いプルーマを足場にして大きく跳躍し、太刀で一刀両断するという一連の動きは観客たちを圧巻させていた。
「タケルさんから聞いたけど、まさか本当にガンプラバトルに復帰したなんて…」
この人物は3日前、突然自分のもとに現れたタケルから勇太がガンプラバトルに復帰したということを聞いた。
動画投稿サイト『MeTube』で、タウンカップで覚醒したバルバトスの動画を見たときにはそのバルバトスを操るファイターが誰なのかわからなかった。
だが、タケルの話を聞いたことで、バルバトスのファイターが勇太だということを確信した。
「どうして、彼女と…」
その人物の視線がバルバトスからアザレア・カスタムに向けられる。
ガンプラの出来栄え、そして技量はある程度持っていることは認められるものの、自分よりも強いとは思えなかった。
彼女程度の実力の持ち主はこの人物の周囲には何人もいる。
(勇太君…あなたは彼女と一緒に日本一を勝ち取ろうというの…?)
(ウルチ!!どんどんやっちまえーーー!!)
「あー、うるさいよ姉さん。私、昨日徹夜してたんすよー?)
1年戦争時代のジオン一般兵のノーマルスーツを来た黒いショートヘアの女性が通信機に聞こえてくるモチヅキの大声をうっとうしく思いながら、ドルトコロニー内部で次々と出現するプルーマを緑色に塗装されたヴェルデバスターの2連装ビームランチャーで薙ぎ払う。
撃ち漏らしは同じ色彩のセラヴィーガンダムとラファエルガンダムが高濃度圧縮ビームで加減なしに焼き尽くしていく。
「あーー、さっさとタイムアップして寝たいっす…」
緑色のヴェルデバスターのファイターであるウルチこと宇留地環奈はモチヅキと同じく、佐成メカニクスの社員で、モチヅキの後輩にあたる若い女性だ。
能力はあるものの、いつもけだるそうな雰囲気を見せており、とても社会人には見えない。
(馬鹿野郎!予選前日にガンダムの劇場版映画制覇したいからって徹夜してんじゃねーぞ!)
「えーーー?だってレンタルの期限迫ってたんすよー?延滞料とられるのヤだし」
(だったら一度に借りるのを2本か3本にしとけばいいだろ!?一度に10本借りるな!!)
そんな口論を続けながらも、ヴェルデバスターは次々とその高い火力でプルーマを葬っていく。
このやり取りはタイムアップになるまで続いたという。
機体名:アザレア・カスタム
形式番号:ASGT-01AC
使用プレイヤー:井川美沙
使用パーツ
射撃武器:アサルトライフル(アトラスガンダム)
格闘武器:ビームサーベル
頭部:アカツキ
胴体:シェンロンガンダム(EW)
バックパック:サブレッグ(レールガン・アサルトライフルをマウント)(アトラスガンダム)
腕:インパルスガンダム
足:ローゼン・ズール(ミサイルポッド×2装備)
盾:シールド(Ez8)
リージョンカップに備えて、アザレアを改造したもの。
覚醒を使うバルバトスに追従できるように、バックパックはアトラスガンダムのサブレッグに換装されており、これの過剰なほどの推力を獲得している。
また、レールガンはバズーカ以上に取り回しが悪いものの、高い弾速と破壊力を秘めており、更に電磁バリアへの転用が可能となるなど、応用性が高くなっている。
このような装備になったのは、接近戦主体の騎士ガンダムが加わったことでアザレアを後方に下げる戦法が取りやすくなったという点が大きい。