ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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第1話 出会い

「ええっと、地図が正しければ、ここでいいんだよね」

駅前のコンビニで買ったばかりの町の地図を見ながら、少年はその近くにある商店街のゲートの前に立つ。

若干色素が薄い黒のアホ毛のある短髪で、黒い瞳、白いポロシャツと青色の長ズボンを履いた少年はゲートに書いてある、この商店街の名前を読む。

「彩渡商店街…か」

町の名前である彩渡をそのままとったこの商店街は地方の商店街と同じく、シャッターで閉まった店が数多く存在し、休日であるにもかかわらず、人はあまりいない。

しばらく歩いて、開いている店があるとしたら、肉屋と居酒屋、プラモショップにゲームセンター。

野菜や魚などは最近隣町にオープンしたタイムズユニバース百貨店で集めるしかない。

「まぁ、住めば都ってことで、いいか。せっかくの1人暮らしだし…」

彼はこことは別の県の出身で、両親の仕事の都合で彩渡高校に転校、更に高校卒業まで1人暮らしをすることになった。

というのも、両親は海外で働くことが多く、今回は年単位での出張という前代未聞のこと。

この彩渡であれば、親戚がいるため不自由はないということでこうなった。

転入試験についても、無事に通過しているため、あとは始業式の日にどのクラスに入るのかという話だけだ。

「ふう…ちょっと休もうかな」

少し歩き疲れたのを感じ、一息つこうと考えた少年はゲームセンターに入る。

建物は古いが、アーケードゲームは古いものから新しいものまで幅広くそろっており、子供たちも集まっている。

「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですか?」

「んんっ!?」

急に女性のような高めの声が聞こえ、その声が聞こえた方向に目を向ける。

そこには白とピンクを基調とした、身長は女子中学生の平均的なものとなっている人型ロボットがいた。

「うわあ…このゲームセンターにもロボットが。やっぱり技術って進歩してるんだなぁ…」

「あの…?初めてのお客様ですか?」

「え??ああ。そうです」

「驚かせてしまってすみません。私はインフォ、このゲームセンターの業務をしています。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「沢村勇太です」

「勇太さん、ですね。データベースに登録します」

インフォの目がじっと勇太の顔を見る。

背丈や恰好などを記録し、防犯につなげているのだろう。

「そういえば、いろいろゲームがあるみたいですけど、おすすめのアーケードゲームはありませんか?」

「それなら、ガンプラバトルシミュレーターはいかがでしょう?アーケードゲームではありませんが、自分で作ったガンプラで戦うことができるので、おすすめですよ」

「いや…それは、いい…」

ガンプラバトルという言葉を聞き、少し暗い表情を見せた勇太が視線をアーケードゲームに向ける。

よく見ると、ポスターや展示物の中にはガンプラバトル関連の物が多く、それを可能な限り視界に入れないようにしている。

「うーん、じゃあ…ストリートファ…」

「おっしゃあ、みたかー!俺の勝ちだー!!」

ゲームを選ぼうとした勇太の耳におそらく自分と同じ年代であろう少年の声が入る。

その少年はガンプラバトルシミュレーターの中から出てきて、得意げに自分のガンプラを見ている。

いかにも不良、といえる黄色いリーゼントっぽい髪で、手には緑が基調でヒョウ柄の模様が所々にあるガーベラ・テトラベースのガンプラを握っている。

そして、時間差で別の機械から出てきた小学生をじっと見る。

「くそう…くそう…!!」

悔しそうに自分が使用したと思われるガルム・ロディを見る。

「ザコのくせに、ガンプラバトルの世界に入ってくんじゃ…ねえよ!!」

そういいながら、少年は彼からガンプラを強引に奪い取る。

「ああ!!返してよ、僕のガンプラ!!」

「あぁ!?弱いやつが何をピーチクパーチクわめいてやがんだよ?弱いやつに使われるのがかわいそうだと思って、こうしてもらってやってるんだよ。感謝しやがれ!!このタイガー様によぉ!」

「はぁ…こういうのだけは、どこも変わりないんだな…」

自分が前に住んでいたところにも不良がいたことを思い出す。

学内でカツアゲをしたり、時には非常ボタンを勝手にならして周りに迷惑をかけたりしていた。

こういう場合は周囲の大人に叱られることで一件落着になり続けていたため、あんまり関わり合いにならないようにゲームを始めようとした。

「だったら、お前のガンプラで活躍してやってもいいんだぜー?あの沢村勇武みてーになー!」

「…!」

勇武、という名前を聞いた瞬間、勇太の手が止まり、タイガーを睨むように見る。

そして、背負っていたリュックサックをその場に置いて彼の前まで行く。

「あん…?なんだよ、よそ者!これは俺とあのガキの問題だ!部外者が首を突っ込むんじゃねーよ」

「誰が沢村勇武みたいに活躍するだって…?はっきり言う、こういう弱い者いじめしかできないあんたには…不・可・能!!」

「んだと、てめえ!!俺をバカにしてんのか!?」

額に青筋を作ったタイガーが思わず殴ろうとするが、右手に持っている自分のガンプラを見て、なんとか自制する。

そして、じっと勇太をにらみ返す。

「だったらよぉ、この俺様の力をお前にしっかり教えてやるよ!ガンプラバトルでなぁ!!」

「…。悪いけど、ガンプラはない」

「はぁ!?お前ふざけてんのか!?ガンプラ持ってねーのに、俺のことをバカにしやがってぇ!ぶん殴られてーのか!?」

ガンプラをしまったタイガーは怒りに身を任せ、勇太の胸ぐらをつかむ。

「(はぁ…もう2度とガンプラバトルをしないつもりだったのに…)じゃあ、30分だけ待ってくれるかな。その間にガンプラを用意する」

「はぁ?たったの30分だぁ?」

勇太の言葉に思わず耳を疑う。

普通、ガンプラはかなりの種類の機体やパーツが存在し、HGだと片足作るのに30分はかかる。

そして、ここから一番近くのプラモショップで選び、購入して戻ってくる時間までそれに含まれている。

だから、実質20分でガンプラを作って戻ってくると言っているようなものだ。

「おもしれえ…じゃあ、30分待ってやる。1分でも遅れたら、その場で土下座してもらうからな!」

「…いいよ、それで」

タイガーから解放された勇太は服を整えると、これの一部始終を見ていたインフォに事情を説明し、荷物を預けてからゲームセンターを飛び出していった。

 

「あーあ、今日も地元のゲーセン通いかぁ…」

勇太が出てから約40分後、ゲームセンターに1人の少女が入ってくる。

「こんにちは、インフォちゃん!」

「ミサさん。本日もご来店ありがとうございます」

「なんだい、また来たのかい。相変わらず、寂しい青春を送ってるんだねえ」

元気に挨拶をするミサをスタッフルームから出てきた白い帽子と赤いフレームのメガネの老婆が茶化す。

「うー、イラトおばあちゃん。一応お客なんだから歓迎してよ」

彼女にとってあまり面白くないのか、不愉快そうにイラトに要求する。

といっても、デートの約束をしてくれるような素敵な彼氏がいるわけでもない彼女には言い返すことができない。

「ぐああああ!?!?ちくしょう!!いったいどうなってんだよ!?」

「んー?もしかして、またタイガー??」

タイガーの声が聞こえたミサがインフォに尋ねる。

実は彼女はある理由でガンプラバトルを何度もやっており、それ故にタイガーのような初心者いじめのプレイヤーを懲らしめる役目を請け負っている。

いつもなら上機嫌になっているところを乱入して、ヒーローショーのように懲らしめるのだが、今回は違った。

バトルシミュレーター付近にある、ガンプラバトルの光景を見ることができるテレビを見たミサは驚いた。

初心者ばかりを相手にしているとはいえ、ある程度場数をこなしているあのタイガーのガンプラをメイス1本で、そして色塗りなどが施されていない、素組みのバルバトス(第4形態)で一方的に叩きのめしているためだ。

「くっそがぁ!!なんなんだよ、お前はよぉ!!」

シーマ艦隊の一般兵のノーマルスーツ姿のタイガーが狼狽しながらマシンガンを放つ。

だが、バルバトスはまるで生身の人間のような不規則な動きで回避をし、そしてメイスをそのまま投擲してマシンガンを粉砕した。

飛び道具を破壊され、動揺しているのを見逃さず、一気に接近して蹴りを入れ、相手が吹き飛んでからメイスを回収する。

「はあ…こんなんで沢村勇武みたいに活躍する…?寝言を言っているの?」

一方、勇太はあまりの一方的な展開に驚きと退屈さを感じていた。

彼の衣装は黒を基調とした耐圧服で、ガンダムシリーズのノーマルスーツを選ぶプレイヤーが多い昨今では珍しいチョイスだ。

「んだと…てめええええ!!」

最後の武器として、グランドスラムを手にしたガーベラ・テトラが持ち味である加速力を生かして一気に接近していく。

そして、下から上へ切り上げる形で攻撃しようとしたが、一瞬でバルバトスが背後へ移動してしまう。

「な…んで…??」

「阿頼耶識システム。反応速度がそれで上がってるんだよ。ガンプラのそういう特殊効果も知らないで戦っていたってこと?」

「ま…待っ!?」

タイガーの声を無視するかのように、メイスが胸部にたたきつけられる。

衝撃によりコックピットがぐしゃぐしゃになってしまい、それにより撃墜判定されたことでガーベラ・テトラが消滅した。

「すごい…」

すっかり、ミサも素組みのバルバトスの戦いぶりに見とれてしまっていた。




機体名:バルバトス
形式番号:ASW-G-08
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:メイス
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトス
腕:ガンダムバルバトス(第4形態)
足:ガンダムバルバトス
盾:なし

沢村勇太がタイガーとのガンプラバトルのために急きょ調達したガンプラ。
20分足らずという短い時間の間で作ることになったため、シールは最低限で色塗りはなく、武器もメイス1本のみで、まさに戦えればそれでいいという程度の構造。
しかし、エイハブ・リアクターとナノラミネートアーマーによる防御力、阿頼耶識システムによる反応性の向上、更に勇太自身の技量により、タイガーを一方的に撃破するだけの力がある。

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