今週はこれで終わりです。
失敗作と断じられ、生みの親に捨てられた人工生命体。経年で磨かれた感情は、彼女に怒りを覚えさせることになった。
それが彼女にとって良い結果をもたらしたのか、答えを知るのは彼女自身である。
穂群原改めカルデアのブラウニーとして働いているエミヤは、誰に言われるまでもなく自発的に事態の解決に乗り出す。被害を受けた場所が自分の部屋だから尚更だ。彼の部屋には来客用の
修理の頃合いを図るため、日頃から雑談などで情報収集を行っているエミヤは、性質の異なる多数の情報を統合して犯人を断定することに成功する。
そもそも今回の事件の原因は、プラグがコンセントから抜かれていることだ。そして、同じ原因を持つ事例は過去に一度だけあった。それをもとにして犯人を予想すれば、たった一人に絞られる。
「……ゥ……ゥゥ……」
「やっぱり君か、フラン」
そして犯人はすぐに捕まった。正体はメドゥーサ並の長身に反し、華奢な印象を与える女性──フランケンシュタインの怪物、もといフラン。犯人は現場に舞い戻るというべきか、再びコンセントを抜こうとしているところを抑えた。普段通り前髪で目を隠しており、彼女の表情は窺い知れない。
居た堪れない態度をとるフランを追い詰めないよう、エミヤはなるべく優しい声で問いかける。
「どうしてこんなことを? ……まあ、理由は大体分かっているが」
「…………ウゥ……ァ……」
「……なるほど。やはり、あの時のことを少しだけ気にしている訳か」
自分は本当の意味で人間になれない。
以前、フランは亡霊と化したヴィクター・フランケンシュタインと対峙していた。だが、その結末はなんとも後味の悪いものだった。せめてもの慰めか戦いが終わった後、立香はカルデア戦闘服のオーダーチェンジでジャンヌを呼び、祈りを捧げてもらっていた。
魔霧に覆われたロンドン、その特異点で出会ったフランは、小説の記述どころか正史とも異なる。一番違いは、生みの親であるヴィクターが彼女を見捨てているものの逃走しておらず、フランが彼に対する怒りを抱いていないことだ。即ち両名の性格が若干異なる。
現に、ヴィクターの知己であるチャールズ・バベッジは、創造主に見捨てられたがヴィクターの娘であると認識していたし、バベッジが黒幕に加担している可能性を感じ取った彼女は、庇う素振りを見せるほど純粋だった。
サーヴァントのフランは聖杯に関係していなかったためか、特異点の記憶は持ち越せていないものの、正史通りの道を辿っても英霊となれば悪感情はある程度昇華される。だが、それに至るまでは怒りに満ちた人生だっただろう。
亡霊のヴィクターと
「己を律し、節電を世界を救うための一助にしようという君の心がけは立派なのだが……、弱音を吐いたくらいでマスターが君を見限るわけがないだろう。君が何も言わず無理をする方が、マスターやマシュを悲しませてしまう。責任は私がとるから、一度本音を言ってきた方がいい。
──まあ、私が言えたことではないがね」
「…………ウゥ!」
「そうか、分かってもらえたようでなによりだ」
「……ゥゥ……ア……ァ」
「ん? 半分は合っていた、だと……」
エミヤの前半の懇願に首肯したフランは、後半に含みのある言葉を残す。
「……ゥゥ……」
「最近、私が構ってくれなくなった? だから気を引こうとした?
……確かに、ここ最近は講義などで忙しかったからな。フランとあまり話す機会がなかったかもしれないな」
予想外な苦言を呈される。
自分と話す時間をそこまで大切にされているとは、エミヤは欠片も思っていなかった。
彼女との会話は最初の頃は四苦八苦だったが、エミヤは毎日コミュニケーションを欠かさず行ったため、今ではマシュと同等の意思疎通が難なくできている。
しかし、気づいてもらいたかったらしいが、直接対面することになったからフランは公言したようだ。方法は素直になれない小学生のようで、人間臭い行動な気もするが。
「……ウゥゥ! ……アァ」
「他の人とちゃんと会っているか? ……言われてみれば、以前よりもあまり会っていないな」
フランの予想は的中している。
カルデアにサーヴァントが増える度、マスター業で忙しい立香の手伝いとして、エミヤが何かと世話を焼く。必然的に、以前から居るサーヴァントとの時間が減ってしまう。召喚されたフランも例外ではなかった。
彼自身にも思い当たるところがあり、相手の方から会いに来ることが非常に多かった。最近では、酒飲みのサーヴァントに飲み会の誘いを受けたり、プライベートコンサートに誘われたり、ジャンヌがエミヤの部屋で不貞寝するなど、それらの回数が増えている。フランの言葉を是とするならば、辻褄が合う。
「……ゥゥ……ウゥゥ」
「そうだな。フランの言う通りだ。私はいつの間にか、みんなとの時間をおざなりにしていたのかもしれないな」
「ナァァーー!」
「鈍感、か。耳が痛いな」
死してなお、その言葉を突き付けられてしまう。
ビジネスライクほど割り切ってはいないし、親しい間柄を悲しませるのは生前の焼き直しである。
エミヤがやることは一つだ。
「……ではフラン、私とこれからお茶でもどうかね?」
「……ゥゥゥ」
自分からも積極的に会いに行くべきだろうと決意するエミヤは、とりあえず自身の自由時間を削ろうとしていた。
そして、エミヤはもう少し誤解させない言葉を選んだ方が良いのではないかと思いながら、相伴にあずかるフランだった。
えみやは、わたしの、あいて。