女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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牛若丸さんは七章です。
あと、いつもよりかは長いです。


不在のエミヤと第四次乙女協定

 藤丸立香は、これまでに大規模な特異点で出会ったサーヴァントしか召喚していなかったが、先日の騒動のように、思いがけない出会い方をしたサーヴァントも召喚し得ることが分かった。

 つまり、縁を結ぶことができるサーヴァントの数がその分増えるという事であり、それに比例して立香の仕事も増えるということでもある。その仕事の増加は、どこかの弓兵の無自覚な振る舞いによるものであるが、それによって様々な恩恵を受けられるため、止めるに止められないのが現状である。

 

 立香がこうして会合を開くのは、早いもので四という数字を刻むに至っている。

 卓袱台の設営や会合の参加確認など、これまでの経験から得た反省点を生かし、円滑さを心がけることができるようになった。

 最初の頃、深呼吸してから始めていた始まりの挨拶も、もはや緊張することもなく言い慣れたものだ。

「皆、昨日伝えた時間の通りに来てくれてありがとう」

「一体何の集まりなの、子ジカ? (アタシ)のライブでも開催してくれるの?」

「……それはまた、別の機会に」

 アイドル気質のエリザベートは、事あるごとにライブ開催を提案してくる。

 事前に対策しておきたい立香は、話が脱線する前に軌道修正を図る。

 だからと言って、エリザベートに全く歌わせないのも違和感があるため、これまでに立香はエミヤに依頼し、二人だけで彼女の観客となったことがある。

 エリザベートから聞いた話、自分のために歌う時と誰かのために歌う時の違い。それを知っていたからこそ立香はエミヤを誘ったが、意外にも彼は断ることなく二つ返事で了承した。

 ()の弓兵は、「馬鹿な、上手いだと!?」と言っていたため、おそらく道連れになる覚悟で了承したのだろうが、最近のエリザベートならエミヤを相手にして歌う時が一番上手い、と立香は確信していたため、彼の反応を隣で見ながら微笑ましく思ったものである。

「分かったわ! きっと親睦を深める、かくし芸大会があるのよ。

 折角だから、最近覚えた安来節でも踊ろうかしら?」

「いろいろと反応に困るけど、それも違うからね。……でも、かくし芸大会は面白そうだね。今度企画しようっと」

 次に声をあげたのはマタ・ハリだった。

 召喚された当初は時折陰のある表情を見せていたが、ここ最近は明るくなった、と立香は思う。

 マタ・ハリ本人が苦手と言っていた戦闘も、得意の踊りによるサポートをしながら積極的に仲間と協力して戦うようになったし、彼女の思考が前向きになったというべきだろう。彼女の笑顔や踊りを見ると元気が湧いてくるので良いことではあるが、立香には彼女が明るくなった要因に心当たりがあるため、何とも言えない複雑な気持ちになる。

 そんなマタ・ハリは的外れな予想をしていたが、彼女の発言内容は立香の琴線に触れたためアイデアを拾っておく。

「なんか、人斬りと卓袱台に座っていると……ぐだぐだしたくなるのぉ。

 ────って、わしの茶請けを取るでない! 沖田!」

「これは、エミヤさんがみんなで食べるように、と持たせてくださったものです! 

 独り占めはダメです!」

「是非もないが、沖田に言われるのは……なんか釈然とせん」

 気が抜けたような信長とジト目の沖田は、仲が良いのか悪いのか対面同士で座っている。

 そして信長は、目の前にあった和菓子を沖田が取り上げたことに抗議していたが、正論を返されて悔しそうに押し黙る。

 この二人はあまり変わらない気がするが、信長は何か思うことがあるらしく、エミヤを家臣に任命した。沖田は、エミヤの部屋で介抱される回数が増えただけで特に異常はない。

「あら、和菓子って奴ね。早く食べましょう」

「ふふ……最近覚えたから、私がお茶を淹れるわね」

「……うん」

 信長と沖田のやり取りで緩んだ空気は、残りの二人に伝染しお茶会に移行する。

 立香は前言を撤回しなければならない。円滑な運営など、夢のまた夢であった、と。

 

「……さて、本題に入るよ」

 思わぬ一服をしてしまったが、湯呑を置いた立香は、ようやく本来の目的を話すことにする。

「ここにいるみんな……って、信長さんは目的が違うと思うけど、エミヤの事好きでしょ?」

 その言葉を受けて、参加者には衝撃が走る。

「────っ!? あ、私が執事(エミヤ)のことが好きですって!? ……それは……嫌いじゃないけど」

「私は好きよ。エミヤのこと」

「沖田さんが、エミヤさんのことが好き!? ……コフッ!?」

「流石はマスター、相変わらず慧眼を持っておる……って、沖田がまた吐血しよったぞ!?」

 ある意味、阿鼻叫喚の光景だった。動じてない人物が一人いたものの、恋愛経験が皆無の沖田にとって刺激が強すぎる話題だったらしい。

 

「……申し訳ありません、マスター。色恋沙汰には縁がなかったもので」

「別に、気にしなくていいよ。まあ、吐血するほど驚くとは思わなかったけど」

 不安げな表情の沖田に、励ましの言葉をかけた立香は、ベッドに沖田を寝かせると、卓袱台に向き直る。

「で、私たちをどうしようっていうの?」

「うん。実はね────」

 立香は、いつも通りの掟を伝える。

「まあ、いいんじゃない? ……月と似たようなものね」

「私は、マスターのことも好きだから我慢するわ。一緒に居られるだけでも幸せだから」

「お、沖田さんも賛成です」

 反応は思ってよりも悪くはなかった。────ある一人を除いて。

「ちと難しいと思うがのぉ。マスター」

「どういう意味? 信長さん」

 異議を唱えたのは信長だった。

「マスターの理想は、一理あるかもしれん。……じゃがそれは、この和菓子のように等しく分けられるものではないぞ。この先、不満を持つ者が居ないとも限らん」

 最後に一つ残っていた和菓子を摘まむと、信長は口に投げ入れて厳しい視線を立香に向ける。

「分かってる。これが私のエゴだということ……でも────みんなを悲しませたくない」

「子ジカ……」

「マスター……」

 信長の気迫に押される事無く毅然と立ち向かう立香の姿に、エリザベート達は心配の声をあげる。

「分かっていながら、茨の道を選ぶか?」

「どんな道でも、私は諦めない」

 しばし見つめ合っていた二人だったが、先に折れたのは信長だった。

「……うっははははははは!! 慣れぬことするものじゃないわ。わしの息が詰まってしまうぞ。

 よかろう、マスターの覚悟は分かった。この信長が力を貸すぞ……エミヤ次第じゃがな!」

「やっぱり演技だった? いきなりだったから、びっくりしちゃったよ」

 突然笑い出した二人の様子に、呆気にとられたエリザベート達は問い詰める。

「いや、なに二人で完結してるの!? 説明しなさいよ、子ジカ」

「やっぱり……マスターがあなたでよかったわ」

「沖田さんよりも貫禄ありますよ……ノッブはあざと汚いですね」

 真面目に対応していたのは、エリザベートだけだった。

 

 信長と沖田がじゃれ合いをしたものの、協定が無事に終わった立香は湯呑を洗う。

 試されていると分かっていても、信長の威圧感は圧倒的だ。それでも、立香は倒れるわけにはいかない。

 ────私がやらずして、誰がカルデアの安寧を守るのか。

 そんな決意を胸に抱いていた立香は、扉のノック音に気付いた。

「誰だろう?」

 最後の湯飲みを濯ぎ、手を拭くと扉を開けに向かう。

「こんな時間にごめんなさい。マスター」

 扉を叩いていたのは、メディアだった。彼女に詳しい話をしていないにも関わらず、心に決めた人が居るから、という答えで協定を欠席していた。

「一体どうしたの?」

「実はあなたに渡すものがあったの……これなんだけど」

 そう言ってメディアが差し出したのは、畳まれた服だった。

「カルデアの戦闘服らしいわ。ここの所長代理さんが、私に修繕を依頼してきたのよ」

「ドクターロマンが?」

「ええ……見た目は可愛いものじゃないけど、性能は私が少し調整したから、それなりの代物よ」

「そうなんだ。……いろいろとありがとう、メディアさん」

 微笑んだメディアに、立香は笑顔で労いの言葉を告げる。

「じゃあ用も済んだから、私は帰るわ」

「うん。おやすみなさい」

 部屋に帰ったメディアを見送ると、立香は戦闘服を広げる。

「ちょっと……機動性を重視しすぎかな、これ」

 目の前の服を着用した自分を想像し、デザインに些か不満の残る立香だった。

 




「立香ちゃん、気に入ってくれるといいんだけど……」
 ロマニは苦悩していた。立香の戦力を底上げするために、戦闘服を渡さざる終えなかった。
「僕から渡したら、セクハラになるかもしれないし、あのエミヤ君にも、嫌な予感がするって断られたしなぁ。一応、レオナルドに改善案を出しておくかな」

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