しかし、今週はこれで終わりです。
別世界との位相が重なり、カルデアに侵入してきた謎の軍団。それは、別世界の聖杯によるものだった。
事件解決に乗り出した藤丸立香一行の前には、戦国武将を重ねて召喚されたサーヴァントが迫りくる。極めつけに、改造された聖杯がまき散らす粒子によって、全員が残念なサーヴァントに変貌していた。
ぐだぐだしながらもなんとか敵を蹴散らし、立香達は騒動を解決に導いた。
そして、同行していたエミヤはこう述懐する。
『やはり、自分との戦いはろくなものじゃない』
カルデアの廊下で一人の少女が、壁に手を、床に膝をついている。
「コフッ!? まだ、倒れるわけには……」
吐血している少女は沖田総司、幕末で名を残した新選組の隊士である。生前の病弱さがサーヴァントのスキルとなって反映され、またもや苦しめられることとなっている。ここまでくると、呪いでもかけられたのではないか、と沖田自身が疑っていると──。
「大丈夫か?」
声の方向である背後に顔を向ければ、屈んだエミヤ──長宗我部ではない──が、心配そうな表情を沖田に向けていた。
エミヤは基本的に世話焼きである。そんな彼が吐血している少女を見かけたら、介抱するのはごく自然の事だった。
「……すみません。エミヤさん」
「あまり喋らない方がいい。また吐血するぞ」
弱弱しく謝罪する沖田を宥めると、エミヤは布団を掛け直す。
カルデアの廊下で吐血している沖田を発見したエミヤは、その場所から最寄りである彼の自室に運び、ベッドに回復体位で寝かせた。運ぶ過程で、咽喉に血が詰まらないように気をつけながらお姫様抱っこをしていたが、これは不可抗力である。
吐血した沖田を介抱したのは、これが初めてといったわけではなく、騒動中の特異点でも吐血する度に介抱していたので、同行していた織田信長から、「これがサーヴァント界のオカンか」と感心したように言われたのは記憶に新しい。
早い話、このカルデアには頭痛持ちのサーヴァントがネロとエリザベートの二騎いるので、エミヤの介抱技術は数を
「でも、エミヤさんにはご迷惑をかけてばかりです。あの時も、土佐藩だという理由で切り捨てちゃいましたし」
「あれは私であって私ではないが、土佐藩の出ではないことは確かだ。気にしなくていい」
エミヤは余り思い出したくないが、残念になった自分と知り合いを見せつけられた。当時のカルデアメンバーからして、エミヤ以外の当事者があの場に参加して居なかったのは僥倖ともいえる。
顔なじみの
正直なところ気まずいので、もう一人の自分にこれ以上会いたくはない。
「少しいいですか? エミヤさん」
エミヤがあの時のことを思い返していると、吐血の症状も落ち着いたのか、ベッドに横たわる沖田はエミヤを見上げている。
「なにかな? 辛かったら言ってくれ」
「体の調子のことではありません……私はマスターに剣を預けた身ですが、エミヤさんには背を預けてもいいでしょうか?」
「それは、どういう意味かな?」
沖田の突然のお願いに、エミヤは面食らってしまった。エミヤの困惑している心情を読み取ったのか、沖田は補足する。
「エミヤさんと一緒に居ると、安心できるんです。人斬りに気安く声をかけてくれるのも、新選組を除けば、近所の子供ぐらいでしたから」
かつての姿を思い返して懐かしむように、目を細めた沖田は呟く。その内容に、エミヤは親近感を覚えた。かつて、エミヤが助けた大人が化け物と罵る中、子供は助けられたお礼をしてくれた。
「ご存知の通り、私は病弱な体ですから、最後まで近藤さんや土方さんと共に戦い抜くことができませんでした。だから、サーヴァントとして召喚された今だけでも、最後までマスターと共に戦いたい。……隊士失格の私には、高すぎる理想ですが」
沖田の未練は、新選組の責務を全うできなかったことだった。その負い目が、真面目な沖田に重くのしかかっている。
「戦場に身を置くものとして、情けないことを言っている自覚はあります……ですが、もしよければ──」
「何を言っているんだ? 沖田」
エミヤは沖田の言葉を遮った。この続きには断りの言葉が入るのだろうと察した沖田は、やはりそうなるかと諦観する。
「最初から私は、マスターや君を含めた仲間と共に戦っているつもりだったのだが、私の勘違いだったのかな?」
エミヤはニヤリと笑うと、沖田の意に反することのない答えを返す。思わず呆気にとられた沖田だったが、嬉しさを押し隠しつつ、穏やかな笑みを浮かべる。
「やっぱり、エミヤさんは土方さんに似ていますね」
「冗談はよくないな、生憎私は、彼のように真っ直ぐな生き方はできていない」
「本質の部分で、ですよ。土方さんは、意外と世話焼きなんです」
「……まあ、それはいい。早く元気な君を見せてくれ……寂しげな表情よりも、笑顔の方が君に似合うのだからな」
エミヤは本心から心配していたが、その内容は
「沖田さんの元気のために、手を握ってください……だめですか?」
「それくらいなら、お安い御用だ」
エミヤは、沖田の差し出した右手を両手で包み込む。
その手は暖かかった、沖田の手も、エミヤの手も。
この胸の高鳴りの正体を……私は知りません。生前にこんな事はありませんでしたから。
でも、エミヤさんと一緒に戦いたいという感情がある限り、収まることはないのでしょう。
ならば! この沖田さんにもう迷いはありません! エミヤさんと一緒に、マスターの行く所どこまででもお供します!
ひとまず、お団子でも食べに行きませんか? エミヤさん。……えっ!? もう作ってあるんですか!?