女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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初のイベント特異点キャラです。
でもおかしい、こんなにしおらしいキャラだったっけ?


エミヤと収穫祭の鮮血魔嬢

 藤丸立香の元に送られた、独特の誘い文句が記された招待状。

 嫌な予感がした立香とマシュの二人は、乗り気でなかったエミヤに同行を依頼し、いつの間にか立香の後ろに居た清姫を含め、四人で監獄城チェイテへ向かった。

 立香一行を迎えたのは、扇情の踊り子、掃除の伯爵夫人、刺繍の串刺公、万能のメイド、そして謎の主催者だった。

 

 普段通りであれば殺風景極まりないエミヤの自室に、派手な衣装を纏った少女が来訪していた。

 その少女こそ謎の主催者であり、正体はフランスで出会ったエリザベート・バートリーその人だった。

 偶然にもフランスの地で聖杯の欠片を拾ったことでクラスが変わってしまい、そのまま戻れなくなったところを立香に拾われる形で契約した。

 このエリザベートとエミヤは、月の聖杯戦争で面識がある。短い期間ではあったものの、当時のマスターである岸波白野と協力関係にあった。

 だからこそ、エミヤはエリザベートの人となりを知っている。どう変わったのかを知っている。どう変わってしまったのかを知っている。

「ほら、もっと撫でなさい。それでも(アタシ)の執事なの?」

「まだ、あの時のことを根に持っているのかね?」

「当然でしょ、筋肉モリモリマッチョの変態さん?」

 文句を言われながらも、派手な帽子を外したエリザベートの頭を手慣れたように撫でるのは、部屋の主である弓兵(アーチャー)エミヤ。お互いにベッドに腰掛け、並んで座って居る。

 岸波白野の奮闘で、エリザベートは多少なりとも最後には改心した。その最中(さなか)で、無銘として召喚されたエミヤは、エリザベートに対してデリカシーのない発言をしてしまい、そのお詫びとして彼女の執事役をやらされていた。

 クラスが変わったからと言って、この時の記憶が都合よく消えるはずもなく、エリザベートはその権限を存分に発揮して甘やかされる。

「その呼び方はやめてくれ。本当に私が悪かった」

「じゃあ、赤オオカミかしら。子リスも子ジカも、満更でもなかったみたいだし」

「……まさか、精々頼れる兄貴分といったところだろう」

 ────ああ、そう。

 エリザベートはエミヤの朴念仁さに呆れながら、本人に聞こえないようため息をつく。やっぱり気付いていないのか、そう思いながら。

「魔法はあまり詳しくないから、治せそうにないわね」

「何か言ったか?」

「別に。……アンタの背中を見ていると、もの悲しくなるだけよ」

 誤魔化したはいいが、無防備な背中を見ると刺したい衝動に駆られるエリザベートでも、エミヤの背中を見ると成れの果て(カーミラ)を見かけた時のように、胸が強く締め付けられるばかりだった。目を逸らしてはならない、と本能的に判断してしまう。

 無銘の時から知り合いだが、エリザベートはその来歴について聞いたことはなく、聞く必要もないと思っている。気にならない訳ではないが、深入りすることは柄ではない。

 早い話、未来の自分と似たところがあるのだろう。他でもない、誤った道を進んでしまったエリザベート・バートリーと。

 

 エリザベートは監獄城(チェイテ)を改装して立香達を招いたが、聖杯の欠片の力でスタッフを揃えた時、なぜかカルデアのサーヴァントも呼び寄せてしまった。カーミラには呆れ顔をされたが、タマモキャットは乗り気であった。

 メインのおもてなしとして、マスターの立香にはエリザベート自慢のライブで楽しんでもらえたが、一番の問題はエミヤが勝手に楽しんでいたことだった。

 マタ・ハリにはエミヤがいつの間にかフラグを立て、カーミラには掃除のコツを真面目な顔で指導し、ヴラド三世とは刺繍や裁縫の話で盛り上がり、タマモキャットは甲斐甲斐しく立香とエミヤの世話をしていた。

 本音を言えば特異点で会った時から、気に入った立香と無銘ならぬエミヤに甘やかされたかった。

 尤も、素直にお願い事を言うことができず、元のクラスに戻れないことを利用してカルデアのサーヴァントとなったが、立香の周辺にはいつも清姫が張り付いているため、エリザベートの方からは迂闊に近づくことができない。

 結果的に、近づきやすく甘やかさせる口実の在るエミヤが適任だった。無銘の時よりも柔らかい態度であるため、話しかけやすいことも後押しした。

「……何をしているんだ?」

 エミヤの疑問を孕んだ声で、エリザベートは思考の渦から脱する。知らず知らずのうちに考え事をしており、エミヤにもたれかかっていたらしい。

「何でもないわよ。それより、撫でることを辞めていいなんて一言も言ってないわ」

「……全く、相変わらずだな君は」

 エミヤは呆れたように言葉を返すが、撫でる手を止めることはない。

「ちょっと……眠くなって……きた……わ」

「この後は、カボチャのケーキを作るんじゃなかったのか?」

「そうなん……だけど……ごめんな……さい…………」

「まあ、いいさ。といっても、もう寝てしまったか」

 規則的な寝息を立て、夢の世界に旅立ったエリザベート。エミヤは彼女をベッドに寝かせると、起きるまでの間にカボチャのケーキのレシピを書き起こすことにした。

 

 あの頃のように、一人ぼっちではない。エリザベートの顔は、ただただ穏やかな寝顔だった。

 

 

 




 (アタシ)としたことが、あのまま寝るなんて迂闊だったわ。まあ、アイドルだから愛されるのは当然よ。子リスが居ない分、子ジカと執事で埋めてもらわないと。
 お礼は何にしようかしら、カボチャのケーキもいいけど──
 折角だから、歌も贈りましょう。
 聞いてくれるわよね……執事さん(エミヤ)

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